脳卒中後の杖の選び方と使い方|1本杖・多点杖・車輪付きの違いに関する研究と限界を正直に解説

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田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脳卒中後の杖の選び方と使い方|1本杖・多点杖・車輪付きの違いに関する研究と限界を正直に解説
内容確認日:2026年7月30日
「杖はどれを選べばよいのか」「杖に頼ると歩けなくなるのでは」——訪問先でよく伺う質問です。実は、杖の種類によって歩き方の数値がはっきり変わることが研究で示されています。一方で、「杖を渡して1か月使ってもらう」だけでは杖なしで歩いたときの速さは変わらなかった、という報告もあります。つまり杖は「持っているあいだの歩きを支える道具」として考えるのが、現時点の研究に近い見方です。この記事では、作業療法士の立場から、研究で分かっていることと分かっていないことを整理します。
SECTION 01
杖は何を支えているのか|種類と特徴
脳卒中のあとに使われる杖は、大きく3つに分けて考えると整理しやすくなります。ひとつは1本杖(T字杖など)。接地する点が1つで、軽く、狭い場所でも扱いやすい形です。次に多点杖(4点杖・サイドケイン)。接地する点が複数あり、立ち止まっているときの安定を得やすい形です。そして近年研究が増えているのが車輪付きの杖で、前方に転がしながら進む形のものです1
杖を持つと、体重の一部が非麻痺側の手を通して杖に乗ります。研究では、この「杖にどれだけ体重を乗せているか」を測ることがあり、たとえばある試験では体重の7%以上を杖に乗せている方を対象にしていました2。つまり杖は、単に「触っている棒」ではなく、実際に荷重を分担している道具です。ここが、あとで出てくる「杖への依存」の話につながります。
なお、下肢の装具(短下肢装具など)と杖は役割が異なります。装具は足首や膝の動きを制御するもの、杖は支持基底面を広げて荷重を分担するものです。装具の判断については、装具を外すための基準について解説した記事で扱っています。また、歩行の状態をどの指標で見るかについては、脳卒中後の歩行評価指標について解説した記事もあわせてご覧ください。
1本杖と多点杖を比較する脳卒中後の方と理学療法士
杖の安定性と取り回しやすさは異なります。使用場面と身体の状態に合わせて選びます。
SECTION 02
研究で分かっていること
結論から言うと、杖の種類と使い方によって、その場の歩き方の数値は確かに変わります。ただし「杖を渡せば杖なしの歩きが変わる」わけではありません。順に見ていきます。
研究紹介|ランダム化クロスオーバー試験(2024年・34名・4点杖と車輪付き杖の比較)
Maillardらの試験1は、片麻痺のある34名(年齢中央値65歳、範囲19〜91、女性13名、発症からの期間の中央値3か月、うち33名が脳卒中)に、4点杖車輪が4つ付いた杖の両方で歩いてもらい、慣性センサーで歩行の数値を測ったものです。順番はランダムに割り付けられました。

快適な速さで歩いた条件では、車輪付きの杖のほうが歩行速度が35%速く(0.436 m/秒 対 0.324 m/秒、p=0.004)、足が地面に接している時間(立脚期)は27%短く(1.028秒 対 1.403秒、p=0.003)、歩調は23%多く(p=0.004)、両足が同時に接地している時間は31%短く(p=0.008)なっていました。速く歩く条件でも同じ方向の差がみられ、歩行速度は38%速く(0.572 m/秒 対 0.416 m/秒、p=0.003)、立脚期は22%短く(p=0.003)、歩調は20%多く(p=0.006)なりました。
数字としては大きな差ですが、著者らは限界も明記しています。対象者の状態が幅広く(発症からの期間も原因疾患も、麻痺側の左右もそろっていない)、評価の時期が標準化されていないこと、測定が実験室の平らな床の上で行われたこと、そして転倒のリスクや必要な酸素量は測っていないことです1。「速く歩けたから安全になった」とは言えない、という点は押さえておく必要があります。
研究紹介|ランダム化比較試験(2021年・30名・4週間)
Kangらの試験2は、発症後6か月以上たった脳卒中後の方30名を2群(各15名)に分け、杖にかかっている体重をその場で音で知らせる杖を使う群と、通常の1本杖で口頭の指示を受ける群を比べたものです。平均年齢は58.2±13.8歳/60.1±13.1歳、発症後の期間は12.8±8.3か月/14.7±6.6か月。どちらの群も、杖に乗せる体重の目標を60%から毎週10%ずつ減らして4週間で30%までとし、1日30分・週3回・4週間の歩行練習を行いました。加えて通常のリハビリを週5回受けています。

