脳卒中後のインソール(足底挿板)とは?バランス・歩行への研究と限界を正直に解説

· 脳卒中下肢関連情報
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脳卒中後のインソール(足底挿板)とは?バランス・歩行への研究と限界を正直に解説

「靴の中敷きを変えるだけで、歩き方は変わるのでしょうか」。これは、麻痺のある足が地面をとらえにくい、体重が健側にばかり乗ってしまう、という悩みをお持ちの方からよく出る質問です。市販のインソールから、専門店で作る足底挿板まで選択肢が広く、どこから考えればよいのか迷いやすい領域でもあります。

結論から言うと、インソールや足の裏への感覚刺激は、歩行やバランスの指標が良い方向に動いたという報告が複数あります。ただし研究の規模は小さく、結果のばらつきも大きいため、「誰にでも同じように起こること」とは言えません。この記事では、数字と限界の両方を正直に整理します。

SECTION 01
インソール(足底挿板)とは?足の裏の感覚とバランスの関係

インソール(足底挿板)とは、靴の中に入れて足の裏を支えたり、刺激を入れたりする中敷きのことです。リハビリの文脈では、大きく分けて次の3つの考え方があります。

1. 形で支えるタイプ(足底挿板・カスタムインソール)
土踏まずの形や高さに合わせて足の形を支え、足のアライメント(並び方)を整えることをねらいます。
2. 感覚を入れるタイプ(テクスチャードインソール)
表面に細かい凹凸をつけ、足の裏の感覚受容器に刺激が届きやすくすることをねらいます。研究では、中心から中心までおよそ2mm間隔の小さなピラミッド状の突起を持つ3mm厚のものが使われています3
3. 体重の乗せ方を変えるタイプ(片側だけ厚みをつける方法)
麻痺していない側の靴に厚みを足すことで、麻痺側へ体重が乗りやすい状況をつくる方法です。研究では「強制的な体重移動」という呼び方で扱われています2

脳卒中のあとは、麻痺そのものだけでなく、足の裏の感覚がにぶくなることでバランスがとりづらくなる方がいます。感覚がどのようにバランスと結びついているかについては、脳卒中後の感覚障害と感覚再教育について解説した記事もあわせてご覧ください。

脳卒中後の方とリハビリ専門職が靴とインソールを確認する場面
インソールだけでなく、靴のサイズや当たり方も合わせて確認します。
SECTION 02
研究で分かっていること
システマティックレビュー・メタアナリシス 2024年

脳卒中後の方に対する「足の裏への感覚刺激」を検証した8件のランダム化比較試験(計215名)をまとめた解析です。下肢の運動機能では全体として標準化平均差0.75(95%信頼区間0.23〜1.28、異質性I²=59%)でした。刺激の種類ごとに見ると、テクスチャードインソールは0.58(0.24〜0.92、I²=0%)と中等度、足底への振動刺激は2.03(1.13〜2.94)と大きな値でした。歩行に関しては全体で1.38(0.42〜2.33、I²=85%)でしたが、テクスチャードインソール単独では0.50(−0.07〜1.06)で統計的に有意ではありませんでした。1

Ahmad AA ほか. PLOS ONE, 2024年

ここは丁寧に読む必要があります。「足の裏への刺激」とひとくくりにすると良い数字に見えますが、内訳を見ると、大きな値を出しているのは振動刺激や認知感覚運動トレーニング(歩行で2.85、1.69〜4.02)であり、インソールそのものの数字はもっと控えめです1。しかも振動刺激と認知感覚運動トレーニングは、それぞれ1件の研究にもとづく値です。

別のシステマティックレビュー・メタアナリシス(15研究・計448名、対象の多くは発症から6か月以上)では、麻痺していない側に厚みをつけて体重移動を促す方法について、歩行速度で標準化平均差0.67(0.31〜1.02)、歩数のリズム(ケイデンス)で0.67(0.16〜1.18)、一歩の長さ(ストライド長)で1.11(0.57〜1.65)と報告されています。左右への体重のかかり方の対称性は0.82(0.25〜1.39)、バランス指標であるBerg Balance Scaleは長期評価で1.19(0.19〜2.20)でした。一方で、ステップ長(0.48、−0.37〜1.33)、バランスへの自信(0.44、−0.15〜1.04)、感覚運動機能(0.36、−0.39〜1.11)では有意な差は示されていません2

