東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「夜中に何度も目が覚めてしまう」「寝返りが打てなくて、そのたびに起きる」「日中うとうとして、リハビリに集中できない」。パーキンソン病の方から、動きの症状と同じくらい、いえ、それ以上によく聞くのが眠りの相談です。
結論から言うと、運動と眠りの関係については、近年ようやくまとまった検証が出てきた段階です。全体としては良い方向の報告が多いのですが、「どの運動を、どのくらい」という部分の確実性はまだ低く、質問紙で測った結果と機械で測った結果が食い違う場面もあります。この記事では、その内訳を数字とともに整理します。
パーキンソン病の睡眠の問題は、ひとつの原因では説明できません。実際の場面では、いくつかの要素が重なっています。
2. 寝返りが打ちにくく、同じ姿勢で身体が痛くなる
3. 夜間の頻尿で、トイレのたびに眠りが途切れる
4. 脚がむずむずする感覚や、寝ている間の激しい寝言・動き
5. 日中の活動量が少なく、身体の中の昼夜のリズムがぼやける
運動が関わりうるのは、主に5番目、そして間接的に1番・2番の部分です。ですから「運動さえすれば眠れる」という話ではありません。原因が薬の効き方や別の睡眠障害にある場合は、そちらの評価と対応が先になります。この点は最初に押さえておいてください。
まず、脳波などで実際の眠りを測定した試験を紹介します。質問紙ではなく機械で測っている点で、この分野では貴重な報告です。
米国で行われた試験です。対象は55名(平均65歳、Hoehn&Yahr重症度2〜3、未治療の睡眠時無呼吸がある方は除外)。運動群27名が高強度の筋力トレーニングと自重を用いたインターバル運動を週3回・16週間行い、対照群28名は睡眠衛生の指導(30〜60分の説明と毎月の電話)を受けました。眠りは終夜睡眠ポリグラフ検査で測定しています。
主要な指標である睡眠効率(ベッドにいた時間のうち実際に眠っていた割合)は、運動群が75.1%から82.2%へ、対照群は78.7%から73.8%へ変化し、群間差は12.1%(95%信頼区間5.1〜18.9%)でした。中途覚醒の時間(効果量d=0.96)、総睡眠時間(d=0.73)、深い眠りの割合(d=0.77)でも運動群が良い方向でした。
一方、寝つくまでの時間と日中の眠気には差がありません。さらに、質問紙で測った主観的な睡眠の質はむしろ対照群のほうが良くなっており、著者らは睡眠について話し合う機会そのものの影響ではないかと考察しています。1
この「機械で測ると良くなったのに、本人の実感は必ずしもそうではない」というずれは、睡眠の研究ではしばしば起こります。どちらか一方だけを見て判断できない、ということを示す例です。
2008〜2022年に発表されたランダム化比較試験62件・計3,274名をまとめた解析です。介入期間は3〜52週と幅があり、有酸素運動、太極拳などの伝統的な運動、筋力トレーニング、水中運動、ヨガ、タンゴが含まれます。
睡眠の質は標準化平均差−0.55(95%信頼区間−0.91〜−0.18、p=0.003)で、良い方向の結果でした。動きの症状(UPDRS-III)は−0.47(−0.66〜−0.28)、バランス(BBS)は0.53(0.33〜0.74)、Timed Up and Go テストは−0.44(−0.60〜−0.29)、生活の質(PDQ-39)は−0.38(−0.73〜−0.03)です。
ただし睡眠の質の解析では研究間のばらつきがI²=82.9%と非常に大きく、著者ら自身も、睡眠を客観的な検査で測った研究は1件しかなかったことを限界として挙げています。2
別の2021年のシステマティックレビュー(12研究・690名)でも、主観的に測った睡眠の質について標準化平均差0.53(0.16〜0.90)と報告されています。ただしこの著者らは、良い結果を示した研究のほうが方法論の質が低かったこと、客観的な指標を測ったのは1研究だけだったことを明記しています5。数字の方向は似ていても、そのまま受け取れる強さではない、ということです。
「結局、何をすればよいのですか」というご質問には、正直なところ、まだはっきりお答えできません。運動の種類ごとに比べたネットワークメタアナリシスという手法の解析が出ていますが、確実性は高くありません。
16件のランダム化比較試験・計932名(米国・中国・ブラジル・エジプト・インド)をもとに、有酸素運動、複合運動、筋力トレーニング、心身をつなぐ運動(太極拳・気功・ヨガ)、ストレッチの5種類を比較した解析です。
順位づけの指標(SUCRA)では有酸素運動が75.5%で最上位、次いで複合運動66.1%、筋力トレーニング54.5%、ストレッチ48.3%、心身をつなぐ運動47.3%でした。対照群と比べて統計的に有意だったのは有酸素運動だけで、標準化平均差−0.94(95%信頼区間−1.82〜−0.07)です。