結果として、麻痺側の筋活動の増え方は、大腿四頭筋で36.9対26.2(p=0.025)、下腿の腓腹筋で55.1対23.4(p=0.016)、股関節外側の中殿筋で57.0対11.2(p=0.004)と、音で知らせる杖の群のほうが大きくなりました(いずれも基準収縮に対する割合)。麻痺側で片脚で支えている時間の割合は6.4ポイント対1.6ポイント(p=0.047)、左右対称性の指標は9.5対5.0(p=0.008)で差がありました。一方、歩行速度については両群に統計的な差は示されていません(p=0.083)。
この試験が示しているのは、「杖に体重をどれだけ乗せているか」を本人が把握できる形にすると、麻痺側の脚の使い方が変わりうる、という点です2。ただし1群15名という小さな規模で、追跡期間も短く、病巣の広がりや利き手の影響を考慮していないこと、対照群にプラセボの要素を置いていないことが限界として挙げられています2。麻痺側に体重を乗せる練習そのものについては、脳卒中後のバランス訓練について解説した記事でも扱っています。
研究紹介|追跡型のパイロット研究(2022年・9名・3か月間)
Chenらの研究3は、発症後まもない時期(発症からの期間の中央値60日、範囲33〜127日)に4点杖で歩き始めた方9名を、最大6回・3か月にわたって繰り返し測定したものです。年齢の中央値は57.4歳、杖を使い始めてからの期間の中央値は20日でした。「3ずつ引き算をしながら歩く」条件と「1ずつ引き算をしながら歩く」条件で歩行速度を比べ、どれだけ速度が落ちるか(干渉の大きさ)を計算しています。

開始時点では9名全員に速度の落ち込みがみられ(5.91〜34.45%)、そのうち8名は時間の経過とともに落ち込みが小さくなっていました(Z=−2.547、p=0.011)。落ち込みが小さくなる度合いは、開始時点の二重課題の成績(ρ=0.600、p=0.044)、運動機能(ρ=−0.695、p=0.019)、歩行速度(ρ=−0.767、p=0.008)、移動能力(ρ=0.817、p=0.004)と関連していました。
つまり、杖歩行を始めた直後は「考えながら歩く」ことに大きな負担がかかりますが、練習を重ねるなかでその負担は小さくなっていく可能性がある、ということです3。ただし9名という非常に小さな規模で、簡単な計算ができる方に限られており、どちらの課題を優先するかの指示が十分に伝わっていなかった可能性も著者らが認めています3。この「考えながら歩く」という状況については、二重課題トレーニングの進め方はこちらで詳しく扱っています。
もうひとつ、押さえておきたい報告があります。発症後6か月〜5年で、それまで杖を使っていなかった歩行速度0.8 m/秒以下の方50名を対象に、1本杖を渡して1か月使ってもらう群と、下肢のストレッチを指導する群を比べた試験です。この試験は、割り付けを隠し、評価者に群を知らせない形で計画されました4。報告された結果では、杖なしで歩いたときの速度・歩幅・歩調・歩行距離・歩行への自信に、1か月後も2か月後も群間の差はみられなかった一方、杖を持って歩いた場合は1か月後に0.14 m/秒(95%信頼区間 0.05〜0.23)、2か月後に0.18 m/秒(0.06〜0.30)速く歩けていたとされています5。1件の試験の報告であり、対象は上記の条件を満たす50名に限られます。
SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
エビデンスの質と限界
杖という身近な道具にもかかわらず、研究の規模は小さいものが中心です。ここで紹介した試験の人数は34名1、30名(1群15名)2、9名3、50名4,5でした。

内容にも注意点があります。杖の種類を比べた試験は、実験室の平らな床の上で行われ、対象者の発症からの期間や原因疾患がそろっておらず、転倒のリスクも必要な酸素量も測っていません1。体重を音で知らせる杖の試験は追跡期間が4週間で、病巣の広がりや利き手の影響を考慮しておらず、対照群にプラセボの要素がありません2。二重課題の研究は9名で、簡単な計算ができる方に限られ、歩行の解析でも引きずり歩行のある方の測定が難しかったと報告されています3

