
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
監修・執筆:田中 光(作業療法士/認定作業療法士)
「脳卒中になったら、できるだけ早く動いたほうがいいのでしょうか」「ベッドから起きるのが早いほど回復は良くなりますか」——これは入院中や退院後に、ご本人やご家族からよく聞かれる質問です。早期離床(そうきりしょう)とは、発症のあと、できるだけ早い時期にベッドから起き上がって座ったり立ったり、体を動かし始めることを指します。一見すると「早ければ早いほど良い」と思われがちですが、近年の研究では、その時期や量について慎重に考える必要があることが分かってきました。この記事では、早期離床について研究で分かっていること、向いている人・注意したい人、進め方の目安を、患者さんとご家族に向けて正直に整理します。

・ただし、発症から24時間以内のとても早い時期に、たくさん動かす形の介入は、3か月後の回復がかえって悪かったという報告があります1,2。
・複数の研究をまとめた解析では、開始は発症から24時間より後に考えるほうがよいと結論づけられています2。
・一方で、適切な時期から始める早期のリハビリは、日常生活動作(ADL)の向上や、長期的な合併症の減少と関わるとも報告されています3。
・「早く・たくさん動くほど良い」とは限らず、時期と量は全身状態に合わせて医療チームが個別に判断します1,3。
・AHA/ASAガイドラインでも、発症24時間以内の高用量離床には注意が必要とされています5。
早期離床とは、脳卒中の発症からあまり時間を置かずに、ベッドの上で寝たままの状態から、起き上がって座る(端座位・たんざい)、立つ、歩くといった「ベッドから出る活動」を始めることを指します。長く寝たままでいると、体力や筋力が落ちたり、肺炎や血のかたまり(深部静脈血栓・しんぶじょうみゃくけっせん)、床ずれなどの「動かないことによる合併症」が起こりやすくなると考えられており、こうした合併症を避けるためにも、適切な時期からの離床が大切とされています。
ここで注意したいのは、「早期離床」と「とても早い時期に、たくさん動かすこと(超早期離床・very early mobilisation)」は同じではない、という点です。研究の世界では、発症から24〜48時間以内に開始する離床について、その時期や量がどのくらい適切かが長く議論されてきました1。この記事では、研究で分かっていることをもとに、「いつから・どのくらい」を考えるための視点を整理します。なお、入院直後の急性期にいつ離床を始めるかは、脳卒中の種類や全身状態をふまえて主治医・病棟チームが判断する事柄です。
結論から正直にお伝えすると、「早く動き始めること」は良いことのように思えますが、研究では「とても早い時期に、たくさん動かす」やり方が必ずしも良い結果につながらず、むしろ慎重さが必要だと示されています。一方で、適切な時期から始める早期のリハビリ自体には、日常生活動作の向上などの良い面も報告されています。「早ければ早いほど良い」という単純な話ではない、というのが現時点での理解です。
個々の患者さんのデータを集めて再解析した研究(2630名)でも、早期離床を受けた群は、通常ケア群より3か月後に良好な回復に至った割合が低いという結果でした(48%対52%、調整オッズ比0.75、95%信頼区間0.62〜0.92)2。著者らは「離床の開始は、発症から24時間より後に検討すべき」と述べています2。一方、急性期虚血性脳卒中を対象に14件の試験(3039名)をまとめた別の解析では、早期からのリハビリは日常生活動作の向上や、3〜12か月時点での合併症の減少と関わる一方、急性期に早すぎる・強すぎるリハビリは死亡率を高める可能性がある、と結論づけています3。

研究で良い面が見えやすいのは、入院期間が少し短くなる傾向や1、適切な時期から行うリハビリと日常生活動作(ADL)の向上、長期的な合併症の減少との関わりです3。長く寝たままでいることを避け、体を起こして使う時間を増やしていくことは、生活を取り戻すうえで大切な土台になります。
一方で注意が必要なのは、「発症から24時間以内に、たくさん動かす」という超早期・高用量の離床です。複数の研究で、この形は3か月後の回復をかえって悪くする可能性や、死亡のリスクがやや高まる可能性が指摘されています1,2,3。また、重い脳卒中の方を対象にした研究では、超早期離床は通常ケアより優れているとは言えず、そもそも質の高い根拠が乏しいことも報告されています4。つまり、何が変わるかは「いつ・どのくらい」によって大きく異なり、急性期のとても早い時期に無理を重ねることは、慎重に避けるべきだと考えられています。
全身状態が安定し、医療チームが離床を進めてよいと判断した方では、ベッドから起き上がり、座る・立つ・歩くといった活動を段階的に増やしていくことが、回復に向けた土台になります。多くの脳卒中ケアでは、こうした離床は計画的に行われています1。どの活動から、どのくらいの量で始めるかは、その人の状態に合わせて決めていきます。
研究をふまえると、離床の「開始」は、発症からおよそ24時間より後に検討するほうがよいと考えられています2。複数の研究をまとめた分析でも、開始時期が24時間ごろのときに、もっともリスクが低かったと報告されています1。ただし、これはあくまで研究全体から見た目安であり、実際の開始時期や1回あたりの量は、脳卒中の種類・重さ・全身状態によって個別に判断されます。急性期に「早く・たくさん」を競うことが良い結果につながるわけではない、という点が重要です。
回復期や生活期(退院後)になると、関心は「いつ始めるか」よりも「どう続けるか」に移っていきます。体調や疲れやすさに合わせて活動量を調整し、無理のない範囲で起きて動く時間を増やしていくことが大切です。退院後の運動量を考える際は、脳卒中後の有酸素運動について解説した記事も参考になります。一律の正解はなく、続けやすい量・形は人によって異なります。担当の専門職と一緒に、その時期の体に合わせて調整していくことをおすすめします。歩行練習や筋力づくりを考える場合は、立ち上がり練習、筋力トレーニングの記事もあわせて確認すると整理しやすくなります。
そのため当社では、歩行量や練習時間だけで判断せず、疲労が翌日に残っていないか、食事や睡眠に影響していないか、転倒しそうな場面が増えていないか、家の中での移動やトイレ動作が安定しているかも確認します。急に量を増やすより、起きて過ごす時間、立ち上がる回数、屋内歩行、屋外歩行を段階的に調整し、翌日の活動状況まで含めてペースを整えることを大切にしています。

修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
Journey Rehabの初回相談から施術までの流れはこちら
2. Rethnam V, Langhorne P, Churilov L, et al. Early mobilisation post-stroke: a systematic review and meta-analysis of individual participant data. Disabil Rehabil. 2022;44(8):1156-1163. DOI:10.1080/09638288.2020.1789229. PMID:32673130.
3. Lou Y, Liu Z, Ji Y, Cheng J, Zhao C, Li L. Efficacy and safety of very early rehabilitation for acute ischemic stroke: a systematic review and meta-analysis. Front Neurol. 2024;15:1423517. DOI:10.3389/fneur.2024.1423517. PMID:39502386. PMCID:PMC11534803.
4. McGlinchey MP, James J, McKevitt C, Douiri A, Sackley C. The effect of rehabilitation interventions on physical function and immobility-related complications in severe stroke: a systematic review. BMJ Open. 2020;10(2):e033642. DOI:10.1136/bmjopen-2019-033642. PMID:32029489. PMCID:PMC7045156.
5. Powers WJ, Rabinstein AA, Ackerson T, et al. Guidelines for the Early Management of Patients With Acute Ischemic Stroke: 2019 Update to the 2018 Guidelines. Stroke. 2019;50(12):e344-e418. DOI:10.1161/STR.0000000000000211. PMID:31662037.
