脳卒中後の不安(不安症状)とは?運動・リハビリでできること・まだ分からないことを正直に解説

· 自費リハビリ情報
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脳卒中後の不安(不安症状)とは?運動・リハビリでできること・まだ分からないことを正直に解説

「また倒れるのではないかと落ち着かない」「外出や人に会うのが怖い」「動悸がして眠れない」——脳卒中の後、こうした不安に悩む方は少なくありません。脳卒中後の不安は、気持ちの弱さではなく、脳の変化や生活の大きな変化のなかで自然に起こりうる反応です。この記事では、脳卒中後の不安について、どのくらいの方に起こるのか、運動やリハビリ・心理的な方法で何が期待でき、何がまだ分かっていないのかを、研究をもとに患者さんとご家族へ正直に整理します。

脳卒中後の不安に対して活動計画を相談する場面のイメージ
脳卒中後の不安に対して活動計画を相談する場面のイメージ
この記事の要点
・脳卒中後、およそ2割の方が、ある時期に強い不安を経験するとされています1
・不安の治療法を調べたコクラン・レビューでは、良質な研究がごく少なく、「どの方法がよいかを決めるには根拠が不十分」と結論づけられています1
・リラクゼーションや心理的な方法、薬(医師が処方するもの)で不安がやわらいだ報告はありますが、いずれも確実性は非常に低い段階です1
・ヨガの研究では、その場面での不安(状態不安)がやわらいだ報告がある一方、持続的な不安には差がみられませんでした2
・不安は、うつや睡眠の問題と重なりやすく、つらさが続くときは早めに専門職へ相談することが大切です1,3
SECTION 01
脳卒中後の不安とは・どのくらい起こるのか

脳卒中後の不安とは、「また発作が起きるのではないか」という再発への心配、外出や人との交流への恐れ、動悸・落ち着かなさ・眠りにくさなどが続く状態を指します。脳そのものの変化に加えて、体の動きにくさ、生活や仕事の変化、将来への見通しの立てにくさなど、さまざまな要因が重なって起こります。これは決して「気の持ちよう」の問題ではありません。

脳卒中後の不安は、まれなことではありません。コクラン・レビューによれば、脳卒中を経験した方のおよそ20%が、ある時期に臨床的に意味のある強さの不安を経験するとされています1。また、比較的若い年代(18〜55歳)に絞った解析では、不安の症状がみられた方の割合は約39%と報告されており、年代や測り方によっても幅があります3。不安はうつ気分と重なって現れることも多く、気持ちの落ち込みが気になる方は脳卒中後の気分の落ち込みとうつについて解説した記事もあわせてご覧ください。

SECTION 02
研究で分かっていること

結論から正直にお伝えすると、脳卒中後の不安に「これが確実に効く」と言える方法は、まだ定まっていません。いくつかの方法で不安がやわらいだ報告はありますが、研究の数が少なく、質にも限界があります。以下に、現時点で分かっていることを紹介します。

研究から読み取れること
脳卒中後の不安への対応をまとめたコクラン・レビュー(3件・196名)では、次の報告が紹介されています。自宅でリラクゼーションの音声を4週間使った小規模な試験では、3か月後の不安が使わなかった群より低い傾向がみられました(効果の目安 Cohen's d=0.926、参加21名)。抗うつ薬パロキセチン、パロキセチン+精神療法、抗不安作用のあるブスピロンを用いた試験でも、標準ケアより不安の点数が低下したと報告されています。ただし著者らは、いずれの結果も確実性は「非常に低い」とし、「不安への治療を決めるには根拠が不十分」と結論づけています1

