田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学) 東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍 初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脳卒中後のピアサポートとは?同じ経験をした人との出会いに関する研究と限界を正直に解説
「同じ病気を経験した人と話してみたい」「うちの人だけが特別に大変なのか、それとも皆そうなのかを知りたい」——退院してしばらく経った方やご家族から、こうしたお話をうかがうことがあります。同じ経験をした当事者同士が支え合うことを「ピアサポート」と呼びます。この記事では、脳卒中の後のピアサポートについて、研究で何が調べられ、何が分かっていて、何がまだはっきりしていないのかを整理します。結論から正直にお伝えすると、良い方向の結果を示した研究はいくつかありますが、そのエビデンスの質は現時点では低く、確かなこととして言える段階には至っていません1 。
同じ経験をした人と話す場には、さまざまな形があります。
この記事の要点
・ピアサポートとは、同じ経験をした当事者が、支える側として関わる取り組みのことです。訪問、電話、グループ活動など形はさまざまです。 ・11件の研究をまとめた系統的レビュー・メタアナリシス(2021年)では、日常生活動作や抑うつなどで良い方向の結果が報告されましたが、著者ら自身がエビデンスの質を「非常に低い〜低い」と評価しています1 。 ・米国で600人を対象に行われた無作為化比較試験では、当事者が進行役を務める6回の教室について、主要な指標では差がありませんでした(介入群34%対対照群34%)。一方で血圧が基準内に収まった方の割合は76%対67%と差がみられました2 。 ・失語のある方への1対1の訪問型ピアサポートを調べた英国の試験では、6回の家庭訪問という形が実行可能であることが示されました。ただし参加者56人の予備的な試験であり、費用対効果の結論は出ていません3 。 ・ピアサポートは医療行為ではなく、専門職によるリハビリの代わりになるものでもありません。両方の役割を分けて考えることが大切です。
SECTION 01
ピアサポートとは何か
ピア(peer)とは「仲間」「同じ立場の人」という意味です。ピアサポートは、同じ病気や障害を経験した当事者が、支える側として他の当事者やご家族に関わる取り組みを指します。医療者が知識を伝えるのとは違い、「自分もそうだった」という経験に裏打ちされた言葉が届く点が特徴とされています。
形はひとつではありません。研究で調べられてきたものを見ると、当事者が進行役を務めるグループ教室、経験者による家庭への個別訪問、電話での定期的なやりとり、地域の集まりへ一緒に出かける活動などがあります1,2,3 。日本でも、患者会や家族会、地域の当事者グループといった形で以前から行われてきました。
ここで大切なのは、ピアサポートは医療行為ではないということです。診断や治療、リハビリの内容を決めるものではありません。生活の中でどう折り合いをつけていくかを、自分で考えて選んでいく過程を支える性質のものです。この点で、脳卒中後のセルフマネジメント(自己管理支援)について解説した記事 で扱った考え方と重なる部分があります。
SECTION 02
研究で分かっていること
ピアサポートは、体験談としては数多く語られてきた一方で、その働きを研究として確かめることは簡単ではありません。「誰が」「どのくらいの頻度で」「何をするか」が研究ごとに大きく異なるためです。それをふまえたうえで、これまでに報告されている内容を見ていきます。
11件をまとめた分析(2021年)
英語と中国語のデータベースを検索し、脳卒中の方へのピアサポートを調べた11件の研究をまとめた系統的レビュー・メタアナリシスがあります。日常生活動作(平均差15.53、95%信頼区間1.39〜29.68)、抑うつ(標準化平均差−1.27、−2.18〜−0.36)、社会参加(0.74、0.09〜1.39)、生活の質(0.41、0.09〜0.73)で良い方向の結果が示されました。ただし研究間のばらつきが極めて大きく、日常生活動作でI²=99%、抑うつでI²=91%に達しています。著者らはGRADEという方法でエビデンスの質を評価し、日常生活動作と抑うつは「非常に低い」、社会参加と生活の質は「低い」と結論づけています。そして、統合できなかった研究では結果が一致していなかったことも明記しています1 。この報告は本文の全体を参照できていないため、研究の方向性を示す補足として扱います。
600人を対象にした無作為化比較試験(2014年)
