·
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
パーキンソン病のリズム聴覚刺激(RAS)とは?歩行・すくみ足への研究と限界を正直に解説
内容確認日:2026年7月23日
「メトロノームの音に合わせて歩くと、パーキンソン病の歩きが安定すると聞いたけれど、本当に意味があるの?」——これはご本人やご家族からよくいただく質問です。結論から正直にお伝えすると、リズム聴覚刺激(RAS)は歩く速さや歩幅といった一部の歩行の指標に、良い方向の変化が報告されている一方で、研究の質にはばらつきがあり、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。この記事では、作業療法士の立場から、研究で分かっていることと、まだ分かっていないことを、できるだけ正直に整理します。
この記事の内容
SECTION 01
リズム聴覚刺激(RAS)とは何か
リズム聴覚刺激(Rhythmic Auditory Stimulation:RAS)は、メトロノームの音や、拍がはっきりした音楽など「一定のリズム」を耳から聞きながら、その拍に合わせて足を運ぶ歩行練習の方法です。外的キューイング(外からの合図で動きを引き出す)と呼ばれる考え方のひとつで、聴覚(音)以外にも、床のラインをまたぐ視覚キューや、体に触れる触覚キューがあります。
パーキンソン病では、歩幅が小さくなる、歩き出しや方向転換で足が止まる「すくみ足」が出る、といった歩行の変化がみられることがあります。RASは、脳の中でリズムを刻む働きを外から補い、歩くテンポと歩幅を引き出しやすくすることをねらいとしています。外的キューを使った歩行の考え方は、脳卒中のリハビリでも研究されており、当施設では脳卒中後のリズム聴覚刺激と歩行について解説した記事もあわせてご案内しています。

SECTION 02
研究で分かっていること
まず全体像です。50件の研究(合計1,892名)をまとめた大規模なシステマティックレビュー・メタアナリシス1では、リズム聴覚キューを使うことで、歩く速さや歩幅に小さいながらプラスの方向の変化が示されました。一方で、研究間のばらつき(異質性)が大きく、質にもばらつきがあることも同時に報告されています。
研究紹介|メタアナリシス(2018年・50研究・1,892名)
Ghaiらのメタアナリシス1では、リズム聴覚キューによって、歩く速さ(効果量 Hedges g=0.23、95%信頼区間 0.1〜0.3)、歩幅(g=0.42、0.35〜0.5)に小さな正の効果、方向転換にかかる時間の短縮などが示されました。ケイデンス(1分あたりの歩数)にははっきりした差はみられませんでした(g=−0.05、有意でない)。ただし研究の質は平均的で(PEDroスコア平均5.4/10)、研究間の異質性は非常に大きい(I²が最大93.6%)とされています。
より対象を絞った5件のランダム化比較試験(209名)のメタアナリシス2でも、歩く速さ(標準化平均差 SMD=0.53、95%信頼区間 0.23〜0.83)、歩幅(SMD=0.51、0.18〜0.84)に対照群より大きな正の変化が報告されています。ただしこの解析でも、盲検化(評価者が介入内容を知らない状態にすること)が不十分で、エビデンスの質は「低い(low)」と評価されています。
歴史的にも、自宅で3週間、リズムに合わせた歩行練習を行った初期のランダム化比較試験3で、歩く速さや歩幅がリズムなしの練習より大きく変化したことが報告されています。また、転倒歴のある方を対象に24週間の在宅RAS練習を行った研究4では、練習を中断した群で歩行指標が悪化する傾向がみられ、リズム練習を続けることの意味が示唆されました。歩行のテンポづくりという点では、パーキンソン病のトレッドミル歩行練習について解説した記事も参考になります。
SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
エビデンスの質と限界
リズム聴覚刺激の研究は数としては多いものの、多くの研究で参加者の人数が少なく、評価者の盲検化や割り付けの方法に弱点があります1,2。研究どうしで、使う音(メトロノームか音楽か)、テンポの設定、練習の量が異なるため、結果にばらつきが大きいのが実情です。効果量も「小〜中程度」で、劇的な変化を示すものではありません。研究全体では一定の傾向がありますが、対象者や介入内容が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
まだ分かっていないこと
・練習室で得られた歩行の変化が、日常生活での歩きや転倒の減少にどこまでつながるかは、まだ十分に確立していません1。
・最適なテンポ(自分の歩調に対して何%速める/遅くするか)、1回の時間、週あたりの頻度、続けるべき期間ははっきり決まっていません1,2。
・すくみ足が強い方、重症度が進んだ方、認知面の変化がある方への効果の違いは、十分に検証されていません。
・練習をやめた後、効果がどれくらい持続するかも、まだよく分かっていません。
・最適なテンポ(自分の歩調に対して何%速める/遅くするか)、1回の時間、週あたりの頻度、続けるべき期間ははっきり決まっていません1,2。
・すくみ足が強い方、重症度が進んだ方、認知面の変化がある方への効果の違いは、十分に検証されていません。
・練習をやめた後、効果がどれくらい持続するかも、まだよく分かっていません。

