
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脳卒中後のリハビリでは、「歩けるようになったか」だけでなく、「どのくらい安全に歩けるか」「屋外や買い物に行けるか」「杖を使った方がよいか」「転倒リスクがどの程度あるか」を分けて評価することが大切です。
歩行速度だけを見ても、生活で困る理由はわかりません。反対に、バランス点数だけを見ても、信号を渡る、駅の階段を使う、疲れてきた夕方に歩く、といった実際の場面までは判断しにくいことがあります。
この記事では、脳卒中後の下肢・歩行に対して臨床で参考にしやすい評価バッテリーと、転倒リスク、屋外歩行、公共交通機関利用、杖使用を検討するときの目安を整理します。カットオフは「合格・不合格」ではなく、リスクや生活範囲を考えるための目安として読んでください。
本記事は一般的な情報提供です。評価結果だけで診断や治療方針を決めるものではありません。転倒、急な麻痺の変化、息切れ、胸痛、強い痛み、意識の変化がある場合は、主治医や担当のリハビリ専門職へ相談してください。
脳卒中後の下肢評価で、最初にそろえたいのは、10m歩行、Timed Up and Go(TUG)、Berg Balance Scale(BBS)、6分間歩行、5回立ち上がり、Fugl-Meyer Assessment下肢項目、Functional Ambulation Category(FAC)、転倒歴・転倒恐怖の聞き取りです。成人神経疾患リハビリの臨床実践ガイドラインでも、BBS、Functional Gait Assessment(FGA)、10m歩行、6分間歩行、5回立ち上がりなどは、変化を追う評価として推奨されています。1
ただし、評価は点数を取るために行うものではありません。本人が「家の中を安全に歩きたい」のか、「近所のスーパーまで行きたい」のか、「電車で通院したい」のかによって、重視する指標は変わります。目標が違えば、同じTUG 15秒でも意味が変わります。
10m歩行は、一定距離を歩く速さを測る検査です。快適速度は普段の歩き、最大速度は余力を見ます。脳卒中後の地域歩行では、古くから0.4m/s未満を屋内歩行中心、0.4〜0.8m/sを制限つき地域歩行、0.8m/s以上を地域歩行の目安として使うことがあります。一方、実生活の歩数データを用いた研究では、0.49m/sと0.93m/sという別の境界値も報告されており、歩行速度だけで生活範囲を決めつけないことが重要です。2
TUGは、椅子から立ち上がり、3m歩き、方向転換して戻り、座るまでの時間を測ります。短い検査ですが、立ち上がり、歩き出し、方向転換、ブレーキ、座る動作が入るため、家の中の移動やトイレ動作に近い情報が得られます。地域歩行の識別では、TUG 14.77秒未満が一つの参考値として報告されています。3
BBSは立位保持、方向転換、物を拾うなど、基本的なバランスを評価します。地域歩行の識別ではBBS 46.5点超が参考値として報告されています。3 ただし、BBSは点数が高い人では天井効果が出やすく、屋外で人を避ける、頭を動かしながら歩く、段差をまたぐといった場面は十分に拾いきれません。その場合はFGAや二重課題歩行を組み合わせます。
6分間歩行は、6分間でどのくらい歩けるかを測ります。短い距離を歩けても、通院、買い物、駅構内の移動では数分以上歩き続ける力が必要です。実生活の歩行活動を予測する研究では、6分間歩行が地域歩行分類の重要な指標として示されています。2 また、地域歩行の識別では6MWT 318m超が参考値として報告されています。3
歩行が遅い理由は、麻痺、筋力低下、足関節の硬さ、膝折れ、股関節伸展不足、感覚障害、恐怖心、体力低下などさまざまです。FMA下肢は運動麻痺、足関節背屈筋力はつま先の引っかかり、5回立ち上がりは下肢筋力と移動の実用性を見ます。「どの数値を上げたいか」ではなく、「何が歩行を妨げているか」を言語化するために使います。
以下は、脳卒中後の歩行評価で臨床上よく参考にされる値です。対象者の時期、年齢、補助具、装具、測定環境、認知機能、疲労、転倒歴によって意味が変わるため、必ず複数の評価と生活場面を合わせて解釈します。
カットオフを1つだけ見て「屋外歩行は可能」「転倒しない」「杖はいらない」と判断するのは危険です。脳卒中後は、注意障害、感覚障害、半側空間無視、疲労、装具の適合、道路環境、家族の見守りなどが歩行の安全性に大きく影響します。
評価で大切なのは、低い点数を見つけることではなく、「何を変えれば生活が変わりそうか」を共有することです。たとえば歩行速度が0.55m/sでも、TUGが遅い理由が立ち上がりなのか、方向転換なのか、怖さで速度を落としているのかで、介入内容は変わります。
変化を見るときは、同じ条件で定期的に測ることも重要です。6分間歩行では、脳卒中後の研究で65〜71m程度、初期歩行速度が0.40m/s未満の方では34〜44m程度の変化が、臨床的に意味のある変化量として報告されています。6 もちろん個人差はありますが、「少し良くなった気がする」を数字で確認する助けになります。
脳卒中後の杖使用には、「この点数を下回ったら必ず杖」という万能なカットオフはありません。家の中では不要でも、屋外、坂道、混雑、夜間、疲労時には必要になる方もいます。逆に、杖を持つことで麻痺側への荷重が減りすぎたり、手の使い方が固定されたりする場合もあります。
そのため、杖は「使う・使わない」ではなく、「どの場面で、どの種類を、どの高さで、どの持ち方で使うか」を評価します。FAC、TUG、BBS、歩行速度、転倒歴、本人の不安、屋外環境、装具、靴を合わせて、本人が行きたい場所に合う方法を選びます。
Journey Rehabでは、脳卒中後の下肢・歩行に対して、「何を改善させたいのか」を本人と一緒に言葉にすることを大切にしています。歩行速度を上げたいのか、転倒を減らしたいのか、屋外に出たいのか、公共交通機関を使いたいのかによって、見るべき指標も介入の優先順位も変わるからです。
