脳卒中後の肩亜脱臼リハビリ|装具・電気刺激・評価を時期別に解説

· 脳卒中上肢関連情報
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脳卒中後の肩の亜脱臼に対するリハビリ|評価・装具・電気刺激を時期別に整理

脳卒中後に麻痺側の肩が下がる、腕が抜けるように見える、肩が痛くてリハビリが進みにくい。こうした相談の背景に、肩の亜脱臼が関係していることがあります。

ただし、亜脱臼そのものが必ず悪い、という単純な話ではありません。大切なのは、腕の重さで肩まわりの組織に負担がかかり、痛みや炎症、生活場面での牽引ストレスにつながることを避けることです。

この記事では、脳卒中後の肩亜脱臼について、評価方法、三角巾・装具の位置づけ、電気刺激の時期別の効果、いつまで増悪しやすいのかを、研究と臨床経験の両方から整理します。

公開日:2026年6月1日 最終更新日:2026年6月1日
最初に確認したいこと:
肩の亜脱臼が見えても、痛みの原因が亜脱臼だけとは限りません。肩痛は多因子的で、亜脱臼単独では説明できないことが多く、痙縮、拘縮、腱板・滑液包の炎症、感覚障害、CRPS、転倒や介助時の牽引などが重なることがあります。痛みが強い場合、腫れ・熱感・色の変化がある場合、転倒後に痛みが出た場合は、医師やリハビリ専門職に相談してください。4
SECTION 01
脳卒中後の肩亜脱臼とは?

肩亜脱臼とは、上腕骨頭(腕の骨の先端)が肩甲骨の受け皿から部分的にずれる状態です。脳卒中後は、棘上筋や三角筋など肩を支える筋肉が働きにくくなり、腕の重さで肩が下方へ引かれやすくなります。

報告によって頻度に幅はありますが、脳卒中後肩亜脱臼は比較的よくみられる合併症です。特に、発症早期の弛緩性麻痺、重度の上肢麻痺、感覚障害、半側空間無視などがある場合は、腕が保護されにくくなります。1,2

この記事の結論
・亜脱臼は「見た目を戻す」だけでなく、肩まわりの組織を傷めない管理が重要です。
・三角巾や装具は、装着中の支持には役立つ可能性がありますが、長く使い続ければよいとは限りません。
・電気刺激は、急性期から亜急性期では亜脱臼の予防・軽減に有利な報告があります。慢性期では効果が一貫しません。
・肩痛は亜脱臼だけで説明できないことが多く、上肢機能やADLまで必ず良くなるとは言い切れません。
脳卒中後の肩と腕をリハビリ専門職が確認しているイメージ
▲ 肩亜脱臼は、肩の位置だけでなく、腕の重さ、肩甲骨、痛み、生活場面を含めて確認します。
SECTION 02
亜脱臼の評価方法

臨床では、肩峰(肩の上の骨)と上腕骨頭のすき間を触って確認する方法がよく使われます。いわゆる「指何本分」という表現です。簡便ですが、検者による差が出やすいため、経過を追うときは同じ姿勢・同じ方法で記録することが大切です。

研究ではX線がよく使われてきました。2018年のシステマティックレビューでも、亜脱臼評価にはX線が最も多く使われたと整理されています。近年は、放射線被ばくがなく、肩峰と上腕骨頭の距離を見やすい超音波評価も候補として挙げられています。2

評価方法特徴注意点
触診・指幅臨床で使いやすい。すぐ確認できる。検者差が出やすい。記録条件をそろえる。
X線研究で多く使われる。距離を数値化しやすい。医療機関での実施が必要。姿勢条件の統一が重要。
超音波被ばくがなく、軟部組織も見やすい。機器と評価者の習熟が必要。
痛み・可動域・筋緊張亜脱臼が生活に与える影響を見られる。亜脱臼距離だけでは判断しない。
SECTION 03
リハビリで重視すること

脳卒中後の肩亜脱臼に対するリハビリでは、「肩を引っ張らない」「腕を支える」「肩甲骨と上腕骨の位置を整えて動かす」「筋活動を引き出す」という基本が重要です。Canadian Stroke Best Practicesでは、弛緩期に肩関節保護を行い、安静時や車椅子上で上肢を支持し、移乗時に麻痺側上肢を引っ張らないことが推奨されています。3

具体的に確認したい場面
・ベッド上で腕が体の横に落ちたままになっていないか
・起き上がりや移乗で麻痺側の腕を持って引っ張っていないか
・車椅子上で前腕が支えられているか
・更衣や入浴で肩を無理に持ち上げていないか
・肩甲骨が動かないまま、肩だけを上げていないか

