
脳卒中のあと、「足のつま先が上がらず、段差でひっかかる」「歩くときに足が地面に擦れて怖い」と感じる方は少なくありません。
リハビリの現場では、このようなご不安をよく伺います。これは「下垂足(かすいそく)」と呼ばれ、単なる筋力低下ではなく、脳からの指令がうまく届かないことや、筋肉のつっぱり(痙縮)が原因です。
この記事では、認定作業療法士として多くの患者様のリハビリに携わってきた経験と、ガイドラインや最新の臨床研究の視点から、「効果的な足関節背屈のリハビリ」について解説します。
※本記事は情報提供を目的としており、医師の診断や治療に代わるものではありません。痛みや不安がある場合は主治医・担当療法士へご相談ください。

足関節背屈筋はなぜ重要か
足関節背屈筋(前脛骨筋など)は、歩行中に「つま先が地面に当たらないようにする」ために重要です。背屈の筋力が弱まると、
- つま先が床に擦れやすい
- 段差やカーペットでひっかかりやすい
- また転ぶかも、という怖さが増える
といった困りごとにつながりやすくなります。
そのため下垂足への対応は、
①背屈を出しやすくする・鍛える(機能回復)
②装具や刺激で“安全に歩く”を支える(代償・補助)
の両方で組み立てるのが現実的です。
下垂足(つま先が下がる状態)が起こる理由
下垂足は「単に筋力が落ちた」だけではなく、脳卒中による脳の運動神経の損傷から生じています。
神経の損傷によって生じる主な症状は、次の2つです。
- つま先を上げる筋肉(前脛骨筋など)の働きが弱くなる/入りにくくなる
- ふくらはぎ側(下腿三頭筋など)がつっぱりやすくなる(痙縮)
この2つが重なると、つま先を上げたいのい、ふくらはぎ側に引っ張られやすくなり、つま先が上がりにくくなります。ここを見極めないまま筋トレだけを行うと、思った効果が得られにくくなる可能性があります。
脳卒中の当事者の方では、2つの症状でどちらの影響を強く受けているかわからないことが多く、専門家による細かい評価が必要となります。そのため、詳しく知りたい方は専門家へ確認してもらうことをお勧めします。
ガイドラインの基本方針(日本)
日本の『脳卒中治療ガイドライン2021』では、以下の内容が示されています。
- 下垂足を呈する脳卒中患者に対して、歩行機能を改善させる目的で機能的電気刺激(FES)を行うことは妥当である。(推奨度B、エビデンスレベル高)
※ガイドラインには推奨度がA〜Dまであり、推奨度Bというものは「行うことは妥当である」というものとなります。
つまり、効果が期待できる選択肢の一つだが、「誰にでも必ず効く」とは限らないため、個々の状態に合わせて、歩行練習や装具と組み合わせて選ぶことが重要です。
今回は、ガイドラインで推奨されている訓練内容と+αで科学的根拠のある効果が示されているリハビリを紹介していくとともに、向いている人や注意点などを解説していきたいと思います。
① つま先を上げる筋肉(前脛骨筋など)を強化するリハビリ介入