ランダム化比較試験 2018年

地域で暮らす65歳以上の高齢者100名(解析91名)を、平らなインソール群(27名)、凹凸のあるテクスチャードインソール群(33名)、インソールなしの対照群(31名)に分けた試験です。普段の靴に入れて1日およそ6時間、4週間で約26日間装着しました。Berg Balance ScaleとTimed Up and Goは、どちらのインソール群でも良い方向に変化しましたが(p<0.0001)、対照群では変化しませんでした(p=0.14/p=0.64)。平らなインソールとテクスチャードインソールのあいだに差はありませんでした3

de Morais Barbosa C ほか. Clinical Interventions in Aging, 2018年(対象は脳卒中後の方ではなく地域高齢者)

この研究は脳卒中の方が対象ではありませんが、「凹凸そのものより、靴の中に何かを入れて足元の条件が変わること自体が効いている可能性」を示しており、インソール選びを考えるうえで重要な視点です。

脳卒中後の方を対象にした新しい研究としては、3Dプリンターで作ったカスタムインソールの試験があります。慢性期で自力歩行が可能な20名(各群10名)を、インソール装着(1日6時間以上、実際の装着は平均7.2±1.1時間)+標準的なリハビリと、標準的なリハビリのみに分け、6週間比較しました。内側縦アーチの角度には群間差6.10度(p=0.03)が示された一方、Timed Up and Goには有意な変化がありませんでした。有害な出来事や脱落はゼロでしたが、著者ら自身が「仮説を立てるための研究であり、決定的な結論ではない」と述べており、検出力の計算も行われていません4

SECTION 03
エビデンスの質と限界/まだ分かっていないこと
エビデンスの質と限界
・8件のランダム化比較試験を集めても、合計215名という小さな規模です1
・バイアスのリスク評価(RoB2)では、すべての領域で一貫して低リスクだったのは1研究のみでした。8件中7件が「意図した介入からの逸脱」で高リスク、5件が「アウトカムの測定」で高リスクと判定されています1。インソールは見た目で分かるため、参加者や評価者を盲検化しにくいという構造的な問題があります。
・研究間のばらつき(異質性)が大きく、下肢運動機能でI²=65%、歩行でI²=85%と報告されています1
・刺激の種類ごとの解析は、多くが1研究のみにもとづいています1
・英語以外の言語で発表された研究は除外されています1
・高齢者を対象とした試験では、プラセボ(見かけ上の変化)による影響を切り分けられないこと、履いていた靴の条件をそろえていないことが限界として挙げられています3
・脳卒中後の3Dプリントインソール試験は20名の小規模で、検出力の計算がなく、6週間という期間が短すぎた可能性も指摘されています4
まだ分かっていないこと
・どのタイプのインソールが、どのような方に最も合うのかは確立していません。凹凸のあるものと平らなもので差が出なかった報告もあります3
・1日何時間、何週間装着するのが適切かという目安は定まっていません。研究では1日1時間から6時間以上まで幅があります1,3,4
・バランス指標の変化が、実際の転倒の減少につながるかどうかは確かめられていません3
・インソールを外したあとに変化が続くのか、それとも履いているあいだだけの現象なのかは、はっきりしていません。
・感覚障害の程度、麻痺の重さ、発症からの期間による違いは十分に検証されていません。
・使用をやめた場合の長期的な影響についてのデータもありません。

まとめると、「歩行速度や体重の乗り方といった数値が動いた」という報告はある一方で、「日常生活での転ばなさにつながるか」という一番知りたい部分は、まだ答えが出ていません。バランス練習そのものの考え方については、脳卒中後のバランス訓練について解説した記事で詳しく整理しています。