一方で、亜脱臼距離を小さくすることだけがゴールではありません。肩の痛み、可動域、上肢機能、生活動作、睡眠、介助方法まで含めて、何に困っているかを分けて考える必要があります。

自宅でできる確認ポイント
・座っている時、麻痺側の腕がだらんと下がっていないか
・肩と腕の間にすき間が大きく見えないか
・腕を動かした時だけでなく、安静時にも痛みがあるか
・手や腕に腫れ、熱感、皮膚の色の変化、強い過敏さがないか
・更衣、移乗、起き上がりで麻痺側の腕を引っ張っていないか
気になる変化がある場合は、自己判断で強く動かさず、担当医師やリハビリ専門職に確認してください。
SECTION 04
三角巾・装具・支持具は効果が高い?

三角巾や肩装具、アームサポートは、装着している間に腕の重さを支え、肩への牽引ストレスを減らす目的で使われます。2018年のレビューでは、肩支持具や装具は「装着中に一時的に亜脱臼を減らす可能性」がある一方、上肢機能回復を促す介入として十分に確立しているとは言えない、と整理されています。2

つまり、装具は「ずっと付けておけば安心」というより、時期と場面を選ぶ補助具です。弛緩性麻痺が強い急性期、歩行時に腕が下がって肩が引かれる場面、移乗や外出など肩を守りたい場面では役立つ可能性があります。一方で、過度に頼ると、腕を使う機会が減る、肘や手が曲がった姿勢で固まりやすい、体幹や肩甲骨の動きが出にくい、といったデメリットも考えます。

麻痺側上肢を生活場面で支えるイメージ
▲ 支持具は「使う場面」と「外して動かす時間」を分けて考えることが大切です。
使い分けの目安:
急性期の弛緩性麻痺では、肩を守るための支持を検討します。回復期以降は、歩行・外出・長時間座位など肩が下がりやすい場面では支持し、リハビリ中は肩甲骨や腕の動きを引き出す時間も作ります。痛みや痙縮がある場合は、装具の形や装着時間を専門職と調整します。
SECTION 05
電気刺激は効果がある?時期別に整理

電気刺激、とくにNMES(神経筋電気刺激)やFES(機能的電気刺激)は、棘上筋や三角筋後部などを刺激し、肩を支える筋活動を補う目的で使われます。2017年のメタアナリシスでは、急性期・亜急性期の脳卒中者では肩亜脱臼の軽減に有利な効果が示されました。一方、慢性期では統計的に有意な効果は示されず、肩痛や上肢機能への効果も一貫しませんでした。1,8

時期電気刺激の位置づけ注意点
急性期予防・早期軽減の候補。弛緩性麻痺が強い時期ほど検討しやすい。皮膚状態、感覚障害、心疾患・植込み型機器、疲労を確認する。
亜急性期研究上、亜脱臼軽減の効果が比較的示されやすい時期。刺激だけでなく、肩甲骨・上肢練習、生活での支持と組み合わせる。
慢性期亜脱臼距離を戻す目的では効果が一貫しない。痛み、筋緊張、可動域、動作、装具調整などを個別に評価する。

2022年の急性期RCTでは、標準リハビリと肩支持具に長時間NMESを加えた群で、亜脱臼距離やFMA-UEなどに有利な変化が報告されています。2021年のRCTでは、動きに応じて刺激するposition-triggered ESが通常の受動的刺激より亜脱臼距離に有利でしたが、刺激終了後の持続効果には限界がありました。5,6

研究の読み方

「亜脱臼が減った」と「痛みが減った」「手が使いやすくなった」は同じではありません。電気刺激は肩の配列を支える手段として有望ですが、痛みや上肢機能まで一律に期待するのではなく、目的を分けて使う必要があります。

電気刺激を行う前に必ず確認したいこと:
ペースメーカーや植込み型除細動器などの植込み型機器、重い心疾患や不整脈、てんかん既往、妊娠中、悪性腫瘍の部位、血栓が疑われる部位、傷・皮膚炎・感染がある部位、感覚障害が強く刺激の強さを判断しにくい場合は、必ず医師やリハビリ専門職に確認してください。
SECTION 06
亜脱臼はいつまで増悪しやすい?

