東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脊髄損傷後は、運動・感覚・自律神経の働きが低下するため、同じ姿勢が続くと皮膚に圧力が集中し、褥瘡(床ずれ)が起こりやすくなります。生涯のうちに褥瘡を経験する方は8割以上にのぼるとも報告されており1、一度できると治りにくく、入院の長期化や生活の制限につながることも少なくありません。結論から先にお伝えすると、体位変換の「最適な頻度・角度」は研究でもまだ確立しておらず3、電気刺激や自己管理教育プログラムについても、現時点では「効果がはっきりしない」「研究の質が低い」という正直な評価にとどまっています1,2,4。この記事では、研究で分かっていることと、まだはっきりしないことを整理します。
2. 体位変換・ポジショニングの研究では何が分かっているか
3. 電気刺激・自己管理教育プログラムの研究
4. エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
5. 何が変わりやすく、何は変わりにくいか
6. どんな人に注意が必要か
7. 訪問リハビリで検討するときの視点
8. よくある質問
9. 参考文献
脊髄損傷では、運動麻痺による同一姿勢の持続に加え、感覚麻痺により痛みや違和感を感じにくいこと、自律神経の障害により皮膚の血流調整がうまく働かないことが重なり、骨が突出した部位(仙骨・坐骨・かかと・肘など)に圧力とずれ(せん断力)が集中しやすくなります。受傷後1年目の褥瘡発生率は14.7%と報告され、その後も増え続けるとされています1。一度褥瘡ができると、入院の長期化やリハビリの中断、心理的な負担につながることもあり、予防の重要性が強調されています1。

「何時間ごとに体位を変えればよいか」は、褥瘡予防でもっともよく聞かれる質問のひとつですが、実は研究でもはっきりした答えが出ていません。
ベッド上・車椅子上での体位変換や除圧動作の効果を検討したレビューです。脊髄損傷923人を含む2,834人分のデータを整理した結果、皮膚圧力の測定方法や体位の記述が研究ごとにバラバラで、体位変換の「最適な頻度」を示す前向き研究は見つかりませんでした。ただし、90度側臥位(真横向き)は大転子(太もも付け根の骨の出っ張り)部分の圧力が高くなりやすいため避けることが望ましいとされています。座位では、リクライニングやティルト(傾ける動作)によって座面の圧力は分散される一方、リクライニングはずれ(せん断力)のリスクを高める可能性も指摘されています。著者は「褥瘡リスクは個人差が非常に大きく、画一的な体位変換の指針では対応しきれない」と結論づけています3。
つまり、「2時間おきに体位変換」のような一律のルールは、研究で裏付けられた最適解というより、実務上の目安に近いものです。実際には、皮膚の状態、褥瘡の既往、麻痺の程度、クッションやマットレスの種類に応じて、頻度や方法を個別に調整する必要があります3。
体位変換以外の予防・治療アプローチとして、電気刺激療法や、本人・家族向けの自己管理(セルフマネジメント)教育プログラムが研究されています。結果は、期待したいところですが、正直に言うと「まだ弱い」というのが現状です。
電気刺激療法(ES)の褥瘡予防・治療効果をまとめたレビューです。治療目的で使われた11件の研究すべてで、ESが褥瘡の治癒を促進したと報告されています。一方で、研究全体の方法論的な質は低く、特に予防目的の研究でその傾向が強いとされました。ES機器の種類(表面電極・ES下着・仙骨神経根刺激装置など)や刺激パラメータが研究ごとに大きく異なるため、著者は「特定の標準的な方法を推奨できる段階ではない」と結論づけています1。
皮膚ケアに関する自己管理教育プログラムの内容と効果を検討したレビューです。介入内容としては「行動のやり方の指示」「信頼できる情報源からの説明」「社会的サポート」が多く用いられていました。効果を検証した10件のRCTでは、知識や自己効力感の改善は見られたものの、褥瘡の発生率・重症度といった臨床的なアウトカムへの効果を裏付ける証拠は限られていました2。
行動・教育的介入(在宅の地域生活者を対象)の褥瘡予防効果を検討したレビューです。5件(RCT3件・準実験2件)すべてで、褥瘡発生・再発・皮膚損傷という結果指標に有意な効果は示されませんでした。研究の対象者募集、介入の実施忠実度、参加者の継続率にも方法論的な課題があったとされ、著者は「現時点で行動・教育的介入の有効性を支持する肯定的な証拠はない」と述べています4。
この結果は「教育をしても意味がない」ということではなく、「褥瘡発生という結果に直結させるのが難しい」ことを示しています。知識や自己効力感が上がっても、それが実際の体位変換や皮膚チェックの継続につながるとは限らないためです2,4。

