【脳卒中リハビリ】装具のメリット・デメリットと装具を外すための4つの基準を専門家が解説

装具とは?

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脳卒中(脳梗塞・脳出血)の後遺症により、失われた身体機能を補うために作られる「装具(短下肢装具など)」。これらは障害者総合支援法の補装具費支給制度(厚生労働省)にも該当する、リハビリの強力なサポーターです。

しかし、いざ使い始めると、多くの患者さんがこのような不安を抱かれます。

  • 「この重い装具、一生つけていないといけないの?」
  • 「いつになったら外せるの?」
  • 「リハビリのために、無理してでも外して歩いたほうがいい?」

結論から言うと、装具を外す判断基準は「期間(いつまで)」ではなく、「安全性と歩行の質」で決まります。

本記事では、『脳卒中治療ガイドライン』や最新の研究論文に基づき、装具の効果と、将来的に装具を卒業(オフ)できるかを確認する具体的なチェックリストを解説します。

※ 本記事は情報提供を目的としており、医師の診断や治療に代わるものではありません。装具の変更や中止は転倒リスクを伴うため、必ず主治医や担当療法士(PT)と相談の上、安全最優先で進めてください。

結論:装具は「期間」ではなく「機能」で外す

まず、最も気になる「いつ外せるのか」という疑問にお答えします。

装具を外すタイミングに、「発症から〇ヶ月」といった明確な期間の決まりはありません。重要なのは、装具なしでも安全かつスムーズに歩ける機能が備わっているかです。

ガイドラインでも「個別に判断すべき」とされていますが、臨床的には以下の4つが揃うまでは、無理に外す練習をするよりも、装具を併用して「正しい歩き方」を脳に学習させる方が、結果的に回復への近道となる場合が多いです。

  1. 歩行中に麻痺している足のつま先が十分に上がって踵から足をついて歩くことができること
  2. 足をついた際に、足が内反(内側にねじれる)せずに足の裏全体へ均等に体重が乗せられること
  3. 膝(膝折れや反張膝などの)の不安定感がなく歩くことができること
  4. 装具を外した状態でも、装具を装着した時と同等のスピードで歩くことができ、歩き方が乱れないこと

ガイドラインの基本方針(日本)

まずは、『脳卒中治療ガイドライン2021』では、脳卒中後の装具を用いたリハビリについての推奨を以下のように記されています。(推奨度B)

  • 脳卒中後片麻痺で内反尖足がある患者に対して、歩行機能を改善させるために短下肢装具を使用することは妥当である。
  • 痙縮(筋肉のこわばり)に対して、装具療法を行うことは妥当である。

※ガイドラインには推奨度がA〜Dまであり、Aは「行うよう強く勧められる」という複数の質の高い研究で有効性が一貫して示されているものをAに当たります。 今回、推奨度Bというものは「行うことは妥当である」というものとなります。ある程度の信頼できるエビデンスがあり、効果が期待できるがエビデンスの数や質がAほど十分ではないというものとなります。 ガイドラインはリハビリを行っていく上で専門職が率先して取り組む内容となります。

ただ、装具を装着することによって得られる効果は、個々の身体状況や生活環境によって大きく異なります。そのため、「全員が同じ装具」「同じタイミングで卒業」ということはなく、その人の状態に合わせて個別に選択していく必要があります。

このように近年では、脳卒中の治療や身体機能の補助として、装具を用いることが推奨されています。今回は、ガイドラインで示されている装具のメリット・デメリットに加え、科学的根拠のある論文をもとに、装具を外すための判断ポイントをわかりやすく紹介していきます。

装具の目的

装具の目的は大きく3つです。

  1. つま先の上がりをサポートし、つまずきを軽減する(NICE guideline.2023
  2. 膝折れや反張膝を軽減する(NICE guideline.2023
  3. バランスを安定させ、安心して立つ・歩くことを助けるJohnston TE,2021

つまり、装具をつけるということは、
「つま先の動き」や「立位・歩行時の安定性」を補う手段であると言えます。
装具は、言いかえると「安全に練習量を増やすためのサポーター」のような役割を持っています。

装具のメリット

具を装着することで装着しない人と比べて、以下の効果が報告されています。

  • 歩行速度の向上バランス機能の向上歩行の安定性が向上する(Choo YJ,2021
  • 歩行の介助量の軽減自立度が向上するDaryabor A,2022
  • 歩行中の歩幅の増大や、つま先の上がる角度が向上するJohnston TE,2021

このように、装具を装着することで、歩行に関する様々なパフォーマンスが向上したり、日常生活や屋外歩行などの活動範囲を広げるための一助となりうるものです。

しかし、これらは、すべての人がこのような効果を得られるわけではありません。

装具によって効果が得られる人と、得られにくい人がいるということです。
装具の効果が得られにくい場合には、装具の種類や設定、靴の選び方、歩行練習の内容を見直すことが重要です。

装具のデメリット

  • 合わない装具を使用することで、足首の動きや、適切な筋肉の活動を制限する場合もある
  • 破損衛生面身体機能の変化によって継続使用時に身体へのトラブルが生じる可能性がある。(小川 秀幸,2023

