田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学) 東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍 初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
パーキンソン病に有酸素運動は役立つ?研究で分かっている運動症状・体力・気分への関係と安全な進め方
「パーキンソン病でも運動したほうがよいと言われたけれど、ウォーキングや自転車のような有酸素運動は本当に役立つの?」——これはとてもよく聞かれる質問です。結論から言うと、有酸素運動は体力(持久力)を高め、運動症状や気分・生活の質に良い方向の変化が報告されています。ただし、その大きさは人によって差があり、研究の質にも限界があります。この記事では作業療法士の視点で、研究で分かっていること・まだ分かっていないこと・安全な始め方を、患者さんとご家族向けにやさしく整理します。
SECTION 01 有酸素運動とは(パーキンソン病での位置づけ)
有酸素運動とは、ウォーキング、自転車(エルゴメーター)、軽いジョギング、水中歩行のように、少し息が弾む程度の運動を一定時間続けるものです。心臓や肺、全身の持久力(体力)を養う運動として知られています。
パーキンソン病では、動きの遅さ・筋肉のこわばり・姿勢やバランスの不安定さに加えて、活動量が減りやすく体力が落ちやすいという特徴があります。運動そのものは薬に置き換わるものではありませんが、国内外の多くの指針で「運動を続けること」が勧められており、その中で有酸素運動は中心的な柱の一つとして位置づけられています。
歩行による有酸素運動は、体調と転倒リスクを確認しながら無理のない強度で行います。
ウォーキングや自転車エルゴメーターなど、少し息が弾む有酸素運動のイメージ (図版は後日差し替え予定)
歩く速さや歩幅そのものに焦点を当てたトレッドミル練習や、水中で行う運動、筋力そのものを鍛える運動など、目的の異なる運動と組み合わせて考えるのが一般的です(パーキンソン病のトレッドミル歩行練習について解説した記事 、パーキンソン病の水中運動療法について解説した記事 もあわせてご覧ください)。
SECTION 02 研究で分かっていること
有酸素運動については、体力・運動症状・気分に関する研究が複数あります。代表的なものを、患者さんにも分かる言葉で紹介します。
ランダム化比較試験(地域ベース)
軽度〜中等度(Hoehn-Yahr重症度1〜3)のパーキンソン病の方を対象に、地域でのウォーキング運動(週3回・1回45分・心拍予備能のおよそ47%の中強度)を6か月続けた研究です。60名が開始し49名が完了しました。最大酸素摂取量(体力の指標)が高まり、歩行や運動症状スコア(UPDRS運動パート)が平均2.8点改善し、これは臨床的に意味のある目安(2.5点)をわずかに上回りました1 。疲労・抑うつ・遂行機能(注意の切り替え課題)・生活の質にも良い変化がみられ、重篤な有害事象はありませんでした。ただし対照群を置かない研究のため、著者自身が「効果を証明するものではない」と述べています1 。
Uc EY, et al. Neurology. 2014;83(5):413-425.〔文献1〕
システマティックレビュー・ネットワークメタ分析
156件のランダム化比較試験・約7,900名をまとめた大規模な解析です。運動を種類別に比べたところ、持久力(有酸素)運動は運動症状の重症度で平均マイナス6.43点(95%信頼区間 −10.72〜−2.28)、生活の質でもプラスの変化が示されました2 。一方で、この解析ではダンスや水中運動がより上位に位置づけられ、運動の種類による差は全体として大きくないこと、エビデンスの確実性は「低い」と評価されている点も同時に報告されています2 。
パーキンソン病の運動に関するネットワークメタ分析. Cochrane. 2023.〔文献2〕
運動強度を比べたランダム化比較試験
自転車エルゴメーターを使い、高強度インターバル運動(HIIT)と中強度持続運動(MICT)を10週間比べた小規模な試験(29名)です。どちらの群でも最大酸素摂取量が高まり、運動症状スコアと自覚的な疲労が軽くなりました。体力の伸びはHIITでやや大きい傾向でしたが、群間の差は明確ではありませんでした3 。強度の最適解はまだ定まっていません。
Kathia MM, et al. J Appl Physiol. 2024.〔文献3〕
このほか、有酸素運動に筋力トレーニングを組み合わせると、運動症状や姿勢の安定、認知の処理速度、体力の面でより幅広い変化が得られたとする報告もあります4 。運動は単独よりも組み合わせで考える視点が近年重視されています。
SECTION 03 エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
エビデンスの質と限界