SECTION 04
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
数値の変化が報告されているもの
歩行速度、歩数のリズム、一歩の長さ、左右の体重のかけ方の対称性2、下肢の運動機能の指標1、バランスの検査値2,3
はっきりした差が示されていないもの
ステップ長、バランスへの自信、感覚運動機能2、テクスチャードインソール単独での歩行指標1、Timed Up and Go(3Dプリントインソール試験)4
検証されていないもの
実際の転倒回数、長期にわたる生活動作の変化、装着をやめたあとの経過。
靴を履いた状態で立位バランスを安全に確認する場面
装着前後は、足元だけでなく立位や体重の乗り方も確認します。
SECTION 05
どんな方に向いているか

研究に参加していた方の条件から見ると、次のような状況の方は検討の対象になりやすいと考えられます。

1. 装具がなくても自力で歩ける状態の方4
2. 麻痺側に体重が乗りにくく、左右差が目立つ方2
3. 足の裏の感覚がにぶく、足元の情報が入りにくいと感じている方1
4. すでにリハビリを行っており、そこに足元の条件を加えて確認していきたい方1,4
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと
インソールを入れると靴の中が狭くなり、かえって不安定になったり、足に当たって皮膚を傷めたりすることがあります。とくに感覚がにぶい方は、痛みに気づきにくいため注意が必要です。糖尿病がある方、足に傷や変形がある方は、必ず主治医に相談してから使ってください。また、短下肢装具を使っている方は、装具との相性があるため、担当のリハビリ専門職や義肢装具士に確認してください。使い始めたら、はじめの数日は短時間から様子を見ることをおすすめします。
SECTION 06
装着時間・期間の目安

「これが最適」と言える量は決まっていません。研究で実際に行われていた内容を紹介します。

研究で用いられた内容 A:テクスチャードインソール(脳卒中)
量:1回30〜60分、週3〜5回、6週間
結果の解釈:下肢運動機能で中等度の値(標準化平均差0.58)が示されましたが、歩行指標では有意差がありませんでした1
研究で用いられた内容 B:カスタムインソール(脳卒中)
量:1日6時間以上の装着(実際は平均7.2時間)、6週間、標準的リハビリ(30分×週5回)と併用
結果の解釈:足のアライメントの一部に群間差が出ましたが、Timed Up and Goは変化しませんでした4
研究で用いられた内容 C:日常靴への装着(地域高齢者)
量:1日およそ6時間、4週間で約26日
結果の解釈:バランス指標が良い方向に動きましたが、凹凸の有無による差はありませんでした3

なお、足元の条件を整えることは、転びにくい環境づくりの一部にすぎません。全体像については脳卒中後の転倒への対応について解説した記事もご参照ください。

インソール装着後の歩行をリハビリ専門職が確認する場面
歩きやすさの感覚と実際の歩行の両方を、安全な環境で確かめます。
SECTION 07
研究と安全面のまとめ

正直にお伝えすると、インソールは「これを入れれば歩き方が変わる」という単純な道具ではありません。研究の数字を見ても、大きな値を出しているのは振動刺激など別の手段であり、インソールそのものは控えめな結果です1。凹凸のあるタイプと平らなタイプで差が出なかった報告もあります3

一方で、靴と足元の条件は、毎日の歩行に関わる要素です。実施時はインソール単体で判断せず、靴のサイズ、装具との関係、歩く場面と距離を合わせて確認します。合わないものを長時間履くと足を痛める場合もあるため、皮膚と歩行の変化を確認しながら調整することが欠かせません。

