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田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脳卒中後の起立性低血圧(立ちくらみ)とは?血圧が下がる理由とリハビリ中の対策を正直に解説
内容確認日:2026年7月25日
「ベッドから起き上がると、目の前がスーッと暗くなる」「リハビリで立ち上がった直後にふらついて、気分が悪くなる」——脳卒中のあとに、こうした立ちくらみを経験する方は少なくありません。立ち上がったときに血圧が大きく下がる状態を、起立性低血圧(きりつせいていけつあつ)と呼びます。結論から正直にお伝えすると、起立性低血圧そのものを根本から取り除くのは簡単ではありませんが、立ち上がり方の工夫や体への対策で、症状がやわらぐ可能性は報告されています。この記事では、作業療法士の立場から、なぜ血圧が下がるのか、そしてリハビリの場面でできる対策について、研究で分かっていることと、まだ分かっていないことを整理します。
この記事の内容
SECTION 01
起立性低血圧とは何か・なぜ脳卒中後に多いのか
起立性低血圧は、寝た姿勢や座った姿勢から立ち上がったときに、血圧が大きく下がる状態を指します。医学的には、立ち上がって(または頭を高くして)3分以内に、上の血圧(収縮期血圧)が20mmHg以上、または下の血圧(拡張期血圧)が10mmHg以上下がる場合をいいます1。血圧が下がると脳へ届く血液が一時的に足りなくなり、めまい、ふらつき、目の前が暗くなる、頭が重い、力が入らない、といった症状が出ます。強いときには意識が遠のき、転んでしまうこともあります1。
脳卒中のあとに立ちくらみが起こりやすくなる背景には、いくつかの理由が重なっています。ひとつは、入院や体調不良でベッドに寝ている時間が長くなると、血圧を保つ体の仕組みが働きにくくなること。もうひとつは、脳卒中や持病、あるいは服用しているお薬(血圧を下げる薬など)が血圧の調節に影響することです。水分が不足していると、さらに起こりやすくなります1,3。とくにリハビリを始めたばかりの時期は、少しずつ体を起こしていく段階で立ちくらみが出やすく、いつから安全に動き始めるかという判断とも関わります(脳卒中後の早期離床について解説した記事もあわせてご覧ください)。
急に立たず、いったん座位で体調を確かめることが安全につながります。
SECTION 02
研究で分かっている対策
まず全体像です。起立性低血圧への対策は、大きく「お薬による方法」と「お薬を使わない方法(生活や体の使い方の工夫)」に分けられます。ここでは、リハビリの場面で取り入れやすい、お薬を使わない工夫を中心にご紹介します。高齢の方や神経の病気のある方を対象に、これらの工夫を検討した研究をまとめたシステマティックレビュー2では、いくつかの方法で立ちくらみがやわらぐ傾向が報告されています。ただし、効果は方法によってばらつきがあり、すべての人に同じように当てはまるわけではありません。
研究紹介|システマティックレビュー(2020年・43研究・1,069名)
Loganらのシステマティックレビュー2では、高齢の方や神経の病気(脳卒中を含む)のある方を対象に、お薬を使わない起立性低血圧の対策を検討した43の研究(合計1,069名)を集めて分析しました。その結果、脚を組む・ふくらはぎの筋肉を動かす(筋ポンプ)・前かがみになるといった体の動かし方や、おなかを軽く圧迫すること、少量ずつ回数を分けて食べること、コップ約480mLの水を飲むことが、立ちくらみをやわらげる方向に働くと報告されました。一方で、下肢を包帯で圧迫する方法や筋力トレーニング単独では、統計的にはっきりした効果は示されませんでした。著者らは「効果は方法によってまちまちで、中等度から重度の障害がある方には向かない対策もある」と述べています。
別の総説1でも、こうした工夫の考え方が整理されています。起立性低血圧の対策の多くは、「足の方にたまりやすい血液を、心臓のほうへ戻しやすくする」ことをねらいとしています。立ち上がる前にふくらはぎや太ももに力を入れる、脚を交差させる、といった動き(フィジカル・カウンターマニューバと呼ばれます)は、その場でできる代表的な工夫です1,3。また、コップ1〜2杯(300〜500mL)の水を一気に飲むと、一時的に血圧が上がることも報告されています1,3。おなかを軽く圧迫する腹帯(ふくたい)は、下肢の圧迫よりも効果が示されやすいとする報告もあります3。