有酸素運動には良い方向の報告が多い一方で、研究には共通の弱点があります。対照群がない研究が含まれること、参加者数が少ない試験が多いこと、対象の多くが軽度〜中等度で大きな認知の低下がない方に限られること、そして運動の内容や測定方法が研究ごとに異なることです1,2 。大規模で質の高い試験ではまだ結論が固まりきっておらず、確実性は「低い」と評価されています2 。研究全体では一定の傾向がありますが、この結果をすべての方に同じように当てはめることはできません。
まだ分かっていないこと
どのくらいの強度・時間・期間が一人ひとりに最適なのか、どの症状にどの程度届くのか、そして長期間続けたときに病気の進行そのものにどう影響するのかは、まだ十分に分かっていません2,3 。重症度や発症からの時期、併存する持病によっても向き不向きが変わる可能性があります。「やれば必ず良くなる」ではなく、「安全に続けられる範囲で、体力と生活のしやすさを保つことを目指す」と捉えるのが現実的です。
SECTION 04 何が変わりやすく、何は変わりにくいか
研究をならしてみると、比較的変化が出やすいのは体力(最大酸素摂取量)、歩く速さ、疲れにくさ、気分や生活の質です1,2 。運動症状スコアも平均としては良い方向の報告がありますが、その大きさは控えめで、個人差が大きいのが正直なところです2 。
一方で、手のふるえ(振戦)や、進行に伴う細かな動作の難しさ、すくみ足などは、有酸素運動だけで大きく変わりにくい部分です。これらには、外的なリズムや視覚の手がかりを使う練習、課題に特化した練習など、目的の異なるアプローチを併用します。
自転車運動は、歩行に不安がある場合にも検討される方法の一つです。
体調の良い時間帯に、無理のない強度で続けることを示すイメージ (図版は後日差し替え予定)
SECTION 05 どんな人に向いているか・注意したい人
軽度〜中等度で、自分で歩ける、あるいは見守りや軽い介助で歩ける方は、有酸素運動を取り入れやすい代表的な対象です。体力の低下が気になる方、気分の落ち込みや疲れやすさがある方にも、無理のない範囲での有酸素運動は選択肢になります。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと: 起立性の血圧低下(立ちくらみ)、心臓や呼吸の持病、強いすくみ足や転倒歴、重度のバランス障害がある方は、運動の種類や強度に注意が必要です。パーキンソン病では自律神経の調整が乱れて運動中に血圧が下がりやすいことがあり、屋外や単独での高強度運動は転倒のリスクを高めます。開始前と、体調や薬が変わったときには、必ず主治医やリハビリ専門職に相談してください。
SECTION 06 回数・頻度・強度の目安
研究で使われた設定を参考にすると、一般的な目安は次のとおりです。ただしこれは一律の処方ではなく、体調・症状・持病に合わせて個別に調整する必要があります。
研究で使われた設定の目安
・頻度:週3回程度 ・1回の時間:30〜45分(最初は15分程度から徐々に延ばす) ・強度:少し息が弾む中強度(心拍予備能のおよそ40〜50%)から。慣れと安全を確認しながら調整 ・期間:数週間〜6か月の研究が中心 これらは地域ベースの試験などで安全に実施できたと報告された範囲です1 。
Uc EY, et al. Neurology. 2014〔文献1〕 / ネットワークメタ分析 Cochrane 2023〔文献2〕
最初から強くやりすぎると、筋肉や関節の痛み・息切れ・めまいが出やすくなります1 。ウォーミングアップとクールダウンを入れ、体調の良い時間帯(薬が効いている時間帯など)を選ぶこと、そして続けやすい形にすることが大切です。筋力を鍛える運動と組み合わせたい方は、パーキンソン病の筋力トレーニングについて解説した記事 もあわせてご覧ください。
SECTION 07 Journey Rehabでの現場での実感と正直なまとめ
🏥 当施設でのリアルな経験
訪問リハビリの現場でも、有酸素運動を無理のない範囲で続けられている方では、「以前より長く歩ける」「疲れにくくなった」「気持ちが前向きになった」といった声を聞くことがあります。一方で、体調や症状の波、季節や気分によって思うように続かない時期がある方も少なくありません。大切なのは、強い負荷を短期間がんばることよりも、生活の中に無理なく組み込み、安全に続けられる形を一緒に探すことだと感じています。うまくいったやり方も、続かなかった理由も含めて、その方に合う運動量を調整していきます。
運動中だけでなく、運動後の疲労や立ちくらみも確認し、休息をはさみます。 まとめると、有酸素運動は体力・気分・生活のしやすさを保つうえで役立つ可能性がある一方、効果の大きさや最適な方法にはまだ分かっていないことが残っています。「必ず良くなる」ではなく、「安全に、続けられる範囲で」を合言葉に、専門職と相談しながら進めるのがおすすめです。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
