脳卒中後の早期離床とは?いつから動き始めるべきか、時期・安全性・注意点を解説

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田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
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脳卒中後の早期離床とは?いつから動き始めるとよいのか、時期と安全性について
公開日:2026年6月28日 最終更新日:2026年6月29日
監修・執筆:田中 光(作業療法士/認定作業療法士)

「脳卒中になったら、できるだけ早く動いたほうがいいのでしょうか」「ベッドから起きるのが早いほど回復は良くなりますか」——これは入院中や退院後に、ご本人やご家族からよく聞かれる質問です。早期離床(そうきりしょう)とは、発症のあと、できるだけ早い時期にベッドから起き上がって座ったり立ったり、体を動かし始めることを指します。一見すると「早ければ早いほど良い」と思われがちですが、近年の研究では、その時期や量について慎重に考える必要があることが分かってきました。この記事では、早期離床について研究で分かっていること、向いている人・注意したい人、進め方の目安を、患者さんとご家族に向けて正直に整理します。

ベッドサイドで端座位を確認する場面
発症後の離床は、全身状態を確認しながら安全に段階づけて進めます。
この記事の要点
・脳卒中の後、ベッドから起きて体を動かし始める「早期離床」は、多くの脳卒中ケアで行われています1
・ただし、発症から24時間以内のとても早い時期に、たくさん動かす形の介入は、3か月後の回復がかえって悪かったという報告があります1,2
・複数の研究をまとめた解析では、開始は発症から24時間より後に考えるほうがよいと結論づけられています2
・一方で、適切な時期から始める早期のリハビリは、日常生活動作(ADL)の向上や、長期的な合併症の減少と関わるとも報告されています3
・「早く・たくさん動くほど良い」とは限らず、時期と量は全身状態に合わせて医療チームが個別に判断します1,3
・AHA/ASAガイドラインでも、発症24時間以内の高用量離床には注意が必要とされています5
SECTION 01
早期離床とは

早期離床とは、脳卒中の発症からあまり時間を置かずに、ベッドの上で寝たままの状態から、起き上がって座る(端座位・たんざい)、立つ、歩くといった「ベッドから出る活動」を始めることを指します。長く寝たままでいると、体力や筋力が落ちたり、肺炎や血のかたまり(深部静脈血栓・しんぶじょうみゃくけっせん)、床ずれなどの「動かないことによる合併症」が起こりやすくなると考えられており、こうした合併症を避けるためにも、適切な時期からの離床が大切とされています。

ここで注意したいのは、「早期離床」と「とても早い時期に、たくさん動かすこと(超早期離床・very early mobilisation)」は同じではない、という点です。研究の世界では、発症から24〜48時間以内に開始する離床について、その時期や量がどのくらい適切かが長く議論されてきました1。この記事では、研究で分かっていることをもとに、「いつから・どのくらい」を考えるための視点を整理します。なお、入院直後の急性期にいつ離床を始めるかは、脳卒中の種類や全身状態をふまえて主治医・病棟チームが判断する事柄です。

SECTION 02
研究で分かっていること

結論から正直にお伝えすると、「早く動き始めること」は良いことのように思えますが、研究では「とても早い時期に、たくさん動かす」やり方が必ずしも良い結果につながらず、むしろ慎重さが必要だと示されています。一方で、適切な時期から始める早期のリハビリ自体には、日常生活動作の向上などの良い面も報告されています。「早ければ早いほど良い」という単純な話ではない、というのが現時点での理解です。

研究から読み取れること
9件のランダム化試験(2958名)をまとめたコクラン・レビューでは、発症から48時間以内に始める超早期離床は、自立して生活できる人や良い回復をした人の数を、通常ケアと比べて増やしませんでした(死亡または不良な転帰のオッズ比1.08、95%信頼区間0.92〜1.26)1。入院期間は約1日短くなる傾向がありましたが、これは質の低い根拠にもとづくものでした1。さらに、開始が発症24時間以内だった試験だけを集めた分析では、死亡のオッズ比が1.35(95%信頼区間0.99〜1.83)とやや高く、著者らは「24時間以内に始める超早期離床は、一部の方にとって害となる危険性がある」と注意を促しています1。同レビューの探索的な分析では、開始時期が「およそ24時間ごろ」のときに、死亡や不良な転帰のリスクがもっとも低かったと報告されています1