また、杖を渡す試験は「発症後6か月〜5年」「歩行速度0.8 m/秒以下」「それまで杖を使っていない」という条件を満たす方を対象に計画されたもので4、すでに杖を使っている方や、発症直後の方には当てはめられません。研究全体では一定の傾向がありますが、対象者や測定の条件が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
まだ分かっていないこと
・杖の種類によって転倒の頻度がどう変わるかは測られていません1。歩行の数値が変わることと、転びにくくなることは別の問題です。
・車輪付きの杖で歩行の数値が変わることは示されましたが、屋外や段差、混雑した場所での安全性は検証されていません1
・杖に乗せる体重をどこまで減らすのが適切かという基準はありません。ある試験では60%から30%へ段階的に減らす設定が使われましたが、これは研究上の設定です2
・体重を音で知らせる杖で筋活動や対称性の指標に差が出ても、歩行速度には統計的な差が示されていません2
・4週間より長い期間で何が起きるかは確認されていません2
・二重課題での負担が小さくなっていく過程は、9名の観察にとどまります3
・すでに杖を使っている方に、種類を変えることでどうなるかを検証した研究は限られています1,5
・杖を使うことが長期的に生活の広がりや社会参加にどう関わるかは、明確になっていません5
SECTION 04
何が期待でき、何は変わりにくいか
期待できることを先に整理します。第一に、杖を持っているあいだの歩き方は変わります。4点杖と車輪付きの杖を比べた試験では、快適な速さで35%、速く歩く条件で38%の速度差がみられました1。第二に、杖にどれだけ体重を乗せているかを本人が把握できる形にすると、麻痺側の筋活動や左右対称性の指標に差が出ることが示されています2。第三に、杖歩行を始めた直後の「考えながら歩く負担」は、練習を重ねるなかで小さくなっていく可能性があります3
一方で、変わりにくい部分もはっきりしています。杖を1本渡して1か月使ってもらう試験では、杖なしで歩いたときの速度に群間の差はみられませんでした5。つまり杖は「使っているあいだ支えてくれる道具」であり、外したときの歩きそのものを作り替える道具ではない、という受け取り方が現時点では妥当です。杖を使い続けなければ、杖によって得られた速さは保たれない、という趣旨も報告されています5
それから、これは強調しておきたい点ですが、「歩けた速さ」と「安全」は別の指標です。杖の種類を比べた試験では転倒のリスクを測っていません1。速く歩けるようになったからといって、それが安全側の変化とは限りません。転倒とのつきあい方については、転倒のリスクと運動について解説した記事もあわせてご覧ください。
脳卒中後の方に合わせて杖の高さを調整する理学療法士
杖の高さは目安だけで決めず、姿勢、握りやすさ、歩き方を見ながら調整します。
SECTION 05
どんな人に向いているか
研究の対象者を並べると、目安が見えてきます。杖の種類を比べた試験では、発症からの期間の中央値が3か月、年齢は19〜91歳と幅広い方が含まれていました1。体重を音で知らせる杖の試験では、発症後6か月以上たち、杖を使って歩ける水準(介助なしまたは見守りで歩ける段階)で、体重の7%以上を杖に乗せており、認知機能の検査(MMSE)が24点以上の方が対象でした2。杖を渡す試験では、発症後6か月〜5年、14メートル以上を自力で歩ける、歩行速度0.8 m/秒以下、それまで杖を使っていない方が対象として計画されました4
そのうえで、実務的に検討したいのは次のような場面です。ひとつは、屋内は杖なしでも歩けるが、屋外や人の多い場所で不安が強い方。この場合、杖を「常に使うもの」ではなく「場面で使い分けるもの」として位置づけられます。もうひとつは、杖に体重を強く乗せている状態が続いている方です。杖への荷重の程度を測って共有すること自体が、練習の材料になりえます2
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと:
杖の種類を自己判断で変えることはおすすめしません。とくに車輪付きの杖は、前に転がる性質があるため、段差や下り坂、急に止まる場面での扱いが1本杖とは異なります。研究でも測定は実験室の平らな床の上で行われ、転倒のリスクは測られていません1。高さの調整も、合っていないと肩や手首に負担がかかります。杖の選択・高さの調整・使い方の練習は、必ず担当の医師やリハビリ専門職と一緒に行ってください。また、体重を乗せる量を減らす練習を自己判断で急に進めると、転倒につながるおそれがあります。研究では4週間かけて段階的に減らす設定が使われていました2。福祉用具として貸与・購入する場合は、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員にもご相談ください。
SECTION 06
練習の回数・頻度・期間の目安
以下は「研究で用いられた設定」であり、目標として示すものではありません。
杖への荷重を減らす歩行練習
1日30分・週3回・4週間。杖に乗せる体重の目標を60%から毎週10%ずつ減らし、4週間で30%へ。これに加えて通常のリハビリを週5回2

