
先に結論
つっぱりの評価で小さな差が報告されていますが、日常生活動作への差ははっきりしません。楽に感じることと麻痺の回復は分けて考え、強い圧迫や腕の牽引を避けます。片脚の急な腫れ・熱・痛みがあるときは、マッサージをせず医療機関への相談を優先してください。
「麻痺した手足をマッサージしてもらうと楽になる」「家族がマッサージしてあげてもいいの?」――脳卒中のあとのマッサージについては、ご本人やご家族が疑問をもちやすいテーマです。この記事では、脳卒中のある方へのマッサージについて、研究で分かっていることと、まだ分かっていないことを作業療法士の立場から正直に整理します。結論から言うと、通常のリハビリにマッサージを加えることで、つっぱり(痙縮)の評価がわずかに良い結果だったという研究はあります。ただし、その差は小さく、日常生活動作には差がみられないという結果もあり、マッサージだけで動きが大きく変わるとは言えません12。
この記事で分かること
- 研究の対象・比較条件・結果と、分かっていないこと
- 検査の評価と、生活場面でできることを分けて考える視点
- 生活での相談例と、安全上の注意・中止や受診の目安
脳卒中後のマッサージとは
脳卒中のあとには、麻痺した手足の筋肉が勝手に突っ張る「痙縮(けいしゅく)」、肩の痛み、気分の落ち込みや不安などが起こることがあります。マッサージは、こうした症状に対して昔から行われてきた方法の一つです1。
研究で調べられているマッサージには、中国の推拿(すいな)、タイ古式マッサージ、スウェーデン式マッサージ、背中をゆっくりさするマッサージ、ふくらはぎの筋肉をほぐしながら足首を動かす方法などがあり、やり方はさまざまです123。
つっぱりへの対応には、マッサージ以外にも、ストレッチ、装具、注射による治療など多くの選択肢があります。注射による治療については、脳卒中後の痙縮とボツリヌス療法について解説した記事で紹介しています。