このように装具を装着することのメリットが多く示されている一方で、適切な装具を履かないことや、継続使用における身体機能へマイナスな影響にも繋がる可能性があります。

装具が特に必要になりやすいのは、次のような方です。

  • 麻痺している足のつま先が上がりにくく、よく引っかかる
  • かかとから足をつけられず、常につま先立ちに近い状態になってしまう
  • 立っているときに、つま先が曲がってしまう・足が内反(内側にねじれる)してしまう
  • 歩くときに膝がガクッと折れる、あるいは反張膝(膝が反り返る)が出てしまう

このような場合、装具を使うことで「転倒のリスクを減らしながら歩行練習の量を増やせる」可能性が高いと考えられます。

装具を外すための基準

これらをまとめると、装具を外すための4つの基準として、

  1. 歩行中に麻痺している足のつま先が十分に上がって踵から足をついて歩くことができること
  2. 足をついた際に、足が内反(内側にねじれる)せずに足の裏全体へ均等に体重が乗せられること
  3. 膝(膝折れや反張膝などの)の不安定感がなく歩くことができること
  4. 装具を外した状態でも、装具を装着した時と同等のスピードで歩くことができ、歩き方が乱れないこと

の全てに該当することで、装具の外して歩ける身体機能へ近づきます。

「今日から完全に装具なしで生活する」という自己判断は危険です。
まずは主治医の先生や担当のリハビリスタッフに相談して見てください。一番は歩きの動画や日常生活リハビリ室など安全な場所で専門職と一緒に確認し、問題がなければ屋内の短い距離から少しずつ広げていくのが安心です。
という場合には、その場で中止して必ず主治医やリハビリ職に相談してください。

まとめ

今回の記事のポイントを整理します。

  1. 装具は「治療ツール」ガイドラインでも推奨される、歩行機能を高めるための有効な手段です。「一生の拘束具」ではなく、機能を高めるためのパートナーと考えましょう。
  2. 外す基準は「安全性と質」「いつ(期間)」ではなく、「つま先・膝・足首が制御できているか(機能)」で判断します。装具を外すための基準が揃うまでは、装具を併用する方が安全かつ効率的です。
  3. 自己判断は禁物メリット・デメリットを理解し、自分の身体機能(内反や反張膝の有無など)に合わせて、必ず専門家と一緒に判断していきましょう。

装具は、できないことを補うだけの道具ではなく、「将来より良く歩くためのトレーニングマシーン」のようなものです。焦って外して不安定なまま歩くよりも、装具を使って「きれいなフォーム」でたくさん歩くことが、結果として装具卒業への一番の近道になることもあります。

まずは担当の療法士に「今の私の足の状態は、どこまでクリアできていますか?」と相談することから始めてみてください。

参考文献

厚生労働省. 補装具費支給制度の概要. 厚生労働省ウェブサイト.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/yogu/hosouguhisikyuuseido.html

Johnston TE, Keller S, Denzer-Weiler C, Brown L. A Clinical Practice Guideline for the Use of Ankle-Foot Orthoses and Functional Electrical Stimulation Post-Stroke. J Neurol Phys Ther. 2021 Apr 1;45(2):112-https://journals.lww.com/jnpt/fulltext/2021/04000/a_clinical_practice_guideline_for_the_use_of.6.aspx

Choo YJ, Chang MC. Effectiveness of an ankle-foot orthosis on walking in patients with stroke: a systematic review and meta-analysis. Sci Rep. 2021 Aug 5;11(1):15879.https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8342539/

Daryabor A, Kobayashi T, Yamamoto S, Lyons SM, Orendurff M, Akbarzadeh Baghban A. Effect of ankle-foot orthoses on functional outcome measurements in individuals with stroke: a systematic review and meta-analysis. Disabil Rehabil. 2022 Nov;44(22):6566-https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34482791/

National Institute for Health and Care Excellence. (2023). Stroke rehabilitation in adults (NICE guideline NG236). NICE. https://www.nice.org.uk/guidance/ng236/chapter/Recommendations

・日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会(改訂2025). 『脳卒中治療ガイドライン 2021〔改訂 2025〕』, 日本脳卒中学会, 2025年6月30日. https://www.jsts.gr.jp/img/guideline2021_kaitei2025_kaiteikoumoku.pdf

小川 秀幸, 西尾 尚倫, 高山 智絵, 中野 克己. 生活期脳卒中者の短下肢装具継続使用における使用状況とトラブル発生との関係. 日本義肢装具学会誌. 2023;39(1):68–75. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspo/39/1/39_68/_pdf/-char/ja

宮坂翔太, 須江慶太, 森泉秀太郎, 土屋隆道, 塩川清信, 荒深康司, 斎藤文樹. 脳卒中片麻痺者における油圧式底屈制動継手付き短下肢装具の再作製装具に関する後方視的観察研究. Journal of Assistive Technology in Physical Therapy. 2024;4(1):13–18. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jatpt/4/1/4_13/_pdf/-char/ja

執筆者情報

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株式会社Journey Rehab 代表|田

作業療法士(国家資格)/認定作業療法士(日本作業療法士協会)

東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士前期課程 在籍

▪️経歴

・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事

・2021年:自費訪問リハビリ分野に活動を広げ、2024年にフリーランスとして独立

・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県を中心に訪問型の自費リハビリを提供中

▪️ 研究活動

・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表

・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表

▪️論文執筆