記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。
田中 光(株式会社Journey Rehab代表、認定作業療法士、修士〈作業療法学〉、東京都立大学大学院博士後期課程在籍)
本記事は一般的な医療情報と当社サービスの案内を含みます。個別の診断や治療方針は医療機関にご相談ください。
この記事の結論
174件の研究の個人データを集めた国際的な解析では、言語のリハビリを受けた方のことばの点数は、発症から1か月以内に研究に参加した方で最も大きく伸びましたが、6か月以降に研究に参加した方でも伸びがみられました1 。若い方ほど伸びが大きい傾向がある一方、75歳を超える方でも変化がみられています1 。ただし、自然な回復の影響や脳卒中の重さは十分に考慮できていません1 。
「発症から半年たったら、もう言葉は戻らないの?」「年齢が高いと、リハビリをしても変わらない?」。失語症があると、ご本人やご家族はこうした「これからの見通し」が気になると思います。
この記事では、どのような訓練がよいかではなく、「どんな条件の方で、ことばの変化が大きかったのか」という見通しの研究に焦点を当てます。約6,000人分の個人データを集めた国際的な解析を中心に、分かっていることと限界を整理します。
この記事で分かること
脳卒中後の失語症とは?回復の見通しはどう調べられている?
研究では何が分かっている?
年齢・発症からの時期・失語症の重さで、何が変わりやすい?
脳卒中後の失語症とは?回復の見通しはどう調べられている?
脳卒中後の失語症とは、脳の言語に関わる部分が傷つくことで、話す・聞いて理解する・読む・書くといった、ことばを使う力が低下する状態です1 。脳卒中を経験した方の約3人に1人にみられると報告されています1 。
回復の見通しの研究では、言語のリハビリの前後で、ことばの検査の点数がどのくらい変わったかを調べ、その変化と年齢・発症からの時期・失語症の重さなどとの関係を分析します1,2 。
全体的な言語の力
WAB失語症検査の失語指数(Western Aphasia Battery Aphasia-Quotient:WAB-AQ、0〜100点)など1
聞いて理解する力
トークンテスト(指示どおりに図形を選ぶ検査)など1
物の名前を言う力(呼称)
ボストン呼称検査、フィラデルフィア呼称検査(175枚の絵の名前を言う検査)など1,2
記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。
研究では何が分かっている?
結論から言うと、発症から早い時期に研究へ参加し、期間中に言語のリハビリを受けた方ほどことばの点数の伸びが大きく、時間がたってからでも伸びはみられていました1 。
個人データのメタ分析 2021年(174件の研究・5,928人分のデータ)
世界各国の失語症の研究174件から、5,928人分の個人データを集めて解析した国際共同研究(RELEASE)です1 。対象者の年齢の中央値は63歳で、主要4領域の前後評価がそろったデータは領域別に791〜1,056人で、提示された解析の対象者は研究期間中に言語のリハビリを受けていました。参加前の訓練歴もあるため、参加時期は初めて訓練を始めた時期とは限りません1 。
ランダム化比較試験のデータでは、全体的な言語の力(WAB-AQ)の伸びは、発症から1か月以内に研究に参加した方で平均19.1点、1〜3か月で16.2点、3〜6か月で9.6点、6か月以降でも8.2点でした1 。著者らは、6か月以降の伸びも、集団平均で意味のある変化とされる目安(5.03点。個人の回復保証ではありません)を上回っていたとしています1 。
出典:RELEASE Collaborators. Stroke. 2021
臨床試験のデータを用いた予後の研究 2023年(慢性期の失語症・107人登録、解析102人)
発症から12か月以上たった失語症の方107人が、計30時間・6週間の言語のリハビリを受け、その後6か月間の変化を調べた研究です。解析対象は102人、6か月の前後比較は96人でした2 。
175枚の絵の名前を言う検査では、リハビリ終了1週後に平均5.9枚、1か月後に6.4枚、6か月後に7.5枚多く言えるようになっていました2 。最も強く関係していたのは失語症の重さで、軽度・中等度の方は、重度・最重度の方より伸びが大きい結果でした2 。
出典:Kristinsson S, et al. J Speech Lang Hear Res. 2023
言語のリハビリの量(時間・頻度)については、脳卒中後の失語症のリハビリの量について解説した記事 で紹介しています。
年齢・発症からの時期・失語症の重さで、何が変わりやすい?
