
この記事の結論
「手足はほとんど動くのに、なんとなく気持ちが落ち着かない」「前より段取りが悪くなった気がする」。軽い脳卒中で自宅へ退院したあとに、こうした変化が気になる方もいるでしょう。
体の症状が軽く自宅へ退院した方では、気分や認知機能(考える・覚える力)の変化が見過ごされやすい可能性が指摘されています1。この記事では、退院後に気分や認知機能を「チェック」する取り組みを検証した2025年の研究をもとに、何が変わり、何が変わらなかったのかを整理します。
目次
脳卒中後の気分・認知のチェック(スクリーニング)とは?
脳卒中後の気分・認知のスクリーニングとは、質問票や簡単な検査を使って、気分の落ち込み・不安・もの忘れや注意の低下といった、目に見えにくい変化がないかを早めに確かめることです1。
今回紹介する研究では、次の3つの方法でチェックが行われました1。
脳卒中後の認知機能の低下については、脳卒中後の認知機能の低下について解説した記事で紹介しています。

研究では何が分かっている?
結論から言うと、チェックと相談を1回行う取り組みでは、1年後の社会参加(仕事・家事・外出など)の点数に統計学的にはっきりした差はありませんでしたが、3か月後の不安と生活の質にはわずかな良い結果がみられました1。
オランダの12の病院を、取り組みを行う6病院と通常のケアの6病院に分けて比べた研究です。通常のケアにも、少なくとも30分の面談と気分・認知の問題への対応が含まれ、支援を何も行わない場合との比較ではありません1。対象は、入院リハビリや外来リハビリを受けずに自宅へ退院した18歳以上の脳梗塞の方531人(平均70.6歳、脳卒中の重さを表すNIHSSの中央値は2点)でした。主要解析には、追跡評価が少なくとも1回得られた511人が含まれました1。
取り組みの内容は、発症6週後に、脳卒中のケアに詳しい看護師などが外来で1時間の面談を1回行い、気分・認知機能・社会参加のチェック、一人ひとりに合わせた情報提供や自己管理の支援、必要に応じたリハビリなどへの紹介を行うものでした1。
1年後の社会参加の点数には統計学的にはっきりした差がありませんでした(平均差0.77、95%信頼区間−2.47〜4.06)1。一方、3か月後には不安の点数(HADS-A)が平均0.86点低く、生活の質の点数(EQ-5D-5L)も3か月後・1年後ともにわずかに高い結果でした。ただし、これらは複数の比較を考慮した補正を行っていない探索的な結果で、差は日常生活で意味のある変化の目安を下回っていました1。
同じ試験で、取り組みが計画どおり行えたかを調べた研究です2。対象者264人のうち262人(99.2%)が面談を受け、233人ですべてのチェックが行われました2。
担当者6人中5人への聞き取りでは、おおむね実施しやすい一方、通常のケアと重なる部分が大きいと語られました。疲労が強い方には1時間が長いことや、言語・文化的背景による難しさも挙がっています。患者本人への直接の聞き取りはなく、実施者側の評価である点に注意が必要です2。
脳卒中後の不安への運動やリハビリについては、脳卒中後の不安について解説した記事で紹介しています。
チェックを受けると、何が変わりやすく、何は変わりにくい?
この研究からは、短期間の不安や生活の質には小さな変化がみられた一方、この取り組みの社会参加への上乗せ効果は確認されませんでした。すべてのチェックや面談に効果がないという意味ではありません1。
・3か月後と1年後の生活の質の点数(わずかに高い)1
著者らは、社会参加の点数が変わらなかった理由として、1回の面談では十分でなかった可能性や、通常のケアでもすでに気分・認知への関心が高まっていた可能性などを挙げています1。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないことは?
この研究は、複数の病院で行われたランダム化比較試験で、参加者が自分のグループを知らないように工夫されていました1。一方で、比べた病院の数は12と多くはなく、2つのグループの間で治療内容や血管の病気の危険因子などに偏りがありました1。
社会参加の点数は最初から満点の方が531人中170人いました。ただし、最初に参加の制限があった方だけの解析でも差はなく、これだけで結果を説明することはできません1。また、紹介先でどのような治療を受けたかは記録されておらず、障害の程度(mRS)の評価者は割り付けを知っていました1。対象は自宅へ退院した主に軽い脳梗塞の方で、脳出血や入院・外来リハビリの対象者、軽度認知障害・認知症のある方などは除外されており、そのまま当てはめることはできません1。
どんな人に関係があり、どんなことに気をつける?
この研究の対象は、手足の症状が軽く、入院リハビリを受けずに自宅へ退院した脳梗塞の方でした1。こうした方は、気分や認知機能の変化が見過ごされやすいことから研究の対象とされています1。
・体はほとんど動くのに、気持ちの落ち着かなさや、もの忘れ・段取りの悪さが気になる方
・質問票に答えることが難しい方(研究の対象外)1
この研究では、1回のチェックと相談だけで生活全体が大きく変わる結果は得られませんでした1。チェックの結果は「気づくきっかけ」として、気になる変化があれば主治医やリハビリ専門職に相談し、必要な支援につなげていくことが大切です。
退院後、いつ・どのように確認する?
この研究では、発症から6週後に外来で1時間の面談を行い、チェックと相談をまとめて行う方法が使われていました1。
退院後の生活への移り方については、脳卒中後の退院支援と在宅移行について解説した記事も参考になります。

