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田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍 初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事ののち独立 |
脳卒中後に「麻痺側の肩が痛い」「腕が抜けるように感じる」「手まで腫れて痛い」と相談されることがあります。肩の痛みは、リハビリの意欲や日常生活の動きに大きく影響します。
ただし、脳卒中後の肩の痛みはひとつの原因で起こるわけではありません。亜脱臼(肩の関節が少しずれて、腕の重さで下に引かれる状態)、痙縮(筋肉の緊張が高くなり、腕が曲がったり内側に入りやすくなる状態)、関節可動域制限、腱板や滑液包の炎症、感覚障害、CRPS(痛み、腫れ、皮膚の色や温度の変化、過敏さなどが出る状態)などが重なります。
この記事では、脳卒中後の肩の痛みを分類し、亜脱臼やCRPSとの関係、急性期・回復期・慢性期ごとのリハビリ上の考え方を、研究と臨床経験の両方から整理します。
この記事は、脳卒中後の肩の痛みを理解するための一般的な情報です。実際には整形外科的な疾患、中枢性疼痛(脳や神経の影響で痛みを感じやすくなる状態)、CRPS、感覚障害などが重なることもあります。痛みが強い場合、腫れ・熱感・色調変化がある場合、転倒後に痛みが出た場合は、医師やリハビリ専門職に相談することが重要です。
脳卒中後の肩の痛みは、英語ではhemiplegic shoulder pain、post-stroke shoulder painなどと呼ばれます。報告によって幅はありますが、カナダの推奨では22〜47%にみられると説明され、2021年のシステマティックレビュー・メタアナリシスでは発生率が約29%、有病率が約33%と報告されています。発症後2週間から2か月ごろに目立ちやすいこともあります。1,2,3
大切なのは、肩が痛いからといって、全員に同じストレッチやマッサージをすればよいわけではない、ということです。カナダの脳卒中リハビリテーション推奨でも、脳卒中後の肩痛は多因子性で、原因を正確に評価することが重要だとされています。1
痛みの場所、動かした時か安静時か、腕の重さで引っ張られる感じか、腫れや熱感があるか、感覚が過敏か、肩甲骨が動いているかを分けて確認します。ここを間違えると、対処もずれやすくなります。
亜脱臼とは、肩関節の中で上腕骨頭(腕の骨の先端)が、肩甲骨の受け皿から部分的にずれる状態です。脳卒中後は、肩を支える筋肉の働きが弱くなり、腕の重さで下方へ引かれることで起こりやすくなります。
亜脱臼があると肩の痛みが起こりやすい、と説明されることがあります。システマティックレビューでも、運動麻痺の重症度、感覚障害、痙縮、亜脱臼などが肩痛と関連する可能性が整理されています。3 ただし、亜脱臼があること自体が、必ず痛みの原因とは限りません。痛みには拘縮、痙縮、炎症、感覚障害、管理中の牽引ストレスなども関わります。
Canadian Stroke Best Practicesでは、弛緩期には肩関節を保護し、安静時の上肢支持、車椅子上での前腕支持、移乗時に麻痺側上肢を引っ張らないこと、肩を90度以上に他動で挙げる場合は肩甲骨と上腕骨の位置に注意することが推奨されています。NICEでも、肩痛は原因を評価したうえで対応を決めることが推奨されています。1,4
肩痛と亜脱臼の対処は、時期によって目的が変わります。急性期から回復期前半は「予防」と「保護」が中心です。慢性期では、亜脱臼そのものを大きく戻すより、痛みの原因を分けて、動作・姿勢・筋緊張・生活での使い方を整える視点が重要になります。
| 時期 | 主な目的 | リハビリ観点 |
| 急性期 | 肩を傷めない。亜脱臼や牽引ストレスを増やさない。 | ポジショニング、前腕支持、移乗時の保護、無理な他動運動を避ける。必要に応じて装具・テーピング・電気刺激を検討。 |
| 回復期 | 肩の配列を守りながら、動きと生活使用を増やす。 | 肩甲骨と上腕骨の協調、痛みのない範囲での可動域、筋活動の促通、課題練習、痙縮や浮腫への対応。 |
| 慢性期 | 痛みの原因を再評価し、生活で悪化させない使い方を作る。 | 拘縮・痙縮・腱板炎・CRPS・感覚障害を分ける。亜脱臼の見た目だけでなく、痛み、ADL、睡眠、介助方法を整える。 |
慢性期に亜脱臼が残っていても、それだけで「悪」と決めつける必要はありません。痛みがあるのか、生活で困っているのか、肩の炎症や痙縮があるのかを分けて考えます。見た目の隙間だけを追いかけると、重要な原因を見落とすことがあります。
リハビリでは、痛みを「肩だけの問題」として見ないことが大切です。姿勢、肩甲骨、体幹、感覚、注意、麻痺側上肢の管理、介助方法まで含めて考えます。
NICEの脳卒中リハビリテーションガイドラインでは、肩痛がある人は原因を評価し、その評価に基づいて対応を決めることが推奨されています。また、肩痛の管理として、テーピング、NMES(神経筋電気刺激)、関節内ステロイド注射、局所麻酔による神経ブロックなどを検討する選択肢として挙げています。4
