パーキンソン病に筋力トレーニングは役立つ?筋力・歩行の研究と限界を解説

· パーキンソン病関連情報
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
パーキンソン病に筋力トレーニングは役立つ?筋力・歩行の研究と限界を正直に解説

「最近、足に力が入りにくくなった」「立ち上がりや歩くのがつらくなってきた」——パーキンソン病では、動きにくさに加えて筋力の低下も気になってきます。そこでよく聞かれるのが、「筋力トレーニング(レジスタンストレーニング)はやったほうがいいのか」という質問です。この記事では、パーキンソン病に対する筋力トレーニングについて、研究で分かっていること、期待できる面とまだ不確かな面を、患者さんとご家族に向けて正直に整理します。結論を先にお伝えすると、筋力や歩行の一部の指標には良い変化が示されていますが、運動症状の重さやバランスは変わりにくく、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。

椅子や軽い負荷を使った筋力トレーニング場面
筋力トレーニングは、椅子や軽い負荷を使い、無理のない姿勢から始めます。
この記事の要点
・筋力トレーニングは、体重や重り、チューブなどの負荷を使って筋肉に力を出させる運動です。
・多くの運動を比べた大規模なまとめでは、筋力トレーニング(17試験・663名)が歩行の指標に良い変化を示しました(中等度〜高い質)1
・250研究をまとめたネットワーク解析では、筋力トレーニングは筋力(標準化平均差0.95)や歩く速さ(0.31)に良い変化を示し、睡眠や認知面でも変化が示されました2
・一方で、運動症状の重さやバランスの指標でははっきりした差が示されないことが多い点は正直にお伝えします1,3
・研究全体の確実性は高くなく、最適な負荷や頻度もまだ定まっていません1,2,3
SECTION 01
筋力トレーニングとは

筋力トレーニング(レジスタンストレーニング)とは、体重や重り(ダンベル・マシン)、ゴムチューブなどの負荷を使って、筋肉に力を出させる運動のことです。スクワットや立ち座りの練習、足を持ち上げる運動などが含まれます。パーキンソン病では、動きにくさに加えて、加齢や活動量の低下もあいまって筋力が落ちやすく、筋力トレーニングは、立ち上がる・歩く・階段を上るといった生活動作を支える土台として研究されてきました1

筋力トレーニングは、負荷の大きさ・回数・休憩の取り方を調整できるため、体力や状態に合わせて幅広く応用できます。ただし、これも「これ一つですべてが良くなる方法」ではなく、有酸素運動やバランス練習、歩行練習などと組み合わせて考えるのが一般的です。運動全体をどう組み立てるかについては、パーキンソン病のリハビリで行う運動について解説した記事もあわせて読むと、全体像がつかみやすくなります。

SECTION 02
研究で分かっていること

結論から正直にお伝えすると、筋力トレーニングは「筋力」や「歩行の一部の指標」に良い変化が期待できます。一方で、運動症状の重さやバランスの指標では、はっきりした差が示されないことが多いのが現状です。以下に、研究をまとめた解析を紹介します。

研究から読み取れること
多くの運動の種類を比べた大規模なまとめ(191試験・約8,000名)では、筋力トレーニング(17試験・663名)が歩行の指標に良い変化を示しました。とくに6分間で歩ける距離(標準化平均差0.67、95%信頼区間0.09〜1.24)に良い変化がみられ、この項目の質は「中等度〜高い」と評価されています1。一方で、運動症状の重さ(UPDRS)やバランス(Timed Up and Go)でははっきりした差は示されませんでした1

さらに、250の研究(約13,000名)をまとめたネットワーク解析では、筋力トレーニングは筋力(標準化平均差0.95、95%信頼区間0.73〜1.17)や歩く速さ(0.31、95%信頼区間0.14〜0.47)に良い変化を示し、睡眠の質や認知面でも良い変化が報告されました2。ただし、研究全体の確実性は「低い〜非常に低い」と評価されています2

また、筋力トレーニングにしぼった別のまとめ(14試験・761名)では、筋力やすくみ足、生活の質に良い変化が示された一方、歩く速さ・歩幅・立ち上がって歩く動作・バランスの指標では、ほかの運動と比べてはっきりした差は示されませんでした3。研究によって結果が一部で割れており、筋力トレーニングは「筋力と一部の歩行に有力」だが「万能ではない」と受け止めるのが妥当です。

