
この記事の結論
「脳卒中のあと、少し動いただけでぐったりする」「休んでも疲れが抜けない」。このような強い疲れやすさは「脳卒中後疲労」と呼ばれ、ご本人の生活やリハビリの続けやすさに大きく影響します。
「疲れを取る薬はないの?」と気になる方もいるでしょう。この記事では、脳卒中後疲労に対する薬の研究をまとめた2023年のメタ分析と、薬の一つを調べた二重盲検試験をもとに、分かっていることと限界を整理します。
目次
脳卒中後疲労とは?薬はどう研究されている?
脳卒中後疲労(Post-stroke Fatigue:PSF)とは、脳卒中のあとに現れる、休んでも回復しにくい強い疲れやだるさのことです1。脳卒中を経験した方の約半数にみられるとまとめられていますが、研究ごとの推計には大きな幅があります。何年も続くことがあると報告されています1。
薬の研究では、「疲労重症度尺度(Fatigue Severity Scale:FSS)」などの質問票で疲れの程度を測り、薬を飲んだグループと偽薬(有効成分を含まない薬)を飲んだグループを比べています1。
脳卒中後疲労の全体像や、休み方・活動量の整え方については、脳卒中後の疲労と活動調整について解説した記事で紹介しています。

研究では何が分かっている?
結論から言うと、薬を飲んだグループでは、治療終了時に疲れの点数が偽薬より低い結果でしたが、その後まで続くかははっきりしませんでした1。
脳卒中後疲労がある成人を対象に、薬と偽薬を比べたランダム化比較試験を、英語・中国語の文献を含めて探してまとめた研究です1。10件の研究(616人が参加し、600人を解析)が分析に含まれ、治療期間は28日〜3か月でした。クロスオーバー試験3件は最初の期間の結果だけを使っています1。
治療終了時の疲れの程度は、薬のグループで低い結果でした(標準化平均差−0.80、95%信頼区間−1.29〜−0.31)1。しかし、その後の追跡時点の4件(265人、治療終了直後とは異なる研究の組み合わせ)では、はっきりした差はありませんでした(標準化平均差−0.14、95%信頼区間−0.38〜0.10)1。研究間のばらつきを示すI²は86%と大きい値でした1。
オーストラリアの1施設で、発症から3か月以上たち、強い疲れが続いている方36人を対象に、モダフィニル1日200mgと偽薬を6週間ずつ、1週間の休薬期間をはさんで入れ替えて比べた研究です2。
モダフィニルを飲んだ期間では、疲れの点数(多面的疲労尺度、20〜100点)が偽薬と比べて7.38点低く、生活の質の点数も良い結果でした2。一方、認知機能(MoCA)や、気分・不安・ストレスの点数には、はっきりした差はありませんでした2。
薬の種類によって、何が違う?
薬の種類別の分析では、モダフィニルと中国の生薬製剤などのグループで疲れの点数が低い結果でしたが、どちらも根拠は十分ではありません1。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないことは?
10件の研究は、それぞれの人数が6〜111人と小規模で、疲労の診断の基準、薬の種類、疲れの測り方が研究ごとに大きく異なっていました1。10件すべてに報告の偏りについての懸念があり、全体として偏りのリスクが低いと判断された研究はありませんでした1。
モダフィニルの試験は1施設・36人の小規模な研究です。うつ病・認知症の既往や一部の服薬などは除外条件で、すべての方に当てはめることはできません。また、睡眠時無呼吸の方を十分に除外できていない可能性や、薬をきちんと飲んでいたかを完全には確かめられないことが限界とされています2。
どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要?
研究の対象は、脳卒中後疲労があると判断された成人の方で、モダフィニルの試験では発症から3か月以上たっても強い疲れが続いている方が対象でした1,2。薬の使用は、医師の判断のもとで行われるものです。
・疲れのために、日中の活動やリハビリを続けることが難しくなっている方
・気分の落ち込み、痛み、眠りの悩みなど、疲れと重なる症状がないか
・ほかに飲んでいる薬との飲み合わせ
2023年のレビューでは、特定の薬を勧めるための根拠は不十分と結論づけられています1。疲れが強いときは、自己判断で薬やサプリメントを始めたり、今飲んでいる薬をやめたりせず、まずは主治医にご相談ください。
睡眠中の呼吸の止まりと日中の疲れ・眠気の関係については、脳卒中後の睡眠時無呼吸について解説した記事で紹介しています。
研究では、どのくらいの量・期間で使われていた?
研究での治療期間は28日〜3か月で、モダフィニルの試験では1日200mgを6週間飲む方法が使われていました。これは研究条件の説明であり、服薬量の推奨ではありません1,2。

作業療法士の視点
10件の研究のまとめからは、薬で治療終了時の疲れの点数が下がる可能性が示された一方、その後まで続くかは分からず、研究の規模や質も十分ではありませんでした1。2023年のレビューの著者らも、特定の薬を勧める根拠は不十分としています1。
脳卒中後の疲れには、睡眠や気分、活動の偏りなど、さまざまな要因が重なります。薬について知りたいときも、主治医と相談しながら、一日の過ごし方を整えることとあわせて考えていくことが大切だと考えています。

まとめ
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。疲れが急に強くなった場合や、いびき・日中の強い眠気がある場合は、主治医にご相談ください。薬の開始・変更・中止は、必ず担当の医師にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点(2026年10月)のもので、今後の研究により変わる可能性があります。
よくある質問
Q. 脳卒中後の疲れやすさに効く薬はありますか?
A. 2023年のレビューでは、脳卒中後の疲れやすさに特定の薬を勧めるための根拠は不十分とされています1。10件の研究のまとめでは、治療終了時に疲れの点数が低い結果でしたが、研究はいずれも小規模で、その後まで続くかははっきりしていません。
Q. モダフィニルは脳卒中後疲労に役立ちますか?
A. 36人の試験では、モダフィニルを6週間飲んだ期間で疲れの点数が偽薬より低い結果でした2。ただし1施設の小規模な研究で、この結果だけで有効性や安全性が確立したとはいえません1。
Q. 抗うつ薬で疲れは軽くなりますか?
A. 2023年のレビューに含まれたフルオキセチンの研究は1件のみで、疲れの点数にはっきりした差はありませんでした1。気分の落ち込みがある場合の治療は、主治医にご相談ください。
Q. 薬に副作用はありますか?
A. 研究では、薬・偽薬の両方で軽い副作用がみられ、重い副作用は報告されていませんでした1,2。ただし副作用を報告した研究は限られており、詳しいことはまだ分かっていません。
Q. 脳卒中後疲労はどのくらいの人にみられますか?
A. 脳卒中を経験した方の約半数にみられると報告されており、何年も続くことがあります1。休んでも抜けない疲れが続く場合は、主治医やリハビリ専門職に伝えることが大切です。
Q. 疲れているときは、リハビリを休んだほうがよいですか?
A. 疲れの程度や原因は人によって異なるため、休むか続けるかは一人ひとりの状態に合わせて決めることが大切です。活動と休憩の配分について、主治医やリハビリ専門職にご相談ください。