東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「脳卒中のあと、もの忘れが増えた」「段取りよく物事を進められなくなった」。こうした認知機能の変化(脳卒中後認知障害)に対して、タブレットやパソコンを使ったトレーニングをすすめられることがあります。結論から先にお伝えします。コンピュータ支援認知トレーニング(Computerized Cognitive Training、以下CCT)は、全般的な認知機能・注意・遂行機能を改善するという報告が複数あります1,3。一方で、従来の紙と鉛筆を使った訓練と比べて明確に優れているとまでは言えないとする研究もあり2、記憶や日常生活動作への効果ははっきりしません1。この記事では、研究で分かっていることと分かっていないことを正直に整理します。
脳卒中後認知障害(PSCI)とは、脳卒中の後に、記憶・注意・遂行機能(段取りを立てて物事を進める力)・言語などの認知機能が低下する状態です。発症後6か月以内に生じやすいとされ、日常生活動作の自立や社会復帰に影響することがあります。
CCTは、タブレットやパソコンの専用ソフト(Rehacom、Lumositiaなど)を使って、注意・記憶・遂行機能といった特定の認知機能を反復的に練習する訓練方法です。紙と鉛筆を使う従来の認知訓練と比べて、難易度の自動調整、繰り返しの記録、在宅でも取り組みやすいといった特徴があります。脳卒中後の認知機能全般については脳卒中後認知障害(PSCI)について解説した記事もご覧ください。
2010年から2024年までのランダム化比較試験19件(合計875人)をまとめた解析では、CCTは通常ケアと比べて、全般的な認知機能(標準化平均差 0.46)、注意(同 −0.45)、遂行機能(同 0.39)、生活の質(同 0.34)を、いずれも統計的に有意に改善したと報告されました(中〜高い質のエビデンス)。さらに「短期間・高頻度の訓練のほうが、長期間・低頻度の訓練より効果的だった」という分析結果も示されています。一方、記憶・言語機能・運動機能への改善は限定的で、エビデンスの質も低い〜非常に低いとされています1。
CCT・rTMS(反復経頭蓋磁気刺激)・VR・エクサゲーミング・ニューロフィードバックという5種類の技術支援型介入を比較した14試験(673人)のネットワークメタアナリシスでは、MoCAスコアでは「基本治療+CCT+rTMSの組み合わせ」が最も有効な可能性が高いと評価され(有効性の順位付けの指標で84.1%)、MMSEスコアでは「基本治療+rTMS」が最も有効な可能性が高いと評価されました(同96.3%)。基本治療にCCT+VRを組み合わせた場合はMoCAスコアで平均5.70点の有意な上乗せ(95%信頼区間 0.12〜11.27)が示されています。ただし著者らは「試験数が少なく方法論的な質も低〜中程度であるため、結果は予備的なものとして解釈すべき」と注意を促しています2。
脳卒中後のワーキングメモリー(作業記憶)に対するCCTとtDCS(経頭蓋直流電気刺激)の効果を調べた9試験(461人)のメタアナリシスでは、CCTによって数字を逆順で覚える課題(Digit Span Backward)の成績が有意に改善し(95%信頼区間 0.10〜0.67)、視覚的な記憶課題(Visual Span Forward)も有意に改善しました(同 0.15〜0.69)。一方、数字を順番どおりに覚える課題(Digit Span Forward)には有意差がありませんでした。tDCSについては、解析に十分な研究数が集まりませんでした3。
2022年に発表された別のメタアナリシス(10試験・600人)では、CCTと従来の認知訓練を比べたところ、全般的な認知機能に統計的な有意差は見られませんでした(効果量 0.61、P=0.54)。著者らは「限られた研究数に基づく結果であり、CCTが従来法より明確に優れているとは言えない」と結論づけています4。一方、同じく2022年発表の17試験(622人)を対象にした別のメタアナリシスでは、CCTが全般的認知機能・作業記憶・注意・遂行機能を有意に改善したと報告されており、こちらは前述のJMIR誌の結果と近い方向性です。ただしこの研究でも「日常生活動作やうつ症状への効果を示す根拠は不十分」とされています5。同じテーマでも、対象とした研究の範囲や比較の仕方によって結果が変わりうることが分かります。
全体をまとめると、CCTは全般的な認知機能・注意・遂行機能・作業記憶の一部の側面で改善が報告される一方、記憶全体や日常生活動作、従来法との優劣については研究間で結果が一致していません1,2,3,4。
研究の質にはいくつか共通した限界があります。多くの試験で評価者や参加者の盲検化ができておらず、研究間の異質性(対象者・訓練ソフト・介入期間のばらつき)も高い傾向にあります1,2。2026年のネットワークメタアナリシスでは、14試験のうち高リスクの研究は少ないものの、85.7%が「バイアスのリスクに懸念あり」と評価されており、有害事象を報告した研究はわずか2件にとどまりました2。なお、注意障害へのコンピュータ支援訓練は2000年のコクランレビューの時点ですでに検討されており、当時見つかった研究はわずか2件(56人)で、覚醒度・持続的注意には一定の効果が示された一方、日常生活の自立度への効果は「支持する根拠も否定する根拠もない」とされていました6。20年以上を経て研究数は大きく増えましたが、日常生活動作への波及効果がはっきりしないという課題は、今回取り上げた最新の研究でも共通しています1。
1. どの人に最も向くのか。発症からの時期、認知障害の重症度、教育歴などによって効果に差が出る可能性が指摘されていますが、条件を分けた比較はまだ十分ではありません。
2. 最適な訓練ソフト・難易度設定。研究ごとに使われるソフトが異なり(Rehacom、Reh@City、Lumosityなど)、どの種類が最も効果的かは体系的に比較されていません。
3. 効果の持続期間。訓練終了後、どのくらいの期間、改善が維持されるかを長期に追跡した研究は限られます。
4. 従来の紙と鉛筆による訓練との優劣。研究によって結果が一致しておらず1,4、CCTが従来法に対して明確に優れているとまでは言えません。
