東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「ギラン・バレー症候群と診断されて、急性期は乗り越えた。でも、手足に力が入りにくい状態と強いだるさが残っている」「リハビリを続けたほうがいいのか、それとも休んだほうがいいのか分からない」。これは、ご本人やご家族から実際によく聞かれる質問です。
結論から言うと、ギラン・バレー症候群のリハビリについては「多職種で関わる形が支持されている一方で、質の高い比較試験そのものが非常に少ない」という状況です。この記事では、研究で分かっていることと、まだ分かっていないことを、患者さんとご家族に向けて正直に整理します。
ギラン・バレー症候群(Guillain-Barré syndrome、GBS)は、免疫のはたらきが誤って自分の末梢神経を攻撃してしまうことで起こる病気です。かぜやおなかの感染のあと、数日から2週間ほどで、足先のしびれや脱力から始まり、力の入りにくさが手足の付け根の方へ広がっていくのが典型的な経過です。多くの方は数週間でもっとも重い時期を迎え、その後ゆるやかに回復に向かいます。
大切なのは、「急性期の治療が終わった=症状がゼロになる」わけではないという点です。神経の傷んだ部分が元に戻るには時間がかかり、その間に筋肉が痩せたり、体力そのものが落ちたりします。発症から年単位が経っても、強いだるさ(疲労)、足の感覚のにぶさ、細かい手の動かしにくさ、長く歩けないといった困りごとが残る方は少なくありません。実際に、リハビリの研究の多くは、こうした「発症から6か月以上たった慢性期の方」を対象にしています1,3,4。
末梢神経の障害という点では、糖尿病にともなう神経の障害とも共通する困りごとがあります。足の裏の感覚がにぶくなることでふらつきが出る仕組みについては、糖尿病性末梢神経障害と運動・バランス訓練について解説した記事でも整理しています。

まず、いちばん質の高いまとめから見ていきます。
成人のギラン・バレー症候群に対する「多職種でのリハビリテーション」を検証したコクランレビューでは、条件を満たすランダム化比較試験・比較臨床試験は1件も見つかりませんでした。検討できたのは3件の観察研究(計128名)だけで、エビデンスの確実性は「非常に低い」と判定されています。それでも、入院での密度の高い多職種リハビリのあとに、日常生活の自立度(FIM)や社会参加の指標が短期間(およそ6か月以内)で良い方向に動いたという報告があり、有害な出来事の報告はありませんでした。1
このレビューの著者らは「ランダム化試験が無いことは、リハビリが役に立たないことを意味しない」とはっきり書いています1。つまり現時点では、「効かないと分かっている」のではなく「きちんと比べた研究がまだ足りない」という状態です。
オーストラリアの病院で、慢性期のギラン・バレー症候群の方79名(解析69名)を「個別性の高い高強度のリハビリ」と「強度の低いリハビリ」に分けて12か月追跡した試験です。高強度群では、日常生活動作(FIMの移動・移乗・排泄・歩行の各領域)で良い変化が示され(p<0.005)、効果の大きさは中等度から小さめ(r=0.36〜0.23)でした。全体として機能面で前進した方の割合は、高強度群68%に対し比較群32%と報告されています。3
次に、この病気でとくに困りごとになりやすい「疲労(強いだるさ)」についてです。
末梢神経の障害にともなう疲労への介入を調べたコクランレビューでは、条件を満たしたランダム化比較試験は3件(計530名)のみでした。そのうちギラン・バレー症候群を対象としたのは、アマンタジンという薬を用いた1件(74名)で、疲労が1点以上軽くなったかどうかのオッズ比は0.56(95%信頼区間0.22〜1.35)と、はっきりしない結果でした。運動療法を直接検証したランダム化比較試験は1件も含まれていません。運動については、観察研究で疲労が軽くなったという報告があるものの、バイアスのリスクが非常に高いと評価されています。2
より新しいまとめとしては、ギラン・バレー症候群と慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)を対象に、運動プログラムと疲労・活動能力の関係を整理したシステマティックレビュー(13研究・計173名)があります。筋力トレーニング・有酸素運動・バランス練習・呼吸練習を組み合わせた多要素のプログラムが疲労や活動能力と関連していたこと、そして良い結果は「監督のもとで個別化された45〜60分のセッションを週3〜4回、12週間以上」というかたちに結びついていたことが報告されています。ただし、含まれた研究には症例報告や単一事例研究も混ざっており、デザインの異なる研究をまとめた結果である点に注意が必要です5。
また、慢性期の方16名を対象に、理学療法士が監督する個別プログラム(筋力・持久力・呼吸練習・歩行練習・痛みへの対応を60分、週2〜3回、12週間)と、自宅での維持的な運動プログラム(30分、週2〜3回)を比べた小規模なランダム化試験もあります。6か月時点で、疲労や筋力、生活の質の一部で監督群が上回る結果が示されました4。ただし16名という人数はとても少なく、この1件だけで結論を出すことはできません。
疲労とのつき合い方という点では、別の神経の病気で研究が先行している領域もあります。エネルギーの配分や活動量の組み立て方の考え方は、多発性硬化症の疲労とリハビリについて解説した記事もあわせてご覧ください。
・そのレビューでは、介入の中身・時間・強度についての情報が乏しいこと、研究ごとに評価指標がばらばらで比べにくいこと、6か月を超える長期の追跡データが無いことが限界として挙げられています1。
・疲労に関するコクランレビューでも、運動療法を検証したランダム化比較試験は含まれていません2。
・2011年のランダム化比較試験は比較的しっかりした設計ですが、単一施設・79名の規模で、効果の大きさは中等度から小さめでした3。
・新しいシステマティックレビューも、含まれた13研究の合計が173名と小さく、研究デザインが混在しています5。
・急性期・回復期・慢性期それぞれで何をどこまで行うべきかを直接比べた研究はほとんどありません。研究の多くは慢性期が対象です。
・重症度、人工呼吸器を使った経験の有無、年齢、併存する病気ごとの違いは十分に検証されていません。
・1年を超える長期的な影響や、費用に見合うかどうかの検討はほとんど行われていません1。
・「運動のしすぎ」が神経や筋肉に不利にはたらくのかどうかについても、決着のついた答えはありません。
研究全体では一定の方向性がありますが、対象者も介入内容も研究ごとに大きく異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。この点は、正直にお伝えしておきたいところです。

