脳卒中後のサーキットトレーニングとは?歩行・バランスへの効果を作業療法士が解説

· 脳卒中下肢関連情報
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
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脳卒中後のサーキットトレーニング(回路型運動)とは?研究で分かっていることと進め方

「いくつかの運動を順番に回って行うリハビリがあると聞いた」「歩く練習を増やしたいけれど、どんな方法が良いの?」——脳卒中後の歩行やバランスに対して、複数の運動課題を順番に回る「サーキットトレーニング(回路型運動/サーキットクラス)」が研究されています。この記事では、サーキットトレーニングについて、研究で分かっていること、向いている人・注意したい人、回数や期間の目安を、患者さんとご家族に向けて整理します。

複数の運動課題を順番に行うサーキットトレーニングの場面
サーキットトレーニングでは、立ち座り・段差・歩行などの課題を組み合わせて練習します。
この記事の要点
・サーキットトレーニングは、歩行やバランスに関わる複数の運動課題を順番に回り、練習量を増やす方法です。
・大規模なレビューでは、歩く距離(6分間で歩ける距離)や歩く速さで、良い傾向が中等度の根拠で報告されています1
・立ち上がりや方向転換の速さ(Timed Up and Go)でも良い傾向が示されています1
・一方で、ただ時間を増やすだけでは通常のケアと差が出なかった試験もあり、内容と進め方が大切です2
SECTION 01
サーキットトレーニングとは

サーキットトレーニング(回路型運動、サーキットクラス)は、歩行やバランスに関わる複数の運動課題を「ステーション」として用意し、それを順番に回りながら練習する方法です。たとえば、椅子からの立ち座り、障害物をまたぐ、段差を昇り降りする、距離を歩く、的に向かって足を運ぶ、といった課題を、一定時間ずつ繰り返していきます。

もともとは、グループ形式にすることで、スタッフの人数を大きく増やさずに一人ひとりの練習量を確保する狙いで広まりました。生活の中で必要な「立つ・歩く・向きを変える・またぐ」といった課題を、実際の動作に近い形で数多く繰り返せる点が特徴です。多くの研究では、すでにある程度歩ける方(介助なしで10m程度歩ける方)を対象にしています。

SECTION 02
研究で分かっていること

結論から正直にお伝えすると、サーキットトレーニングは、すでに歩ける方の「歩く距離」や「歩く速さ」で、比較的しっかりした根拠で良い傾向が報告されている方法です。ただし、これは「課題を絞って、十分な量を、適切に進めた場合」の話で、単に練習時間を増やせば良いというわけではない点には注意が必要です。

研究から読み取れること
17件の試験(1,297名)をまとめたコクランレビューでは、サーキットトレーニングは比較対象と比べて、6分間で歩ける距離(平均で約61m長い、95%信頼区間44.6〜77.2m、根拠の質:中等度)や、歩く速さ(平均で毎秒0.15m速い、95%信頼区間0.10〜0.19、中等度)で良い傾向を示しました1。立ち上がって歩いて戻る速さ(Timed Up and Go:平均で約3.6秒短い)や、移動の自立度でも良い傾向がみられ、これらは生活面でも意味のある差と評価されています。発症からの時期が経っていても良い傾向がみられた一方、練習中の転倒については、はっきりした差はないものの注意が必要とされています1

ただし、別の試験(CIRCIT、283名)では、サーキット形式で練習時間を大きく増やしても、4週間後の歩行距離は通常のケアと同等でした2。つまり「時間を増やすこと」自体が成果を保証するのではなく、課題の選び方や難易度の進め方が大切だと考えられます。
立ち座り、段差、方向転換、歩行課題を組み合わせた練習場面
課題は安全に配慮しながら、体力や歩行の状態に合わせて難易度を調整します。
SECTION 03
何が変わりやすく、何は変わりにくいか

研究で良い傾向が見えやすいのは、歩く距離・歩く速さ・移動の自立度といった「歩くこと」に関わる部分です1。これは、実際に歩く・立つ・またぐといった課題を数多く繰り返すという方法の性質と合っています。バランスの指標の一部でも良い傾向がみられました1

一方で、「練習時間を増やすこと」そのものが成果に直結するわけではありません2。同じ時間でも、本人の状態に合った課題を選び、少しずつ難易度を上げていく進め方が大切です。また、対象の多くがすでに歩ける方であり、ほとんど歩けない段階の方にそのまま当てはめられるわけではない点にも注意が必要です。

