
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「気持ちが落ち着かない」「ゆっくり体を動かす習慣をつくりたい」——脳卒中の後、体だけでなく心のこわばりに悩む方は少なくありません。こうした場面で研究されている方法のひとつが「ヨガ」です。呼吸に意識を向けながら、無理のない姿勢や動きをゆっくり行う方法で、リハビリに取り入れる試みが続いています。この記事では、脳卒中後のヨガについて、研究で分かっていること、向いている人・注意したい人、進め方の目安を、患者さんとご家族に向けて整理します。

・脳卒中後のヨガを直接調べた研究はまだ少なく、効果を確かめるにも否定するにも情報が足りないとされています1。
・気持ちの面(不安)で良い傾向を示した報告があり、ゆっくり動く運動(太極拳・気功などを含む)はバランスで良い傾向が報告されています1,2。
・一方で、生活動作や歩行など多くの指標でははっきりした効果が確認されておらず、根拠の質はとても低いとされています1。
・重い有害事象の報告はありませんが、姿勢の調整や見守りなど安全への配慮が前提です1。
ヨガは、呼吸に意識を向けながら、さまざまな姿勢(ポーズ)や動きをゆっくり行う方法です。脳卒中後のリハビリでは、立って行う本格的なものよりも、椅子に座って行う形や、できる範囲に動きをやさしく調整した形で取り入れられることが多くあります。体をのばす・ゆっくり動かす・呼吸を整えるといった要素を通じて、体の状態と心の落ち着きの両面にはたらきかけることをねらっています。
ヨガは、太極拳(タイチー)や気功と同じように、ゆっくりとした動きと呼吸・意識を組み合わせる「心と体の運動(マインド・ボディ・ムーブメント)」のひとつに位置づけられます2。脳卒中後のヨガそのものを調べた研究はまだ数が少なく、これから検証が進んでいく段階の方法です1。
結論から正直にお伝えすると、脳卒中後のヨガは、効果を確かめるにも否定するにも、まだ情報が足りないというのが現時点での研究のまとめです。気持ちの面などで良い傾向を示した報告はありますが、根拠の質はとても低く、結果の解釈には注意が必要です。
もう少し広く、ヨガ・太極拳・気功などのゆっくり動く運動をまとめた18件(1189名)の解析では、バランスの指標で良い傾向(効果量Hedge's g 1.59)が報告されています。ただし研究間のばらつきが非常に大きく、欧米で行われた試験では良い結果が出ていないなど、解釈には注意が必要とされています2。

研究で良い傾向が見えやすいのは、気持ちの面(不安)や、ゆっくり動く運動全体としてのバランスの指標です1,2。呼吸を整えながら、無理のない範囲で体を動かし続けるという性質と関わっていると考えられます。日々の運動習慣のきっかけや、リラックスして取り組める時間として価値を感じる方もいます。
一方で、歩行、運動機能、筋力、痛み、生活の質の多くの項目では、はっきりした効果は確認されていません1。脳卒中後のヨガを直接調べた研究はまだ少なく、研究間のばらつきも大きいため、すべての方に同じ結果が当てはまるとは限りません。手足の麻痺そのものを大きく変えることを期待する方法というより、心身を落ち着けて体を動かす習慣づくりの一部として捉えるのが、現時点では現実的です。
気持ちが落ち着かない、緊張しやすい、ゆっくりした運動を生活に取り入れたい、という方には、椅子に座って行うヨガなどが取り組みやすいことがあります。激しい運動が難しい方でも、できる範囲に調整しながら始めやすい点も特徴です。グループや動画などで楽しみながら続けられる場合、運動の習慣づくりの入り口になることもあります1,2。
研究では設定がさまざまですが、多くは週1〜数回のセッションを数週間続ける形で行われています1。1回の時間や行うポーズの数も研究によって異なり、「この回数が最適」と一律に言える段階ではありません。大切なのは、長く頑張ることよりも、痛みやふらつきのない範囲で、呼吸を止めずにゆっくり続けることです。
これらはあくまで研究上の目安です。ヨガは、手足の麻痺に直接はたらきかける中心的なリハビリというより、いま行っている練習に加える、心身を落ち着ける習慣のひとつとして捉えるとよいでしょう。どのポーズを、どの程度の頻度で行うかは、体の状態に合わせて担当の専門職と一緒に調整していくことが大切です。

修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
2. Zou L, Yeung A, Li C, et al. Effects of Mind-Body Movements on Balance Function in Stroke Survivors: A Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Int J Environ Res Public Health. 2018;15(6):1292. DOI:10.3390/ijerph15061292. PMID:29925770. PMCID:PMC6025433.
3. Thayabaranathan T, Andrew NE, Immink MA, et al. Determining the potential benefits of yoga in chronic stroke care: a systematic review and meta-analysis. Top Stroke Rehabil. 2017;24(4):279-287. DOI:10.1080/10749357.2016.1277481. PMID:28100160.
4. Dong J, Chi J, Wang D. Effects of mind-body exercise on physical ability, mental health and quality of life in stroke patients: a systematic review and meta-analysis. Front Public Health. 2024;12:1432510. DOI:10.3389/fpubh.2024.1432510. PMID:39758196. PMCID:PMC11697286.