米国ニューヨークの地域で行われたPRAISE試験では、脳卒中または一過性脳虚血発作を経験した600人が参加しました。平均年齢63歳、86%が白人以外、57%が年収1万5千ドル未満という背景の方々です。介入は、同じような背景をもつ当事者2名が進行役を務める、1回90分・週1回・全6回のグループ教室でした。8〜10人の少人数で、英語またはスペイン語で行われました。6か月後、血圧・LDLコレステロール・抗血栓薬の使用がすべて基準を満たした方の割合という主要な指標では、介入群34%・対照群34%と差がありませんでした(リスク比1.00、95%信頼区間0.80〜1.25)。一方、血圧が基準内に収まった方の割合は76%対67%(リスク比1.13、1.02〜1.25)と差がみられ、収縮期血圧の変化も−3.63mmHg対+0.34mmHgでした。参加状況を見ると、平均出席回数は6回中4回、まったく参加しなかった方も16%いました2 。
失語のある方への訪問型の試験(2022年)
英国のSUPERB試験は、脳卒中後に失語のある方を対象に、同じく失語を経験した当事者が家庭を訪問する形のピアサポートを調べた予備的な無作為化比較試験です。1回1時間の訪問を3か月間で6回行い、その後6か月のうちに2回の追加訪問を設けました。内容は、会話、困りごとの整理、地域の集まりなどへの外出、一緒に行う活動でした。訪問する側には正式な研修と定期的な指導が用意されています。参加者は56人(平均年齢70.1歳、66%が軽度の失語、25%が重度)でした。医療費・介護費を含めた総費用に群間の差はなく(介入群5,917ポンド対対照群3,993ポンド)、外来受診は介入群のほうが少ないという結果でした。費用対効果については、用いる指標によって結論が変わり、確かなことは言えないと結論づけられています3 。
看護職が支える形での試験(2024年)
中国で行われた、看護職が運営に関わる形のピアサポートを調べた無作為化比較試験では、120人(各群60人)が参加しました。社会参加と、社会参加に対する自信の指標が、介入直後と3か月後のいずれでも良い方向に動いたと報告されています。心理的な負担、周囲から得られる支えの実感、病気にまつわる負い目の感じ方についても同様の方向でした
4 。社会とのつながりを取り戻していく過程については
脳卒中後の地域・社会参加について解説した記事 もあわせてご覧ください。
急かさず、絵やメモも使いながら対話を支える方法があります。
SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
エビデンスの質と限界
この分野の研究は、質という点で率直に言って十分ではありません。11件をまとめた分析の著者ら自身が、エビデンスの質を「非常に低い〜低い」と評価し、より質の高い研究が必要だと述べています1 。研究間のばらつきの大きさ(日常生活動作でI²=99%)は、まとめて一つの数字にすること自体に慎重さが求められる水準です。600人規模の試験でも、著者らは、参加者の中にもともと目標値を満たしていた方が多く含まれていたこと、対照群にも同じ教材が配られたため差が出にくくなった可能性、注意を向けられること自体の影響を切り分ける群がなかったこと、服薬状況が自己申告であったことを限界として挙げています2 。失語のある方への試験は参加者56人の予備的なもので、規模が小さく一般化には限りがあります3 。
まだ分かっていないこと
どのような形(グループか個別か、対面か電話か)が誰に合うのかは、まだ定まっていません1 。何回、どのくらいの期間続けるとよいのかについても、研究ごとに6回から数年までばらばらで、目安と呼べるものはありません1,2,3 。支える側になる方にどのような研修と支援が必要なのかも、十分に検証されていません3 。発症からの時期、麻痺の重さ、失語の有無、年齢によって向き不向きが違うのかも、これからの課題です。また、参加しなかった方が16%いたという報告が示すように、そもそも参加が続かない方にとって何が壁になっているのかも、明らかにされていません2 。研究全体としては望ましい方向の結果が多いものの、対象となった方の背景や活動の内容が研究ごとに大きく異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
SECTION 04
何が期待でき、何ははっきりしないか
研究をふまえて言えることを整理します。まず、実行できるという点は複数の試験で示されています。当事者が進行役を務める教室は600人規模で運営でき2 、失語のある方への家庭訪問という難しい形も、研修と指導の仕組みを整えれば実施できることが確かめられました3 。気持ちの面や社会とのつながりについて良い方向の結果を報告した研究も複数あります1,4 。
一方で、はっきりしていないことのほうが多いのが現状です。600人の試験では、主要な指標に差はありませんでした2 。まとめた分析で示された数字も、質の評価は低く、そのまま受け取ることはできません1 。そして最も大切な点として、ピアサポートは専門職によるリハビリの代わりにはなりません。麻痺した手足の動きや歩行の練習といった、身体機能に直接働きかける内容は別の領域の話です。両方を混同せず、それぞれの役割として考えることをおすすめします。
SECTION 05
どんな人に向いているか
