脳卒中後の深部静脈血栓症(DVT)とは?予防とリハビリ中の注意点

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田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脳卒中リハビリ|深部静脈血栓症(DVT)の予防と注意点
脳卒中後の深部静脈血栓症(DVT)とは?リハビリ中に知っておきたい予防と注意点を研究から正直に解説

脳卒中で入院すると、麻痺のある脚を自分で動かせない時間がどうしても長くなります。この「動けない時間」が続くことで起こりやすくなる合併症のひとつが、脚の深い静脈に血のかたまりができる「深部静脈血栓症(DVT)」です。

この記事では、弾性ストッキング、間欠的空気圧迫法(IPC)、早期離床といったリハビリに関わる予防法について、研究で分かっていることと、まだ分かっていないこと、リハビリ中に注意したいポイントを整理します。

この記事の要点
・脳卒中で動けない状態が続くと、発症後1か月以内に1割前後の方に脚のDVTが生じたとする大規模研究があります1
・間欠的空気圧迫法(IPC)は、脚のDVTリスクを下げる方向で有意な効果が確認されています1
・一方、太もも丈の弾性ストッキング単独では、DVTを明確に減らす効果は確認されていません2,3
・弾性ストッキング・IPCとも、皮膚トラブルが増える可能性が報告されています1,2
・早期離床は基本的な対策と考えられていますが、発症直後の急いだ離床には注意が必要とする研究もあります4
SECTION 01
深部静脈血栓症(DVT)とは何か

深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)とは、ふくらはぎから太もも(膝窩静脈・大腿静脈など)にかけての、体の深いところにある静脈に血のかたまり(血栓)ができる状態です。片側の脚だけが腫れる、痛む、皮膚の色や熱感が変わる、といった形で気づかれることがありますが、はっきりした症状がないまま見つかることも少なくありません。

脳卒中の後にDVTができやすくなる理由として、①麻痺で脚を自分で動かせない時間が長くなり血流が滞りやすくなること、②血管の内側が傷つきやすい状態になること、③血液そのものが固まりやすい状態になること、の3つが重なりやすい点が挙げられます。まれに、できた血栓が肺の血管に流れて肺塞栓症(PE)を起こすことがあり、これは命に関わることもある重い合併症です。

脳卒中後に療法士と足関節運動を確認する場面
足関節運動は、体調と安全を確認しながら無理のない範囲で行います。

どのくらいの頻度で起こりうるのかについては、脳卒中でほとんど動けない状態の患者さん2,876名を対象にした大規模な研究で、特別な圧迫予防策を行わなかったグループのうち、発症後30日以内に12.1%が太もも側(近位)のDVTを発症したと報告されています1。すべての方に起こるわけではありませんが、動けない期間が長引くほど注意が必要になる合併症といえます。

SECTION 02
研究では何が示されているのか

脳卒中後のDVTを防ぐ方法として研究で調べられてきたのは、主に①間欠的空気圧迫法(IPC:脚に装着したカフが空気圧で間欠的に圧迫を加える機器)、②弾性ストッキング(GCS)、③早期離床(できるだけ早く座る・立つ・歩く)、④医師の判断による抗凝固薬の4つです。理学療法士・作業療法士が関わりやすいのは主に①〜③です。

RCT(CLOTS 3試験) 2015年

英国94施設で行われたCLOTS 3試験は、発症3日以内でまだ動けない脳卒中患者2,876名を、間欠的空気圧迫法(IPC)を行う群と行わない群に無作為に割り付け、7〜10日目と25〜30日目に脚の超音波検査でDVTの有無を確認しました1

・近位DVTの発生率:IPC群8.5%(122/1,438)に対し、通常ケア群12.1%(174/1,438)
・調整オッズ比0.65(95%CI 0.51〜0.84、p=0.001)と、統計的に意味のある差がありました
・6か月時点の生存率もIPC群でやや良好(ハザード比0.86、95%CI 0.73〜0.99)
・一方で皮膚障害はIPC群3.1%、通常ケア群1.4%(p=0.002)とやや増加
RCT(CLOTS 1試験) 2009年