CRPSはComplex Regional Pain Syndromeの略で、日本語では複合性局所疼痛症候群と呼ばれます。脳卒中後では、肩手症候群と呼ばれることもあります。肩から手にかけて、痛み、腫れ、熱感、皮膚色の変化、過敏さ、動かしにくさなどが重なって起こる状態です。
Canadian Stroke Best Practicesでは、CRPSが疑われる場合、早期診断と治療が重要で、必要に応じて脳卒中リハビリや疼痛管理に詳しい医師への紹介を検討することが示されています。診断は痛みだけでなく、感覚、血管運動、発汗・浮腫、運動・皮膚変化などを含めて判断します。1
肩だけでなく手まで腫れる、触れるだけで強く痛い、皮膚の色や温度が左右で違う、汗や皮膚の変化がある、手指を動かすと強い痛みが出る。このような場合は、リハビリだけで抱え込まず、医師と連携して評価することが大切です。
脳卒中後CRPSに対するプレドニゾロンを検討した研究では、初期治療に反応する例が多く報告されています。ただし、薬の適応や禁忌は個別判断が必要であり、リハビリ職だけで判断するものではありません。6
キネシオテーピングや装具は、「肩を治す魔法」ではありません。位置を整える、腕の重さを支える、痛みを出しにくくする、リハビリ中の肩を守る、といった補助的な役割として考えるのが現実的です。
キネシオテープに関するメタアナリシスでは、疼痛、関節可動域、肩峰上腕骨間距離、Fugl-Meyer Assessment上肢項目に有利な結果が報告されています。一方で、ADLや生活の質への影響、他の積極的な介入より優れているかは十分に確認されていません。また、含まれた研究は短期介入が中心で、テープの貼り方や対象時期にもばらつきがあります。小規模RCTでも、通常リハビリに肩テーピングを加えた群で有利な変化が報告されていますが、対象者数は限られます。7,10
FES/NMES(電気刺激で筋肉の収縮を補助する方法)については、急性期・亜急性期の肩亜脱臼を減らす可能性が報告されています。一方、慢性期の亜脱臼、腕の機能、肩痛そのものへの影響は一貫していません。8,9
肩装具に関するシステマティックレビューでは、装着中は亜脱臼を減らす可能性や、数週間の使用で痛みに有利な変化が示された研究がある一方、予防目的で早期から使えばよいと断定できるほどの研究は十分ではありません。装具は種類、装着時間、皮膚状態、腕を使う機会への影響を見ながら調整します。5
肩の痛みは、早期にしっかりと適切な対処をすることが本当に大切だと感じています。特に、原因を正しくアセスメントできないと、対処を間違えてしまいます。痛いから強く揉む、硬いから無理に伸ばす、腕が上がらないから引っ張る。こうした対応で悪化する可能性があります。
Journey Rehabでは、肩そのものだけでなく、生活動作、座っている時の姿勢、歩行時の腕の位置、車椅子や椅子での前腕支持、介助方法まで確認します。月1回程度の評価では、痛みの変化、肩関節の可動域、日常生活で困っている動作を整理し、無理に動かすのではなく、痛みの原因を分けながらリハビリ内容を調整しています。
亜脱臼は、急性期から回復期にかけて、装具、テーピング、電気刺激、ポジショニングなどで予防的に管理することが特に重要です。亜脱臼の改善が報告されている研究は、急性期から亜急性期のものが中心で、慢性期に大きく戻せるという報告は多くありません。
一方で、亜脱臼が残っていること自体が必ず悪い、というわけでもありません。痛みがない、皮膚や神経の問題がない、日常生活で困りが少ない場合は、見た目だけで過度に不安になる必要はないこともあります。
CRPSは、感覚障害、浮腫、半側空間無視、麻痺側上肢の管理不足などが複合して起こる印象があります。これは本当に軽く見てはいけません。麻痺側の腕を「自分の身体の一部として安全に扱う」こと、つまり麻痺側管理の視点がとても重要です。腫れ、熱感、色調変化、夜間痛、触れるだけで強い痛みがある場合は、必要に応じて医療機関への相談をすすめています。
本記事は、脳卒中後の肩の痛みに関する一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の代替ではありません。CRPS、亜脱臼、炎症、中枢性疼痛、整形外科的疾患は見分けが難しいことがあります。強い痛み、腫れ、熱感、夜間痛、転倒後の痛み、急な可動域低下がある場合は、主治医やリハビリ専門職に相談してください。研究内容は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
「肩の痛みの原因を整理したい」「今の身体に合った運動や管理方法を知りたい」など、専門職に相談したい方はお気軽にご相談ください。無料相談を受け付けています。
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執筆者:田中 光(作業療法士)
株式会社Journey Rehab 代表。作業療法士(国家資格)/認定作業療法士。修士(作業療法学)。東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍。初台リハビリテーション病院で脳卒中回復期リハビリに従事後、2025年Journey Rehabを設立。
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