個々の患者さんのデータを集めて再解析した研究(2630名)でも、早期離床を受けた群は、通常ケア群より3か月後に良好な回復に至った割合が低いという結果でした(48%対52%、調整オッズ比0.75、95%信頼区間0.62〜0.92)2。著者らは「離床の開始は、発症から24時間より後に検討すべき」と述べています2。一方、急性期虚血性脳卒中を対象に14件の試験(3039名)をまとめた別の解析では、早期からのリハビリは日常生活動作の向上や、3〜12か月時点での合併症の減少と関わる一方、急性期に早すぎる・強すぎるリハビリは死亡率を高める可能性がある、と結論づけています3
診療ガイドラインとの整合性
この考え方は、研究論文だけでなく、脳卒中診療ガイドラインの方向性とも大きく矛盾しません。AHA/ASAの急性期脳梗塞ガイドラインでは、発症24時間以内に高用量で離床を行うことは、3か月後の転帰を悪くする可能性があるため推奨されない、と整理されています5。一方で、離床そのものを否定しているわけではなく、患者さんの全身状態、神経症状、血圧、意識状態、合併症リスクを確認しながら、医療チームが個別に時期と量を決めることが重要です。
セラピストと立ち上がり・歩行を確認する場面
立つ・歩く練習は、時期と量をその日の状態に合わせて調整します。
エビデンスの質と限界
コクランレビューは、医学研究の中でも信頼性の高い研究手法の一つです。ただし、早期離床の研究では、対象となる患者さんの重症度、脳卒中の種類、離床を始める時期、1回あたりの時間、1日の回数などが研究ごとに異なります。そのため、レビューで示された傾向を、そのまますべての患者さんに当てはめることはできません。この記事では「24時間以内は全員だめ」と単純化するのではなく、「24時間以内に高用量で進める方法には注意が必要」と表現しています。
SECTION 03
何が変わりやすく、何は注意が必要か

研究で良い面が見えやすいのは、入院期間が少し短くなる傾向や1、適切な時期から行うリハビリと日常生活動作(ADL)の向上、長期的な合併症の減少との関わりです3。長く寝たままでいることを避け、体を起こして使う時間を増やしていくことは、生活を取り戻すうえで大切な土台になります。

一方で注意が必要なのは、「発症から24時間以内に、たくさん動かす」という超早期・高用量の離床です。複数の研究で、この形は3か月後の回復をかえって悪くする可能性や、死亡のリスクがやや高まる可能性が指摘されています1,2,3。また、重い脳卒中の方を対象にした研究では、超早期離床は通常ケアより優れているとは言えず、そもそも質の高い根拠が乏しいことも報告されています4。つまり、何が変わるかは「いつ・どのくらい」によって大きく異なり、急性期のとても早い時期に無理を重ねることは、慎重に避けるべきだと考えられています。

まだ分かっていないこと
現在の研究でも、「どのような方なら発症24時間以内でも安全に離床できるのか」は十分に分かっていません。また、離床時間、1回あたりの運動量、1日の回数、座る・立つ・歩く練習のどこまでを含めるかについても、最適な基準は確立されていません。今後は、脳卒中の種類や重症度、年齢、合併症、発症前の体力などをふまえて、より個別化された基準が検討される必要があります。
SECTION 04
どんな人に向いているか・注意したい人

全身状態が安定し、医療チームが離床を進めてよいと判断した方では、ベッドから起き上がり、座る・立つ・歩くといった活動を段階的に増やしていくことが、回復に向けた土台になります。多くの脳卒中ケアでは、こうした離床は計画的に行われています1。どの活動から、どのくらいの量で始めるかは、その人の状態に合わせて決めていきます。

