
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「手や足の感覚が鈍くて、触っているのか分かりにくい」「物をつかんでいる感じがしない」「足の裏の感覚が乏しくて歩きにくい」——脳卒中の後に、こうした感覚の問題に悩む方は少なくありません。結論から正直にお伝えすると、感覚に働きかける練習(感覚再教育)は、触覚や位置の感覚、バランスなどで良い傾向が報告される一方、研究の質や数にはまだ課題があり、効果の確実性は高くありません。この記事では、脳卒中後の感覚障害と感覚再教育について、研究で分かっていることと取り入れるときの考え方を、患者さんとご家族に向けて整理します。

・感覚再教育には、電気や温度、振動などの刺激を受け取る「受動的」な方法と、触り分けや探り当てを自分で行う「能動的」な方法があります1。
・38試験1,093名をまとめた2019年の網羅的な解析(システマティックレビュー・メタアナリシス)では、受動的な感覚練習が手足の活動の指標で中程度の良い傾向を示しました。一方、能動的な感覚練習の根拠はまだ限られています1。
・足の感覚再教育に絞った16試験430名の解析では、感覚(標準化された効果量0.52)とバランス(同0.62)で良い傾向が報告されましたが、歩く速さでははっきりした差は出ませんでした2。
・研究の多くは質の評価が「弱い〜中程度」で、確立された根拠とまではいえません。今の体に合った進め方は、医師やリハビリ専門職と相談しながら決めることが大切です1,2。
脳卒中の後には、手足を動かしにくくなる運動の問題だけでなく、「感じる力」が低下することがあります。これを感覚障害といいます。具体的には、軽く触れられたのが分かりにくい(触覚の低下)、手足や関節がどの向きにあるか分かりにくい(位置の感覚・固有感覚の低下)、2つの点を別々の点として見分けにくい(2点識別の低下)などです。研究では、脳卒中後のおよそ2人に1人が何らかの感覚の低下を経験するとされています1。
感覚再教育(かんかくさいきょういく)とは、こうした感覚に働きかけて、感じ取る力や、感覚を手がかりにした動作のしやすさを取り戻そうとする練習の総称です。大きく2つの考え方があります。ひとつは「受動的」な方法で、電気刺激・温度刺激・振動・末梢神経への刺激などを受け取ることで、感覚の入力を増やす方法です。もうひとつは「能動的」な方法で、目を閉じて素材の違いを触り分ける、手の中の物を探り当てるなど、自分で感覚を使って課題に取り組む方法です1。どちらも、感覚の情報が脳に伝わる仕組みを利用して、感じ方や動きの土台を整えることをねらいとしています。
結論から正直にお伝えすると、感覚再教育は、触覚や位置の感覚、バランスなどで良い傾向が報告される一方、研究の質や数にはまだ課題が多く、確実性は高くありません。期待を一方向に強めすぎず、限界も合わせて知っておくことが大切です。
足の感覚再教育に絞った2019年の別の解析(16試験430名)では、感覚そのもの(標準化された効果量0.52、95%信頼区間0.04〜1.01)と、バランス(バーグ・バランス・スケールで標準化された効果量0.62、95%信頼区間0.10〜1.14)で良い傾向が示されました。一方、歩く速さでははっきりした差は出ませんでした2。
慢性期(発症からしばらく経った時期)の方を対象に、足への「触り分け中心の練習」と「刺激にくり返し触れる練習」を比べた64名のランダム化比較試験では、どちらの方法でも感覚・バランス・移動の各指標で10〜31%の意味のある変化がみられ、2つの方法の間に大きな差はありませんでした3。
ただし、これらの研究の多くは質の評価が「弱い〜中程度」で、対象者や方法のばらつきも大きく、確立された根拠とまではいえません1,2。

研究全体を見ると、比較的良い傾向が見えやすいのは、触覚や位置の感覚といった「感じ取る力」そのものと、足の感覚を手がかりにしたバランスです1,2。感覚の入力を増やしたり、感覚を意識して使う練習を重ねたりすることで、感じ方が整い、立つ・歩くときの安定につながる可能性が示されています。手の機能についても、受動的な刺激を組み合わせた練習で動作の指標が良い傾向を示した報告があります1。
一方で、歩く速さそのものには、はっきりした差が出にくいことが報告されています2。また、能動的な感覚練習については研究がまだ少なく、効果の大きさを言い切れる段階ではありません1。感覚は目に見えにくく、変化を実感しづらいこともあります。感覚再教育は、運動の練習や生活動作の練習と切り離して単独で行うより、それらと組み合わせて「動きの土台を整える後押し」として位置づけると整理しやすくなります。
感覚再教育は、手や足の感覚が鈍く、物の扱いや足元の不安定さに困っている方、感覚の手がかりが乏しくて動作が難しい方などに、検討する場面がある方法です。電気刺激などの受動的な方法は、自分で大きく動かしにくい時期にも取り入れやすい一方、能動的な触り分けの練習は、ある程度集中して取り組める方に向きやすい傾向があります。どの方法が合うかは、感覚の状態や運動のレベル、生活で何に困っているかによって変わります。
研究で用いられた感覚再教育は、たとえば1回45分程度の練習を10回ほど行うなど、一定期間くり返す形が報告されています3。ただし、回数・時間・刺激の種類は研究によってさまざまで、「全員に共通の最適な進め方」が定まっているわけではありません1,2。感覚の状態や運動のレベル、生活で困っていることに合わせて、方法を選ぶことが大切です。
大切なのは、感覚再教育はあくまで動きや生活動作の練習を後押しする手段だということです。多くの研究でも、感覚への働きかけ単独ではなく、通常のリハビリと組み合わせて調べられています1,2。専門職は、感覚のどこがどのくらい低下しているかを評価し、安全に行える刺激の種類や強さ、家でできる工夫を一緒に組み立てます。感じ方や進め方は個別に異なるため、医療機関やリハビリ専門職と相談しながら決めていくことをおすすめします。
こうしたとき私たちが大切にしているのは、まず感覚のどこがどのくらい低下しているかをていねいに確認し、安全に行える範囲で感覚を使う練習を、日々の生活動作の中に少しずつ取り入れることです。感覚への働きかけだけを単独で行うのではなく、立つ・歩く・物を扱うといった実際の動作と結びつけるよう心がけています。感覚はゆっくり変化することも、はっきりした変化が見えにくいこともあります。できることと、まだはっきりしないことを正直にお伝えし、ご本人の状態と生活に合わせて一緒に考えることを大切にしています。

修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
2. Chia FSF, Kuys S, Low Choy N. Sensory retraining of the leg after stroke: systematic review and meta-analysis. Clin Rehabil. 2019;33(6):964-979. DOI:10.1177/0269215519836461. PMID:30897960. PMCID:PMC6557007.
3. Ofek H, Alperin M, Knoll T, Livne D, Laufer Y. Explicit versus implicit lower extremity sensory retraining for post-stroke chronic sensory deficits: a randomized controlled trial. Disabil Rehabil. 2023;45(8):1399-1407. DOI:10.1080/09638288.2022.2080288. PMID:35649684.
4. Schabrun SM, Hillier S. Evidence for the retraining of sensation after stroke: a systematic review. Clin Rehabil. 2009;23(1):27-39. DOI:10.1177/0269215508098897. PMID:19114435.
5. Lynch EA, Hillier SL, Stiller K, Campanella RR, Fisher PH. Sensory retraining of the lower limb after acute stroke: a randomized controlled pilot trial. Arch Phys Med Rehabil. 2007;88(9):1101-1107. DOI:10.1016/j.apmr.2007.06.010. PMID:17826453.
