東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脳卒中で入院すると、麻痺のある脚を自分で動かせない時間がどうしても長くなります。この「動けない時間」が続くことで起こりやすくなる合併症のひとつが、脚の深い静脈に血のかたまりができる「深部静脈血栓症(DVT)」です。
この記事では、弾性ストッキング、間欠的空気圧迫法(IPC)、早期離床といったリハビリに関わる予防法について、研究で分かっていることと、まだ分かっていないこと、リハビリ中に注意したいポイントを整理します。
・間欠的空気圧迫法(IPC)は、脚のDVTリスクを下げる方向で有意な効果が確認されています1
・一方、太もも丈の弾性ストッキング単独では、DVTを明確に減らす効果は確認されていません2,3
・弾性ストッキング・IPCとも、皮膚トラブルが増える可能性が報告されています1,2
・早期離床は基本的な対策と考えられていますが、発症直後の急いだ離床には注意が必要とする研究もあります4
深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)とは、ふくらはぎから太もも(膝窩静脈・大腿静脈など)にかけての、体の深いところにある静脈に血のかたまり(血栓)ができる状態です。片側の脚だけが腫れる、痛む、皮膚の色や熱感が変わる、といった形で気づかれることがありますが、はっきりした症状がないまま見つかることも少なくありません。
脳卒中の後にDVTができやすくなる理由として、①麻痺で脚を自分で動かせない時間が長くなり血流が滞りやすくなること、②血管の内側が傷つきやすい状態になること、③血液そのものが固まりやすい状態になること、の3つが重なりやすい点が挙げられます。まれに、できた血栓が肺の血管に流れて肺塞栓症(PE)を起こすことがあり、これは命に関わることもある重い合併症です。

どのくらいの頻度で起こりうるのかについては、脳卒中でほとんど動けない状態の患者さん2,876名を対象にした大規模な研究で、特別な圧迫予防策を行わなかったグループのうち、発症後30日以内に12.1%が太もも側(近位)のDVTを発症したと報告されています1。すべての方に起こるわけではありませんが、動けない期間が長引くほど注意が必要になる合併症といえます。
脳卒中後のDVTを防ぐ方法として研究で調べられてきたのは、主に①間欠的空気圧迫法(IPC:脚に装着したカフが空気圧で間欠的に圧迫を加える機器)、②弾性ストッキング(GCS)、③早期離床(できるだけ早く座る・立つ・歩く)、④医師の判断による抗凝固薬の4つです。理学療法士・作業療法士が関わりやすいのは主に①〜③です。
英国94施設で行われたCLOTS 3試験は、発症3日以内でまだ動けない脳卒中患者2,876名を、間欠的空気圧迫法(IPC)を行う群と行わない群に無作為に割り付け、7〜10日目と25〜30日目に脚の超音波検査でDVTの有無を確認しました1。
同じ研究グループが英国・イタリア・オーストラリア64施設で行ったCLOTS 1試験は、太もも丈の弾性ストッキング(GCS)の効果を、脳卒中患者2,518名で検証しました2。
この2つの試験に先立つ2010年のコクランレビューでは、当時までに行われていた小規模な研究をまとめ、弾性ストッキングのDVTリスクへの効果(オッズ比0.88、95%CI 0.72〜1.08)も、IPCの効果(オッズ比0.45、95%CI 0.19〜1.10、対象はわずか177名)も、統計的に明確な差とまではいえないと結論づけていました3。IPCについては、その後2013〜2015年に発表された大規模なCLOTS 3試験によって、より確実な形で効果が示された、という経緯があります1,3。
圧迫による方法とあわせて基本になるのが、できるだけ早く座る・立つ・歩くという脳卒中後の早期離床について解説した記事でも取り上げている考え方です。ただし、「早ければ早いほどよい」と単純には言い切れない点が、次に紹介する研究から見えてきます。
早期離床の「開始タイミング」に焦点を当てたコクランレビューでは、9件のRCT・2,958名分のデータをまとめ、発症24時間以内を含む「超早期」の離床が、通常のタイミングの離床と比べて死亡や機能予後にどう影響するかを検証しました4。
ここまでの研究を整理すると、DVT予防策によって動きやすい部分と、動きにくい部分がはっきり分かれてきます。
・IPC使用時の6か月生存率(わずかな改善)1
・IPC使用時の機能的な予後(Oxford Handicap Scale)や生活の質(QOL)1,6
・超早期離床による転倒によるけがの発生率(明確な差は示されていない)4
・IPCによる皮膚障害(軽度なものが中心)1
つまり、「IPCでDVTそのものは減らせる可能性がある」ところまでは研究で支持されていますが、「だから機能的な回復が早まる」「弾性ストッキングだけで安心」とまでは、現時点の研究では言い切れません。この点は、患者さんやご家族に正直にお伝えしておきたい部分です。
・入院中で、医師・看護師を中心に圧迫による予防策の導入が検討されている
・退院後も、片側の重い麻痺などで座っている時間・寝ている時間が長い状態が続いている
・自分でできる範囲で、足首を動かす運動(足関節の背屈運動など)を日課に取り入れたい
・皮膚炎や下肢潰瘍など、皮膚に問題がある
・高度なむくみ(浮腫)がある
・重度の末梢血管疾患がある
・うっ血性心不全がある
また、すでに片方の脚だけに腫れ・痛み・熱感・皮膚の色の変化などDVTを疑う症状がある場合は、リハビリを進める前にまず医療機関へ相談してください。これらの判断は、リハビリ専門職が単独で行うものではなく、主治医・看護師を含めた医療チームで検討する事項です。
機器による圧迫だけでなく、ご本人が自分で行える運動として、足首を上げるトレーニングについて解説した記事で紹介しているような足関節の運動も、現場ではよく取り入れられています。無理のない範囲で、こまめに足首を動かすことが基本になります。
研究で行われていた予防策の進め方には、次のような目安があります。