SECTION 04
どんな人に向いているか・注意したい人

すでにある程度歩ける方で、歩く距離や速さ、外出のしやすさをのばしたい方には、課題を数多く繰り返せる点で相性が良いことがあります。複数の課題を回るため飽きにくく、生活に近い動作を練習しやすいのも利点です。発症から時間が経っていても良い傾向がみられているため、慢性期の方でも取り組む価値があります1

⚠ 忘れたくない大切なこと
立ち座りや歩行、段差をともなう課題は、転倒のリスクと隣り合わせです。研究でも転倒には注意が必要とされています1。バランスが不安定な方、立ちくらみや不整脈・心臓の持病がある方、強い疲労が出やすい方は、課題の難易度や見守りの体制を必ず調整してください。手すりや介助の準備、無理のない課題設定が前提です。開始前には主治医・担当専門職に相談しましょう。
SECTION 05
回数・頻度・期間の目安

研究では設定がさまざまですが、多くは1回およそ60〜90分のセッションを週数回、数週間続ける形です1,2。複数の課題を順番に回ることで、限られた時間でも歩行やバランスに関する練習量を確保しやすくしています。大切なのは「ただ長くやる」ことではなく、課題を本人の状態に合わせて選び、休憩をはさみながら少しずつ負荷を上げていくことです2

これらはあくまで研究上の目安です。体力、疲れやすさ、転倒リスク、生活リズムによって、無理なく続けられる量は人それぞれ異なります。時間・課題・難易度は、担当の専門職と一緒に調整していくことが大切です。

SECTION 06
Journey Rehabでの現場経験
当施設での経験
下肢のリハビリにおいて、サーキットトレーニングはガイドラインでも取り上げられており、実際の臨床でも内容を切り取って訓練中に取り入れる場面は多いと感じています。たとえば、立ち座り、段差、方向転換、歩行などを組み合わせ、生活場面に近い形で反復することがあります。

ただし、全員に同じ内容を行えばよいというものではありません。歩行能力、バランス、体力、転倒リスク、生活上の困りごとを評価したうえで、その人に合った課題を選び、難易度を調整して実施する必要があります。サーキットという形式そのものよりも、「何を目的に、どの課題を、どの難しさで行うか」が大切だと考えています。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
歩行やバランスの練習、外出に向けた動作の進め方など、身体の状態を一緒に確認しながらリハビリの内容を考えます。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨ではありません。リハビリの内容は、主治医や担当専門職に相談しながら調整してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍

経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中

研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表

論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
FAQ
よくある質問
サーキットトレーニングをすればよく歩けるようになりますか?
保証はできませんが、すでに歩ける方では、歩く距離や速さで良い傾向が中等度の根拠で報告されています。ただし、課題の選び方や進め方が大切で、ただ時間を増やすだけでは差が出にくいとされています。
ほとんど歩けない段階でもできますか?
研究の多くは、すでにある程度歩ける方を対象にしています。歩行がまだ難しい段階では、別の方法から始めることが多いため、今の状態に合うかどうかは専門職に相談してください。
発症からだいぶ経っていても意味はありますか?
研究では、発症からの時期が経っていても良い傾向がみられています。慢性期の方でも取り組む価値はありますが、変化の出方は個別に異なります。
転倒が心配です。
立ち座りや段差をともなう課題は転倒のリスクがあります。手すりや見守り、課題の難易度の調整が前提です。バランスが不安定な方は、安全な環境で専門職とともに始めることをおすすめします。
家でも取り入れられますか?
立ち座りや段差昇降など、生活に近い課題を組み合わせれば、自宅でも考え方を取り入れられます。安全に行える課題と量を、担当の専門職と一緒に決めると安心です。
どれくらい続ければよいですか?
研究では1回60〜90分を週数回、数週間続ける形が多くみられます。ただし研究上の目安であり、続けやすい量は人によって異なるため、無理のない範囲で進めてください。
REFERENCES
参考文献
1. English C, Hillier SL, Lynch EA. Circuit class therapy for improving mobility after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2017;6:CD007513. DOI:10.1002/14651858.CD007513.pub3. PMID:28573757. PMCID:PMC6481475.
2. English C, Bernhardt J, Crotty M, Esterman A, Segal L, Hillier S. Circuit class therapy or seven-day week therapy for increasing rehabilitation intensity of therapy after stroke (CIRCIT): a randomized controlled trial. Int J Stroke. 2015;10(4):594-602. DOI:10.1111/ijs.12470. PMID:25790018.