
先に結論
問題解決療法や行動活性化療法では、気分の評価で良い結果が報告されています。ただし、対象者や方法で結果が異なり、日常生活の自立が高まるとまでは言えません。落ち込みが続くときは主治医に相談し、専門的な心理支援と生活での支えを一緒に考えましょう。
「何をしても楽しくない」「リハビリをする気持ちになれない」――脳卒中のあと、こうした気分の落ち込みを経験する方は少なくありません。この記事では、薬以外の方法として研究されている心理療法(認知行動療法、行動活性化療法、問題解決療法など)について、研究で分かっていることと、まだ分かっていないことを作業療法士の立場から正直に整理します。結論から言うと、心理療法には期待できる研究がある一方で、結果は研究によって分かれており、「これをすれば確実に気分が晴れる」と言える段階ではありません12。
この記事で分かること
- 研究の対象・比較条件・結果と、分かっていないこと
- 検査の評価と、生活場面でできることを分けて考える視点
- 生活での相談例と、安全上の注意・中止や受診の目安
脳卒中後の気分の落ち込みと心理療法とは
脳卒中のあとのうつ(脳卒中後うつ)は、脳卒中を経験した方の約31%にみられると紹介されています1。気分の落ち込みは、生活の質やリハビリへの取り組みにも影響しやすく、本人だけでなくご家族にとっても大きな負担になります1。
一方で、脳卒中後は言葉や認知の障害、身体のだるさなどが重なるため、うつに気づかれにくいことも指摘されています1。「性格が変わった」「やる気がない」と受け止められがちな変化の中に、気分の問題が隠れていることがあります。やる気が出にくい状態(アパシー)はうつとは別の問題として扱われることもあり、脳卒中後のアパシーについて解説した記事で詳しく整理しています。
この記事で扱う「心理療法」とは、専門職との対話を通して、考え方のくせや行動のパターン、目の前の困りごとへの対処法を一緒に整理していく方法です。代表的なものに次のような方法があります。