作業療法士の視点
531人の研究からは、退院後に気分・認知のチェックと相談を1回行っても、1年後の社会参加に統計学的にはっきりした差がなかった一方、不安と生活の質にはわずかな良い結果がみられました1。チェックそのものは、ほとんどの方で計画どおり実施できていました2。
気分や認知の変化は、本人も家族も気づきにくいことがあります。チェックの結果を「気づくきっかけ」にして、生活の中の困りごとを具体的に相談していくことが大切だと考えています。

まとめ
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。気分の落ち込みや不安、もの忘れが気になる場合は、主治医にご相談ください。検査や治療を受けるかどうか、またリハビリの内容は、担当の医師・リハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点(2026年10月)のもので、今後の研究により変わる可能性があります。
よくある質問
Q. 退院後に気分や認知のチェックを受けると、生活は変わりますか?
A. オランダの531人の研究では、発症6週後のチェックと相談を1回行っても、1年後の社会参加の点数に統計学的にはっきりした差はありませんでした1。一方、3か月後の不安と生活の質にはわずかに良い結果がみられました。
Q. 軽い脳卒中でも、気分や認知の変化は起こりますか?
A. 軽い脳卒中でも、気分の落ち込みや不安、もの忘れなどの変化が起こることがあると報告されています1。研究者らは、自宅へ退院した方でも、入院リハビリに移った方と同じくらいの頻度でこうした問題がみられたと述べています。
Q. どんな検査でチェックするのですか?
A. 研究では、脳卒中後の認知・感情のチェックリスト(CLCE-24)、認知機能の検査(MoCA)、不安と気分の落ち込みの質問票(HADS)が使われていました1。あわせて、仕事・家事・外出などの社会参加の制限も確認していました。
Q. チェックはいつ受けるのがよいですか?
A. この研究では、発症から6週後の外来で、看護師などによるチェックと相談が行われていました1。この研究は最もよい時期や回数を比較したものではないため、気になる変化があれば時期を問わず主治医に相談してください。
Q. チェックで問題が見つかったら、どうなりますか?
A. 研究では、必要に応じてリハビリや地域の看護師によるケアなどに紹介されていました1。ただし、紹介先でどのような治療や支援を受けたかは記録されておらず、その効果は分かっていません。
Q. 家族にできることはありますか?
A. 気持ちの落ち着かなさや、もの忘れ・段取りの変化など、ふだんの様子の違いに気づいたら、メモに残して受診時に伝えることが役立ちます。研究でも、チェックは「気づくきっかけ」として、相談や紹介につなげる形で行われていました1。