ただし著者らは、この比較の確実性(GRADE)を「非常に低い」と評価しています。理由は、盲検化ができないこと、ネットワークの一部で結果の食い違いがあること、精度の低さです。3
「有酸素運動が最上位」という結果は魅力的に見えますが、確実性が非常に低いと評価されている以上、これを根拠に運動の種類を絞り込むのは早すぎます。実際、パーキンソン病の運動全般を扱った2024年のコクラン・レビュー(154試験・7,837名)でも、動きの症状と生活の質については多くの運動で良い方向の結果が示された一方、運動の種類どうしの違いを示す根拠はほとんどありませんでした。著者らは「運動の種類は二次的な問題かもしれない」と述べています4。
なお、有酸素運動そのものの内容と注意点はパーキンソン病の有酸素運動について解説した記事で、筋力トレーニングはパーキンソン病の筋力トレーニングの進め方はこちらで、それぞれ詳しく扱っています。
・睡眠の評価はほとんどが質問紙で、脳波などの客観的な検査を用いた研究はごくわずかです2,3,5
・睡眠の質の統合結果では、研究間のばらつきがI²=82.9%と非常に大きい状態です2
・良い結果を示した研究のほうが方法論の質が低かった、という指摘があります5
・運動している本人に「どちらの群か」を伏せることができないため、評価が偏るおそれが残ります1,3
・機械で測った眠りと本人の実感が一致しない場面があり、その理由は分かっていません1
・研究の多くはHoehn&Yahr重症度1〜3の方が対象で、進行した段階の方を含む試験はごく少数です3
・最適な強度・頻度・1回の時間・続ける期間の基準はありません。研究で用いられた期間は3〜52週と大きく幅があります2
・進行した段階の方に当てはまるかは検証されていません3
・レム睡眠行動障害、むずむず脚症候群、睡眠時無呼吸といった個別の睡眠障害がある方に、運動がどう関わるかは分かっていません1
・数か月以上続けたときにどうなるか、また運動をやめたあとに戻ってしまうのかというデータが不足しています2,3
・睡眠の指標がどれだけ動けば生活の実感として意味があるのか、その基準がこの領域では定まっていません3
研究全体としては良い方向の傾向がありますが、対象者や介入内容が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。とくに、進行した段階の方や、別の睡眠障害を併せ持つ方については、この記事の内容をそのまま当てはめることはできません。
研究に参加していた方の条件から考えると、次のような状況が想定されます。
2. 主治医から運動の許可が出ている方1
3. 未治療の睡眠時無呼吸など、先に対応すべき睡眠障害がない方(試験では除外されていました)1
4. 日中の活動量が少なくなり、生活のリズムがぼやけていると感じている方
5. 転倒に注意しながら運動を続けられる環境がある方4
安全面については、コクラン・レビューが85研究・5,192名の安全性データを検討し、含まれた運動は比較的安全と述べています。ただし報告された有害事象のうち最も多かったのは転倒(18研究)と痛み(10研究)で、この安全性の評価そのものの確実性は「非常に低い」とされています4。夜間や薬が切れている時間帯の運動はとくに注意が必要です。
「これが最適」と言える量は決まっていません。ここでは研究で実際に用いられた内容を紹介します。ご自身に当てはめる際は、必ず主治医・リハビリ専門職とご相談ください。
強度:10回繰り返すのが限界となる負荷を目安に設定
結果の解釈:睡眠効率の群間差12.1%(5.1〜18.9%)、中途覚醒・総睡眠時間・深い眠りでも良い方向。一方で寝つきと日中の眠気には差がありません1
内容:歩行、自転車こぎ(エルゴメーター)など
結果の解釈:種類の比較では最上位でしたが、その確実性は「非常に低い」と評価されています2,3
位置づけ:1年間の試験で、動き以外の症状について報告があります7
結果の解釈:種類の比較では上位ではありませんでした。単一の試験の結果を一般化することはできません3,7
対象:中等度のパーキンソン病の方22名という小規模な試験です
結果の解釈:質問紙で測った睡眠の指標と膝の筋力に群間差が報告されています。人数が少なく、これだけで結論は出せません6
なお、運動そのものだけでなく、日中の過ごし方や生活動作の組み立てを見直すという視点もあります。生活の場面から考える進め方についてはパーキンソン病の作業療法について解説した記事もあわせてご覧ください。
正直にお伝えすると、この領域の研究は「運動は眠りに関わっていそうだ」というところまでは来ていますが、「この運動をこの量で」と言い切れる段階にはありません。順位づけの解析はありますが、その確実性は非常に低いと研究者自身が評価しています3。