褥瘡予防の研究には共通した限界があります。体位変換の研究は測定方法や体位の記述がバラバラで統合できず3、電気刺激の研究は方法論的な質が低く、特に予防目的の研究で顕著です1。自己管理教育の研究は知識・自己効力感といった代理指標では効果が見えても、褥瘡発生という本来知りたい結果指標では効果が確認しにくい状態です2,4。
1. 体位変換の最適な頻度・角度・タイミングは、脊髄損傷の方を対象にした前向き研究がなく、確立していません3。
2. 電気刺激の至適パラメータ(刺激部位・強度・時間)や、予防目的での有効性は、質の高い研究が不足しています1。
3. どのような自己管理教育の内容(行動変容技法の組み合わせ)が褥瘡発生の減少に結びつくかは、まだ分かっていません2。
4. 教育・行動的介入が結果指標に結びつきにくい理由が、介入内容の問題か、実施・継続の難しさによるものかは十分に検証されていません4。
研究の数値は集団の平均的な傾向です。麻痺の程度や範囲、皮膚の状態、褥瘡の既往、生活環境によって、必要な予防策は一人ひとり異なります。この記事の内容を自己判断で当てはめず、医療機関・訪問看護と相談しながら進めることが大切です。
・90度側臥位を避けること(大転子部の圧力が高くなりやすいため)3
・自己管理教育による知識・自己効力感の向上2
・電気刺激の予防目的での有効性(研究の質が低い)1
・行動・教育的介入による褥瘡発生率そのものの減少2,4
大切なのは「これさえやれば防げる」という単独の方法を探すのではなく、体位変換・皮膚チェック・適切な福祉用具(クッション・マットレス)・栄養状態の管理を組み合わせて、個別に調整していくことです。歩行や移動の練習については、脊髄損傷後の歩行トレーニングについて解説した記事もあわせてご覧ください。
完全麻痺で感覚が失われている方、車椅子での生活時間が長い方、過去に褥瘡を経験したことがある方、痙縮が強く姿勢が崩れやすい方、栄養状態が低下している方は、褥瘡のリスクが特に高いとされます。痙縮による姿勢の崩れやすさについては脊髄損傷後の痙縮管理について解説した記事もご覧ください。
・皮膚の熱感、腫れ、痛み、色の変化がある(感覚が低下していても、これらのサインが出ることがあります)
・水疱やびらん、皮膚の欠損がある
・発熱や、褥瘡部からの分泌物・においの変化がある
・短期間で急速に悪化している

褥瘡予防を検討するときは、まず主治医・訪問看護から出されている創傷管理やスキンケアの指示内容を確認します。そのうえで、移乗・座位保持・寝返りといった生活動作の中で、圧力やずれがどこにかかりやすいかを評価し、「研究で一定の方向性が示されている部分(90度側臥位を避ける、既存の褥瘡への電気刺激など)」と「まだはっきりしない部分(体位変換の最適頻度など)」を分けてご本人・ご家族に説明することを大切にしています。体位変換の間隔や方法は、一律のルールを当てはめるのではなく、皮膚の状態を見ながら訪問看護・主治医と情報共有し、段階的に調整していく関わりを基本にしています。
本記事は、株式会社Journey Rehab代表の作業療法士・田中 光が執筆し、文献内容を2026年9月15日に確認しました。当社の訪問自費リハビリの案内を含みますが、特定の医療機器・治療メーカーから本記事作成に関する資金提供は受けていません。外部の医師による個別監修は受けていないため、診断や治療方針は主治医へご相談ください。
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
2. Baron JS, Sullivan KJ, Swaine JM, Aspinall A, Jaglal S, Presseau J, White B, Wolfe D, Grimshaw JM. Self-management interventions for skin care in people with a spinal cord injury: part 1-a systematic review of intervention content and effectiveness. Spinal Cord. 2018. doi:10.1038/s41393-018-0138-3. PMID: 29802393. PMCID: PMC6128818. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29802393/
3. Groah SL, Schladen M, Pineda CG, Hsieh CHJ. Prevention of Pressure Ulcers Among People With Spinal Cord Injury: A Systematic Review. PM R. 2015. doi:10.1016/j.pmrj.2014.11.014. PMID: 25529614. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25529614/
4. Cogan AM, Blanchard J, Garber SL, Vigen CLP, Carlson M, Clark FA. Systematic review of behavioral and educational interventions to prevent pressure ulcers in adults with spinal cord injury. Clinical Rehabilitation. 2017. doi:10.1177/0269215516660855. PMID: 27440806. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27440806/