研究に参加した方の背景を見ると、退院してから地域で生活している方が中心でした1,2,3 。そのうえで、次のような方は関心をもたれることが多いように思います。退院後に相談できる相手が減り、話す機会そのものが少なくなった方。同じ経験をした人の実際の生活を知りたい方。ご家族が、他の家族がどう工夫しているかを知りたいと感じている場合。失語があり、言葉のやりとりに時間がかかることを気兼ねせずに話せる場を求めている方3 。
逆に、慎重に考えたほうがよい場合もあります。他の方の経過を聞くことがかえってつらく感じられる時期があります。回復の速さは人によって大きく異なるため、比べてしまって気持ちが沈むことは珍しくありません。また、体調が不安定な時期や、外出そのものが負担になる時期に無理に参加する必要はありません。ご家族の負担という観点については脳卒中後の介護者支援について解説した記事 もご覧ください。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと
ピアサポートの場で交わされる情報は、あくまで個人の経験です。薬の内容や量、リハビリの進め方、手術や検査の要否について、他の方の経験をそのまま自分に当てはめないでください。「あの人はこの薬をやめて調子がよいらしい」といった話を受けて自己判断で変更することは、危険を伴います。医療上の判断は必ず主治医に確認してください。また、特定の商品や高額なサービスの勧誘が伴う集まりには注意が必要です。信頼できる紹介元があるかを確かめることをおすすめします。この記事で紹介した研究結果は、すべての方に同じ結果を保証するものではありません。
SECTION 06
参加を考えるときに確かめたいこと
研究で用いられた仕組みを見ると、うまく運営されている取り組みにはいくつか共通点があります。ひとつは、支える側になる当事者に研修と定期的な指導があることです3 。もうひとつは、一度きりではなく、ある程度の回数が続く形になっていることです。研究では6回という設定が複数みられました2,3 。そして、無理なく終われる出口が用意されていることも挙げられます。失語のある方への試験では、急に終わらないよう、追加の訪問を設けて少しずつ区切りをつける形が取られていました3 。
参加を検討するときは、どこが運営しているのか、費用はかかるのか、どのくらいの頻度でいつまで続くのか、途中でやめられるのかを、最初に確かめておくと安心です。地域の患者会や家族会、自治体の窓口、通っている医療機関の相談室が入口になることがあります。担当のリハビリ専門職やケアマネジャーに、地域でどのような集まりがあるかを尋ねてみるのもひとつの方法です。ただし、これは研究で定められた手順ではなく、あくまで考え方の目安としてお読みください。
専門職による支援とピアサポートは、役割を分けて考えることが大切です。
SECTION 07
Journey Rehabでお手伝いできること
Journey Rehabでは、生活の広がりや外出、相談できる場についても伺いながら、今の身体の状態に合うリハビリの進め方を一緒に考えます。ピアサポートの代わりになるものではありませんが、専門職による個別支援と地域のつながりをどう組み合わせるか整理するお手伝いができます。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
生活の広がりや外出のことも含めて、今の身体の状態を一緒に確認しながらリハビリの進め方を考えます。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨を目的とするものではありません。ピアサポートは医療行為ではなく、専門職によるリハビリや医師の診療に代わるものでもありません。参加の場で得られた情報をもとに、薬や治療の内容を自己判断で変更しないでください。参加が向くかどうかは、体調、発症からの時期、気持ちの状態によって異なります。検討する際は、主治医・リハビリ専門職にも相談してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格 修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836 東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍 経歴 2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事 2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立 2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中 研究活動 第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表 論文執筆 田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
FAQ
よくある質問
ピアサポートに参加すると、麻痺は変わりますか?
