東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「頭の中で動作をイメージするだけでも、リハビリになるらしい」——パーキンソン病のリハビリでは、「運動イメージ療法(メンタルプラクティス)」と呼ばれるこうしたアプローチが研究されています。結論から先にお伝えします。個々の研究では歩行や認知機能への前向きな報告がある一方で4,6、これまでの研究を統合したメタアナリシスでは、統計的に意味のある効果は示されていません1,2。「効果がまったくない」と言い切れるわけではなく、「研究の数がまだ少なく、ばらつきが大きいために、はっきりした結論が出せない」というのが正直なところです1。この記事では、研究で分かっていることと、まだ分かっていないことを、できるだけ正直に整理します。
運動イメージ療法(motor imagery)・メンタルプラクティスとは、実際に体を動かさずに、動作を頭の中でありありと思い浮かべる練習法です。歩き出す動作や立ち上がる動作を、一人称視点で「自分が動いている感覚」としてイメージする方法(運動感覚的イメージ)や、鏡で自分を見るように外側から思い浮かべる方法(視覚的イメージ)などがあります3,4。多くの研究では、通常の理学療法・作業療法に運動イメージ療法を追加する形で効果が検討されています3,4,5。似たアプローチとして脳卒中のリハビリでも研究されており、脳卒中後の運動イメージ療法について解説した記事もあわせてご覧ください。
おおまかにまとめると、「個別の研究では前向きな報告があるが、それらをまとめたメタアナリシスでは統計的に意味のある効果が確認されていない」という、やや歯切れの悪い内容です。まずは全体像をまとめたシステマティックレビューから見ていきます。
パーキンソン病における運動イメージ療法のリハビリ効果を統合したレビューです。方法論的質は中〜高程度でした(PEDroスケール平均6.62/10)。個々の研究では、3件で認知機能、7件で運動機能、1件で生活の質、1件で日常動作への自信に有意な改善が報告されました。しかし、これらを統合したメタアナリシスでは、統計的に有意な効果は確認されませんでした。著者は「個々の研究は好意的な結果だが、研究数の少なさと介入・評価指標の異質性が影響した可能性がある」と述べ、「運動イメージ療法は一部のアウトカムに有効かもしれないが、メタ解析レベルのエビデンスは不足している」と結論づけています1。
運動イメージと行動観察療法(動作を見て学ぶ方法)を組み合わせたプロトコルについて、パーキンソン病統一評価スケール(UPDRS)運動項目を主要評価項目として検討したレビューです。オン薬時(MD=-0.81、95%信頼区間-6.20〜4.58)、オフ薬時(MD=0.53、-2.74〜3.79)のいずれも、統計的に意味のある差は見られませんでした2。
動作観察療法・運動イメージ療法が、すくみ足(FOG)・歩行速度・バランスに与える影響を検討したレビューです。動作観察療法はフォローアップ時点のすくみ足で有意な改善(標準化平均差-0.50)、運動イメージ療法は治療直後の歩行速度(平均差-0.06)とバランス(標準化平均差-0.97)で有意な改善が示されました。ただし著者は、これらの結果すべてを「非常に低い確実性のエビデンス」と評価しています6。
通常の理学療法に、メンタルプラクティス(実験群25人)またはリラクゼーション(対照群22人)を6週間追加し、歩行動作への効果を比較したRCTです。歩行に関する自己評価・他者評価、Timed Up and Go テスト、10m歩行テストのいずれにも、メンタルプラクティス群の優位性は確認されませんでした。重症度が軽い群(Hoehn and Yahr重症度3未満)に限定したサブグループ解析では実験群がやや上回る傾向がありましたが、統計的に有意ではありませんでした3。
通常の歩行練習にメンタルプラクティスを1回追加した場合の即時効果を検証したRCTです。介入群・対照群間で統計的に有意な差はありませんでしたが、両群とも歩行速度・歩幅・股関節可動域が練習前後で改善しており、著者は「単回のメンタルプラクティスは、物理的練習単独より優れた効果を示さなかった」と結論づけています4。
日常生活動作を題材にした個別化メンタルイメージ介入を、6週間・遠隔(オンライン)で実施した実施可能性検証試験です。主要な目的はプロトコルの実施可能性の検証で、6週間の継続率・遵守率はともに100%でした。副次的に、主観的認知機能の自己評価スコアは対照群(心理教育を実施)の低下が目立つ形で群間差が見られ、脳の機能的結合にも変化が観察されましたが、著者は「これらの変化は、本格的な検証試験で確認されるべきもの」と位置づけています5。
パーキンソン病における運動イメージ療法は、研究の「数」自体がまだ少なく、含まれる参加者も1件あたり数十人規模の小さな試験が中心です1,2。2024年・2025年に発表された2本のシステマティックレビューは、いずれも主要な統合解析で統計的に有意な効果を示せていません1,2。すくみ足・歩行速度・バランスの一部指標で有意差を示した2025年のレビューも、著者自身が「非常に低い確実性」と明記しています6。介入方法(運動感覚的イメージか視覚的イメージか、1回のセッションか複数週間のプログラムか)や評価指標が研究ごとに大きく異なる点も、結果のばらつきの一因です1,2。
1. どのタイプの運動イメージ(運動感覚的/視覚的)が、どの症状に向いているかは十分に整理されていません1。
2. 重症度(Hoehn and Yahr分類)による効果の違いは、小さなサブグループ解析でしか示唆されておらず、確立していません3。
3. 認知機能への影響については、パイロット試験レベルの報告にとどまり、本格的な検証はこれからです5。
4. 至適な頻度・期間・セッション数は、研究間で1回のみ〜6週間程度までばらつきがあり、定まっていません3,4,5。
研究の数値は集団の平均的な変化です。認知機能や集中力、イメージのしやすさには個人差が大きく、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。運動イメージ療法単独でリハビリを完結させるものではなく、通常の運動療法と組み合わせて検討される位置づけの介入です。
・治療直後の歩行速度・バランス(非常に低い確実性)6
・すくみ足のフォローアップ時点での改善(動作観察療法、非常に低い確実性)6
・主観的認知機能(パイロット試験レベル)5
・歩行の自己評価・TUG・10m歩行テストへの明確な上乗せ効果3
・単回介入での即時的な歩行改善4