⚠ 注意したい人・気をつけたいこと
発症からまだ間もなく全身状態が安定していない時期、血圧や脈が変動しやすい方、意識の状態が不安定な方、出血を伴うタイプの脳卒中の方などでは、いつから・どのくらい動くかについて、特に慎重な判断が必要です。研究でも、24時間以内の超早期・高用量の離床は、かえってリスクとなる可能性が指摘されています1,2,3。また、立ち上がりやすさ・血圧の変動・めまいの有無によっては、急に動くと転倒や体調悪化の心配があります。気分が悪い、強いめまい・吐き気、急な血圧の変動、胸の不快感などがあるときは中止し、無理に続けないことが大切です。「いつから・どのくらい動いてよいか」は人によって大きく異なるため、急性期の離床は必ず主治医・病棟のリハビリ専門職の指示のもとで進めてください。退院後に活動量を増やす場合も、開始前に担当の専門職へ相談すると安心です。
SECTION 05
時期・量・進め方の目安

研究をふまえると、離床の「開始」は、発症からおよそ24時間より後に検討するほうがよいと考えられています2。複数の研究をまとめた分析でも、開始時期が24時間ごろのときに、もっともリスクが低かったと報告されています1。ただし、これはあくまで研究全体から見た目安であり、実際の開始時期や1回あたりの量は、脳卒中の種類・重さ・全身状態によって個別に判断されます。急性期に「早く・たくさん」を競うことが良い結果につながるわけではない、という点が重要です。

回復期や生活期(退院後)になると、関心は「いつ始めるか」よりも「どう続けるか」に移っていきます。体調や疲れやすさに合わせて活動量を調整し、無理のない範囲で起きて動く時間を増やしていくことが大切です。退院後の運動量を考える際は、脳卒中後の有酸素運動について解説した記事も参考になります。一律の正解はなく、続けやすい量・形は人によって異なります。担当の専門職と一緒に、その時期の体に合わせて調整していくことをおすすめします。歩行練習や筋力づくりを考える場合は、立ち上がり練習筋力トレーニングの記事もあわせて確認すると整理しやすくなります。

SECTION 06
Journey Rehabでの現場経験
当施設での経験
Journey Rehabでは、退院直後の利用者様やご家族から「動かなければ回復しないと思い、疲れるまで歩いていました」「入院中に早く動くよう言われたので、退院後もできるだけ多く歩いたほうがよいと思っていました」と相談を受けることがあります。一方で、活動量を一時的に増やしすぎることで疲労が強くなり、その後数日ほとんど動けなくなるケースも経験しています。

そのため当社では、歩行量や練習時間だけで判断せず、疲労が翌日に残っていないか、食事や睡眠に影響していないか、転倒しそうな場面が増えていないか、家の中での移動やトイレ動作が安定しているかも確認します。急に量を増やすより、起きて過ごす時間、立ち上がる回数、屋内歩行、屋外歩行を段階的に調整し、翌日の活動状況まで含めてペースを整えることを大切にしています。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
退院後の活動量の増やし方や、動くペースの整え方について、身体の状態を一緒に確認しながらリハビリの内容を考えます。
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免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨ではありません。急性期の離床の時期や量は、脳卒中の種類や全身状態によって異なり、主治医・病棟のリハビリ専門職が判断する事柄です。退院後に活動量を増やす際も、行ってよい状態かどうかや強さ・量を含め、主治医や担当専門職に相談しながら進めてください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍

経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中

研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表

論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).

