
この記事の結論
「脳卒中のあと、夜なかなか眠れない」「睡眠薬を増やすのは不安」。脳卒中後の眠りの悩みは、ご本人だけでなく、夜間の見守りをするご家族にとっても大きな負担になります。
近年、頭の外から磁気や弱い電流で脳を刺激する方法を、脳卒中後の不眠に使う研究が増えています。この記事では、2024〜2025年に発表された3本のまとめ研究をもとに、睡眠の質への結果と、まだ分かっていないことを整理します。
目次
脳卒中後の不眠への脳刺激とは?
脳卒中後の不眠への脳刺激とは、頭の外側から磁気や弱い電流を当てて、眠りや気分の調整に関わる脳の働きに変化を与えることを目指す方法です1。手術を必要としないため「非侵襲的脳刺激(Non-invasive Brain Stimulation:NIBS)」と呼ばれます1。
研究では、睡眠の質を「ピッツバーグ睡眠質問票(Pittsburgh Sleep Quality Index:PSQI)」で評価することが多く、点数が低いほど睡眠の質が良いことを表します1,2,3。刺激する場所は、おでこの奥にある前頭前野(背外側前頭前野:DLPFC)が中心でした1,3。
脳卒中後の不眠そのものや、薬以外の生活の工夫については、脳卒中後の不眠とCBT-Iについて解説した記事で紹介しています。

研究では何が分かっている?
結論から言うと、rTMSを行ったグループでは、比較のグループより睡眠の質の点数が良くなる結果が示されています1。ただし、薬との比較や薬に追加する研究が多く、偽の刺激と比べた研究は限られます。2024年の解析では、rTMS単独と薬のPSQIの差は明確でなく、薬への追加や偽刺激との比較では良い結果でした1,3。
脳卒中後の睡眠障害がある成人を対象に、脳刺激を、通常の治療+薬、または偽の刺激と比べた18件の研究をまとめた研究です1。16件がrTMS、1件がシータバースト刺激(TBS)、2件がtDCSを調べていました(複数の方法を含む研究があり、件数は重複します)1。
rTMSのPSQIを評価した14件の統合では、睡眠の質の点数(PSQI、0〜21点)が平均1.85点低く(95%信頼区間−2.99〜−0.71)でした。また、抑うつを評価した研究の統合では、点数(HAMD-17)が平均2.85点低い結果でした1。一方、tDCSではPSQIにはっきりした差はなく、睡眠時間や睡眠の効率の良い結果は1件の睡眠検査の研究に基づきます1。
rTMSの方法の違いを比べるため、15件のランダム化比較試験をまとめた研究です3。
薬のみの治療と比べると、右の前頭前野への低頻度rTMSで、睡眠の質・睡眠の効率・抑うつの点数が良い結果でした3。左右両側への低頻度rTMSでも睡眠の質と睡眠の効率で良い結果がみられた一方、左の前頭前野への高頻度rTMSでは、はっきりした差はみられませんでした3。ただし、3つの方法どうしの間には、はっきりした差はありませんでした3。
睡眠中のいびきや呼吸の止まりが気になる場合は、不眠とは別の対応が必要なこともあります。詳しくは脳卒中後の睡眠時無呼吸について解説した記事をご覧ください。
刺激の方法によって、何が違う?
現時点では、低頻度のrTMSが比較的よく研究されていますが、どの方法が最もよいかははっきり決められていません1,2,3。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないことは?
18件のメタ分析では、ランダム化の方法を記載していない研究が4件あり、参加者と実施者の両方を盲検化していた研究は7件でした1。研究の多くは中国語で発表された研究で、選ばれ方に偏りがある可能性があることや、刺激の頻度・場所・期間が研究ごとに異なることが限界として挙げられています1。
28件のネットワークメタ分析でも、質の低い研究の割合が高く、脳卒中の部位や発症からの時期の情報も十分でないため、はっきりした臨床上の推奨はできないとされています2。15件の方法比較の研究も、研究ごとの人数が少なく、脳梗塞と脳出血の違いや治療期間の違いは分析できていません。両側への刺激は1件だけで、割付の隠蔽や実施者の盲検化の記載もありません。認知機能の保たれた方が対象条件に含まれ、すべての方に当てはめることはできません3。
どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要?
研究の対象は、脳卒中のあとに睡眠障害があると診断された成人の方でした1。脳刺激は医療機関で医師の判断のもとに行われる治療で、受けられる施設は限られます。
・睡眠薬の副作用が気になり、薬以外の選択肢も主治医と話し合いたい方(薬との直接比較ではrTMSのグループで有害事象が少ない結果でしたが、報告が限られ、安全性が保証されたわけではありません)1
・けいれん発作を起こしたことがある方や、頭の中に金属が入っている方など(刺激を受けられるかどうか、医師による確認が必要です)
・気分の落ち込みが強い方(研究でも睡眠とあわせて抑うつの状態が調べられています。まずは主治医にご相談ください)1,3
研究の多くは、通常の治療や薬に脳刺激を加える、または薬と比べる形で行われています1,3。今飲んでいる睡眠薬を自己判断でやめたり減らしたりせず、必ず主治医にご相談ください。
どのくらいの頻度・期間で行われている?
研究には、1回20〜30分程度の刺激を週5〜6日、2〜4週間ほど続ける例がありました。最適な量が決まったわけではなく、自宅で再現する方法ではありません1。
通院で受ける場合は、治療期間中に医療機関へ繰り返し通う負担もあります。通院の負担も含めて、主治医と相談しながら考えることが大切です。

