東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「病院で毎月、腕を動かす検査を受けて点数をつけられていました。あの数字は何を見ているのですか」「前回より3点上がったと言われましたが、実感はありません」。手や腕の評価について、ご本人やご家族からこうしたご質問をよくいただきます。
結論から正直にお伝えすると、脳卒中後の手・腕の状態を測る「ものさし」は世界的にある程度決まっており、どれを使うべきかは国際的な推奨としてまとまっています1。一方で、点数が何点変われば「本当に変わった」と言えるのかという肝心な部分は、指標ごとに幅があり、時期によっても変わります3。
この記事では、よく使われる指標が何を測っているのか、点数の読み方、そして数字だけでは分からないことを、研究の数字と一緒に整理します。
評価指標とは、決められた手順で動作を行っていただき、その結果を点数や時間に置き換える道具です。体温計や血圧計と同じで、「同じ人を同じ方法で測れば、担当者が変わってもだいたい同じ値になる」ことを目指して作られています。
脳卒中後の手・腕については、大きく3つの層に分けて考えると整理しやすくなります。国際的な推奨でも、この考え方が土台になっています1。
例:Fugl-Meyer Assessment 上肢版(FMA-UE)
特徴:物を使わず、動きの質そのものを見る
例:Action Research Arm Test(ARAT)、Wolf Motor Function Test(WMFT)、Box and Block Test(BBT)
特徴:積み木やコップなどの道具を使い、時間や成否で採点する
例:ABILHAND などのご本人記入式の質問票、腕につける動作センサー
特徴:「できる」と「している」のずれを見つけられる
この3層は別物です。層1が上がっても層3が変わらないことは珍しくありません。「検査ではできるのに家では使っていない」という状態は、リハビリの現場でしばしば経験するもので、背景には使わないくせが定着している場合もあります(脳卒中後の学習性不使用について解説した記事)。

ヨーロッパの研究グループは2021年、上肢の評価に関する推奨をまとめました(CAULIN)1。これは新しく研究を行ったものではなく、2004〜2014年の13件のシステマティックレビュー(53種類の指標を検討)、2007〜2017年の34件の臨床ガイドライン、そして208名の専門家によるデルファイ法(合意率69%以上を必要条件とした6ラウンド)を突き合わせて整理したものです1。
中核セット(臨床でも研究でも推奨)
・Fugl-Meyer Assessment 上肢版(FMA-UE)=体の働きの層
・Action Research Arm Test(ARAT)=できることの層
拡張セット(臨床または研究で推奨)
・動作解析(キネマティクス)、Box and Block Test、Chedoke Arm Hand Activity Inventory、Wolf Motor Function Test、Nine Hole Peg Test、ABILHAND
補足セット(研究や特定の場面で)
・Motricity Index、Chedoke-McMaster Stroke Assessment、STREAM、Frenchay Arm Test、Motor Assessment Scale、装着型の動作センサー
測るタイミングについても記載があります。全身の状態を見る指標は入院から24時間以内、上肢に特化した指標は1週間以内に実施し、その後もあらかじめ決めた間隔で、訓練を受けた担当者が測ることが推奨されています1。「気が向いたときに測る」のではなく、時期を決めて同じ方法で繰り返すことが前提になっている点が重要です。
アメリカの専門家パネルも、慢性期(発症6か月以降)を対象とした115件の臨床試験を検討し、上肢・下肢のFugl-Meyer Assessmentを主要な指標、WMFT・ARAT・10m歩行・6分間歩行・Stroke Impact Scaleを副次的な指標として挙げています4。国も年代も異なる2つの推奨で、FMAとARATが共通して挙がっている点は、選び方の目安になります。
実際の研究でどの指標が使われてきたかを調べたレビューがあります。2004年12月から2015年8月までの上肢に対する介入研究477件を集めたもので、最も多く使われていたのはFugl-Meyer Assessmentで36%、続いてMotor Activity Log、Wolf Motor Function Test、Action Research Arm Testがそれぞれ1割前後でした2。
点数:上肢運動項目は66点満点
位置づけ:中核セット。国際的にも研究でも最もよく使われる1,2
注意:22種類もの版が存在し、どの版を使ったかで結果が比較しにくくなることが指摘されています7
位置づけ:中核セット。「できることの層」の代表1
参考データ:28件の研究をまとめた検討では、同じ検者が繰り返し測ったときの一致度は0.71〜0.99と報告されています5
注意:つっぱり(痙縮)のある方についての根拠は限られ、検者間の一致度や測定誤差の検討には空白が残ります5
位置づけ:拡張セット。慢性期の研究でよく使われる1,4
参考データ:25件の研究・2,044名をまとめた解析では、同じ検者の一致度はFASで0.97、TIMEで0.99、別の検者どうしでもFASで0.92、TIMEで0.99でした3
下肢・歩行についても同じように、目的別に選ぶための指標がそろっています(脳卒中後の歩行評価指標について解説した記事)。上肢と下肢では見るべきものが違うため、両方を別々に測ることが一般的です。
ここが、ご本人にとって最も知りたい部分だと思います。測定にはどうしても誤差があるため、「点数が上がった=状態が変わった」とは限りません。判断の材料になるのが次の2つの考え方です。
使い方:この幅を超えていなければ、測り方のばらつきの範囲内かもしれない
使い方:統計的な差と、生活での手ごたえを分けて考えるための目安
一方、ご本人が意味を感じる差(MCID)は、FASで急性期1.0〜1.2点・慢性期0.33点、TIMEで急性期マイナス19.0秒・慢性期マイナス1.64秒と、時期によって10倍近い開きがありました。
また、この指標がARATと強く関連すること(相関0.86)や、2〜3週間の訓練期間で変化を捉えられること(効果量0.76)も示されています。
この数字が示しているのは、「何点変われば意味があるか」は一つに決まらないということです。慢性期では、ご本人が感じ取れる差が測定誤差の幅よりも小さくなる場合すらあります。つまり慢性期の小さな点数変化は、良い方向でも悪い方向でも、慎重に読む必要があります。