なお、立ちくらみと「めまい・ふらつき」は、原因も対策も一部で重なりますが、まったく同じではありません。血圧の下がりによる立ちくらみなのか、耳やバランスの仕組みによるふらつきなのかで、確認すべきことが変わります。ふらつきの背景については、脳卒中後のめまい・ふらつきと前庭リハビリについて解説した記事もあわせてご覧いただくと、違いが分かりやすいと思います。
SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
エビデンスの質と限界
正直にお伝えすると、お薬を使わない起立性低血圧の対策は、研究の数が少なく、方法や対象者が研究ごとに大きく異なります2。ある評価では、多くの工夫が「弱い推奨・非常に低い〜低い質の根拠」にとどまるとされています3。そのなかで、おなかを圧迫する腹帯は比較的しっかりした根拠(中等度の質)が示されている一方、下肢だけの圧迫や塩分の増量などは、結果が一定しないと報告されています3。研究全体では立ちくらみがやわらぐ傾向はあるものの、対象者や方法が異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
まだ分かっていないこと
・脳卒中の方だけを対象にした研究は少なく、どの方にどの対策が最も合うのかは十分に分かっていません2。
・どの工夫を、どのくらいの強さ・頻度で組み合わせるのが良いのか、最適な進め方ははっきり決まっていません2,3。
・水分や塩分を増やす方法は、心臓や腎臓に持病のある方では慎重さが必要で、だれにでも勧められるわけではありません1,3。
・立ちくらみをやわらげることと、転倒そのものを減らせるかは別の問題で、長期的な影響は十分に検証されていません2。
・どの工夫を、どのくらいの強さ・頻度で組み合わせるのが良いのか、最適な進め方ははっきり決まっていません2,3。
・水分や塩分を増やす方法は、心臓や腎臓に持病のある方では慎重さが必要で、だれにでも勧められるわけではありません1,3。
・立ちくらみをやわらげることと、転倒そのものを減らせるかは別の問題で、長期的な影響は十分に検証されていません2。
立つ前の足首運動などは、必ず支えのある安全な姿勢で行います。
SECTION 04
何が期待でき、何は変わりにくいか
正直に整理します。期待しやすいのは、立ち上がる「その場面」での症状のやわらぎです。立ち上がる前に脚に力を入れる、ゆっくり段階的に起き上がる、こまめに水分をとる、といった工夫で、目の前が暗くなる感じやふらつきが軽くなり、リハビリや生活動作を続けやすくなることがあります1,2。立ちくらみが減ると、その分だけ立って行う練習や歩く練習に取り組みやすくなる、という現場での利点もあります。
一方で、変わりにくい・はっきりしないのは、血圧を調節する仕組みそのものの回復です。脳卒中や自律神経の状態、服用中のお薬などが背景にある場合、対策で症状はやわらいでも、起立性低血圧が完全になくなるわけではありません3。「その場で症状をやわらげ、安全に動けるようにする」ための工夫として捉えるのが現実的だと考えています。
SECTION 05
どんな人に注意が必要か
とくに立ちくらみが起こりやすいのは、入院などでベッドに寝ている時間が長かった方、離床を始めたばかりの時期、水分が不足しがちな方、血圧を下げるお薬を飲んでいる方などです1,3。こうした方は、立ち上がるときの一工夫が特に役立ちやすい一方で、無理をすると転倒につながるため注意も必要です。立ちくらみは転倒の一因にもなりうるため、対策は転倒への備えとあわせて考えると安心です(脳卒中後の転倒リスクと対策について解説した記事もご参照ください)。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと:
水分や塩分を多めにとる方法は、心不全・腎臓病・むくみのある方では体に負担がかかることがあり、だれにでも勧められるわけではありません1,3。また、頭を高くして眠る方法や薬の調整は、横になったときに逆に血圧が高くなる「仰臥位(ぎょうがい)高血圧」に注意が必要です3。水分・塩分の量やお薬のことは、必ず主治医に確認してください。立ちくらみが強い、失神した、頻繁に転ぶといった場合は、自己判断で対策を続けず、担当の医師やリハビリ専門職にご相談ください。