亜脱臼が増悪しやすいのは、発症早期から回復期前半、つまり肩を支える筋活動が乏しく、腕の重さを自分で支えにくい時期です。特に弛緩性麻痺が強い間は、ベッド上・車椅子上・移乗・歩行のたびに肩へ牽引ストレスがかかります。

研究の時期分類は論文によって異なりますが、電気刺激のメタアナリシスでは、急性期・亜急性期では亜脱臼軽減が示され、慢性期では明確ではありませんでした。これは、発症から時間が経つほど、単に肩を支えるだけではなく、拘縮、痙縮、筋萎縮、姿勢、生活習慣が絡むためと考えられます。1,7

実践的な考え方
発症後3か月以内をひとつの重要な窓と考え、亜脱臼を作らない・悪化させない管理を早めに始めます。すでに亜脱臼がある場合も、急性期から亜急性期であれば、支持具、ポジショニング、肩甲骨を含む運動、電気刺激を組み合わせて積極的に対策を検討します。
SECTION 07
Journey Rehabでの現場経験

臨床では、亜脱臼そのものを「悪」として見るより、亜脱臼に伴って肩まわりの組織が引っ張られ、痛みや炎症、動作時の不安につながることを避ける視点が重要だと感じています。ただし、肩の痛みは亜脱臼だけで決まるものではなく、痙縮、拘縮、炎症、感覚障害、生活場面での扱い方が重なって起こることが多いです。

三角巾や装具を使っている方もいますが、ずっと装着すればよいわけではありません。弛緩性麻痺が強い急性期や、歩行・移動で腕が下がる場面では保護として有用なことがあります。一方、回復期以降は、外して肩甲骨や腕を動かす時間、生活で使う練習も必要になります。

電気刺激については、急性期から亜急性期にかけて、亜脱臼の予防・軽減を目的に早めに検討したい介入です。慢性期では、亜脱臼そのものを戻すというより、痛みの原因、筋緊張、可動域、動作のしやすさを分けて評価し、目的を明確にして使う必要があります。

肩の痛みや腫れなど注意すべきサインを確認するイメージ
▲ 肩の位置だけでなく、痛み、腫れ、熱感、皮膚色、感覚過敏も確認します。
SECTION 08
まとめ
・脳卒中後の肩亜脱臼では、肩まわりの組織を傷めない管理が重要です。
・評価は、触診、X線、超音波、痛み、可動域、筋緊張、生活場面を組み合わせます。
・三角巾や装具は装着中の支持として役立つ可能性がありますが、長期・常時使用には注意が必要です。
・電気刺激は急性期・亜急性期の亜脱臼軽減で有利な報告があります。慢性期では効果が一貫しません。
・亜脱臼距離だけでなく、痛み、上肢機能、日常生活、介助方法、安全確認まで含めて考えることが大切です。
免責事項:
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療・医療行為を勧めるものではありません。実際のリハビリ内容、装具、電気刺激の使用可否は、主治医や担当リハビリ専門職と相談して決めてください。特に電気刺激は、植込み型機器、心疾患、てんかん既往、妊娠、皮膚トラブル、感覚障害などにより注意が必要です。研究結果は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
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田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
FAQ
質問リスト
Q1. 脳卒中後の肩亜脱臼は自然に目立たなくなりますか?
筋活動が戻ると目立ちにくくなることはあります。ただし、弛緩性麻痺が強い時期は悪化しやすいため、早期から腕を支える、引っ張らない、肩甲骨を含めて動かす管理が大切です。
Q2. 三角巾はずっと付けていた方がよいですか?
常時使用がよいとは限りません。急性期の保護や歩行・外出時の支持には役立つ可能性がありますが、腕を動かす機会が減ることもあります。装着時間は専門職と調整します。
Q3. 電気刺激はいつから始めるのがよいですか?
研究では急性期から亜急性期で亜脱臼軽減に有利な報告があります。皮膚状態、感覚、心疾患、植込み型機器、てんかん既往、妊娠、悪性腫瘍部位などの確認が必要なため、主治医・専門職と相談して始めます。
Q4. 慢性期でも電気刺激で亜脱臼は戻りますか?
慢性期では、亜脱臼距離を戻す目的の効果は一貫していません。痛み、筋緊張、可動域、姿勢、生活動作など、困っている内容に合わせて目的を決めることが大切です。
Q5. 亜脱臼があると肩の痛みは必ず出ますか?
必ずではありません。亜脱臼は痛みの一因になり得ますが、単独で説明できないことが多く、痙縮、拘縮、炎症、感覚障害、CRPSなどが重なることもあります。痛みの原因を分けて評価する必要があります。
Q6. 家族が介助で気をつけることはありますか?
麻痺側の腕を持って引っ張らないことが重要です。起き上がり、移乗、更衣、車椅子座位では、前腕を支え、肩が下に引かれないようにします。介助方法は担当者に確認してください。
参考文献