この記事のまとめ
1. 足の裏への感覚刺激全体では、下肢運動機能と歩行の指標に良い方向の値が報告されています1
2. ただしインソール単独の値は控えめで、テクスチャードインソールの歩行指標では有意差がありませんでした1
3. 麻痺していない側に厚みをつける方法では、歩行速度や体重のかけ方の対称性に差が示されています2
4. 高齢者の試験では、凹凸の有無で差がなく、靴の中の条件が変わること自体の関与が考えられます3
5. 実際の転倒が減るかどうかは確かめられておらず、足の状態によっては注意が必要です。使用の可否は専門職にご相談ください
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。実施の可否や内容については、必ず担当の医師・リハビリテーション専門職にご相談ください。掲載している研究データは執筆時点のものであり、今後の研究によって解釈が変わる可能性があります。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
歩行や足元の状態を一緒に確認しながら、リハビリの進め方を考えます。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
FAQ
よくある質問
Q. 市販のインソールでも意味はありますか?
A. 高齢者を対象とした試験では、平らなインソールと凹凸のあるインソールで結果に差がありませんでした3。この結果からは、高価なものでなければならないとは言い切れません。ただし脳卒中後の方を対象とした比較研究は少ないため、足の状態に合うかどうかを専門職に確認したうえで選んでください。
Q. 短下肢装具を使っています。インソールも一緒に使えますか?
A. 装具の内部は形と厚みが計算されているため、中敷きを足すと合わなくなることがあります。3Dプリントインソールの試験でも、対象は装具を必要としない方に限られていました4。装具を使っている方は、担当の義肢装具士やリハビリ専門職にご相談ください。
Q. どのくらいの期間で変化が分かりますか?
A. 研究で使われた期間は4〜6週間が中心です1,3,4。ただしこれは変化を測るために設定された期間であり、この期間で必ず何かが起こるという意味ではありません。個人差が大きい部分です。
Q. インソールを入れると転ばなくなりますか?
A. バランスの検査値が動いたという報告はありますが、実際の転倒回数が減るかどうかは確かめられていません3。転倒には環境や体調など多くの要因が関わるため、インソールだけで判断しないでください。
Q. 足の裏がしびれていますが、凹凸のあるインソールを使ってよいですか?
A. 感覚がにぶいと、当たっている痛みや皮膚の傷に気づきにくくなります。とくに糖尿病がある方は注意が必要です。使用する場合も短時間から始め、毎回足の裏の状態を目で見て確かめてください。判断に迷う場合は主治医にご相談ください。
Q. 麻痺していない側の靴を厚くする方法は自分で試せますか?
A. 研究では、監督のもとで一定の条件を決めて行われています2。自己判断で高さを変えると、左右の脚の長さの差が生まれて腰や膝に負担がかかる可能性があります。試す場合は必ずリハビリ専門職と一緒に進めてください。
Q. 一日中つけていたほうがよいのでしょうか?
A. 研究では1日1時間程度から6時間以上までさまざまです1,3,4。最適な時間は分かっていません。皮膚の状態と疲れ方を見ながら、無理のない範囲で調整することが現実的です。
運営主体・利益相反について
本記事は、自費リハビリサービスを運営する株式会社Journey Rehabが作成しています。記事内には当社サービスの案内を含みますが、文献の選定と研究結果の記載では利益だけを強調せず、統計的に差が示されなかった結果、研究の限界、安全上の注意も併記しています。外部医師による監修記事ではありません。最終更新:2026年7月31日。
REFERENCES
参考文献
1. Ahmad AA, Suriyaamarit D, Siriphorn A. Plantar sensory stimulation and its impact on gait and lower limb motor function in individuals with stroke: A systematic review and meta-analysis. PLOS ONE. 2024;19(12):e0315097. PMID: 39642144.

2. Hozein M, Mortada H, Hamed M, Abdelhaleem N, Elshennawy S. Effect of insole on postural control and gait of stroke patients: a systematic review and meta-analysis. Int J Rehabil Res. 2024;47(3):137-146. PMID: 38881488.

3. de Morais Barbosa C, Bértolo MB, Gaino JZ, Davitt M, Sachetto Z, de Paiva Magalhães E. The effect of flat and textured insoles on the balance of primary care elderly people: a randomized controlled clinical trial. Clinical Interventions in Aging. 2018;13:277-284. PMID: 29497286.

4. Kim J, Anwar G, Kim M. Effects of custom-made 3D-printed insoles on foot and body alignment in stroke survivors: an exploratory pilot randomized controlled trial. PeerJ. 2026;14:e21533. PMID: 42465975.