
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「また倒れるのではないかと落ち着かない」「外出や人に会うのが怖い」「動悸がして眠れない」——脳卒中の後、こうした不安に悩む方は少なくありません。脳卒中後の不安は、気持ちの弱さではなく、脳の変化や生活の大きな変化のなかで自然に起こりうる反応です。この記事では、脳卒中後の不安について、どのくらいの方に起こるのか、運動やリハビリ・心理的な方法で何が期待でき、何がまだ分かっていないのかを、研究をもとに患者さんとご家族へ正直に整理します。

・不安の治療法を調べたコクラン・レビューでは、良質な研究がごく少なく、「どの方法がよいかを決めるには根拠が不十分」と結論づけられています1。
・リラクゼーションや心理的な方法、薬(医師が処方するもの)で不安がやわらいだ報告はありますが、いずれも確実性は非常に低い段階です1。
・ヨガの研究では、その場面での不安(状態不安)がやわらいだ報告がある一方、持続的な不安には差がみられませんでした2。
・不安は、うつや睡眠の問題と重なりやすく、つらさが続くときは早めに専門職へ相談することが大切です1,3。
脳卒中後の不安とは、「また発作が起きるのではないか」という再発への心配、外出や人との交流への恐れ、動悸・落ち着かなさ・眠りにくさなどが続く状態を指します。脳そのものの変化に加えて、体の動きにくさ、生活や仕事の変化、将来への見通しの立てにくさなど、さまざまな要因が重なって起こります。これは決して「気の持ちよう」の問題ではありません。
脳卒中後の不安は、まれなことではありません。コクラン・レビューによれば、脳卒中を経験した方のおよそ20%が、ある時期に臨床的に意味のある強さの不安を経験するとされています1。また、比較的若い年代(18〜55歳)に絞った解析では、不安の症状がみられた方の割合は約39%と報告されており、年代や測り方によっても幅があります3。不安はうつ気分と重なって現れることも多く、気持ちの落ち込みが気になる方は脳卒中後の気分の落ち込みとうつについて解説した記事もあわせてご覧ください。
結論から正直にお伝えすると、脳卒中後の不安に「これが確実に効く」と言える方法は、まだ定まっていません。いくつかの方法で不安がやわらいだ報告はありますが、研究の数が少なく、質にも限界があります。以下に、現時点で分かっていることを紹介します。
体を動かす方法では、ヨガの研究をまとめたコクラン・レビュー(2件・72名)で、その場面での不安(状態不安)がやわらいだ報告があります(STAI-Y1 平均差 −8.40、95%信頼区間 −16.74〜−0.06)。一方、持続的な不安(特性不安)には明らかな差はみられず、重い有害事象の報告もありませんでした。ただしこの結果も、質は「非常に低い」と評価されています2。

研究をていねいに読むと、「その場面での不安(状態不安)」と「持続的な不安(特性不安)」を分けて考える必要があることが見えてきます。ヨガの研究では、リラクゼーションを含む取り組みで、その場面での不安がやわらいだ一方、もともと持ち続けている不安傾向には差がみられませんでした2。これは、深呼吸やリラクゼーションが「今の緊張を少し和らげる」助けにはなっても、不安そのものを根本から変えるわけではない、という現場感とも一致します。
また、不安はひとつの方法だけで解決しにくく、体を動かすこと、生活リズムを整えること、心理的な支え、必要に応じた医療的な対応などを、組み合わせて考えることが現実的です。自分の生活を自分で整えていく力を支える取り組みについては、脳卒中後のセルフマネジメントについて解説した記事もあわせて参考にしてください。
「外出や体を動かすことへの不安から活動が狭くなってきた」という方は、無理のない範囲で体を動かす機会を少しずつ確保することが、生活の張りや自信を保つ助けになることがあります。リラクゼーションや呼吸を整える練習は、道具がいらず自宅でも取り入れやすい方法です。ただし、これらは不安をやわらげる可能性のある「補助的な工夫」であり、医療的な治療の代わりになるものではありません。
研究では、方法も期間もさまざまで、「これをすれば不安がなくなる」という一律の正解は示されていません1,2。効果が報告された取り組みでは、リラクゼーションを数週間続けたり、ヨガを週1〜2回、数週間から10週ほど行ったりしていました1,2。ここから言えるのは、一度に大きく変えようとするより、深呼吸やリラクゼーション、無理のない範囲での体の運動、規則正しい生活といった小さな取り組みを、続けられる形で生活に組み込むことが現実的だということです。
また、不安をひとりで抱え込まないことも大切です。ご家族や支援者、専門職に気持ちを話せる場があること自体が支えになります。介護するご家族の負担や不安も見過ごせないため、脳卒中後の介護者支援について解説した記事もあわせてご覧ください。取り組みを始める前には、体調や運動の可否を主治医・専門職に確認しておくと安心です。

修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
2. Lawrence M, Celestino Junior FT, Matozinho HH, Govan L, Booth J, Beecher J. Yoga for stroke rehabilitation. Cochrane Database Syst Rev. 2017;12(12):CD011483. DOI:10.1002/14651858.CD011483.pub2. PMID:29220541. PMCID:PMC6486003.
3. Ignacio KHD, Muir RT, Diestro JDB, Singh N, Yu MHLL, El Omari O, Abdalrahman R, Barker-Collo SL, Hackett ML, Dukelow SP, Almekhlafi MA. Prevalence of depression and anxiety symptoms after stroke in young adults: A systematic review and meta-analysis. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2024;33(7):107732. DOI:10.1016/j.jstrokecerebrovasdis.2024.107732. PMID:38657829.
4. Choo WT, Jiang Y, Chan KGF, Ramachandran HJ, Teo JYC, Seah CWA, Wang W. Effectiveness of caregiver-mediated exercise interventions on activities of daily living, anxiety and depression post-stroke rehabilitation: A systematic review and meta-analysis. J Adv Nurs. 2022;78(7):1870-1888. DOI:10.1111/jan.15239. PMID:35451521.