杖の使い始めの指導
杖の高さを非麻痺側の上肢に合わせて個別に調整し、理学療法士が使い方を指導。本人が違和感なく歩けると感じるまで、およそ15分の練習から開始4

その後のフォロー
週1回の電話連絡と、2週目の訪問(研究上の設定)4

評価の時期
開始時、4週後、その1か月後(8週後)4。杖歩行に慣れていく過程を追った研究では、3か月間で最大6回の測定が行われました3

歩行速度の測り方
10メートル歩行テスト。杖を持った状態と持たない状態の両方で測定4
実務では、この「杖あり・杖なしの両方で測る」という考え方が特に役に立ちます。杖ありだけを測っていると、杖なしの歩きがどうなっているかが見えません。逆に杖なしだけを測っていると、日常でどのくらい歩けているかが分かりません。両方を記録しておくと、杖を使う場面を決める話し合いがしやすくなります4,5
多点杖を使った歩行を理学療法士と確認する脳卒中後の方
実際の歩行では、杖先の位置、足の運び、方向転換、疲労を含めて安全性を確認します。
SECTION 07
専門職と一緒に確認したい実践上のポイント
専門職が確認する主な項目
まず、今どの場面でどの杖を使っているかを具体的に伺います。屋内・屋外・外出時・夜間で使い分けが起きていることが多いためです。次に、10メートル歩行を杖ありと杖なしの両方で測り、数値として記録します4。あわせて、杖にどのくらい体重を乗せているか、握りの高さが合っているか、非麻痺側の肩や手首に痛みが出ていないかを確認します。次に、方向転換、立ち止まり、段差、下り坂、狭い場所での扱いを実際に見ます。研究の測定は平らな床の上で行われており、この部分は実地で確かめるしかありません1。あわせて、話しながら歩く、荷物を持ちながら歩くといった条件でどう変わるかも見ます3。そのうえで、杖の種類を変える選択肢があるか、高さの調整で対応できるか、練習で対応するかを整理し、福祉用具の貸与・購入の相談が必要かを判断します。最後に、次に測り直す時期を決めておきます。
まとめると、杖は種類によって歩き方の数値がはっきり変わる道具です1。杖への荷重を本人が把握できる形にすると、麻痺側の筋活動や対称性の指標に差が出ることも示されています2。一方で、杖を渡すだけでは杖なしの歩きに差は示されず5、転倒のリスクを直接測った研究もありません1。ですので「どの杖が最も良いか」を一般論で決めるのではなく、使う場面と身体の状態から一緒に選んでいくのが現実的です。杖の選択や使い方で迷われたときは、担当の医師やリハビリ専門職にご相談ください。
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の治療・診断を推奨したり、医療行為に代わるものではありません。杖の種類の変更、高さの調整、荷重量を減らす練習には転倒のリスクを伴います。実施の前には、必ず担当の医師やリハビリ専門職にご相談ください。福祉用具の貸与・購入については、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員にもご確認ください。紹介した研究データは執筆時点のもので、今後の研究で評価が変わる可能性があります。
運営・利益相反について:本記事は株式会社Journey Rehabが作成し、記事内に当社サービスの案内を含みます。執筆者が文献を確認して作成したもので、外部医師による監修記事ではありません。掲載内容は個別の診断や効果を保証するものではありません。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
今お使いの杖と歩き方を一緒に確認しながら、生活の場面に合わせた進め方を考えます。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
Q & A
よくある質問
Q. 杖に頼ると歩けなくなるのではないですか?
1本杖を渡して1か月使ってもらう試験では、杖なしで歩いたときの速度・歩幅・歩調に群間の差はみられませんでした5。つまり「杖を使ったせいで歩けなくなった」という結果ではありません。ただし逆に「杖を使えば杖なしの歩きが変わる」という結果でもありません5。使う場面を担当の専門職と決めておくのが現実的です。
Q. 4点杖と1本杖はどちらがよいですか?
一律には決められません。研究では、4点杖と車輪が付いた杖を比べると、車輪付きのほうが歩行速度が35〜38%速いという差が示されました1。ただし転倒のリスクは測られておらず、測定も実験室の平らな床の上でした1。使う場所(屋内か屋外か、段差があるか)を含めて担当の専門職に相談してください。
Q. 車輪付きの杖は自分で買っても大丈夫でしょうか?
自己判断での変更はおすすめしません。車輪付きは前に転がる性質があるため、段差や下り坂、急に止まる場面での扱いが1本杖とは異なります。研究でも屋外や段差での安全性は検証されていません1。まず担当のリハビリ専門職と一緒に試し、福祉用具の相談窓口にもご確認ください。