有酸素運動を今の体力や症状に合わせてどう取り入れるか、身体の状態を一緒に確認しながら考えます。運動の種類や強度に迷う方は、お気軽にご相談ください。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の診断・治療・医療行為を推奨するものではありません。症状や体調には個人差があり、運動の適否は人によって異なります。実施の前には、必ず主治医やリハビリ専門職にご相談ください。記載した研究データは執筆時点の情報であり、今後の研究で見解が変わる可能性があります。
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学) 作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会) 東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事 ・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立 ・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表 ・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
よくある質問(Q&A)
Q. パーキンソン病でウォーキングはどのくらいすればいいですか?
A. 研究では週3回・1回30〜45分・少し息が弾む中強度から始める設定がよく使われています。ただし最適な量は人によって異なります。まずは短時間から始め、体調をみながら主治医やリハビリ専門職と相談して調整しましょう。
Q. 有酸素運動で運動症状は良くなりますか?
A. 研究では運動症状スコアが平均として良い方向に変化したという報告がありますが、その大きさは控えめで個人差が大きく、確実性は高くありません。薬の代わりになるものではなく、体力や生活のしやすさを保つ手段の一つと考えるのが現実的です。
Q. 高強度の運動のほうが効果的ですか?
A. 高強度と中強度を比べた研究では、体力の伸びに大きな差は示されていません。強度を上げるほど良いとは限らず、痛みや転倒のリスクも上がります。安全に続けられる強度から始めるのが基本です。
Q. 薬を飲んでいても運動していいですか?
A. 多くの場合、薬が効いている時間帯に運動するほうが安全に動けます。薬の種類や体調によって注意点が変わるため、開始前に主治医に確認してください。
Q. 立ちくらみやふらつきがありますが運動できますか?
A. パーキンソン病では血圧が下がりやすいことがあり、その場合は運動の種類や強度に注意が必要です。自己判断せず、主治医やリハビリ専門職に相談したうえで進めましょう。
Q. 一人で運動しても大丈夫ですか?
A. バランスや転倒が心配な方は、屋内や見守りのある環境から始めるほうが安全です。屋外や単独での運動は、体調や症状が安定していることを確認してからにしましょう。
参考文献
1. Uc EY, Doerschug KC, Magnotta V, et al. Phase I/II randomized trial of aerobic exercise in Parkinson disease in a community setting. Neurology. 2014;83(5):413-425. PMID: 24991037. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24991037/
2. Physical exercise for people with Parkinson's disease: a systematic review and network meta-analysis. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2023. PMID: 36602886. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36602886/
3. Kathia MM, Duplea SG, Bommarito JC, et al. High-intensity interval versus moderate-intensity continuous cycling training in Parkinson's disease: a randomized trial. Journal of Applied Physiology. 2024. PMID: 39008618. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39008618/
4. Chen Y, Chen Y. The impact of combined aerobic and resistance exercise on the prognosis of early Parkinson's disease patients. Technology and Health Care. 2025. PMID: 39177624. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39177624/