また、離床を進める際には、血圧が急に下がることで生じる立ちくらみにも注意が必要です。起立性低血圧について解説した記事でも触れていますが、DVT対策として早く起き上がろうとするあまり、血圧の変化を見落とさないようにすることも大切なポイントです。
DVT予防に関する研究は大規模なものも含まれますが、正直にお伝えすべき限界もいくつかあります。
・対象者は主に英国を中心とした施設で、参加者の年齢の中央値は76歳前後と高齢の方が中心です。年齢層や医療体制が異なる集団に、同じ結果がそのまま当てはまるとは限りません1,2。
・2010年のコクランレビューでは、弾性ストッキングの研究間で結果のばらつき(異質性、I²=65%)があり、肺塞栓症(PE)についてはそもそも発生数が少なく、効果を正確に見積もるだけのデータが不足していると指摘されています3。
・早期離床のタイミングに関するレビューでは、日常生活動作(ADL)の指標で研究間のばらつきが非常に大きく(I²=93%)、含まれる研究のエビデンスの確実性は多くの項目で「低い」〜「非常に低い」と評価されています4。
・IPCで脚のDVT発生率は下がった一方、機能的な予後や生活の質(QOL)には統計的に意味のある差が見られなかったことも、あわせて報告されています1,6。
研究全体では一定の傾向が示されていますが、対象者の重症度、発症からの時期、介入内容が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。効果を保証するものではない、という前提で読んでいただくのが適切です。
・IPCの効果は主に発症後1か月程度の急性期で検証されており、6か月を超えるような長期的な影響への効果は限られた形でしか確認されていません6。
・早期離床の研究は主に病院での急性期を対象にしたものが中心で、訪問リハビリのような在宅・回復期以降の場面にそのまま当てはめられるかどうかは、さらに検討が必要です4。
・弾性ストッキングや足関節の運動といった、ご本人が生活の中で行えるセルフケアを組み合わせた場合の効果については、十分な検証が進んでいません。
現在の研究でも、どのような方に、どの予防策を、どのくらいの期間続けるのがよいのかは十分に分かっていません。今後は、重症度や発症時期、在宅での生活状況をふまえた検討が必要です。

訪問場面では、運動を増やすことだけを目的にせず、座位・臥位の時間、脚の左右差、皮膚の色や熱感、息苦しさの有無を本人・家族と共有します。DVTが疑われる変化があるときは運動で様子を見ず、医療機関への相談を優先します。予防策や離床量は、主治医からの指示、出血リスク、血圧、麻痺の程度を確認して個別に調整します。
深部静脈血栓症(DVT)は、脳卒中後、脚を動かせない時間が続くことで起こりやすくなる合併症です。研究では、間欠的空気圧迫法(IPC)が脚のDVT発生率を下げる方向で有意な効果を示す一方、弾性ストッキング単独では明確な効果は確認されておらず、どちらも皮膚トラブルの増加という副作用が伴います。早期離床は基本的な対策と考えられていますが、発症直後の急いだ離床がかえって不利益になる可能性も指摘されており、進め方の見極めが大切です。訪問リハビリの現場では、退院後も座っている時間・寝ている時間が長くなりがちな方に関わることが多く、足首を動かす運動や活動量の確認、そして脚に異変があれば早めに医療機関へつなぐことを大切にしています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。深部静脈血栓症(DVT)の予防策や早期離床の進め方は、発症時期、重症度、既往症、出血リスク、全身状態などにより適切な内容が異なります。実施前には必ず担当医師・リハビリ専門職へご相談ください。脚の腫れ・痛み・急な息苦しさなど、DVTや肺塞栓症を疑う症状がある場合は、自己判断せずすみやかに医療機関を受診してください。研究データは執筆時点(2026年8月)のものであり、今後変わる可能性があります。
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
2. CLOTS Trials Collaboration, Dennis M, Sandercock PAG, Reid J, Graham C, Murray G, Venables G, Rudd A, Bowler G. Effectiveness of thigh-length graduated compression stockings to reduce the risk of deep vein thrombosis after stroke (CLOTS trial 1): a multicentre, randomised controlled trial. Lancet. 2009. DOI:10.1016/S0140-6736(09)60941-7. PMID:19477503. PMCID:PMC2692021.
3. Naccarato M, Chiodo Grandi F, Dennis M, Sandercock PAG. Physical methods for preventing deep vein thrombosis in stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2010. DOI:10.1002/14651858.CD001922.pub3. PMID:20687069. PMCID:PMC9896018.
4. Langhorne P, Collier JM, Bate PJ, Thuy MNT, Bernhardt J. Very early versus delayed mobilisation after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2018. DOI:10.1002/14651858.CD006187.pub3. PMID:30321906. PMCID:PMC6517132.
5. Qaseem A, Chou R, Humphrey LL, Starkey M, Shekelle P; Clinical Guidelines Committee of the American College of Physicians. Venous thromboembolism prophylaxis in hospitalized patients: a clinical practice guideline from the American College of Physicians. Ann Intern Med. 2011. DOI:10.7326/0003-4819-155-9-201111010-00011. PMID:22041951.
6. CLOTS (Clots in Legs Or sTockings after Stroke) Trials Collaboration. Effect of intermittent pneumatic compression on disability, living circumstances, quality of life, and hospital costs after stroke: secondary analyses from CLOTS 3, a randomised trial. Lancet Neurol. 2014. DOI:10.1016/S1474-4422(14)70258-3. PMID:25453458.