1)電気刺激療法
電気刺激療法には多くの種類があります。
過去に公開された多くの研究から電気刺激の効果をまとめた研究(He W,2025)では、以下の結果が報告されています。
電気刺激療法を従来のリハビリに追加すると、足関節背屈の可動域や下肢運動機能(FMA-LE)が改善しやすい、というまとめが示されています。
特に回復期で効果が出やすい傾向が示されている一方で、生活期(発症後6か月以降)では研究結果のばらつきが大きく、効果は限定的で個人差があります。
ここでは、臨床でよく使われる「皮膚に貼るタイプ」の電気刺激を3つに分けて説明します。
① 経皮的電気神経刺激(TENS): 痛みや不快感、つっぱり(痙縮)が強くて動きにくいときに、練習に入りやすくする目的で使う。
②神経筋電気刺激(NMES): 背屈筋(前脛骨筋など)を実際に収縮させる練習が目的。座位やベッド上でも行いやすい。
③機能的電気刺激(FES): 歩行などの動作のタイミングに合わせて背屈を助け、“引っかかり”を減らすのが目的。
これらの3種類が最も臨床上用いられる電気刺激のリハビリ手法です。
①経皮的電気神経刺激(TENS)
皮膚の上から“感覚の神経”を刺激して、痛みの感じ方を和らげる方法です。
また、研究によっては痙縮(つっぱり)を一時的に軽くし、歩きやすさやバランスを助ける可能性も報告されています。
何が期待できる?
- 痛み(肩・腰・膝・手足など)の軽減
- 痙縮が強いときに、練習に入りやすくなる可能性(効果は個人差・一時的なこともある)
向いている人(例)
- 脳卒中後に痛みがつらくて練習量が減っている
- つっぱりが強く、ストレッチや歩行練習がやりにくい
効果的な使用方法
- リハビリ場面では、「TENSだけで歩けるようにする」ではなく、TENSで痛み/つっぱりを和らげたうえで、背屈練習や歩行練習を行うのがことが多いです。
②NMES(神経筋電気刺激)=「筋肉を動かす練習の電気」
運動神経や筋肉に刺激を入れて、**筋収縮(実際の筋の収縮)**を起こす方法です。
イメージとしては、SIXPAD(シックスパッド)のような家庭用EMS機器です。
※ただし家庭用EMSと“似た刺激”でも、医療用NMESは目的・設定・貼付部位・安全管理が別です。自己流の代用は避け、まずは専門家に相談してください。
何が期待できる?
- 自力で入りにくい背屈筋の収縮を引き出し、“使い方の練習量”を増やす
- 運動練習と組み合わせることで、機能改善につながる可能性(個人差あり)
向いている人(例)
- 自分の力だけでは背屈が出にくいが、刺激で前脛骨筋の収縮が得られる
- 神経の強化に加えて、可動域を拡大させる必要がある人
効果的な使用方法
- 自分で足関節の背屈を動かす力が弱い方に対して、動きを強化する目的で行うことが多いです。
③FES(機能的電気刺激)=「動作の中で使えるようにする電気」
NMESと同様に筋収縮を起こしますが、最大の特徴は、歩行など“動作のタイミング”に合わせて刺激する点です。
何が期待できる?
- 歩行中のつま先の引っかかりが減り、その場で歩きやすくなる(即時効果)
- 歩行練習量が増え、結果として動作が良くなる可能性(個人差あり)
向いている人(例)
- 「歩くときにつま先が引っかかる」という困りごとが明確な人
- 歩行中に足関節の背屈筋が働くが力が弱いもの
- 装着や練習を継続できる(家族サポート含む)
効果的な使用方法
歩行中の正しいタイミングで筋肉の収縮が入るように、療法士がタイミングを合わせて行うことが多いです。他にも、電気制御でタイミングを合わせて収縮させる方法もあります。
実際の臨床現場では、これらの電気刺激療法を目的に応じて、刺激の種類・貼る位置・練習課題を調整することが多いです。運動麻痺が重度な人ほど、NMESから開始して神経を強化した上で、他の運動課題や歩行練習中にTENSやFESを併用した練習を行う人が多いです。
※電気刺激(TENS/NMES/FES)を検討するときは、次に当てはまる場合は必ず主治医・担当療法士に確認してください。(木村浩彰,2017)
- ペースメーカーなど体内植込み型医療機器がある
- 皮膚に傷・湿疹・ただれがあり電極を貼れない
- 感覚が鈍く、刺激の強さを判断しにくい
- てんかん発作の既往がある(頭部刺激を含む治療では特に)
※最終的な可否は、機器の説明書・既往歴・刺激部位によって異なる。
2) 経頭蓋直流電気刺激(tDCS)

tDCS(経頭蓋直流電気刺激)
ここまでは一般的なリハビリをご紹介しましたが、近年、研究分野で注目されているのが「経頭蓋直流電気刺激(tDCS)」です。 頭皮の上から微弱な電流を流し、脳の活動をサポートする手法ですが、現在はまだ実施できる医療機関が限られています。
何が期待できる?
- 背屈筋(前脛骨筋など)の“入り”が良くなる可能性がある(反応時間や筋活動などの指標で検討した研究がある)。
- tDCS 単独というより、背屈練習や歩行練習などの運動療法と併用したときに、歩行・バランス・下肢機能の改善が短期的に示唆される。
向いている人(例)
- 背屈が「少しは出る/出そうで出ない」など、“促通”の余地がある
- 併用して運動練習(背屈練習・歩行練習)に取り組める
- 痙縮(つっぱり)も絡んでいて、背屈が邪魔されているタイプ
- 専門職の管理下で、刺激条件を調整しながら進められる(安全面・効果面の両方)
注意:
tDCS は、臨床研究の蓄積では重篤な有害事象はまれと整理されている。一方で、以下のような軽い副反応は起こり得る(多くは一時的)。
- 皮膚のピリピリ感、かゆみ、赤み
- 軽い頭痛、だるさ、めまい感 など
事前に必ず確認したいこと(自己判断で進めない)
- 事前に必ず確認したいこと(自己判断で進めない)
- てんかん発作の既往、発作リスクに関わる病歴
- 頭部の手術歴、頭部に金属や医療機器がある
- 電極を貼る部位の皮膚トラブル(湿疹・傷)
- 強い不整脈、植込み型医療機器がある(必ず主治医に確認するのが安全)
※安全性は「条件を守った管理下の研究」で整理されているため、個別の適応判断は医療機関が前提である。
※※一般的なリハビリ病院では導入されていないことも多い。興味がある場合は、tDCS を扱う専門外来・研究的治療を行う施設で相談ください。
3) 装具療法