研究全体では前向きな報告が多い一方、対象者の状態や訓練の方法、評価の仕方が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。数値は集団の平均的な変化であり、個人の結果を保証するものではありません。
・注意機能・遂行機能1
・作業記憶の一部(逆順で覚える課題、視覚的な記憶課題)3
・日常生活動作(ADL)への直接の波及1
・従来の紙と鉛筆による訓練との明確な優劣4
一般に、注意・遂行機能・作業記憶に困りごとがあり、タブレットなどの画面操作にある程度取り組める、在宅でも反復練習を継続しやすい環境がある、といった場合に検討されることが多い方法です。遂行機能への課題が中心の場合は脳卒中後の遂行機能障害について解説した記事も参考になります。
・強い疲労感や集中力の低下があり、長時間の画面作業がかえって負担になる
・訓練を続けても本人の困りごと(生活場面での段取りなど)に変化を感じられない
・機器の操作自体にストレスを感じ、意欲が下がっている
研究で報告される有害事象は多くありませんが、有害事象を丁寧に記録した研究自体が少なく、安全性が十分に確かめられているとは言えません2。訓練内容が本人にとって適切な難易度・興味の持てる内容かどうかは、続ける上で重要なポイントです。
研究で使われた訓練の頻度・期間や、他の技術との組み合わせ方から、実施を考える際のヒントが得られます。
・9試験の平均では、短期(6週間以内)と長期(6週間超)の両方が検討されていますが、統一されたプロトコルはありません1
・rTMSやVRとの組み合わせで上乗せ効果を示した分析もありますが、試験数が少なく予備的な結果です2
VR(バーチャルリアリティ)を使ったリハビリも、今回のネットワークメタアナリシスで比較対象の一つになっていました。VRリハビリ全般については脳卒中後のVRリハビリについて解説した記事もご覧ください。研究で使われる訓練用ソフトの多くは医療機関向けの専用システムであり、市販のゲームやアプリでそのまま同じ効果が得られるとは限りません。
CCTを検討するときは、画面上の得点だけでなく、①本人が困っている生活場面、②視覚・言語・注意などの特徴、③疲労や眼精疲労、④機器操作の負担、⑤練習した内容が生活へつながっているかを確認します。Journey Rehabでの個別の実績や結果を示すものではなく、一般的な専門職の確認視点です。
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
2. Wang Y, Liu H, Zhao JY, Yuan X, Zhang WQ, Guo YW, Wang FC, Yan B. Effectiveness of technology-assisted cognitive interventions for post-stroke cognitive impairment: a systematic review and meta-analysis. Systematic Reviews. 2026;15(1). PMID: 41578411/PMCID: PMC13036891. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC13036891/
3. Kazinczi C, Kocsis K, Boross K, Racsmány M, Klivényi P, Vécsei L, Must A. The effect of computerized cognitive training and transcranial direct current stimulation on working memory among post-stroke individuals: a systematic review with meta-analysis and meta-regression. BMC Neurology. 2024;24:339. PMID: 39232643/PMCID: PMC11373461. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11373461/
4. Ye M, Zhao B, Liu Z, Weng Y, Zhou L. Effectiveness of computer-based training on post-stroke cognitive rehabilitation: A systematic review and meta-analysis. Neuropsychological Rehabilitation. 2022;32(4):481-509. PMID: 33092475. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33092475/
5. Zhou Y, Feng H, Li G, Xu C, Wu Y, Li H. Efficacy of computerized cognitive training on improving cognitive functions of stroke patients: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. International Journal of Nursing Practice. 2022;28(3):e12966. PMID: 34036682. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34036682/
6. Lincoln NB, Majid MJ, Weyman N. Cognitive rehabilitation for attention deficits following stroke. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2000;(4):CD002842. PMID: 11034773. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11034773/