体を動かす方法では、ヨガの研究をまとめたコクラン・レビュー(2件・72名)で、その場面での不安(状態不安)がやわらいだ報告があります(STAI-Y1 平均差 −8.40、95%信頼区間 −16.74〜−0.06)。一方、持続的な不安(特性不安)には明らかな差はみられず、重い有害事象の報告もありませんでした。ただしこの結果も、質は「非常に低い」と評価されています2
エビデンスの質と限界
これらの研究は、いずれも参加者が数十名と少なく、偽の治療(プラセボ)と比べていないものが多いなど、方法に限界があります1,2。薬の試験では、不安だけでなくうつも併せもつ方が対象で、不安「だけ」の方への効果は分かっていません。また、パロキセチンでは半数が吐き気・嘔吐・めまいを経験するなど、副作用にも注意が必要です1。薬は必ず医師の判断のもとで用いるものです。ヨガの研究も2件と少なく、結果を広く一般化することはできません2。つまり現時点では、「不安をやわらげる可能性のある選択肢はいくつかあるが、どれが最も良いかは分かっていない」というのが正直なところです。
まだ分かっていないこと
脳卒中後の不安に対して、運動・心理的な方法・薬のうち、どれを・どの方に・どのくらいの期間行うのが最も向いているのかは、十分に分かっていません1。運動については、介護するご家族と一緒に行う運動プログラムを調べた解析で、不安に対する明らかな効果はみられなかったという報告もあり、体を動かせば必ず不安が軽くなるとは言えません4。長期的にどうなるか、うつや睡眠の問題とどう関わるかも、これからの研究課題です。だからこそ、研究の平均だけで判断せず、一人ひとりの状態に合わせて考えることが大切です。
脳卒中後の不安に配慮した外出練習のイメージ
脳卒中後の不安に配慮した外出練習のイメージ
SECTION 03
何が変わりやすく、何は変わりにくいか

研究をていねいに読むと、「その場面での不安(状態不安)」と「持続的な不安(特性不安)」を分けて考える必要があることが見えてきます。ヨガの研究では、リラクゼーションを含む取り組みで、その場面での不安がやわらいだ一方、もともと持ち続けている不安傾向には差がみられませんでした2。これは、深呼吸やリラクゼーションが「今の緊張を少し和らげる」助けにはなっても、不安そのものを根本から変えるわけではない、という現場感とも一致します。

また、不安はひとつの方法だけで解決しにくく、体を動かすこと、生活リズムを整えること、心理的な支え、必要に応じた医療的な対応などを、組み合わせて考えることが現実的です。自分の生活を自分で整えていく力を支える取り組みについては、脳卒中後のセルフマネジメントについて解説した記事もあわせて参考にしてください。

SECTION 04
どんな人に向いているか・注意したい人

「外出や体を動かすことへの不安から活動が狭くなってきた」という方は、無理のない範囲で体を動かす機会を少しずつ確保することが、生活の張りや自信を保つ助けになることがあります。リラクゼーションや呼吸を整える練習は、道具がいらず自宅でも取り入れやすい方法です。ただし、これらは不安をやわらげる可能性のある「補助的な工夫」であり、医療的な治療の代わりになるものではありません。

⚠ 早めに相談してほしいこと
不安が強く毎日のように続く、動悸や過呼吸で日常生活に支障が出ている、眠れない日が続く、気分の強い落ち込みや「消えてしまいたい」といった気持ちがある——このような場合は、我慢して運動で乗り切ろうとせず、まず主治医や、精神科・心療内科、担当の専門職に相談してください。不安はうつや睡眠の問題と重なりやすく、適切な医療的サポートが必要なことがあります。薬は医師が処方するもので、自己判断で市販薬やサプリメントに頼るのは避けてください。運動を始める際も、体調や再発リスクの面で行ってよいかを、事前に主治医へ確認しましょう。
SECTION 05
日常での取り入れ方の目安

研究では、方法も期間もさまざまで、「これをすれば不安がなくなる」という一律の正解は示されていません1,2。効果が報告された取り組みでは、リラクゼーションを数週間続けたり、ヨガを週1〜2回、数週間から10週ほど行ったりしていました1,2。ここから言えるのは、一度に大きく変えようとするより、深呼吸やリラクゼーション、無理のない範囲での体の運動、規則正しい生活といった小さな取り組みを、続けられる形で生活に組み込むことが現実的だということです。

また、不安をひとりで抱え込まないことも大切です。ご家族や支援者、専門職に気持ちを話せる場があること自体が支えになります。介護するご家族の負担や不安も見過ごせないため、脳卒中後の介護者支援について解説した記事もあわせてご覧ください。取り組みを始める前には、体調や運動の可否を主治医・専門職に確認しておくと安心です。

