東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「靴の中敷きを変えるだけで、歩き方は変わるのでしょうか」。これは、麻痺のある足が地面をとらえにくい、体重が健側にばかり乗ってしまう、という悩みをお持ちの方からよく出る質問です。市販のインソールから、専門店で作る足底挿板まで選択肢が広く、どこから考えればよいのか迷いやすい領域でもあります。
結論から言うと、インソールや足の裏への感覚刺激は、歩行やバランスの指標が良い方向に動いたという報告が複数あります。ただし研究の規模は小さく、結果のばらつきも大きいため、「誰にでも同じように起こること」とは言えません。この記事では、数字と限界の両方を正直に整理します。
インソール(足底挿板)とは、靴の中に入れて足の裏を支えたり、刺激を入れたりする中敷きのことです。リハビリの文脈では、大きく分けて次の3つの考え方があります。
脳卒中のあとは、麻痺そのものだけでなく、足の裏の感覚がにぶくなることでバランスがとりづらくなる方がいます。感覚がどのようにバランスと結びついているかについては、脳卒中後の感覚障害と感覚再教育について解説した記事もあわせてご覧ください。

脳卒中後の方に対する「足の裏への感覚刺激」を検証した8件のランダム化比較試験(計215名)をまとめた解析です。下肢の運動機能では全体として標準化平均差0.75(95%信頼区間0.23〜1.28、異質性I²=59%)でした。刺激の種類ごとに見ると、テクスチャードインソールは0.58(0.24〜0.92、I²=0%)と中等度、足底への振動刺激は2.03(1.13〜2.94)と大きな値でした。歩行に関しては全体で1.38(0.42〜2.33、I²=85%)でしたが、テクスチャードインソール単独では0.50(−0.07〜1.06)で統計的に有意ではありませんでした。1
ここは丁寧に読む必要があります。「足の裏への刺激」とひとくくりにすると良い数字に見えますが、内訳を見ると、大きな値を出しているのは振動刺激や認知感覚運動トレーニング(歩行で2.85、1.69〜4.02)であり、インソールそのものの数字はもっと控えめです1。しかも振動刺激と認知感覚運動トレーニングは、それぞれ1件の研究にもとづく値です。
別のシステマティックレビュー・メタアナリシス(15研究・計448名、対象の多くは発症から6か月以上)では、麻痺していない側に厚みをつけて体重移動を促す方法について、歩行速度で標準化平均差0.67(0.31〜1.02)、歩数のリズム(ケイデンス)で0.67(0.16〜1.18)、一歩の長さ(ストライド長)で1.11(0.57〜1.65)と報告されています。左右への体重のかかり方の対称性は0.82(0.25〜1.39)、バランス指標であるBerg Balance Scaleは長期評価で1.19(0.19〜2.20)でした。一方で、ステップ長(0.48、−0.37〜1.33)、バランスへの自信(0.44、−0.15〜1.04)、感覚運動機能(0.36、−0.39〜1.11)では有意な差は示されていません2。
地域で暮らす65歳以上の高齢者100名(解析91名)を、平らなインソール群(27名)、凹凸のあるテクスチャードインソール群(33名)、インソールなしの対照群(31名)に分けた試験です。普段の靴に入れて1日およそ6時間、4週間で約26日間装着しました。Berg Balance ScaleとTimed Up and Goは、どちらのインソール群でも良い方向に変化しましたが(p<0.0001)、対照群では変化しませんでした(p=0.14/p=0.64)。平らなインソールとテクスチャードインソールのあいだに差はありませんでした。3
この研究は脳卒中の方が対象ではありませんが、「凹凸そのものより、靴の中に何かを入れて足元の条件が変わること自体が効いている可能性」を示しており、インソール選びを考えるうえで重要な視点です。
脳卒中後の方を対象にした新しい研究としては、3Dプリンターで作ったカスタムインソールの試験があります。慢性期で自力歩行が可能な20名(各群10名)を、インソール装着(1日6時間以上、実際の装着は平均7.2±1.1時間)+標準的なリハビリと、標準的なリハビリのみに分け、6週間比較しました。内側縦アーチの角度には群間差6.10度(p=0.03)が示された一方、Timed Up and Goには有意な変化がありませんでした。有害な出来事や脱落はゼロでしたが、著者ら自身が「仮説を立てるための研究であり、決定的な結論ではない」と述べており、検出力の計算も行われていません4。
・バイアスのリスク評価(RoB2)では、すべての領域で一貫して低リスクだったのは1研究のみでした。8件中7件が「意図した介入からの逸脱」で高リスク、5件が「アウトカムの測定」で高リスクと判定されています1。インソールは見た目で分かるため、参加者や評価者を盲検化しにくいという構造的な問題があります。
・研究間のばらつき(異質性)が大きく、下肢運動機能でI²=65%、歩行でI²=85%と報告されています1。
・刺激の種類ごとの解析は、多くが1研究のみにもとづいています1。
・英語以外の言語で発表された研究は除外されています1。
・高齢者を対象とした試験では、プラセボ(見かけ上の変化)による影響を切り分けられないこと、履いていた靴の条件をそろえていないことが限界として挙げられています3。
・脳卒中後の3Dプリントインソール試験は20名の小規模で、検出力の計算がなく、6週間という期間が短すぎた可能性も指摘されています4。
・1日何時間、何週間装着するのが適切かという目安は定まっていません。研究では1日1時間から6時間以上まで幅があります1,3,4。
・バランス指標の変化が、実際の転倒の減少につながるかどうかは確かめられていません3。
・インソールを外したあとに変化が続くのか、それとも履いているあいだだけの現象なのかは、はっきりしていません。
・感覚障害の程度、麻痺の重さ、発症からの期間による違いは十分に検証されていません。
・使用をやめた場合の長期的な影響についてのデータもありません。
まとめると、「歩行速度や体重の乗り方といった数値が動いた」という報告はある一方で、「日常生活での転ばなさにつながるか」という一番知りたい部分は、まだ答えが出ていません。バランス練習そのものの考え方については、脳卒中後のバランス訓練について解説した記事で詳しく整理しています。