指標によって「変化の捉えやすさ」も違います。57名を対象に3週間のリハビリ前後で3つの指標を比べた研究では、FMA・ARAT・WMFTの動きの質は変化をよく捉えた一方、WMFTの所要時間は変化の捉え方が小さいという結果でした6。同じ人を測っていても、指標を変えれば見える景色は変わります。

評価指標の分野は、治療法の研究とは違う種類の弱点を抱えています。正直にお伝えします。
2. 動作解析(キネマティクス)は推奨に含まれていますが、機器が高価で入手しにくく、解析方法の標準化もされていないため、日常の臨床ではまだ広く使えません1
3. WMFTの測定特性を検討した解析では、確からしさの評価が「非常に低い」から「高い」まで大きくばらついていました。内容の妥当性は正式に検討されておらず、他言語版の妥当性の根拠は非常に乏しい状態です3
4. ARATについても、検者間の一致度、再検査の安定性、測定誤差、天井・床効果には根拠の空白が残ります5
5. アメリカの専門家パネルは、委員全員がアメリカ人であり、国際的な当てはめには限界があると自ら述べています4
2. ご本人が記入する質問票や、目標の達成度を測る方法については、国際推奨でも具体的な指針が不十分だと述べられています1
3. 生活の中で実際にどれだけ手を使っているかを測るセンサー類は、推奨に含まれてはいるものの、臨床での使い方が固まっていません1
4. Fugl-Meyer Assessmentには22種類もの版があり、どの版がどの場面に最適かの検討は途上です7
・つかむ・つまむといった課題が、検査の場面でできるかどうか1
・同じ方法で繰り返し測ったときの、時間的な移り変わり1
・しびれ・痛み・疲れやすさといった、点数に表れにくいつらさ
・ご本人が「大事にしたい動作」ができるようになったかどうか
・慢性期の小さな点数変化が本当の変化なのか、測定のばらつきなのか3
そのうえで、点数だけをお伝えすることはしていません。点数の変化には測定のばらつきが含まれること、慢性期では感じ取れる差が小さくなること3を、はじめにご説明します。あわせて「ご自宅のどの動作を、どのくらいの頻度で行いたいか」を必ずうかがい、検査の点数と生活での実感の両方を並べて確認していきます。
点数が動かない時期に、道具の使い方や動作の順序を変えることで生活側だけが変わることもあれば、その逆もあります。どちらか一方だけを見ていると判断を誤るため、両方を並べる形をとっています。
評価は、練習内容を決めるための出発点でもあります。何を目標にどの課題を反復するかという組み立て方については、こちらもあわせてご覧ください(課題指向型アプローチの進め方はこちら)。また、初期の評価から先の見通しを立てる研究も進んでいます(脳卒中後の手の麻痺の見通しについて解説した記事)。
2. 国際的な中核セットはFMA-UEとARAT。拡張セットにWMFTやBox and Block Testなどが入ります1
3. 研究で最も使われているのはFugl-Meyer Assessmentで、477件中36%でした2
4. 点数の変化は、測定誤差の幅とご本人が感じる差の両方から読む必要があります3
5. WMFTでは、ご本人が感じる差の目安が急性期と慢性期で10倍近く違いました3
6. 重症度や時期ごとにどの指標が最適かは、まだ十分に検証されていません2
7. 点数は成績表ではなく、工夫の場所を探すための材料です
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
2. Santisteban L, Térémetz M, Bleton JP, Baron JC, Maier MA, Lindberg PG. Upper Limb Outcome Measures Used in Stroke Rehabilitation Studies: A Systematic Literature Review. PLoS One. 2016. PMID: 27152853.
3. Pometti LS, Piscitelli D, Ugolini A, Ferrarello F, Notturni F, Coppari A, et al. Psychometric Properties of the Wolf Motor Function Test (WMFT) and Its Modified Versions: A Systematic Review With Meta-Analysis. Neurorehabilitation and Neural Repair. 2025. PMID: 40170349.
4. Bushnell C, Bettger JP, Cockroft KM, Cramer SC, Edelen MO, Hanley D, et al. Chronic Stroke Outcome Measures for Motor Function Intervention Trials: Expert Panel Recommendations. Circulation: Cardiovascular Quality and Outcomes. 2015. PMID: 26515205.
5. Pike S, Lannin NA, Wales K, Cusick A. A systematic review of the psychometric properties of the Action Research Arm Test in neurorehabilitation. Australian Occupational Therapy Journal. 2018. PMID: 30306610.
6. Hsieh YW, Wu CY, Lin KC, Chang YF, Chen CL, Liu JS. Responsiveness and validity of three outcome measures of motor function after stroke rehabilitation. Stroke. 2009. PMID: 19228851.
7. de Blas-Zamorano P, Montagut-Martínez P, Pérez-Cruzado D, Merchan-Baeza JA. Fugl-Meyer Assessment for upper extremity in stroke: A pyschometric systematic review. J Hand Ther (Journal of Hand Therapy). 2026. PMID: 40533328.
