
MathiowetzらのRCTはMSのある169人を即時受講群と待機群に割り付け、6週間のエネルギー温存コースを評価しました。コース受講は疲労影響尺度の身体・社会下位尺度を改善し、エネルギー管理を実行する自己効力感も上昇しました。FACETSの多施設RCTは有意な疲労を報告する164人を対象に、認知行動的要素とエネルギー効率化を組み合わせたプログラムを通常支援に追加し、4か月時点で疲労重症度と自己効力感の改善を報告しました。1, 2 結果は対象者や評価時点の範囲で読み、個別の相談と安全確認を優先します。
多発性硬化症(MS)に伴う疲労のある人に、エネルギー温存・疲労管理教育は通常支援と比べ疲労の影響や自己効力感を改善するか。 本文では研究結果と限界、生活で試せる環境調整、安全上の相談目安を分けて紹介します。
- MSの疲労と日常生活への影響
- エネルギー管理の研究結果
- 効果をどう解釈するか:研究の限界
- 家事や仕事での具体的な調整例
- 作業療法士の視点:大切な活動を残す
- 安全上の注意・中止と医療相談の目安
- まとめ・よくある質問・参考文献
MSの疲労と日常生活への影響
MSの疲労は、活動後だけでなく、暑さ、睡眠不足、痛み、気分、薬剤、感染などと関係して変動する場合があります。活動の調整は生活を保つ選択肢ですが、疲労の原因を評価する代わりにはなりません。
MSの疲労は、運動した後の疲れだけでなく、集中を続けにくい、午前中にできた家事が午後は難しい、外出の翌日に予定を減らす必要があるといった形でも現れます。疲労の感じ方は本人にしか分からない部分があるため、単に活動量を増やすか減らすかだけでは十分に捉えられません。何を続けたいかと、何が負担になっているかを一緒に整理します。
新しい疲労をすべてMSによるものと考えないことも重要です。睡眠、痛み、気分、薬の影響、感染症などを確認する必要があり、NICEのMSガイドラインも疲労の評価で他の要因に目を向けています。急な変化があれば、活動の組み方だけで対応しようとせず医療機関に相談します。
エネルギー管理の研究結果
主な研究結果
MathiowetzらのRCTはMSのある169人を即時受講群と待機群に割り付け、6週間のエネルギー温存コースを評価しました。コース受講は疲労影響尺度の身体・社会下位尺度を改善し、エネルギー管理を実行する自己効力感も上昇しました。FACETSの多施設RCTは有意な疲労を報告する164人を対象に、認知行動的要素とエネルギー効率化を組み合わせたプログラムを通常支援に追加し、4か月時点で疲労重症度と自己効力感の改善を報告しました。1, 2
研究の数値は集団平均であり、個人の目標値や練習量を示すものではありません。

Mathiowetzらの研究は、エネルギーを節約する知識を生活に当てはめる教育を評価したもので、単に休む時間を増やす実験ではありません。疲労影響尺度の一部と自己効力感に差があった一方、この結果から再発予防や神経学的障害の改善まで推論することはできません。
FACETSは疲労への対処と考え方を含む複合的なグループプログラムです。複数の要素が同時に提供されたため、個々の工夫のどれが結果にどの程度寄与したかは特定できません。1年追跡では164人の無作為化対象者全員のデータが得られたわけではなく、長期結果の解釈には脱落も考慮します。
効果をどう解釈するか:研究の限界
教育介入は本人を盲検化できず、自己報告尺度が中心です。参加者がコースを完了できる状況にあることも結果に影響します。介入内容・期間・評価尺度が異なるため、どの方法が個人に最適かは分かりません。疲労は睡眠、痛み、気分、薬、感染、貧血など複数の要因と関係し、疲労管理だけで原因の評価を置き換えられません。
教育プログラムでは受講者に割り付けを隠せず、主な結果は本人の質問票です。本人が実感する疲労を測る上で自己報告は大切ですが、期待による影響を完全に除くことは難しい方法です。対象者はプログラムに参加できる人に限られ、強い障害や認知面の困難がある方への適用は個別に検討する必要があります。
「何分活動し何分休むのが全員に最適か」という処方は研究から得られていません。日による症状の波や仕事・育児などの役割も異なります。効果が十分でない場合も本人の努力不足と捉えず、疲労の原因と支援方法を再評価します。
家事や仕事での具体的な調整例
一週間、疲れが強い時間、活動、睡眠、休憩をメモし、負担が集中する場面を探します。洗濯物を小分けにする、座って調理する、よく使う物を腰から肩の高さに置く、用事を連続させず休息を挟む、といった環境調整を試せます。これは一定の運動量を勧める処方ではなく、本人の優先したい活動を保つ工夫です。
困りごとが起きる場面を一つ選び、本人が続けたい活動と安全上の課題を担当者と共有します。