研究からは、「早い時期」「若い年齢」「軽い〜中等度の失語症」で伸びが大きい傾向がありましたが、それ以外の方でも変化はみられていました1,2 。
発症からの時期
1か月以内に研究に参加した方で伸びが最も大きく、時期が遅くなるほど小さくなる傾向でした1 。ただし、6か月以降や2年以上たってから参加した方でも伸びがみられています1 。
年齢
55歳未満の方で伸びが最も大きい結果でした(WAB-AQで平均15.4点)1 。一方、75歳を超える方でも平均13.8点の伸びがみられ、著者らは高齢の方にもリハビリの可能性があるとしています1 。慢性期の研究でも年齢が高いほど伸びが小さい方向でしたが、調整後の1か月・6か月の年齢の関連は通常の有意水準に達していませんでした2 。
失語症の重さ
慢性期の107人の研究では、失語症の重さが呼称の伸びに最も強く関係していました2 。重度・最重度の方では、この30時間の訓練後の呼称検査の伸びは小さい傾向でした。重度の失語症では支援が無意味という結論ではなく、方法・量・評価指標の検討が必要です2 。
脳の状態(白質病変)
発症から90日以内に登録された失語症の方52人のうち、データがそろった43人を解析した研究では、MRIで白く映る脳の小さな変化(白質病変)が調べられました3 。言語の練習に実際の脳刺激(tDCS)を組み合わせたグループでは、脳室のまわりの白質病変が強い方ほど、呼称の伸びが小さい関連がありました。ただし探索的な小集団の分析で、画像だけで治療の可否や回復を判断できる結果ではありません3 。
ご家族との会話の工夫については、脳卒中後の失語症と家族の会話について解説した記事 も参考になります。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないことは?
エビデンスの質と限界
174件の研究の解析は、規模が大きく、研究間の統計的なばらつきもみられなかった一方で、自然な回復(リハビリをしなくても起こる変化)の影響を分けて考えることができていません1 。脳卒中の重さ、気分の落ち込み、認知機能、教育歴、生活の中でのことばの刺激などは、データがそろわず分析に入れられませんでした1 。読む・書く力についてもデータが不足していました1 。
慢性期の107人の研究は、主に物の名前を言う力を調べた研究で、日常の会話の力すべてを表しているわけではありません。無治療群との比較がなく、変化のすべてを訓練の効果と断定できません。特に理解や発話が著しく制限された方は除外され、個人予測の交差検証で説明できた変動も0〜12%にとどまりました2 。白質病変の研究は解析43人(実刺激24人・偽刺激19人)と小規模で、著者らも、より大きな研究で確かめる必要があるとしています3 。
まだ分かっていないこと
・ 一人ひとりの回復の程度を、どこまで正確に予測できるか1,2
・ どんな方に、どの種類のリハビリが合いやすいか1
・ 読む・書く力の回復の見通し1
・ 脳卒中の重さや、気分・認知機能の状態が見通しにどう関わるか1
見通しを知ったうえで、どのように取り組む?