運動イメージ療法は「通常の運動療法を補う可能性がある一つの手段」であり、単独で運動症状全体を大きく変えるものではありません。認知機能への関わり方については、パーキンソン病の認知機能とトレーニングについて解説した記事もあわせてご覧ください。
研究の対象は、認知症を伴わない、比較的軽〜中等度のパーキンソン病の方が中心です3,5。運動イメージ療法は「頭の中でイメージする」という認知的な作業を伴うため、動作をありありと思い描くこと自体が難しい方には向きにくい可能性があります。
・強い不安・抑うつ症状があり、イメージ課題がかえって負担になる可能性がある
・幻視などの精神症状がある(イメージ課題との切り分けが必要な場合がある)
・すくみ足や転倒歴があり、実際の歩行練習と組み合わせる際に見守りが必要
下記は「研究でよく使われた設定」であって、「これが唯一の正解」という意味ではありません。実際の設定は、認知機能や体調に合わせて調整します。
・組み合わせ:単独ではなく通常の理学療法・作業療法との併用で検討されることが多い3,4,5
・実施形態:対面での指導のほか、遠隔(オンライン)で実施した報告もある5
・指導者:理学療法士・作業療法士などがイメージの手順を段階的に指導
オンラインでの遠隔リハビリとの組み合わせについては、パーキンソン病の遠隔リハビリについて解説した記事もご覧ください。大切なのは「イメージ練習だけに頼ること」ではなく、実際の運動療法と組み合わせながら、無理なく続けられる形を探ることです。
運動イメージ療法を検討するときは、「メタアナリシスでは統合効果がはっきりしないが、個々の研究では前向きな報告もある、発展途上の分野」という要点を正直に共有することが大切です。まずはご本人がイメージ課題自体にどの程度取り組みやすいかを確認し、通常の運動療法の準備運動や合間に短時間取り入れるなど、負担にならない形で試すことを基本にしています。効果の実感が乏しい場合は無理に続けず、他の運動療法に時間を充てる判断も必要です。
本記事は、株式会社Journey Rehab代表の作業療法士・田中 光が執筆し、文献内容を2026年9月12日に確認しました。当社の訪問自費リハビリの案内を含みますが、特定の医療機器・治療メーカーから本記事作成に関する資金提供は受けていません。外部の医師による個別監修は受けていないため、診断や治療方針は主治医へご相談ください。
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
2. Pettenuzzo TSA, Estivalet KM, Cabeleira MEP, et al. Updates on Motor Imagery and Action Observation in Parkinson's Disease Motor Rehabilitation: A Systematic Review and Meta-analysis. NeuroRehabilitation. 2025. doi:10.1177/10538135251325459. PMID: 40452574. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40452574/
3. Braun S, Beurskens A, Kleynen M, Schols J, Wade D. Rehabilitation with mental practice has similar effects on mobility as rehabilitation with relaxation in people with Parkinson's disease: a multicentre randomised trial. Journal of Physiotherapy. 2011. doi:10.1016/S1836-9553(11)70004-2. PMID: 21402327. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21402327/
4. Santiago LM, de Oliveira DA, de Macêdo Ferreira LG, et al. Immediate effects of adding mental practice to physical practice on the gait of individuals with Parkinson's disease: Randomized clinical trial. NeuroRehabilitation. 2015. doi:10.3233/NRE-151259. PMID: 26484518. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26484518/
5. Cherry J, Nelson AM, Robinson LA, et al. Feasibility and potential effects of mental imagery training on subjective cognitive function and brain connectivity in people with Parkinson's disease: A randomized pilot trial. Neuropsychological Rehabilitation. 2026. doi:10.1080/09602011.2025.2608220. PMID: 41482867. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41482867/
6. Lahuerta-Martín S, Ceballos-Laita L, Jiménez-Del-Barrio S, et al. The effectiveness of action observation and motor imagery in freezing of gait, speed, physical function and balance in Parkinson's disease: a systematic review and meta-analysis. Physiotherapy Theory and Practice. 2025. doi:10.1080/09593985.2024.2404600. PMID: 39298350. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39298350/