水分や塩分を多めにとる方法は、心不全・腎臓病・むくみのある方では体に負担がかかることがあり、だれにでも勧められるわけではありません1,3。また、頭を高くして眠る方法や薬の調整は、横になったときに逆に血圧が高くなる「仰臥位(ぎょうがい)高血圧」に注意が必要です3。水分・塩分の量やお薬のことは、必ず主治医に確認してください。立ちくらみが強い、失神した、頻繁に転ぶといった場合は、自己判断で対策を続けず、担当の医師やリハビリ専門職にご相談ください。
すぐに救急要請を考える症状
突然の新しい手足の麻痺・しびれ、顔のゆがみ、ろれつが回らない、激しい頭痛、胸の痛み、強い息苦しさ、意識が戻らない・長くもうろうとする症状は、単なる立ちくらみと決めつけないでください。脳卒中の再発や心臓の病気など緊急性の高い状態の可能性があるため、ためらわず119番へ連絡してください4。
突然の新しい手足の麻痺・しびれ、顔のゆがみ、ろれつが回らない、激しい頭痛、胸の痛み、強い息苦しさ、意識が戻らない・長くもうろうとする症状は、単なる立ちくらみと決めつけないでください。脳卒中の再発や心臓の病気など緊急性の高い状態の可能性があるため、ためらわず119番へ連絡してください4。
症状が出たら無理に動かず、安全な場所で座る・横になることを優先します。
SECTION 06
進め方・生活での取り入れ方の目安
研究や現場でよく用いられる進め方は、次のような形です。いずれも「目安」であり、体調やお薬によって調整が必要です1,2,3。
1. 段階的に起き上がる … 「寝る→座る→少し待つ→立つ」と、間に一呼吸おいて体を慣らす。
2. 立つ前の一工夫 … 立ち上がる直前に、ふくらはぎや太ももに数回力を入れる、足踏みをする、脚を組んでから立つ。
3. こまめな水分 … 主治医の指示の範囲で、日中にこまめに水分をとる。朝など立ちくらみが出やすい時間の前にコップ1杯を目安に。
4. 食事は少量頻回 … 一度にたくさん食べると食後に血圧が下がりやすいため、量を分ける。
5. 就寝時の頭部挙上 … 主治医と相談のうえ、必要に応じてベッドの頭側を少し高くする。
2. 立つ前の一工夫 … 立ち上がる直前に、ふくらはぎや太ももに数回力を入れる、足踏みをする、脚を組んでから立つ。
3. こまめな水分 … 主治医の指示の範囲で、日中にこまめに水分をとる。朝など立ちくらみが出やすい時間の前にコップ1杯を目安に。
4. 食事は少量頻回 … 一度にたくさん食べると食後に血圧が下がりやすいため、量を分ける。
5. 就寝時の頭部挙上 … 主治医と相談のうえ、必要に応じてベッドの頭側を少し高くする。
大切なのは、一度にすべてを完璧に行うことではなく、その方の体調と生活リズムに合う工夫を、専門職と一緒に少しずつ取り入れることです。
SECTION 07
専門職と確認したい実践上のポイント
専門職が確認する主な項目
立ち上がり前後の血圧や脈の変化、どの姿勢・どの時間帯に症状が出やすいか、水分や食事のとり方、服用中のお薬、体調(脱水・発熱・体重変化)を確認します。立ちくらみが出やすい方には、いきなり立つのではなく、段階的な体位変換と、立つ前の一工夫を練習に組み込みます。心臓や腎臓の持病がある方は、水分・塩分の対策を主治医と共有したうえで進めます。
まとめると、脳卒中後の起立性低血圧は、立ち上がったときに血圧が下がって立ちくらみが起こる状態で、脳卒中後の体の状態やお薬、臥床の影響が背景にあります。お薬を使わない工夫で症状がやわらぐ可能性は報告されていますが、根拠の質にはばらつきがあり、脳卒中の方だけを対象にした研究は多くありません。だからこそ、血圧や体調を確認しながら、その方に合う対策を安全に取り入れていくことが大切だと考えています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の治療・診断を推奨したり、医療行為に代わるものではありません。起立性低血圧の原因や対策の向き不向きには個人差があり、水分・塩分の調整やお薬に関する判断は必ず主治医に確認が必要です。実施の前には、担当の医師やリハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点のもので、今後の研究で評価が変わる可能性があります。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