同じ研究グループが英国・イタリア・オーストラリア64施設で行ったCLOTS 1試験は、太もも丈の弾性ストッキング(GCS)の効果を、脳卒中患者2,518名で検証しました2

・近位DVTの発生率:ストッキング群10.0%(126/1,256)、非着用群10.5%(133/1,262)
・調整オッズ比0.98(95%CI 0.76〜1.27)で、統計的に意味のある差は見られませんでした
・皮膚障害(皮膚裂傷・潰瘍・水疱・皮膚壊死)はストッキング群5.1%、非着用群1.3%(オッズ比4.18、95%CI 2.40〜7.27)と明確に増加

この2つの試験に先立つ2010年のコクランレビューでは、当時までに行われていた小規模な研究をまとめ、弾性ストッキングのDVTリスクへの効果(オッズ比0.88、95%CI 0.72〜1.08)も、IPCの効果(オッズ比0.45、95%CI 0.19〜1.10、対象はわずか177名)も、統計的に明確な差とまではいえないと結論づけていました3。IPCについては、その後2013〜2015年に発表された大規模なCLOTS 3試験によって、より確実な形で効果が示された、という経緯があります1,3

圧迫による方法とあわせて基本になるのが、できるだけ早く座る・立つ・歩くという脳卒中後の早期離床について解説した記事でも取り上げている考え方です。ただし、「早ければ早いほどよい」と単純には言い切れない点が、次に紹介する研究から見えてきます。

コクランレビュー 2018年

早期離床の「開始タイミング」に焦点を当てたコクランレビューでは、9件のRCT・2,958名分のデータをまとめ、発症24時間以内を含む「超早期」の離床が、通常のタイミングの離床と比べて死亡や機能予後にどう影響するかを検証しました4

・死亡または不良な機能予後:超早期離床群50.7%、通常ケア群48.6%(オッズ比1.08、95%CI 0.92〜1.26)
・全体を代表する最大規模の試験(2,104名)の調整後解析では、死亡または不良な機能予後のオッズが有意に高い結果でした(調整オッズ比1.37、95%CI 1.11〜1.69、p=0.004)
・入院期間は超早期離床群でやや短縮(平均1.44日短い)が示されました
SECTION 03
何が変わりやすく、何は変わりにくいか

ここまでの研究を整理すると、DVT予防策によって動きやすい部分と、動きにくい部分がはっきり分かれてきます。

変わりやすいとされている指標
・間欠的空気圧迫法(IPC)による脚の近位DVT発生率(有意な低下)1
・IPC使用時の6か月生存率(わずかな改善)1
はっきりした効果が確認されていない指標
・弾性ストッキング単独でのDVT発生率2,3
・IPC使用時の機能的な予後(Oxford Handicap Scale)や生活の質(QOL)1,6
・超早期離床による転倒によるけがの発生率(明確な差は示されていない)4
増える可能性が報告されているリスク
・弾性ストッキングによる皮膚障害(皮膚裂傷・潰瘍・水疱など)2,3
・IPCによる皮膚障害(軽度なものが中心)1

つまり、「IPCでDVTそのものは減らせる可能性がある」ところまでは研究で支持されていますが、「だから機能的な回復が早まる」「弾性ストッキングだけで安心」とまでは、現時点の研究では言い切れません。この点は、患者さんやご家族に正直にお伝えしておきたい部分です。

SECTION 04
どんな人は特に注意が必要か
予防策の対象として検討されやすい場面
・発症からまだ日が浅く、自力での歩行が難しい状態
・入院中で、医師・看護師を中心に圧迫による予防策の導入が検討されている
・退院後も、片側の重い麻痺などで座っている時間・寝ている時間が長い状態が続いている
・自分でできる範囲で、足首を動かす運動(足関節の背屈運動など)を日課に取り入れたい
とくに注意して進めたい場合
CLOTS 3試験では、次のような状態の方はIPCの対象から外れていました1
・皮膚炎や下肢潰瘍など、皮膚に問題がある
・高度なむくみ(浮腫)がある
・重度の末梢血管疾患がある
・うっ血性心不全がある

また、すでに片方の脚だけに腫れ・痛み・熱感・皮膚の色の変化などDVTを疑う症状がある場合は、リハビリを進める前にまず医療機関へ相談してください。これらの判断は、リハビリ専門職が単独で行うものではなく、主治医・看護師を含めた医療チームで検討する事項です。