負荷や回数を相談して確認する場面
負荷や回数は、痛み・疲労・血圧などを確認しながら個別に調整します。
エビデンスの質と限界
大規模なまとめでは、筋力トレーニングの歩行への効果は「中等度〜高い」質とされ、比較的しっかりした部類に入ります1。ただし、より多くの研究を集めたネットワーク解析では、全体の確実性は「低い〜非常に低い」と評価されており2、含まれた研究の参加人数が少ないこと、練習の内容・負荷・期間が研究ごとに大きく異なることが指摘されています2,3。効果の大きさや、どの指標に効くかについては、まとめによって結果が一部で異なります。こうした事情から、研究の結果をそのまますべての方に当てはめることはできません。
まだ分かっていないこと
現在の研究でも、どのような重症度・時期の方に、どのくらいの負荷・回数・頻度・期間が最も向いているのかは十分に分かっていません1,2。効果がどのくらい長く続くのか、他の運動(有酸素運動やバランス練習など)とどう組み合わせるのが良いのかも、これからの課題です。運動症状の重さやバランスに、筋力トレーニングだけで大きな変化を出せるかどうかも、はっきりしていません1,3。「筋力さえつければすべて解決する」わけではない点は、正直にお伝えしておきたいところです。
SECTION 03
何が変わりやすく、何は変わりにくいか

研究の結果から整理すると、筋力トレーニングで比較的変わりやすいのは、筋力そのものと、歩行の一部の指標(6分間で歩ける距離や歩く速さ)です1,2。反対に、運動症状の重さ(ふるえや動きの遅さなど)やバランスの指標は、筋力トレーニングだけでは変わりにくい部分だと考えられます1,3。パーキンソン病そのものの進行を止めるものではない点も、正直にお伝えしておきます。

大切なのは、筋力トレーニングを「これ一つで何とかする方法」ととらえないことです。筋力は、立ち上がる・歩く・階段を上るといった生活動作を支える土台であり、有酸素運動やバランス練習、歩行練習と組み合わせることで、生活の中で活きやすくなります。運動を続けること自体のメリットや、継続のコツについては、パーキンソン病のリハビリを続けるメリットと継続支援について解説した記事もあわせて読むと、無理なく取り組むヒントになります。

SECTION 04
どんな人に向いているか・注意したい点

研究で対象になったのは、多くが軽度から中等度のパーキンソン病の方です1,3。「立ち上がりや歩行がつらくなってきた」「足に力が入りにくい」「転ばない体づくりの土台をつくりたい」という方には、筋力トレーニングは選択肢の一つになり得ます。負荷を細かく調整できるため、体力に自信がない方でも、軽い負荷から無理なく始められるのが利点です。

⚠ 注意したい点
筋力トレーニングは、負荷や姿勢を誤ると、腰や膝、関節の痛みや転倒につながることがあります。とくに、力むときに息を止めると血圧が上がりやすいため、呼吸を止めないことが大切です。高血圧や心臓の持病がある方、骨がもろくなっている方、バランスが不安定な方は、始める前に必ず主治医に相談してください。パーキンソン病では、薬の効いている時間帯に体が動きやすくなることが多いため、その日の状態に合わせて内容を調整する必要があります。自己流で無理に負荷を上げず、担当のリハビリ専門職に、負荷・回数・フォームを確認してもらいながら進めると安心です。
SECTION 05
回数・頻度・期間の目安

研究では、多くのプログラムが週2〜3回、数週間から数か月続ける形で行われていましたが、負荷や回数はさまざまで、「これが正解」という決まった形はありません1,3。一般的な運動の考え方としては、少し疲れを感じる程度の負荷で、無理なく続けられる回数から始め、慣れてきたら少しずつ負荷や回数を増やしていく形が用いられます。ここから言えるのは、「最初から重い負荷に挑む」より、「軽い負荷で正しいフォームを身につけ、安全を確認しながら段階的に進める」という方法が現実的だということです。