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FAQ
よくある質問
早く動き始めるほど回復は良くなりますか?
「早ければ早いほど良い」とは限りません。研究では、発症24時間以内にたくさん動かす形は、かえって回復を悪くする可能性が指摘されています。開始は24時間より後に検討するのがよいとされますが、実際の時期は全身状態を見て医療チームが判断します。
それでも早く離床をすすめられるのはなぜですか?
長く寝たままでいると、体力低下や肺炎、血のかたまり、床ずれなどの合併症が起こりやすくなるためです。これらを避けつつ、無理のない時期・量で離床を進めることが目標になります。時期と量のバランスを医療チームが調整します。
離床はいつから始めるのが目安ですか?
研究全体からは、開始はおおむね発症24時間より後に検討するのがよいとされています。ただしこれは目安で、脳卒中の種類・重さ・全身状態によって異なります。急性期の離床は主治医・病棟チームの指示に従ってください。
退院後も「早く動かないと」と焦ってしまいます。
焦って量を増やすより、その日の体調や疲れやすさに合わせて続けることが大切です。動ける日とそうでない日の差は自然なことです。無理のないペースづくりは、担当の専門職と相談しながら整えていくと安心です。
重い脳卒中でも早期離床は有効ですか?
重い脳卒中の方については、超早期離床が通常ケアより優れているとは言えず、質の高い研究も少ないのが現状です。一人ひとりの状態に合わせた慎重な判断が必要なため、担当の医療チームとよく相談することが大切です。
離床中に気をつけるサインはありますか?
強いめまいや吐き気、急な血圧の変動、胸の不快感、ぐったりするほどの疲れなどが出たときは、無理をせず中止することが大切です。こうした症状が続く場合は、主治医や担当の専門職に相談してください。
発症翌日に歩いても大丈夫ですか?
発症翌日でも、状態が安定していて医療チームが安全と判断すれば、座る・立つ・短い距離を歩く練習を行うことがあります。ただし、研究では発症24時間以内に高用量で離床を進める方法には注意が必要とされています。自己判断ではなく、主治医や病棟のリハビリ専門職の指示に従ってください。
脳出血でも早期離床しますか?
脳出血でも、血腫の状態、血圧、意識状態、神経症状の変化などを確認しながら、医療チームが離床の時期を判断します。虚血性脳卒中と同じ基準で一律に進めるわけではありません。特に発症直後は血圧管理や症状の変化が重要なため、病院の判断に従うことが大切です。
高齢者でも同じように早期離床しますか?
高齢者でも、長く寝たままによる筋力低下や合併症を避けるため、状態に応じて離床を検討します。ただし、発症前の体力、心臓や肺の病気、血圧変動、転倒リスク、認知機能などをふまえて、より慎重に量を調整する必要があります。「年齢だけ」で決まるのではなく、その方の全身状態で判断されます。
ICUでも離床しますか?
ICUでも、医師・看護師・リハビリ専門職が安全と判断した範囲で、ベッド上で体を起こす、端座位をとる、立つ練習を検討することがあります。ただし、脳卒中直後は血圧、意識、呼吸循環、神経症状の変化を慎重に見る必要があり、一般病棟よりも厳密な管理のもとで行われます。
REFERENCES
参考文献
1. Langhorne P, Collier JM, Bate PJ, Thuy MNT, Bernhardt J. Very early versus delayed mobilisation after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2018;10(10):CD006187. DOI:10.1002/14651858.CD006187.pub3. PMID:30321906. PMCID:PMC6517132.
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3. Lou Y, Liu Z, Ji Y, Cheng J, Zhao C, Li L. Efficacy and safety of very early rehabilitation for acute ischemic stroke: a systematic review and meta-analysis. Front Neurol. 2024;15:1423517. DOI:10.3389/fneur.2024.1423517. PMID:39502386. PMCID:PMC11534803.
4. McGlinchey MP, James J, McKevitt C, Douiri A, Sackley C. The effect of rehabilitation interventions on physical function and immobility-related complications in severe stroke: a systematic review. BMJ Open. 2020;10(2):e033642. DOI:10.1136/bmjopen-2019-033642. PMID:32029489. PMCID:PMC7045156.
5. Powers WJ, Rabinstein AA, Ackerson T, et al. Guidelines for the Early Management of Patients With Acute Ischemic Stroke: 2019 Update to the 2018 Guidelines. Stroke. 2019;50(12):e344-e418. DOI:10.1161/STR.0000000000000211. PMID:31662037.