研究に参加していた方の条件から考えると、以下のような状況の方は、運動を含むリハビリを検討しやすい立場にあります。
2. 補助具を使ってでも、ある程度の距離を歩ける方6
3. 生活のなかで「これができるようになりたい」という具体的な目標がある方
4. 心臓や呼吸などに、運動を制限する不安定な病気を抱えていない方6
「これが最適」と言い切れる量は決まっていません。ここでは、研究で実際に行われていた内容をそのまま紹介します。ご自身に当てはめる際は、必ず担当の医師・リハビリ専門職と相談してください。
内容:筋力トレーニング、持久力運動、呼吸練習、歩行練習、痛みへの対応
量:1回60分、週2〜3回、12週間
結果の解釈:6か月時点で疲労・筋力・生活の質の一部が自宅プログラムを上回りましたが、対象は16名と非常に少数です4
内容:筋力・有酸素・バランス・呼吸を組み合わせる
量:1回45〜60分、週3〜4回、12週間以上
結果の解釈:良い報告はこの範囲に集まっていましたが、比較試験で確かめられた最適量ではありません5
内容:早歩きや自転車こぎなどの有酸素運動と、個別に選んだ筋力トレーニング3種目(8〜10回×3セット)
量:中等度の有酸素運動を週150分、12週間、電話でのフォローつき
結果の解釈:この量は英国の身体活動の考え方に沿った設計です6

正直にお伝えすると、ギラン・バレー症候群のリハビリは、脳卒中のリハビリほど研究の蓄積がありません。「この方法が最も良い」と胸を張って言える段階ではないのが実情です。その一方で、多職種で関わったときに日常生活の自立度が前進したという報告は複数あり1,3、進め方を丁寧に組み立てる価値がある領域だとも考えています。
実施時に大切なのは、量を増やすことそのものではなく、「翌日に響かない範囲を探すこと」です。疲労の出方には個人差が大きく、同じメニューでも人によって受け止め方が異なります。似た構図は、進行性の神経の病気でも共通しており、運動量の考え方についてはALSの運動療法・リハビリについて解説した記事でも触れています。
2. 慢性期を対象とした試験では、強度の高いプログラムのほうが日常生活動作の指標で良い変化を示しました(効果の大きさは中等度〜小さめ)3
3. 疲労に対する運動療法は、質の高い比較試験で検証されていません2
4. 報告で用いられた量は「45〜60分・週3〜4回・12週間以上」に集まっていますが、最適量ではありません5
5. 進め方は個別に組み立てる必要があり、必ず主治医・リハビリ専門職と相談しながら決めてください
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
2. White CM, van Doorn PA, Garssen MP, Stockley RC. Interventions for fatigue in peripheral neuropathy. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2014;(12):CD008146. PMID: 25519471.
3. Khan F, Pallant JF, Amatya B, Ng L, Gorelik A, Brand C. Outcomes of high- and low-intensity rehabilitation programme for persons in chronic phase after Guillain-Barré syndrome: a randomized controlled trial. Journal of Rehabilitation Medicine. 2011;43(7):638-646. PMID: 21667009.
4. Shah N, Shrivastava M, Kumar S, Nagi RS. Supervised, individualised exercise reduces fatigue and improves strength and quality of life more than unsupervised home exercise in people with chronic Guillain-Barré syndrome: a randomised trial. Journal of Physiotherapy. 2022;68(2):123-129. PMID: 35396175.
5. De León-Muñoz A, Ávila-Gandía V, Andreu-Caravaca L. Impact of Physical Exercise Programs on Fatigue and Functional Capacity in People With Guillain-Barré Syndrome and Chronic Inflammatory Demyelinating Polyneuropathy: A Systematic Review. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation. 2026;107(5):1067-1078. PMID: 41038424.
6. White CM, Hadden RD, Robert-Lewis SF, McCrone PR, Petty JL. Observer blind randomised controlled trial of a tailored home exercise programme versus usual care in people with stable inflammatory immune mediated neuropathy. BMC Neurology. 2015;15:147. PMID: 26293925.