研究は早期の支援と、時間がたった後も可能性を検討する意義を示しています。ただし開始時期を無作為に比較した結果ではなく、早いほど集中的に行えばよいという意味ではありません1,2 。
見通しを考えるときのポイント
1. 発症から早い時期は、ことばの点数が伸びやすい時期とされています。言語のリハビリを受けられる環境を整えておくことが大切です1
2. 6か月以上たっていても、言語のリハビリで変化がみられた研究があります。「もう変わらない」と決めつけないことが大切です1,2
3. 年齢が高い方でも変化はみられています。年齢だけで見通しを判断しないようにしましょう1
4. 慢性期の研究では、リハビリ終了から6か月後も呼称の伸びが保たれていました2 。続けやすい形で、ことばを使う機会を生活の中に残していくことが大切です
記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。
作業療法士の視点
約6,000人分のデータを集めた研究からは、発症から早い時期ほどことばの点数が伸びやすい一方、6か月以降や高齢の方でも伸びがみられることが示されました1 。ただし、これは研究に参加し言語のリハビリを受けた方の平均的な傾向で、一人ひとりの見通しを決めるものではありません1,2 。
見通しは、失語症の重さや体調、生活の状況によっても変わります。主治医や言語聴覚士と相談しながら、今の状態に合った目標を少しずつ一緒に考えていくことが大切だと考えています。
記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。
まとめ
・ 174件の研究・5,928人分のデータの解析では、発症から1か月以内に研究に参加した方でことばの点数の伸びが最も大きい結果でした1
・ 6か月以降に研究に参加した方でも、全体的な言語の力で平均8.2点の伸びがみられました1
・ 55歳未満の方で伸びが大きい傾向がある一方、75歳を超える方でも伸びがみられました1
・ 慢性期の107人の研究では、失語症が軽い〜中等度の方ほど呼称の伸びが大きく、伸びは6か月後も保たれていました2
・ 自然な回復や脳卒中の重さを考慮できていないなどの限界があり、一人ひとりの見通しを正確に予測することはまだ難しい段階です1,2
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。失語症の評価や言語のリハビリの内容については、主治医・言語聴覚士にご相談ください。リハビリや練習を始める前、また内容を変える前には、担当の医師・リハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点(2026年10月)のもので、今後の研究により変わる可能性があります。
田中 光(株式会社Journey Rehab代表、認定作業療法士、修士〈作業療法学〉、東京都立大学大学院博士後期課程在籍)
本記事は一般的な医療情報と当社サービスの案内を含みます。個別の診断や治療方針は医療機関にご相談ください。
よくある質問
Q. 失語症は発症から半年たっても良くなりますか?
A. 174件の研究のデータを集めた解析では、6か月以降に研究に参加し、言語のリハビリを受けた方でも、ことばの点数の伸びがみられました1 。ただし伸びの大きさは、発症から早い時期に研究に参加した方より小さい傾向でした。
Q. 年齢が高いと、失語症のリハビリをしても変わりませんか?
A. 研究では、55歳未満の方で伸びが大きい傾向がありましたが、75歳を超える方でも平均13.8点の伸びがみられました1 。年齢だけで見通しを判断することはできません。
Q. 失語症の回復の見通しに最も関係するのは何ですか?
A. 発症からの時期と年齢に加え、慢性期の研究では失語症の重さが最も強く関係していました1,2 。軽度・中等度の方は、重度の方より物の名前を言う力の伸びが大きい傾向でした。
Q. 言語のリハビリで伸びた力は、終わったあとも続きますか?
A. 慢性期の107人の研究では、6週間のリハビリ後、6か月後の時点でも物の名前を言う力の伸びが保たれていました2 。ただし、これは物の名前を言う検査での結果です。
Q. 自分の回復の程度を正確に予測できますか?
A. 現時点では、一人ひとりの回復の程度を正確に予測することは難しい段階です1,2 。研究は平均的な傾向を示したもので、脳卒中の重さや認知機能なども影響する可能性があります。
Q. 家族にできることはありますか?
A. 研究では、発症から時間がたってからでも言語のリハビリでことばの点数の伸びがみられています1,2 。会話の工夫や、ことばを使う機会を生活の中に残していくことについて、言語聴覚士に相談してみてください。
参考文献
1. REhabilitation and recovery of peopLE with Aphasia after StrokE (RELEASE) Collaborators. Predictors of Poststroke Aphasia Recovery: A Systematic Review-Informed Individual Participant Data Meta-Analysis. Stroke. 2021.
PubMed DOI 公開本文
2. Sigfus Kristinsson, Alexandra Basilakos, Dirk B den Ouden, Christy Cassarlyほか. Predicting Outcomes of Language Rehabilitation: Prognostic Factors for Immediate and Long-Term Outcomes After Aphasia Therapy. Journal of speech, language, and hearing research : JSLHR. 2023.
PubMed DOI 公開本文
3. Joseph S Kang, Lisa D Bunker, Melissa D Stockbridge, Argye E Hillis. White Matter Hyperintensities as a Predictor of Aphasia Recovery. Archives of physical medicine and rehabilitation. 2024.
PubMed DOI 公開本文