
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「歩いているときに話しかけられると、足が止まってしまう」「考えごとをするとふらつく」——これは脳卒中後の方からよく聞かれるお悩みです。結論から正直にお伝えすると、歩く・立つなどの体の動きと、考える・話すなどの別の作業を同時に行う「二重課題(デュアルタスク)」の練習は、近年の研究で検討が進んでいます。この記事では、脳卒中後の二重課題トレーニングについて、研究で分かっていること、向いている人・注意したい人、取り組み方の目安を、患者さんとご家族に向けて整理します。

・複数の研究をまとめた解析では、二重課題トレーニングは歩行に関する指標・下肢の運動機能・認知機能・日常生活動作で良い傾向が報告されています1。
・一方で、単純な歩く速さ(10m歩行)や立ち座り・方向転換の素早さ(TUG)には、はっきりした差は確認されていません1。
・効果は3週間以上続けたグループで出やすく、運動と認知を別々に行う練習と比べて必ず優れているとは限らないと報告されています1,3。
二重課題(デュアルタスク)とは、二つの作業を同時に行うことです。リハビリでは、歩く・立つ・バランスを保つといった「体の作業」と、計算する・しりとりをする・話す・物を持つといった「考える/別の作業」を組み合わせて練習します。たとえば「歩きながら100から7ずつ引いていく」「コップを持って歩く」「会話をしながら方向転換する」などです。
私たちの日常生活は、こうした「ながら動作」であふれています。買い物をしながら歩く、信号を見ながら横断する、人と話しながら移動する——これらはすべて二重課題です。脳卒中の後は、一つひとつの動作はできても、同時に行うと動きが遅くなったり、止まったり、ふらついたりすることがあります。二重課題トレーニングは、こうした「同時に行う場面」に近い形で練習し、生活の中での動きやすさにつなげることをねらいとしています1。
結論から正直にお伝えすると、二重課題トレーニングは歩行に関する指標や下肢の運動機能、認知機能、日常生活動作では良い傾向が報告されていますが、「歩く速さそのもの」や「立ち座り・方向転換の素早さ」への影響ははっきりしていません。何を目的にするかで、期待できる変化が異なる点に注意が必要です。
歩行に絞った別の解析(7研究・124名)では、運動・歩行練習で二重課題のときの歩く速さがわずかに上がり(毎秒0.03m)、特に二重課題の練習を含む方法は、含まない方法より二重課題時の歩行速度を高めやすいと報告されています(毎秒0.08m、95%信頼区間0.02〜0.14)。ただし研究規模が小さく、生活上の意味の大きさははっきりしないとされています2。さらに26件のRCTをまとめた解析では、運動と認知を組み合わせた練習は「何もしない」より良い一方、運動だけの練習と比べて必ず優れているわけではないと整理されています3。運動に認知の練習を加える方法では、認知機能に小さな良い傾向(標準化平均差0.41)と、その持続も報告されています4。

研究で良い傾向が見えやすいのは、バランス評価で見た歩行の指標、下肢の運動機能、認知機能、日常生活動作です1。特に「二重課題のときの動きやすさ」は、二重課題に近い形で練習した方が変化が出やすいと報告されています2。実際の生活は「ながら動作」が多いため、この点は生活場面と相性が良いと考えられます。
一方で、単純な歩く速さ(10m歩行)や、立ち座り・方向転換の素早さ(TUG)には、はっきりした差が確認されていません1。また、二重課題の練習が、運動と認知を別々に行う練習より必ず優れているとは限らないと整理されており3、効果の大きさも中程度〜小さめで、研究によってばらつきがあります2,4。「二重課題そのものへの慣れ」と「あらゆる動作が速くなること」は別の課題として考えると分かりやすくなります。
ある程度歩ける方で、「話しかけられると足が止まる」「考えごとをするとふらつく」「人混みや屋外で歩きにくい」という方には、二重課題トレーニングは生活場面に近い練習として取り入れやすい方法です。研究では、発症から年数が経った方も含めて検討されています1。
研究では、二重課題トレーニングの効果は3週間以上続けたグループで出やすいと報告されています1。用いられた内容はさまざまですが、歩行やバランスの練習に、数を数える・しりとり・物を持つといった作業を組み合わせ、慣れてきたら課題の難しさを少しずつ上げていく形が一般的です。難しすぎてどちらかが大きく崩れる場合は、課題をやさしくして、安全に続けられる範囲に戻します。
これらはあくまで研究上の目安です。麻痺の程度、注意や記憶の状態、疲れやすさ、生活リズムによって、無理なく続けられる量や課題の種類は人それぞれ異なります。どんな「ながら動作」を目標にするか、どこまで難しくするかは、担当の専門職と一緒に決めて、安全を確認しながら調整していくことが大切です。

訓練では、安全を確保したうえで、トレッドミル歩行中にあえて会話を続けたり、簡単な計算課題を加えたりすることがあります。また、実際の屋外をセラピストと会話しながら歩き、周囲への注意、歩行の変化、危険場面への対応を確認します。評価結果に応じて課題の内容や難しさを調整し、その方の生活場面に近づけていくことを大切にしています。

修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
2. Plummer P, Iyigün G. Effects of Physical Exercise Interventions on Dual-Task Gait Speed Following Stroke: A Systematic Review and Meta-Analysis. Arch Phys Med Rehabil. 2018;99(12):2548-2560. DOI:10.1016/j.apmr.2018.04.009. PMID:29738743.
3. Embrechts E, McGuckian TB, Rogers JM, et al. Cognitive and Motor Therapy After Stroke Is Not Superior to Motor and Cognitive Therapy Alone to Improve Cognitive and Motor Outcomes: New Insights From a Meta-analysis. Arch Phys Med Rehabil. 2023;104(10):1720-1734. DOI:10.1016/j.apmr.2023.05.010. PMID:37295704.
4. Feng QM, Chen JW. Effects of exercise combined with cognitive dual-task training on cognitive function and sustained effects in stroke patients: a systematic review and meta-analysis. Disabil Rehabil. 2025;47(15):3787-3799. DOI:10.1080/09638288.2024.2435523. PMID:39641346.