機器による圧迫だけでなく、ご本人が自分で行える運動として、足首を上げるトレーニングについて解説した記事で紹介しているような足関節の運動も、現場ではよく取り入れられています。無理のない範囲で、こまめに足首を動かすことが基本になります。

SECTION 05
どのくらいの時期・期間で行われているか

研究で行われていた予防策の進め方には、次のような目安があります。

研究で行われていた進め方の例
IPC(CLOTS 3試験):入院後3日以内に開始し、独歩自立または退院に至るまで、最長30日間継続1
早期離床のタイミング:できるだけ早い時期の座位・立位が基本とされる一方、発症24時間以内を目安とした「超早期」かつ積極的な離床では、かえって不利益になりうるとする研究結果があります4。実際の開始時期・強度は、意識状態や血圧、麻痺の程度などをふまえて医療チームが個別に判断します。
抗凝固薬:出血のリスクと血栓予防の利益を比べて主治医が判断する事項であり、開始・中止・量の調整をリハビリ専門職が単独で決めることはありません5
療法士の見守りのもとで安全に立ち上がる練習場面
離床の開始時期と負荷は、全身状態をみながら医療チームが個別に判断します。

また、離床を進める際には、血圧が急に下がることで生じる立ちくらみにも注意が必要です。起立性低血圧について解説した記事でも触れていますが、DVT対策として早く起き上がろうとするあまり、血圧の変化を見落とさないようにすることも大切なポイントです。

SECTION 06
エビデンスの質と限界

DVT予防に関する研究は大規模なものも含まれますが、正直にお伝えすべき限界もいくつかあります。

・CLOTS 1・3試験とも、参加者や介護スタッフには割り付け内容が分かる状態(非盲検)で行われており、脚の超音波検査を行う技師だけが割り付けを知らされない形で評価の偏りを減らす工夫がされています1,2
・対象者は主に英国を中心とした施設で、参加者の年齢の中央値は76歳前後と高齢の方が中心です。年齢層や医療体制が異なる集団に、同じ結果がそのまま当てはまるとは限りません1,2
・2010年のコクランレビューでは、弾性ストッキングの研究間で結果のばらつき(異質性、I²=65%)があり、肺塞栓症(PE)についてはそもそも発生数が少なく、効果を正確に見積もるだけのデータが不足していると指摘されています3
・早期離床のタイミングに関するレビューでは、日常生活動作(ADL)の指標で研究間のばらつきが非常に大きく(I²=93%)、含まれる研究のエビデンスの確実性は多くの項目で「低い」〜「非常に低い」と評価されています4
・IPCで脚のDVT発生率は下がった一方、機能的な予後や生活の質(QOL)には統計的に意味のある差が見られなかったことも、あわせて報告されています1,6

研究全体では一定の傾向が示されていますが、対象者の重症度、発症からの時期、介入内容が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。効果を保証するものではない、という前提で読んでいただくのが適切です。

SECTION 07
まだ分かっていないこと
どのような重症度・出血リスクの方に、どの予防策が最も向いているかは、患者さん一人ひとりのレベルまでは十分に整理されていません。
・IPCの効果は主に発症後1か月程度の急性期で検証されており、6か月を超えるような長期的な影響への効果は限られた形でしか確認されていません6
・早期離床の研究は主に病院での急性期を対象にしたものが中心で、訪問リハビリのような在宅・回復期以降の場面にそのまま当てはめられるかどうかは、さらに検討が必要です4
・弾性ストッキングや足関節の運動といった、ご本人が生活の中で行えるセルフケアを組み合わせた場合の効果については、十分な検証が進んでいません。

現在の研究でも、どのような方に、どの予防策を、どのくらいの期間続けるのがよいのかは十分に分かっていません。今後は、重症度や発症時期、在宅での生活状況をふまえた検討が必要です。

訪問リハビリで下肢の状態を本人と家族と確認する場面
在宅では、活動量だけでなく脚の左右差や皮膚の変化も本人・家族と共有します。
SECTION 08
Journey Rehabで大切にしていること
🏥 当施設で大切にしている視点