作業療法士の視点
18件の研究のまとめからは、rTMSで脳卒中後の睡眠の質の点数が良くなる可能性が示されました1。一方で、研究の質は高いとはいえず、薬と比べた研究が中心で、効果がどれくらい続くかも分かっていません1,2。
眠りは、日中の過ごし方や痛み、気分、夜間のトイレなど、さまざまな要因の影響を受けます。脳刺激を検討する場合も、主治医と相談しながら、生活全体を見直すことと組み合わせて考えることが大切だと考えています。

まとめ
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。眠れない状態が続く場合や、いびき・呼吸の止まりが気になる場合は、主治医にご相談ください。脳刺激を受けられるかどうか、また睡眠薬などの治療を変えるかどうかは、必ず担当の医師にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点(2026年10月)のもので、今後の研究により変わる可能性があります。
よくある質問
Q. 脳卒中後の不眠にrTMSは役立ちますか?
A. 18件の研究のまとめでは、rTMSを行ったグループで睡眠の質の点数が比較群より良い結果でした1。ただし中国語で発表された小規模な研究が多く、効果がどのくらい続くかも分かっていません。
Q. tDCSでも眠りは良くなりますか?
A. 2024年のレビューに含まれた脳卒中後の睡眠へのtDCSの研究は2件のみで、睡眠の質の点数にははっきりした差がありませんでした1。睡眠時間などの良い結果は1件の睡眠検査の研究に基づきますが、まだ判断できる段階ではありません。
Q. 睡眠薬の代わりにrTMSを使えますか?
A. 薬と比べて良い結果のレビューもありますが、2024年の解析ではrTMS単独と薬のPSQIの差は明確ではありません。睡眠薬を置き換えられるとはいえません1,3。自己判断で睡眠薬をやめたり減らしたりせず、必ず主治医にご相談ください。
Q. 脳刺激に副作用はありますか?
A. 有害事象を報告した研究では、薬との直接比較でrTMSのグループが少なく、偽の刺激との比較では明確な差がありませんでした。ただし報告数が限られ、安全性の保証にはなりません1。けいれんの既往などで受けられない場合もあるため、医師の判断が必要です。
Q. どのくらいの期間、通う必要がありますか?
A. 研究には、1回20〜30分の刺激を週5〜6日、2〜4週間ほど続ける例がありましたが、これは最適な期間を示すものではありません1。医療機関によって方法は異なるため、通院の負担も含めて主治医にご相談ください。
Q. 家族が気をつけることはありますか?
A. 眠れない状態が続く、日中にぼんやりしている、いびきや呼吸の止まりがあるといった様子に気づいたら、主治医に伝えることが大切です。研究でも、睡眠とあわせて気分の落ち込み(抑うつ)の状態が調べられています1,3。