
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「動かさないでいると手足が硬くなってしまうのが心配」「ストレッチをすれば関節の硬さ(拘縮・こうしゅく)は防げますか」——これは脳卒中の後、ご本人やご家族からよく聞かれる質問です。関節可動域訓練(かんせつかどういきくんれん)やストレッチは、手足を動かして関節の動く範囲を保とうとする、昔から広く行われてきたケアです。一方で近年の研究では、ストレッチだけで拘縮を防いだり戻したりする効果は、思っていたほど大きくないことも分かってきました。この記事では、関節可動域訓練・ストレッチについて研究で分かっていること、それでも大切にしたい役割、注意したい点を、患者さんとご家族に向けて正直に整理します。

・質の高い研究をまとめた解析では、ストレッチには関節の動く範囲を意味のある大きさで変える働きは認められませんでした1。
・脳卒中後の手首を対象にした試験でも、毎日のストレッチに拘縮を防ぐ・戻すはっきりした働きは確認されませんでした3。
・装具などの機器を使う方法も、現時点では効果の確実性が非常に低く、結論を出せる段階ではありません2。
・一方で、関節を動かすこと自体は、姿勢・清潔・痛みの確認・本人の安楽といった面で役割があり、痛みを伴う強い伸ばしは避けることが大切です1,2。
「拘縮(こうしゅく)」とは、関節の動く範囲がせまくなり、手足が硬くなって動かしにくくなった状態のことです。脳卒中の後は、麻痺で自分から手足を動かしにくくなったり、筋肉のつっぱり(痙縮・けいしゅくについて解説した記事)が出たりして、関節が硬くなりやすいことが知られています。拘縮が進むと、着替えや洗体などの介助がしにくくなったり、見た目や衛生の面で困りごとが出たりすることがあります。
「関節可動域訓練」とは、関節を動かせる範囲いっぱいまでゆっくり動かす運動のことで、自分で動かす場合と、人に手伝ってもらって動かす場合があります。「ストレッチ」は、筋肉や関節をゆっくり伸ばして、一定時間その姿勢を保つ方法です。これらは「動かさないでいると硬くなる」のを防ぐ目的で、リハビリや日々のケアの中で昔から広く行われてきました。この記事では、こうしたストレッチ・関節を動かすケアが、拘縮の予防にどこまで役立つのかを、研究をもとに見ていきます。
結論から正直にお伝えすると、ストレッチには「気持ちよさ」や「ケアのしやすさ」といった役割はあっても、関節の動く範囲を意味のある大きさで広げたり、拘縮を防いだりする働きは、研究では確認されていません。これは少し意外に感じられるかもしれませんが、質の高い研究をまとめた解析から得られた結果です。
脳卒中後の手首に絞った試験(40名)でも、4週間にわたり1日30分の手首・指のストレッチを行いましたが、関節の動く範囲の変化は約3.8度(95%信頼区間-2.5〜10.1度)にとどまり、拘縮を防ぐ・戻すはっきりした働きは確認されませんでした。痛みや腕の使いやすさにも、意味のある変化はみられませんでした3。また、装具や電気刺激などの機器を使って拘縮を管理する方法を調べたコクラン・レビュー(7件・約294名)でも、根拠の確実性は「非常に低い(very low)」で、効果について確かなことは言えず、一部の方法では痛みや皮膚のトラブルが報告されたとされています2。

研究の結果から正直に言うと、「ストレッチだけで関節の動く範囲を大きく広げる」「拘縮を確実に防ぐ」ことは、変わりにくい部分です1,3。一方で、関節をやさしく動かすこと自体には、別の意味での役割があります。たとえば、手足の状態を毎日確認する、痛みや皮膚のトラブルに早く気づく、姿勢を整えて介助やケアをしやすくする、本人が安楽に過ごせるようにする、といった面です。これらは「動く範囲を増やす」効果とは別の、ケアとしての大切な価値です。
また、拘縮の背景には、関節そのものの硬さだけでなく、筋肉のつっぱり(痙縮)や麻痺の程度、生活の中で手足をどれだけ動かしているかなど、複数の要因が関わります。そのため、関節の硬さに対しては、ストレッチ単独に頼るのではなく、自分で動かす練習や生活動作の中での使い方、必要に応じた痙縮への対応などを、医療チームと組み合わせて考えることが大切です。すべての方に同じことが当てはまるわけではなく、個別の状態に合わせた判断が必要です。
手足を自分で動かしにくく、関節が硬くなりやすい方では、やさしく関節を動かすケアを通して、状態の確認や安楽の保持、介助のしやすさにつなげていくことが考えられます。「動く範囲を一気に広げる」ことを目的にするより、毎日の状態を観察し、痛みのない範囲で動かしていくことを目安にするとよいでしょう。自分で動かせる方は、生活の中で手足を使う場面を増やしていくことも大切です。
これまでの研究では、毎日のストレッチを数週間続けても、関節の動く範囲に意味のある変化は得られにくいことが示されています1,3。そのため、「長く・強く伸ばせば効果が出る」と考えて回数や強さを増やすより、痛みのない範囲でやさしく動かし、状態を確認することを目的にするほうが現実的です。動かす範囲・回数・頻度に一律の正解はなく、その人の関節や皮膚の状態、痛みの有無に合わせて決めていきます。
大切なのは、ストレッチ単独に期待をかけすぎないことです。関節の硬さに向き合うときは、自分で動かす練習、生活の中で手足を使う工夫、姿勢の調整(ポジショニング)、必要に応じた痙縮への対応などを、担当の専門職と一緒に組み立てていくことがすすめられます。家庭で行う場合も、やり方や強さを一度専門職に確認しておくと、無理なく続けやすくなります。

修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
2. Meeran RAM, Durairaj V, Sekaran P, Farmer SE, Pandyan AD. Assistive technologies, including orthotic devices, for the management of contractures in adults after a stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2024;9(9):CD010779. DOI:10.1002/14651858.CD010779.pub2. PMID:39312271. PMCID:PMC11418973.
3. Horsley SA, Herbert RD, Ada L. Four weeks of daily stretch has little or no effect on wrist contracture after stroke: a randomised controlled trial. Aust J Physiother. 2007;53(4):239-245. DOI:10.1016/s0004-9514(07)70004-1. PMID:18047458.
4. Katalinic OM, Harvey LA, Herbert RD, Moseley AM, Lannin NA, Schurr K. Stretch for the treatment and prevention of contractures. Cochrane Database Syst Rev. 2010;(9):CD007455. DOI:10.1002/14651858.CD007455.pub2. PMID:20824861.