予定表には活動名だけでなく、開始前後の疲労、休んだ後の回復、翌日の影響を書き添えると調整の材料になります。例えば午前中に調理と掃除を続けると午後に外出できないなら、掃除を別日に移す、調理を座位で行う、買い物を配送に替えるなど、優先したい活動を残す方法を検討できます。予定を詰め込める日だけを基準にしないことが大切です。
職場では本人の同意と希望を踏まえ、会議と集中作業の間に休息を取れるか、通勤と業務の負担を分けられるか、必要な配慮を産業保健職と話し合います。病名だけで一律の業務制限を決めるのではなく、仕事内容と体調の変動を確認します。
作業療法士の視点:大切な活動を残す
作業療法士は「疲れを減らす」だけではなく、本人にとって大切な家事・仕事・余暇のどれを残すかを一緒に考えます。活動記録から一日の負荷と回復時間を見直し、必要に応じて神経内科、看護師、理学療法士、職場の産業保健職と連携します。
Journey Rehabでは、自費リハビリを含め、診断や医療機関での治療を置き換えるのではなく、ご本人の生活目標と現在の支援内容を踏まえた相談を行います。訪問リハビリのサービス内容、料金・ご利用の流れ、代表・スタッフについてをご覧ください。

作業療法士は、動作を小分けにするだけでなく、道具の配置、座る場所、家族との役割分担、仕事の段取りを一緒に確認します。負担の大きい活動を機械的にすべて削ると、本人にとって大切な参加も失いかねません。活動記録を使って「残したいこと」と「別の方法でできること」を相談し、効果がなければ方法を見直します。
安全上の注意・中止と医療相談の目安
新しい、急激に強い、数日以上続く疲労や、発熱・感染兆候、視力変化、手足の脱力・感覚低下、ふらつき、排尿の変化を伴うときは、再発や別の原因も含め主治医へ早めに相談してください。活動中の胸痛、失神しそうな感覚、強い息切れがあれば中止して医療相談を。暑さで症状が一時的に悪化する人もいるため、涼しい環境と休憩を確保します。
医療者から個別の中止基準を説明されている場合は、その指示を優先してください。
休息を取っても普段と違う強い疲れが続く場合、感染症や再発などの可能性を本人だけで判断しないでください。新たな視力低下、麻痺、歩きにくさ、排尿の変化などが現れた場合は主治医へ早めに連絡します。活動中の胸痛や失神、強い呼吸困難はすぐに活動を中止し、緊急の医療対応を検討してください。
まとめ
MathiowetzらのRCTはMSのある169人を即時受講群と待機群に割り付け、6週間のエネルギー温存コースを評価しました。コース受講は疲労影響尺度の身体・社会下位尺度を改善し、エネルギー管理を実行する自己効力感も上昇しました。FACETSの多施設RCTは有意な疲労を報告する164人を対象に、認知行動的要素とエネルギー効率化を組み合わせたプログラムを通常支援に追加し、4か月時点で疲労重症度と自己効力感の改善を報告しました。1, 2 ただし、研究の対象や測定指標には限界があり、全員への効果や最適な方法が定まったわけではありません。本人の生活で困っている場面を記録し、必要な専門職へ相談して、安全性を確かめながら調整してください。
よくある質問
Q. エネルギー管理でMSの疲労はなくなりますか?
A. なくなるとは限りません。研究では疲労の影響や自己効力感などに平均的な改善が報告されていますが、対象やプログラムが限られ、個人差があります。
Q. まず何から記録するとよいですか?
A. 疲れが強くなる時間帯、睡眠、服薬、活動と休息を無理のない範囲で記録し、医療者と共有します。記録のために休息を削らないでください。
Q. どんな症状なら医療機関へ相談しますか?
A. 急に悪化した疲労や、視力・筋力・感覚・歩行・排尿の新しい変化、発熱や感染兆候は主治医へ早めに相談してください。胸痛、失神、強い息切れが活動中に起きた場合は中止して緊急性を確認します。
参考文献
- Mathiowetz VG, Finlayson ML, Matuska KM, Chen HY, Luo P. Randomized controlled trial of an energy conservation course for persons with multiple sclerosis. Mult Scler. 2005;11(5):592–601. RCT/crossover, n=169. PMID: 16193899. DOI: 10.1191/1352458505ms1198oa. PubMed
- Thomas S, Thomas PW, Kersten P, et al. One year follow-up of a pragmatic multi-centre randomised controlled trial of a group-based fatigue management programme (FACETS) for people with multiple sclerosis. BMC Neurol. 2014;14:109. RCT follow-up, n=164 randomized; 131 with 1-year outcomes. PMID: 24886398. DOI: 10.1186/1471-2377-14-109. PubMed
- Salomè A, Sasso D’Elia T, Franchini G, et al. Occupational Therapy in Fatigue Management in Multiple Sclerosis: An Umbrella Review. Mult Scler Int. 2019:2027947. PMID: 31016045. PMCID: PMC6448334. DOI: 10.1155/2019/2027947. PubMed
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表