脳卒中後の気分の落ち込みとうつ|運動・リハビリでできること

· 脳卒中下肢関連情報,脳卒中上肢関連情報
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
Journey Rehab SEO Article
脳卒中後の気分の落ち込み(うつ)と運動・リハビリ|研究で分かっていることと生活での向き合い方

脳卒中のあとに「何もやる気が出ない」「眠れない」「楽しかったことが楽しめない」と感じる方は少なくありません。これは気持ちの弱さではなく、脳卒中後によく見られる体と心の反応の一つと考えられています。この記事では、気分の落ち込みと運動・リハビリの関係について、研究で分かっていることと、生活の中でどう向き合うかを整理します。

脳卒中後の気分の落ち込みについて生活リズムを相談する場面
この記事の要点
・脳卒中後の気分の落ち込みは、脳のダメージ、生活の変化、体の不自由さが重なって起こりやすいと考えられています。
・運動や心理的なサポートには、研究上、抑うつ症状をやわらげる小〜中程度の傾向が報告されていますが、効果の大きさは研究によってばらつきます。
・薬(SSRI)は気分の面で一定の役割が示されていますが、運動機能の回復をうながす目的での常用は推奨されていません。
・まずは「つらさを一人で抱えない」ことが出発点で、医師や専門職と相談しながら無理のない範囲で体を動かすことが大切です。
SECTION 01
脳卒中後の「気分の落ち込み」とは

脳卒中後に気分が落ち込みやすくなるのは、本人の性格や努力の問題ではありません。脳そのもののダメージ、体の動かしにくさ、これまでの生活や役割が変わったことなど、いくつもの要因が重なって起こると考えられています。具体的には、眠れない、食欲がない、好きだったことに興味がわかない、疲れやすい、集中できない、といったサインが続くことがあります。

こうした状態は「脳卒中後うつ」と呼ばれることがあり、リハビリへの取り組みやすさや回復の経過にも関わることが知られています。だからこそ、気分の落ち込みは「気合いで乗り切るもの」ではなく、体の症状と同じように、医療者と一緒に確認していくテーマだと考えています。

SECTION 02
研究で分かっていること

結論から言うと、運動や心理的なサポートは抑うつ症状をやわらげる方向に働く傾向が報告されていますが、その大きさは控えめで、研究ごとにばらつきがあります。「やれば必ず良くなる」というより、「役立つ可能性のある選択肢の一つ」として捉えるのが現実的です。

研究から読み取れること
薬を使わない介入(運動、心理社会的サポート、音楽療法など)を集めたメタアナリシスでは、抑うつ症状に対して小さいながらも有意な改善傾向(標準化平均差 −0.24)が示され、その傾向はフォローアップ時にも続いていました2。ただし運動だけを取り出した解析では明確な効果は確認されておらず、心理社会的サポートや音楽を取り入れたアプローチで効果が見られた点には注意が必要です2。一方、薬(SSRI)に関するCochraneレビューでは、抑うつスコアをわずかに下げる効果は示されたものの、運動機能の回復をうながす目的での常用を支持する確かな根拠はないと結論づけられています1。運動の種類を比べたネットワークメタアナリシスでは、有酸素運動や太極拳などで抑うつ指標が下がる可能性が報告されていますが、研究の質や対象に限りがあり、補助的な情報として慎重に解釈する必要があります3
脳卒中後の気分の落ち込みに対して軽い運動と家族支援を行う場面
SECTION 03
何が変わりやすく、何は変わりにくいか

変わりやすいのは、生活リズムや活動量、人との関わりの量です。少しずつ体を動かす、決まった時間に外の光を浴びる、誰かと話す時間をつくる、といった積み重ねは、気分の波に良い方向で関わることがあります。一方で、気分の落ち込みそのものは波があり、短期間で大きく変わるとは限りません。睡眠、痛み、疲れやすさ、薬の影響なども絡むため、原因を一つに決めつけないことが大切です。

また、強い気分の落ち込みや「消えてしまいたい」といった気持ちがあるときは、運動だけで対応するものではありません。こうしたサインは医療的な対応が必要なため、早めに主治医や専門職に相談してください。

SECTION 04
どんな人に向いているか・注意したい人

「家にこもりがちで活動量が減っている」「やってみたい気持ちはあるが一歩が出ない」という方は、無理のない範囲で体を動かす取り組みと相性が良いことがあります。一方で、強い抑うつ、自殺を考えるような気持ち、急な体調変化があるときは、まず医療機関での評価が優先されます。