SECTION 06
Journey Rehabでの現場経験
当施設での経験
現場では、体そのものよりも「また倒れたらどうしよう」「外に出るのが怖い」という不安から、活動の範囲が狭まっていく方を多く見てきました。訪問リハビリでは、実際の生活の場で、どんな場面に不安が強く出るかを一緒に確認しながら、無理のない範囲で動ける経験を少しずつ積み重ねることを大切にしています。ただ、不安が強い時期には運動だけで抱えようとせず、主治医や心理・医療の専門職につなぐことが必要だと感じる場面もあります。私たちは医療的な治療を行う立場ではないため、リハビリでできることと、医療につなぐべきことを見極めながら関わるよう心がけています。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
外出や体を動かすことへの不安について、身体の状態やご自宅の環境を一緒に確認しながらリハビリの内容を考えます。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨ではありません。脳卒中後の不安は、うつや睡眠の問題と重なることがあり、医療的な対応が必要な場合があります。つらさが強い・長く続くときは、我慢せず主治医や精神科・心療内科、担当専門職に相談してください。薬は医師の判断のもとで用いるものです。運動を始める前にも、行ってよい状態かどうかを主治医に確認してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍

経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中

研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表

論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
FAQ
よくある質問
脳卒中の後に不安になるのは珍しいことですか?
珍しいことではありません。研究では、脳卒中を経験した方のおよそ2割が、ある時期に強い不安を経験するとされています。年代や測り方によって割合には幅があります。気持ちの弱さではなく、脳や生活の変化のなかで自然に起こりうる反応です。
運動をすれば不安は軽くなりますか?
ヨガの研究などで、その場面での不安がやわらいだ報告がある一方、体を動かせば必ず不安が軽くなるとは言えません。介護者と行う運動で不安に明らかな効果がなかったという報告もあります。運動は支えのひとつと考え、つらさが強いときは医療的な相談を優先してください。
薬を飲んだほうがよいのでしょうか?
薬が有用な場合もありますが、それは医師が状態を診て判断するものです。研究では薬で不安の点数が下がった報告がある一方、副作用の注意も示されています。自己判断で市販薬やサプリに頼らず、必要かどうかは主治医や精神科・心療内科に相談してください。
自宅でできる工夫はありますか?
深呼吸やリラクゼーション、無理のない範囲での体の運動、規則正しい生活などは、道具がいらず取り入れやすい工夫です。ただしこれらは補助的なもので、医療の代わりにはなりません。続けられる小さな取り組みから始め、つらさが強いときは専門職に相談してください。
不安とうつはどう違うのですか?
不安は「落ち着かない・怖い・心配が続く」という感覚が中心で、うつは「気分の落ち込み・興味の低下」が中心です。ただ、脳卒中の後は両方が重なることも多く、見分けや対応は専門職に相談するのが安心です。どちらもひとりで抱え込まないことが大切です。
どんなときに受診すべきですか?
不安が毎日のように続く、動悸や過呼吸で生活に支障が出る、眠れない日が続く、強い落ち込みや「消えてしまいたい」という気持ちがあるときは、早めに主治医や精神科・心療内科に相談してください。運動で乗り切ろうとせず、医療的なサポートを優先してよい状況です。
REFERENCES
参考文献
1. Knapp P, Campbell Burton CA, Holmes J, Murray J, Gillespie D, Lightbody CE, Watkins CL, Chun HY, Lewis SR. Interventions for treating anxiety after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2017;5(5):CD008860. DOI:10.1002/14651858.CD008860.pub3. PMID:28535332. PMCID:PMC6481423.
2. Lawrence M, Celestino Junior FT, Matozinho HH, Govan L, Booth J, Beecher J. Yoga for stroke rehabilitation. Cochrane Database Syst Rev. 2017;12(12):CD011483. DOI:10.1002/14651858.CD011483.pub2. PMID:29220541. PMCID:PMC6486003.
3. Ignacio KHD, Muir RT, Diestro JDB, Singh N, Yu MHLL, El Omari O, Abdalrahman R, Barker-Collo SL, Hackett ML, Dukelow SP, Almekhlafi MA. Prevalence of depression and anxiety symptoms after stroke in young adults: A systematic review and meta-analysis. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2024;33(7):107732. DOI:10.1016/j.jstrokecerebrovasdis.2024.107732. PMID:38657829.
4. Choo WT, Jiang Y, Chan KGF, Ramachandran HJ, Teo JYC, Seah CWA, Wang W. Effectiveness of caregiver-mediated exercise interventions on activities of daily living, anxiety and depression post-stroke rehabilitation: A systematic review and meta-analysis. J Adv Nurs. 2022;78(7):1870-1888. DOI:10.1111/jan.15239. PMID:35451521.