評価指標は、セラピストだけのものではありません。本人や家族と同じ数字を見ながら、「今回はTUGの方向転換が変わった」「6分間歩行は伸びたけれど、屋外ではまだ疲れやすい」「歩行速度は上がったが転倒恐怖が残っている」と共有できると、リハビリの意味が見えやすくなります。
逆に、定期的な評価指標をほとんど使わず、「なんとなく良くなった」「今日は調子がよさそう」といった主観だけで進める場合は注意が必要です。主観も大切ですが、それだけに頼ると、本人のなりたい姿に近づいているのか、転倒リスクが下がっているのか、屋外歩行に必要な体力がついているのかが曖昧になります。
脳卒中後の下肢・歩行評価では、10m歩行、TUG、BBS、FGA、6分間歩行、5回立ち上がり、FMA下肢、FAC、転倒歴、転倒恐怖、屋外環境を組み合わせることが重要です。歩行速度0.4m/s、0.8m/s、0.49m/s、0.93m/s、TUG 14.77秒、BBS 46.5点、6MWT 318mなどの値は参考になりますが、生活の安全性を単独で決めるものではありません。
本記事は、脳卒中後の下肢・歩行評価に関する一般的な情報提供を目的としています。個別の診断、治療、医療行為の推奨を行うものではありません。評価や運動内容、補助具の使用を検討する場合は、主治医や担当リハビリ専門職に相談し、身体状況やリスクを確認したうえで進めてください。研究情報は2026年6月7日時点で確認した内容です。

作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
十分とは言い切れません。10m歩行は重要ですが、TUG、BBS、FGA、6分間歩行、転倒歴、屋外環境を組み合わせると生活上の課題が見えやすくなります。
0.8m/s以上が地域歩行の目安としてよく使われます。ただし屋外では段差、信号、混雑、疲労も関係するため、速度だけで判断しません。
参考になりますが、単独では不十分です。転倒歴、転倒恐怖、注意機能、感覚障害、屋外環境、補助具、疲労の影響も合わせて確認します。
脳卒中後に特化した単一の確立したカットオフは限られます。駅までの距離、階段、乗降、混雑、荷物、疲労、緊急時対応を含めて確認します。
歩行速度だけでは決めません。転倒歴、ふらつく場面、本人の不安、屋外環境、装具や靴との相性を見て、必要な場面を専門職と確認します。
初回に広く評価し、その後は目的に応じて4〜12週ごとに同じ条件で測ると変化を追いやすくなります。転倒後や外出低下時は早めに見直します。
1. Moore JL, Potter K, Blankshain K, Kaplan SL, O'Dwyer LC, Sullivan JE. A Core Set of Outcome Measures for Adults With Neurologic Conditions Undergoing Rehabilitation: A Clinical Practice Guideline. J Neurol Phys Ther. 2018;42(3):174-220. PMID: 29901487. PMCID: PMC6023606. DOI: 10.1097/NPT.0000000000000229.
2. Fulk GD, He Y, Boyne P, Dunning K. Predicting Home and Community Walking Activity Poststroke. Stroke. 2017;48(2):406-411. PMID: 28057807. DOI: 10.1161/STROKEAHA.116.015309.
3. Lee G, An S, Lee Y, Park DS. Clinical measures as valid predictors and discriminators of the level of community ambulation of hemiparetic stroke survivors. J Phys Ther Sci. 2016;28(8):2184-2189. PMID: 27630394. PMCID: PMC5011558. DOI: 10.1589/jpts.28.2184.
4. Regan E, Middleton A, Stewart JC, Wilcox S, Pearson JL, Fritz S. The six-minute walk test as a fall risk screening tool in community programs for persons with stroke: a cross-sectional analysis. Top Stroke Rehabil. 2020;27(2):118-126. PMID: 31622172. PMCID: PMC7108500. DOI: 10.1080/10749357.2019.1667657.
5. Blum L, Korner-Bitensky N. Usefulness of the Berg Balance Scale in stroke rehabilitation: a systematic review. Phys Ther. 2008;88(5):559-566. PMID: 18292215. DOI: 10.2522/ptj.20070205.
6. Fulk GD, He Y. Minimal Clinically Important Difference of the 6-Minute Walk Test in People With Stroke. J Neurol Phys Ther. 2018;42(4):235-240. PMID: 30138230. DOI: 10.1097/NPT.0000000000000236.