研究では何が分かっているか
18件のランダム化比較試験(1,989名)をまとめた研究では、通常の理学療法に推拿を加えた場合、腕のつっぱりの評価(Modified Ashworth Scale)が平均0.14段階ほど低い結果でした1。発症3か月以内の方に限ると、腕の運動機能の評価でも良い結果でしたが、全体では差ははっきりせず、日常生活動作(Barthel Index)にも差はみられませんでした1。
つっぱりのある50歳以上の脳卒中のある方50名を対象に、タイ古式マッサージ(1回1時間・週2回・6週間)と一般的な理学療法を比べた研究では、つっぱりが1段階以上ゆるんだ方の割合は70.8%と50.0%で、統計的な差はみられませんでした2。日常生活動作と生活の質はどちらのグループも向上し、グループ間の差はありませんでした2。
発症後の期間が長い脳卒中のある方28名で、週2回・6週間の運動療法に、ふくらはぎの筋肉をほぐしながら足首を動かすマッサージを加えた研究では、足首のつっぱりの変化とストライド長(同じ足が接地してから次に接地するまでの距離)の変化が、運動療法のみのグループより大きい結果でした3。ただし、評価者への割り付けの伏せ方がなく、参加者も少ない研究です3。
また、背中をゆっくりさするマッサージ(1回10分・7日間)で、入院中の高齢の脳卒中のある方の肩の痛みや不安の訴えが少なかったという報告もあります4。2021年のレビューでも、不安やストレスを調べた3件の研究はいずれも良い結果でしたが、研究数は限られています1。肩の痛みの原因については、脳卒中後の肩の痛みと亜脱臼・CRPSの関係について解説した記事で詳しく紹介しています。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと:
片方のふくらはぎが急に腫れて赤くなった・痛む・熱をもっているときは、血のかたまり(深部静脈血栓症)の可能性があるため、マッサージをせずにすぐ医療機関に相談してください。詳しくは脳卒中後の深部静脈血栓症と注意点について解説した記事をご覧ください。また、感覚が鈍くなっている部位は痛みに気づきにくく、血液をサラサラにする薬を飲んでいる方はあざができやすいため、強く押すマッサージは避けてください。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
脳卒中後のマッサージの研究には、次のような限界があります。
どのような方(発症からの時期、つっぱりの強さ、麻痺の程度など)に、どの種類のマッサージを、どのくらいの強さ・頻度で行うのがよいかは、まだ分かっていません1。多くの研究は6週間前後の短い期間で、マッサージをやめたあとにつっぱりがどのくらい続くかも十分に調べられていません23。
つっぱりの評価で示された差(平均0.14段階など)は小さく、日常生活の動きやすさにつながるかどうかは分かっていません1。タイの研究では、マッサージを受けたグループで筋肉のこわばりや痛み・だるさといった訴えがやや多い傾向もありました(統計的な差はなし)2。研究結果をすべての方に同じように当てはめることはできません。
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
つっぱりの評価(研究によって差の有無が分かれる)13、肩の痛みや不安の訴え(研究数は少ない)14、施術を受けたあとの「楽になった」という感覚2。
日常生活動作12、腕の運動機能(発症からの時期によって結果が異なる)1、マッサージをやめたあとの長期的な経過23。
どんな人に検討され、どんな人は注意が必要か
つっぱりや肩まわりのこわばりが気になる方、緊張が強く運動の前に体をほぐしたい方、不安や気持ちの張りつめが強い方などでは、運動や生活動作の練習と組み合わせて検討する場面があります13。
足の急な腫れや痛みがある方、皮膚が弱い・傷がある方、感覚が鈍くなっている方、血液をサラサラにする薬を飲んでいる方、肩が亜脱臼している方(腕を強く引っ張らない)は注意が必要です。痛みが強くなる場合はすぐに中止し、主治医に相談してください。
回数・頻度・期間の目安
以下は研究で採用された条件や集団向けの目安です。個人への練習処方ではありません。体調、合併症、評価結果に合わせて、始め方・量・中止基準を担当の医療職と決めてください。
研究で行われたマッサージは、タイ古式マッサージで1回1時間・週2回・6週間2、ふくらはぎのマッサージで週2回・6週間の運動療法に追加3、背中をゆっくりさするマッサージで1回10分・7日間連続4など、方法によって大きく異なります。
多くの研究では、マッサージは通常のリハビリや運動療法に「加える」形で行われていました13。マッサージで体がほぐれたタイミングで、立ち上がりや歩くなどの動作練習につなげることが、研究の組み立てにも近い考え方です。施術の内容と適応は医療機関や適切な専門職に確認してください。

中止・受診・救急の目安
触れて痛みが増す、皮膚の赤み・傷・熱・あざがあるときは中止して相談してください。片脚が急に腫れる・熱をもつ・痛む場合は、揉まずに速やかに医療機関へ連絡します。これに突然の胸痛や息苦しさが伴うときは救急対応を優先し、日本では119番へ連絡してください。麻痺側の腕を強く引かず、感覚が鈍い部位や抗血栓薬を使用している場合も強い刺激を避けて医療職に相談します。
作業療法士の視点と生活での工夫
生活の目標から考える
作業療法では、つっぱりの点数だけでなく、袖を通す、手を洗う、肘を机に置いて食事をする、といった生活の困りごとと痛みを確認します。楽な姿勢を探す例として、腕をクッションで支える方法がありますが、合う高さや位置は人によって異なります。触れて楽になった感覚を、神経の回復や生活動作の改善と同一視せず、必要な評価と実際の動作練習を考えます。この案内は特定のマッサージ施術を提供することや、その効果を保証する説明ではありません。

ご自宅の生活やリハビリについて相談したい方へ
マッサージは「気持ちがいい」「楽になる」と感じやすい方法ですが、研究では、つっぱりの評価の変化は小さく、日常生活の動きやすさまでは示されていません。受け身のマッサージだけに頼らず、ほぐれた状態を活かして実際に体を動かす練習と組み合わせることが大切だと考えています。
まとめ
よくある質問
Q. 脳卒中後のつっぱりはマッサージでゆるみますか?
Q. 家族がマッサージをしてもよいですか?
Q. マッサージだけで手足が動くようになりますか?
Q. 肩の痛みにマッサージは役立ちますか?
Q. どのくらいの頻度で受ければよいですか?
Q. マッサージで気をつけることはありますか?
参考文献
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