立ち上がりや歩き出しでの不安について、身体の状態を一緒に確認しながらリハビリの進め方を考えます。
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
Q & A
よくある質問
Q. 立ち上がるたびに立ちくらみがします。どうすればいいですか?
まずは「寝る→座る→少し待つ→立つ」と段階的に起き上がり、立つ直前に脚に数回力を入れてみてください1。それでも強い立ちくらみが続く場合は、お薬や体調が関係していることもあるため、主治医にご相談ください。
Q. 水を飲むと立ちくらみは軽くなりますか?
コップ1〜2杯の水を飲むと、一時的に血圧が上がると報告されています1,3。ただし心臓や腎臓に持病がある方は水分量の制限があることもあるため、量は主治医の指示に従ってください。
Q. 弾性ストッキングや腹帯は役に立ちますか?
研究では、おなかを軽く圧迫する腹帯のほうが、下肢だけの圧迫より効果が示されやすいと報告されています3。合う・合わないがあるため、使う場合は専門職に相談して選ぶと安心です。
Q. 塩分を多めにとったほうがいいと聞きましたが本当ですか?
塩分や水分を増やす方法は一部で用いられますが、結果は一定せず、心不全や腎臓病のある方には負担になることがあります1,3。自己判断で増やさず、必ず主治医に確認してください。
Q. 立ちくらみは時間がたてば自然になくなりますか?
臥床が長かったことが原因の場合、少しずつ体が慣れて軽くなることもあります。一方で、自律神経やお薬が背景にある場合は続くこともあります3。経過や対策は個別に異なるため、専門職と確認しながら進めるのがおすすめです。
Q. 家でリハビリの立ち上がり練習をしても大丈夫ですか?
立ちくらみが出やすい方は、必ず手すりや椅子など支えのそばで、無理のない範囲から始めてください。強いふらつきや失神があった方は、まず担当の医師やリハビリ専門職に安全な進め方を確認しましょう。
REFERENCES
参考文献
1. Ali A, Ali NS, Waqas N, Bhan C, Iftikhar W, Sapna F, et al. Management of Orthostatic Hypotension: A Literature Review. Cureus. 2018;10(8):e3166. PMID: 30357001.
2. Logan A, Freeman J, Pooler J, Kent B, Gunn H, Billings S, et al. Effectiveness of non-pharmacological interventions to treat orthostatic hypotension in elderly people and people with a neurological condition: a systematic review. JBI Evid Synth. 2020;18(12):2556-2617. PMID: 32773495.
3. Eschlböck S, Wenning G, Fanciulli A. Evidence-based treatment of neurogenic orthostatic hypotension and related symptoms. J Neural Transm (Vienna). 2017;124(12):1567-1605. PMID: 29058089.
4. 公益社団法人 日本脳卒中協会. 脳卒中の主な症状. 公式ページ(2026年7月25日閲覧).
2. Logan A, Freeman J, Pooler J, Kent B, Gunn H, Billings S, et al. Effectiveness of non-pharmacological interventions to treat orthostatic hypotension in elderly people and people with a neurological condition: a systematic review. JBI Evid Synth. 2020;18(12):2556-2617. PMID: 32773495.
3. Eschlböck S, Wenning G, Fanciulli A. Evidence-based treatment of neurogenic orthostatic hypotension and related symptoms. J Neural Transm (Vienna). 2017;124(12):1567-1605. PMID: 29058089.
4. 公益社団法人 日本脳卒中協会. 脳卒中の主な症状. 公式ページ(2026年7月25日閲覧).