それでも実務の上で意味があると考えているのは、機械で測った睡眠効率が変わった試験が、週3回16週間という「決して軽くない量」を続けた結果だったという点です1。週1回、数分の体操で同じことが起きると考える根拠はありません。同時に、その試験でも寝つきと日中の眠気は変わっていませんでした。何が変わりうるのか、何は変わりにくいのかを分けて考える必要があります。
日中の過ごし方を整えても眠りの実感が変わらないことはあります。その場合は努力不足とは考えず、夜間のオフ症状、睡眠時無呼吸、激しい寝言や動き、気分、薬の影響など、リハビリだけでは判断できない要因を確認し、必要に応じて主治医への相談につなげます。
2. 同じ試験で、寝つくまでの時間と日中の眠気には差がありませんでした1
3. 62試験3,274名の統合では睡眠の質が標準化平均差−0.55でしたが、ばらつきがI²=82.9%と非常に大きい状態です2
4. 運動の種類の順位づけでは有酸素運動が上位でしたが、確実性は「非常に低い」と評価されています3
5. 進行した段階の方、別の睡眠障害がある方に当てはまるかは分かっていません1,3
6. 眠れない原因が薬の効き方や別の睡眠障害にある場合は、まず主治医にご相談ください
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
2. Li Z, Hu P. Exercise: The key to enhancing sleep quality and physical function in Parkinson's disease? A systematic review and meta-analysis. PLoS One. 2025;20(11):e0336381. PMID: 41296768.
3. Zhan Y, Ci H, Xue W, Ding Z, Chen L. Efficacy of different exercise modalities for sleep quality in Parkinson's disease: a systematic review and network meta-analysis. Frontiers in Physiology. 2026;17:1854427. PMID: 42369598.
4. Ernst M, Folkerts AK, Gollan R, Lieker E, Caro-Valenzuela J, Adams A. Physical exercise for people with Parkinson's disease: a systematic review and network meta-analysis. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2024;4(4):CD013856. PMID: 38588457.
5. Cristini J, Weiss M, De Las Heras B, Medina-Rincón A, Dagher A, Postuma RB. The effects of exercise on sleep quality in persons with Parkinson's disease: A systematic review with meta-analysis. Sleep Medicine Reviews. 2021;55:101384. PMID: 32987321.
6. Silva-Batista C, de Brito LC, Corcos DM, Roschel H, de Mello MT, Piemonte MEP. Resistance Training Improves Sleep Quality in Subjects With Moderate Parkinson's Disease. Journal of Strength and Conditioning Research. 2017;31(8):2270-2277. PMID: 27787472.
7. Li G, Huang P, Cui S, He Y, Jiang Q, Li B. Tai Chi improves non-motor symptoms of Parkinson's disease: One-year randomized controlled study with the investigation of mechanisms. Parkinsonism & Related Disorders. 2024;120:105978. PMID: 38244460.