研究では何が分かっているか
研究結果は「期待できるものがある一方、はっきりしない結果もある」というのが正直なところです。主な研究を紹介します。
脳卒中後うつへのさまざまな方法を比べた23件のランダム化比較試験(1,542名)をまとめた研究では、抗うつ薬や反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)で抑うつの点数が下がる結果が示されました1。心理療法と抗うつ薬を組み合わせた方法では、うつの状態から抜け出した方の割合が対照より高かった(オッズ比2.25)と報告されています1。ただし、この研究の中では、心理療法だけでは対照と比べてはっきりした差がみられなかったという過去のレビューも紹介されています1。
脳卒中で入院した450名を、①精神科看護師による問題解決療法(退院後に自宅で実施、中央値5回)、②ボランティアによる一般的な支え、③通常のケアの3群に分けた研究です2。12か月後、問題解決療法の群では心理的な苦痛を表す質問票(GHQ-28)の点数が中央値3点と、通常ケア群の5点より低い結果でした2。一方、「うつと判定される方の割合」や日常生活の自立度では、はっきりした差はみられませんでした2。
診断基準を満たすうつには至らない抑うつ症状がある発症3か月以内の70名を無作為に割り付け、65名を解析した試験で、週1回50分・6週間の行動活性化療法を行った研究では、抑うつの点数が通常ケアより低く、割り付けから3か月の時点でも差がみられました3。経過中にうつと判定された方は、行動活性化療法の群で12.1%、対照群で31.3%でした3。ただし、1つの病院で行われた小規模な研究です3。
英国で行われた行動活性化療法の試験的な研究(48名)でも、6か月後の抑うつの点数が通常ケアより低い傾向が報告されていますが、本格的な検証はこれからとされています4。また、脳卒中後うつの方に認知行動療法を行った英国のランダム化比較試験(123名)では、気分や生活の自立度に通常ケアとの差がみられなかったと報告されています5。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと:
「死にたい」「消えてしまいたい」と感じる、眠れない・食べられない状態が続く、急に気分や行動が大きく変わった、といった場合は、心理療法や運動の工夫よりも先に、主治医や精神科・心療内科への相談を優先してください。ご家族が気づいたときも、ためらわずに医療機関へ相談することが大切です。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
脳卒中後うつへの心理療法の研究には、次のような限界があります。気分の問題を予防する試験や軽度の抑うつ症状を対象とする試験もあり、診断されたうつへの治療と同じ対象ではありません。
どのような方(失語症や認知の障害がある方、重いうつの方など)にどの心理療法が最も合うのか、何回・どのくらいの期間行うのがよいのかは、まだ十分に分かっていません13。効果がどのくらい長く続くのかについても、長期間追跡した研究は限られています24。
研究全体では一定の傾向がありますが、結果は研究によって分かれており、質の高い大規模な研究はまだ少ない状況です15。気分の落ち込みの背景は人によって異なるため、研究結果をすべての方に同じように当てはめることはできません。
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
心理的な苦痛や抑うつの点数(問題解決療法・行動活性化療法)23、活動に向かう気持ちの指標(行動活性化療法)3、薬と組み合わせた場合のうつから抜け出す割合1。
「うつと判定される方の割合」そのもの(研究によって差がはっきりしない)2、日常生活の自立度や活動量25、長期的な経過2。
どんな人に検討され、どんな人は注意が必要か
気分の落ち込みや意欲の低下が続き、生活やリハビリに影響している方、薬以外の方法も知りたい方、軽い抑うつ症状がある段階で相談したい方などでは、主治医と相談しながら心理的な支援を検討する場面があります13。
強い抑うつ、希死念慮、急な行動の変化がある場合は、まず医療機関での評価が必要です。失語症や注意・記憶の障害がある方では、言葉を中心とした方法が合わないこともあるため、方法の工夫が必要です。また、抗うつ薬を自己判断で中止・変更しないことも大切です。
取り組み方の目安
以下は研究で採用された条件や集団向けの目安です。個人への練習処方ではありません。体調、合併症、評価結果に合わせて、始め方・量・中止基準を担当の医療職と決めてください。
紹介した研究では、行動活性化療法は週1回50分を6週間3、問題解決療法は退院後の4か月間に中央値5回2といった形で行われていました。ただし、最適な回数や期間はまだ分かっていません。
心理療法は、公認心理師や臨床心理士、精神科医などの専門職が担う領域です。リハビリの専門職ができることとしては、本人にとって大切な活動を一緒に見つける、できそうな小さな目標から生活の中の活動を増やす、気分の変化に気づいたら主治医につなぐ、といった関わりがあります。体を動かすことと気分の関係については、脳卒中後の気分の落ち込みと運動・リハビリについて解説した記事もあわせてご覧ください。
同じ経験をした人と話すことが支えになる方もいます。脳卒中後のピアサポートについて解説した記事では、当事者同士の交流に関する研究を紹介しています。

中止・受診・救急の目安
「死にたい」「自分を傷つけそう」と感じ、安全を保てない場合は一人にならず、家族や周囲に助けを求めて救急医療につながってください。強い不眠、食事が取れない、急な行動の変化があるときは早めに医療機関へ相談します。薬を自己判断で中断せず、活動を増やす工夫だけで受診を先延ばしにしないでください。
作業療法士の視点と生活での工夫
生活の目標から考える
生活を支える視点では、活動を増やす前に「何が負担か」「どんなことを大切にしたいか」を本人の言葉で確かめます。たとえば、園芸が好きなら、長時間の庭仕事ではなく、座って一鉢の状態を見るなど、本人が選べる小さな活動を相談する方法があります。これは心理療法そのものの代替ではありません。うまくできたかを責めず、睡眠・食事・疲労や気分の変化を医療職と共有し、専門的な心理療法や薬の判断は医療機関につなげて考えます。

ご自宅の生活やリハビリについて相談したい方へ
脳卒中後の気分の落ち込みは、本人の努力不足ではありません。心理療法には期待できる研究がある一方で、まだ結論が出ていない部分も多くあります。気分の変化に早めに気づき、主治医や心の専門職とつながりながら、本人にとって大切な活動を少しずつ取り戻していくことが大切だと考えています。
まとめ
よくある質問
Q. 脳卒中のあとに気分が落ち込むのはよくあることですか?
Q. 心理療法だけで脳卒中後の気分の落ち込みは和らぎますか?
Q. 行動活性化療法とはどんなものですか?
Q. 失語症があっても心理療法は受けられますか?
Q. 家族として気をつけることはありますか?
Q. リハビリの専門職に心理療法をしてもらえますか?
参考文献
ご自宅の生活やリハビリについて相談したい方へ