研究に参加していた方の条件から見ると、次のような状況の方は検討の対象になりやすいと考えられます。
2. 麻痺側に体重が乗りにくく、左右差が目立つ方2
3. 足の裏の感覚がにぶく、足元の情報が入りにくいと感じている方1
4. すでにリハビリを行っており、そこに足元の条件を加えて確認していきたい方1,4
「これが最適」と言える量は決まっていません。研究で実際に行われていた内容を紹介します。
結果の解釈:下肢運動機能で中等度の値(標準化平均差0.58)が示されましたが、歩行指標では有意差がありませんでした1
結果の解釈:足のアライメントの一部に群間差が出ましたが、Timed Up and Goは変化しませんでした4
結果の解釈:バランス指標が良い方向に動きましたが、凹凸の有無による差はありませんでした3
なお、足元の条件を整えることは、転びにくい環境づくりの一部にすぎません。全体像については脳卒中後の転倒への対応について解説した記事もご参照ください。

正直にお伝えすると、インソールは「これを入れれば歩き方が変わる」という単純な道具ではありません。研究の数字を見ても、大きな値を出しているのは振動刺激など別の手段であり、インソールそのものは控えめな結果です1。凹凸のあるタイプと平らなタイプで差が出なかった報告もあります3。
一方で、靴と足元の条件は、毎日の歩行に関わる要素です。実施時はインソール単体で判断せず、靴のサイズ、装具との関係、歩く場面と距離を合わせて確認します。合わないものを長時間履くと足を痛める場合もあるため、皮膚と歩行の変化を確認しながら調整することが欠かせません。
2. ただしインソール単独の値は控えめで、テクスチャードインソールの歩行指標では有意差がありませんでした1
3. 麻痺していない側に厚みをつける方法では、歩行速度や体重のかけ方の対称性に差が示されています2
4. 高齢者の試験では、凹凸の有無で差がなく、靴の中の条件が変わること自体の関与が考えられます3
5. 実際の転倒が減るかどうかは確かめられておらず、足の状態によっては注意が必要です。使用の可否は専門職にご相談ください
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
2. Hozein M, Mortada H, Hamed M, Abdelhaleem N, Elshennawy S. Effect of insole on postural control and gait of stroke patients: a systematic review and meta-analysis. Int J Rehabil Res. 2024;47(3):137-146. PMID: 38881488.
3. de Morais Barbosa C, Bértolo MB, Gaino JZ, Davitt M, Sachetto Z, de Paiva Magalhães E. The effect of flat and textured insoles on the balance of primary care elderly people: a randomized controlled clinical trial. Clinical Interventions in Aging. 2018;13:277-284. PMID: 29497286.
4. Kim J, Anwar G, Kim M. Effects of custom-made 3D-printed insoles on foot and body alignment in stroke survivors: an exploratory pilot randomized controlled trial. PeerJ. 2026;14:e21533. PMID: 42465975.