訪問場面では、運動を増やすことだけを目的にせず、座位・臥位の時間、脚の左右差、皮膚の色や熱感、息苦しさの有無を本人・家族と共有します。DVTが疑われる変化があるときは運動で様子を見ず、医療機関への相談を優先します。予防策や離床量は、主治医からの指示、出血リスク、血圧、麻痺の程度を確認して個別に調整します。

まとめ

深部静脈血栓症(DVT)は、脳卒中後、脚を動かせない時間が続くことで起こりやすくなる合併症です。研究では、間欠的空気圧迫法(IPC)が脚のDVT発生率を下げる方向で有意な効果を示す一方、弾性ストッキング単独では明確な効果は確認されておらず、どちらも皮膚トラブルの増加という副作用が伴います。早期離床は基本的な対策と考えられていますが、発症直後の急いだ離床がかえって不利益になる可能性も指摘されており、進め方の見極めが大切です。訪問リハビリの現場では、退院後も座っている時間・寝ている時間が長くなりがちな方に関わることが多く、足首を動かす運動や活動量の確認、そして脚に異変があれば早めに医療機関へつなぐことを大切にしています。

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。深部静脈血栓症(DVT)の予防策や早期離床の進め方は、発症時期、重症度、既往症、出血リスク、全身状態などにより適切な内容が異なります。実施前には必ず担当医師・リハビリ専門職へご相談ください。脚の腫れ・痛み・急な息苦しさなど、DVTや肺塞栓症を疑う症状がある場合は、自己判断せずすみやかに医療機関を受診してください。研究データは執筆時点(2026年8月)のものであり、今後変わる可能性があります。

Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
主治医の指示の範囲内で、身体の状態や生活での困りごとを一緒に確認しながら、進め方を考えます。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
よくある質問
Q. 深部静脈血栓症(DVT)とはどんな病気ですか?
A. 主に脚の深い部分の静脈に血のかたまり(血栓)ができる状態です。片側の脚の腫れや痛みとして気づかれることもありますが、はっきりした症状がないまま見つかることもあります。
Q. 脳卒中の後、なぜDVTになりやすいのですか?
A. 麻痺で脚を自分で動かせない時間が長くなると血流が滞りやすくなり、血管や血液の状態も変化しやすいためと考えられています。すべての方に起こるわけではありません。
Q. リハビリで足を動かすとDVTのリスクは下がりますか?
A. 早期に座ったり立ったりする、足首を動かすといった活動は基本的な対策と考えられていますが、発症直後の急いだ・強すぎる離床にはかえって注意が必要とする研究もあります。進め方は医療チームと相談しながら決めることが大切です。
Q. 弾性ストッキングを着けていれば安心ですか?
A. 大規模な研究では、太もも丈の弾性ストッキング単独で脚のDVT発生率が明確に下がるとはいえず、皮膚トラブルが増える可能性も報告されています。ストッキングだけに頼らず、他の対策とあわせて考えることが大切です。
Q. 訪問リハビリ中に片方の足だけ腫れてきたらどうすればよいですか?
A. 運動をいったん中止し、腫れ・痛み・熱感・皮膚の色の変化がないかを確認したうえで、すみやかに主治医または医療機関へ連絡することをおすすめします。自己判断でのマッサージなどは避けてください。
Q. DVTと診断された場合、リハビリは中止しなければなりませんか?
A. 治療方針は主治医の判断によりますが、一律にすべてのリハビリが中止になるわけではありません。抗凝固薬による治療状況などをふまえ、医療チームと相談しながら進め方を決めていきます。
Q. 抗凝固薬を服用中ですが、リハビリで気をつけることはありますか?
A. 転倒によるけがが出血につながりやすいため、バランス練習などは特に注意して進めます。薬の内容や量の調整は主治医の判断事項であり、リハビリ専門職が単独で決めることはありません。
Q. DVTへの注意はいつまで必要ですか?
A. 研究で予防策が検討されているのは主に発症から1か月前後の急性期です。ただし、麻痺が重く座っている・寝ている時間が長い状態が続く場合は、退院後も脚の状態を定期的に確認することが望ましいと考えられます。
参考文献
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