自宅で取り入れる場合も、立ち座りの反復、かかと上げ、ゴムチューブを使った運動など、道具の少ない方法から始めるとよいでしょう。頻度や継続の仕方については、パーキンソン病のリハビリ頻度・運動時間について解説した記事もあわせて確認しておくと、生活の中に組み込みやすくなります。何をどこまで自分で行い、どこから専門職に相談するかの線引きは、担当の専門職と決めておくと安心です。

SECTION 06
Journey Rehabでの現場経験
当施設での経験
弊社は訪問型の自費リハビリのため、ご自宅で無理なく続けられる筋力づくりを一緒に考えることが多くあります。現場では、いきなり重い負荷をかけるより、立ち座りやかかと上げなど、生活動作に直結する運動を、その日の体調や薬の効いている時間帯に合わせて行うことを大切にしています。筋力の変化が生活動作の楽さにつながる方もいれば、変化がゆるやかな方もいて、大切なのは「正しいフォームで、安全に、その人のペースで続けられること」だと感じています。息を止めずに行うことや、痛みが出たら無理をしないことも、毎回ていねいに確認するようにしています。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
生活動作に合った筋力づくりや、安全な負荷の進め方について、身体の状態を一緒に確認しながらリハビリの内容を考えます。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨ではありません。筋力トレーニングは、負荷や姿勢を誤ると痛みや転倒につながることがあります。高血圧や心臓の持病、骨がもろくなっている方はとくに注意が必要です。始める前や不安があるときは、主治医や担当のリハビリ専門職に相談し、負荷やフォームを確認しながら進めてください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍

経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中

研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表

論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
FAQ
よくある質問
重い負荷でないと意味がないのですか?
いいえ。研究では負荷の設定はさまざまで、軽い負荷から始めても取り組めます。大切なのは重さそのものより、正しいフォームで安全に続けることです。負荷の上げ方は専門職と相談しながら決めるとよいでしょう。
筋力トレーニングでふるえや動きの遅さは変わりますか?
研究では、運動症状の重さの指標に、筋力トレーニングだけで大きな変化を示す根拠ははっきりしていません。筋力や一部の歩行の指標には良い変化が示されていますが、運動症状には別のアプローチや薬物治療と組み合わせて考えることが大切です。
自宅の道具だけでもできますか?
立ち座りの反復、かかと上げ、ゴムチューブを使った運動など、道具の少ない方法から始められます。ただし、安全なフォームや負荷の目安は個人差が大きいため、はじめは専門職に確認してもらうことをおすすめします。
どのくらいの頻度で行うとよいですか?
研究では週2〜3回が多く用いられていますが、決まった形はありません。個人差が大きいため、その日の体調に合わせて無理のない頻度から始め、専門職と相談しながら調整するとよいでしょう。
有酸素運動とどちらを優先すべきですか?
どちらか一方が優れているというより、目的によって使い分けます。筋力トレーニングは筋力や一部の歩行に、有酸素運動は持久力に関わります。両方を組み合わせるのが一般的で、何を優先するかは体の状態や目標に合わせて専門職と相談するとよいでしょう。
持病があっても始めて大丈夫ですか?
高血圧や心臓の持病、骨がもろくなっている方などは、負荷のかけ方に注意が必要です。始める前に必ず主治医に相談し、安全に行える運動の範囲を確認してから取り組んでください。
REFERENCES
参考文献
1. Radder DLM, Silva de Lima AL, Domingos J, Keus SHJ, van Nimwegen M, Bloem BR, de Vries NM. Physiotherapy in Parkinson's Disease: A Meta-Analysis of Present Treatment Modalities. Neurorehabil Neural Repair. 2020;34(10):871-880. DOI:10.1177/1545968320952799. PMID:32917125. PMCID:PMC7564288.
2. Yang Y, Wang G, Zhang S, Wang H, Zhou W, Ren F, Liang H, Wu D, Ji X, Hashimoto M, Wei J. Efficacy and evaluation of therapeutic exercises on adults with Parkinson's disease: a systematic review and network meta-analysis. BMC Geriatr. 2022;22(1):813. DOI:10.1186/s12877-022-03510-9. PMID:36271367. PMCID:PMC9587576.
3. Yang X, Wang Z. Effectiveness of Progressive Resistance Training in Parkinson's Disease: A Systematic Review and Meta-Analysis. Eur Neurol. 2023;86(1):25-33. DOI:10.1159/000527029. PMID:36265444.