Q. 杖に体重をかけすぎている気がします。減らしたほうがよいですか?
研究では、杖に乗せる体重の目標を60%から毎週10%ずつ減らし、4週間で30%にする設定が使われました2。ただしこれは研究上の設定で、どこまで減らすのが適切かという基準はありません。急に減らすと転倒につながるおそれがあるため、必ず専門職と一緒に段階を決めてください。
Q. 杖を使い始めたら、話しながら歩くのが難しくなりました。
よく伺うお話です。杖歩行を始めた直後の方9名を追った研究では、開始時点では全員に「考えながら歩くと速度が落ちる」現象がみられ、そのうち8名は時間とともに落ち込みが小さくなっていました3。慣れる過程で変わっていく可能性はありますが、9名の観察にとどまります3。慣れるまでは、歩くときと話すときを分けるのが安全です。
Q. 杖の高さはどう合わせますか?
研究では、杖の高さを非麻痺側の上肢に合わせて個別に調整し、理学療法士が使い方を指導したうえで、本人が違和感なく歩けると感じるまでおよそ15分練習する形が用いられました4。数値の目安を自己判断で当てはめるより、実際に歩いてもらいながら合わせるほうが確実です。
Q. 発症してすぐの時期から杖を使ってよいのでしょうか?
ここで紹介した研究の対象は、発症からの期間の中央値3か月の方1、発症後6か月以上の方2、発症後6か月〜5年の方4が中心です。発症直後にどうするかは、病状や安全性を含めた医学的な判断が必要になります。入院中であれば担当の医師とリハビリスタッフの指示に従ってください。
Q. 杖を使えば外出の範囲は広がりますか?
杖を持って歩いた場合の速度は1か月後に0.14 m/秒(95%信頼区間 0.05〜0.23)速かったと報告されていますが5、社会参加の指標については明確になっていません5。外出が増えるかどうかは、道の環境、同行者、目的地の有無など杖以外の条件にも左右されます。実際の外出場面を一緒に確認しながら考えるのが現実的です。
REFERENCES
参考文献
1. Maillard B, Boutaayamou M, Cassol H, Pirnay L, Kaux JF. Gait Analysis of Hemiparetic Adult Patients with a Quadripod Cane and a Rolling Cane. Healthcare (Basel). 2024;12(4):464. PMID: 38391839.
2. Kang YS, Oh GB, Cho KH. Walking Training with a Weight Support Feedback Cane Improves Lower Limb Muscle Activity and Gait Ability in Patients with Chronic Stroke: A Randomized Controlled Trial. Med Sci Monit. 2021;27:e931565. PMID: 34052826.
3. Chen HI, Fu SY, Liu TW, Hsieh YW, Chen HY. Changes in cognitive-motor interference during rehabilitation of cane walking in patients with subacute stroke: A pilot study. PLoS One. 2022;17(10):e0274425. PMID: 36201438.
4. Avelino PR, Nascimento LR, Menezes KKP, Scianni AA, Ada L, Teixeira-Salmela LF. Effect of the provision of a cane on walking and social participation in individuals with stroke: protocol for a randomized trial. Braz J Phys Ther. 2018;22(2):168-173. PMID: 29246455.
5. Avelino PR, Nascimento LR, Ada L, de Menezes KKP, Teixeira-Salmela LF. Using a cane for one month does not improve walking or social participation in chronic stroke: An attention-controlled randomized trial. Clin Rehabil. 2021;35(11):1590-1598. PMID: 34053229.