ピアサポートは身体機能に直接働きかけるものではありません。研究で調べられてきたのは、主に気持ちの面や社会とのつながり、生活の質といった側面です。手足の動きの練習は、専門職によるリハビリの領域として分けて考えてください。
どこで探せばよいですか?
地域の患者会や家族会、自治体の相談窓口、通っている医療機関の相談室が入口になることがあります。担当のリハビリ専門職やケアマネジャーに、地域の集まりについて尋ねてみるのもよいでしょう。
失語があって話すのが難しいのですが、参加できますか?
失語のある方を対象に、同じく失語を経験した方が家庭を訪問する形の研究が行われており、実施できることが示されています。話す速さを気にせずにいられる場かどうかを、事前に確認してみるとよいでしょう。
他の人と自分を比べてつらくなりそうで不安です。
その感覚は自然なもので、実際に起こり得ます。回復の経過は人によって大きく異なります。合わないと感じたら距離を置いてよいですし、時期を改めることもできます。無理に続ける必要はありません。
家族だけで参加してもよいのでしょうか?
ご家族を対象とした集まりもあります。介護する側の負担や気持ちに焦点を当てた研究も行われています。ご本人の参加が難しい時期に、ご家族が先に情報を得ておくという使い方も現実的です。
何回くらい参加すればよいですか?
目安と呼べるものはありません。研究では6回という設定が複数みられましたが、数年間続く形もあり、最適な回数は分かっていません。ご自身の生活の中で無理なく続けられる範囲で考えるのがよいでしょう。
オンラインの集まりでもよいのでしょうか?
形式による違いを比べた質の高い研究は限られており、はっきりしたことは言えません。外出が負担な時期には現実的な選択肢になりますが、合うかどうかは個人差があります。
REFERENCES
参考文献
1. Wan X, Chau JPC, Mou H, Liu X. Effects of peer support interventions on physical and psychosocial outcomes among stroke survivors: A systematic review and meta-analysis. International Journal of Nursing Studies. 2021;121:104001. DOI:10.1016/j.ijnurstu.2021.104001. PMID:34246069. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34246069/ 2. Kronish IM, Goldfinger JZ, Negron R, Fei K, Tuhrim S, Arniella G, Horowitz CR. Effect of peer education on stroke prevention: the prevent recurrence of all inner-city strokes through education randomized controlled trial. Stroke. 2014;45(11):3330-3336. DOI:10.1161/STROKEAHA.114.006623. PMID:25248910. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25248910/ 3. Flood C, Behn N, Marshall J, Simpson A, Northcott S, et al. A pilot economic evaluation of a feasibility trial for SUpporting wellbeing through PEeR-Befriending (SUPERB) for post-stroke aphasia. Clinical Rehabilitation. 2022;36(5):683-693. DOI:10.1177/02692155211063554. PMID:35108114. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35108114/ 4. Wan X, Chau JPC, Wu Y, Xu L, Chen J, et al. Effects of a nurse-led peer support intervention on psychosocial outcomes of stroke survivors: A randomised controlled trial. International Journal of Nursing Studies. 2024;160:104892. DOI:10.1016/j.ijnurstu.2024.104892. PMID:39303644. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39303644/