装具には、足首や足の角度を支えて、つま先が下がりすぎないように補助する装具です。
詳しい装具の情報についてはこちらのページでもまとめていますので、ぜひご確認ください。
装具の役割は大きく以下の2つが挙げられます(Choo YJ,2021)
- つま先の引っかかりを減らして、転びにくくする
- 足の安定性をサポートして、バランス能力や日常生活・屋外活動を広げることができます
こんな人に向きやすい(目安)
- つま先が擦る/段差で引っかかる
- 外が怖くて歩く量が減っている
- 疲れると足が上がらない
- まずは転倒を減らしたい
効果的な使用方法
- 装具は「装着するだけで背屈筋が強くなる器具」ではありません。
主な役割は、つま先の引っかかりを防ぎながら、代償的な歩き方を減らし、正しい歩行パターンを日常生活の中で繰り返せるように補助することです。
実際の臨床では、装具をつけて安全に歩ける環境が整うことで、「つま先を上げて歩く感覚」が日常の動きに定着しやすい方を多く経験しています。
その結果、装具を使いながら歩く中で、背屈の動きを意識しやすくなり、歩行中に“足を持ち上げる感覚”がつかみやすくなることがあります。
② ふくらはぎ側(下腿三頭筋など)がつっぱりやすくなる(痙縮)へのリハビリ介入
足下垂には、底屈筋群の痙縮が関与することがある。下腿三頭筋(ふくらはぎの筋肉)の痙攣を抑制することで足関節背屈可動域を改善し、良好な治療効果を達成できることが報告されています。(He W,2025)
最新の研究(Tilborg NAWV,2025)では、痙縮の予防に対して以下の効果が示されています。
1. ボツリヌス療法(ボトックス)
最も強い根拠が示されています。一貫して有意な痙縮の軽減が認められました。
特に、発症後3ヶ月以内の早期介入として、痙縮を軽減させるために推奨されています。
2. 電気刺激療法
おそらく有効であると結論づけられており、機能的電気刺激(FES)などは痙縮を軽減する可能性があると示唆されています。ただし、ボトックスほど根拠が強くありません。
臨床では、ふくらはぎのつっぱり(痙縮)が背屈の動きを邪魔している場合、まずはそのつっぱりを和らげる介入(例:ボツリヌス療法、物理療法、電気刺激など)で「動きやすい土台」を作ります。
そのうえで、つま先を上げる練習(背屈の促通・反復練習)を組み合わせると、背屈が出やすくなったり、歩行練習が進めやすくなることがあります(※効果には個人差があります)。
※適応判断は医師の領域。痛み・皮膚トラブル・関節拘縮が疑われる場合は必ず医療機関へ。
まとめ
脳卒中後の足関節背屈筋力の低下は、脳卒中による脳の運動神経の損傷から生じています。
- つま先を上げる筋肉(前脛骨筋など)の働きが弱くなる/入りにくくなる
- ふくらはぎ側(下腿三頭筋など)がつっぱりやすくなる(痙縮)
これらを強化していくには、電気刺激療法を中心とした介入を中心に行い、装具を使用して機能を補助した状態での反復練習が必要です。焦らず、専門家と相談しながら、あなたに合った最適なプランを見つけていきましょう。
本記事は教育・情報提供を目的としています。個別の診療判断は医療機関で行ってください。
参考文献
・日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会(改訂2025). 『脳卒中治療ガイドライン 2021〔改訂 2025〕』, 日本脳卒中学会, 2025年6月30日. https://www.jsts.gr.jp/img/guideline2021_kaitei2025_kaiteikoumoku.pdf
Choo YJ, Chang MC. Effectiveness of an ankle-foot orthosis on walking in patients with stroke: a systematic review and meta-analysis. Sci Rep. 2021 Aug 5;11(1):15879. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8342539/
He W, Yaning L, Shaohong Y. Effect of electrical stimulation in the treatment on patients with foot drop after stroke: a systematic review and network meta-analysis. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2025 May;34(5):108279. https://www.strokejournal.org/article/S1052-3057(25)00058-8/fulltext
木村浩彰,三上幸夫,牛尾会,澤衣利子,上田健人:運動障害以外の疾患に対するエビデンスに基づいた電気刺激療法.Jpn J Rehabil Med 54(8):590-595,2017.https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/54/8/54_590/_pdf
Tilborg NAWV, de Groot V, Meskers CGM. The effectiveness of early interventions for post-stroke spasticity: a systematic review. Disabil Rehabil. 2025 Feb;47(4):900-https://www.tandfonline.com/doi/10.1080/09638288.2024.2363963?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed#abstract
執筆者情報

株式会社Journey Rehab 代表|田中 光
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士前期課程 在籍
▪️経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:自費訪問リハビリ分野に活動を広げ、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
▪️ 研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
▪️論文執筆