⚠ 忘れたくない大切なこと
気分の落ち込みは、本人の努力不足でも、家族の関わり方が悪いせいでもありません。眠れない日が続く、食べられない、強い不安や「消えてしまいたい」という気持ちがあるときは、運動の前に必ず主治医や専門職へ相談してください。早めに相談することは、決して大げさなことではありません。
SECTION 05
取り組みの頻度や進め方の目安

研究では、軽めの有酸素運動などを週に数回、数週間続ける形が多く用いられています。ただし大切なのは「正しい回数」をこなすことより、続けられる無理のない量から始めることです。最初は短い散歩や、座ったままできる体操、好きな音楽を聴きながらの活動でも構いません。体調や気分の波に合わせて、できた日を責めずに記録していくと、自分のペースが見えやすくなります。具体的な内容や強さは、体の状態や持病に合わせて専門職と一緒に決めることをおすすめします。

SECTION 06
Journey Rehabでの現場経験
当施設での経験
脳卒中後の気分の落ち込みは、現場でもしばしば経験する問題です。薬剤に頼ることも選択肢の一つですが、運動に関するエビデンスがあることに加え、人との関わりやご家族の関わり方を整えることも、セラピストとして重要な役割だと感じています。脳卒中という大きな病気を経験すると、誰にでも気分の落ち込みが起こり得ます。その背景には、生活の変化だけでなく、病気そのものの影響が関わっている場合もあります。ご本人とご家族がその点を理解し、その人に必要な支援へつながる手助けになればと考えています。
気持ちと体のことを一緒に相談したい方へ
「今の自分に合った体の動かし方を知りたい」「生活リズムを一緒に見直したい」など、身体の状態を一緒に確認しながらリハビリの進め方を考えます。
無料相談はこちら
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨ではありません。気分の落ち込みや運動・リハビリの内容は、主治医や担当専門職に相談しながら調整してください。強い抑うつや「消えてしまいたい」という気持ちがあるときは、早めに医療機関へご相談ください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍

経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中

研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表

論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
FAQ
よくある質問
運動をすれば気分の落ち込みはなくなりますか?
運動は気分にプラスに働く可能性が研究で示されていますが、効果の大きさは控えめで個人差があります。なくなることを保証するものではなく、医療や生活面の支援と組み合わせて考えるものです。
気分が落ち込むのは自分が弱いからですか?
いいえ。脳卒中後の気分の落ち込みは、脳のダメージや生活の変化が関わる体の反応の一つで、努力不足ではありません。一人で抱えず相談してください。
薬を飲めば運動の回復も早くなりますか?
気分に対する薬の役割は研究で一定程度示されていますが、運動機能の回復をうながす目的での常用を支持する確かな根拠は乏しいとされています。薬の判断は必ず主治医と相談してください。
どんな運動から始めればよいですか?
短い散歩や座ってできる体操など、続けられる軽いものからで十分です。体の状態や持病に合わせて、専門職と一緒に内容を決めると安心です。
家族はどう関わればよいですか?
「頑張って」と急かすより、一緒に過ごす時間や小さな外出のきっかけをつくることが助けになります。心配なサインがあるときは家族から専門職に相談しても構いません。
気分が良くなるまでどれくらいかかりますか?
気分には波があり、期間は人によって大きく異なります。短期で大きく変わるとは限らないため、できた日を責めず、ゆっくり続けることが大切です。
REFERENCES
参考文献
1. Legg LA, Tilney R, Hsieh CF, et al. Selective serotonin reuptake inhibitors (SSRIs) for stroke recovery. Cochrane Database Syst Rev. 2019. DOI:10.1002/14651858.CD009286.pub3. PMID:31769878. PMCID:PMC6953348.
2. Lee Y, Chen B, Fong MWM, et al. Effectiveness of non-pharmacological interventions for treating post-stroke depressive symptoms: Systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Top Stroke Rehabil. 2021. DOI:10.1080/10749357.2020.1803583. PMID:32783504. PMCID:PMC7878573.
3. Li W, Li L, Zhao S, et al. Effectiveness of different types of exercise therapy in improving post-stroke depression: a systematic review and network meta-analysis. Front Med. 2026. DOI:10.3389/fmed.2026.1828873. PMID:42145754. PMCID:PMC13175843.
4. Shi D, Chong YY, Li Y, Cheng HY. Effectiveness of non-pharmacological interventions for post-stroke depression in stroke survivors: A systematic review with meta-analysis. Clin Rehabil. 2025. DOI:10.1177/02692155251345126. PMID:40405736.