SECTION 04
何が期待でき、何は変わりにくいか
研究をふまえて、正直に整理します。期待しやすいのは、リズムに合わせている「その場面」での歩く速さや歩幅といった歩行のテンポの部分です1,2。方向転換がスムーズになったという報告もあります1。
一方で、変わりにくい・はっきりしないのは、ケイデンス(歩数の刻み)や、日常生活全体の歩きやすさ、転倒そのものの減少です1。RASは病気の進行を止めるものではなく、あくまで「今の歩きを引き出しやすくする補助」として研究されている点は、誤解のないようお伝えしています。パーキンソン病では転倒への備えも大切なテーマで、パーキンソン病のバランス運動について解説した記事もあわせてご覧ください。
SECTION 05
どんな人に向いているか
研究の対象になってきたのは、歩幅が小さくなってきた方、歩き出しや方向転換で足が止まりやすい方が中心です。リズムに合わせて体を動かすことに抵抗が少なく、音を聞き取れる方は、練習に取り入れやすい傾向があります。二重課題(歩きながら別のことをする場面)で歩きが乱れやすい方には、パーキンソン病の二重課題トレーニングについて解説した記事も参考になります。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと:
すくみ足が強い方や、聴覚に合わせると逆に体がこわばる方では、合わないこともあります。転倒リスクがある状態での歩行練習は、必ず安全を確保できる環境で、担当の医師やリハビリ専門職に相談しながら行ってください。合わない方法を無理に続ける必要はありません。
すくみ足が強い方や、聴覚に合わせると逆に体がこわばる方では、合わないこともあります。転倒リスクがある状態での歩行練習は、必ず安全を確保できる環境で、担当の医師やリハビリ専門職に相談しながら行ってください。合わない方法を無理に続ける必要はありません。
SECTION 06
回数・頻度・期間の目安
研究では、1回20〜30分程度の歩行練習を、週に数回、数週間から数か月続ける形が多く用いられてきました3,4。ただし前述のとおり、最適な頻度や期間は確立していません1。目安として捉え、体調やその日の状態に合わせて調整することが大切です。個別性が大きい領域なので、実際のテンポ設定や量は、専門職と一緒に決めていくことをおすすめします。

SECTION 07
専門職と確認したい実践上のポイント
専門職が確認する主な項目
歩行速度や歩幅だけでなく、すくみ足が出る場所、方向転換、疲労、服薬との時間関係、音への合わせやすさを確認します。リズムが歩行を乱す場合は中止し、視覚キューや環境調整など別の方法を検討します。自宅では、床の物・段差・手すり・見守り位置も含めて安全性を優先します。
まとめると、リズム聴覚刺激は、歩く速さや歩幅といった一部の歩行の指標に良い方向の変化が報告されている方法ですが、効果は小〜中程度で、研究の質にはばらつきがあります。日常生活の歩きや転倒の減少にどこまでつながるかは、まだはっきりしていません。合う・合わないの個人差も大きいため、「試してみて、その方の生活に役立つかを一緒に確認する」姿勢が大切だと考えています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の治療・診断を推奨したり、医療行為に代わるものではありません。症状やリハビリの進め方には個人差があります。実施の前には、必ず担当の医師やリハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点のもので、今後の研究で評価が変わる可能性があります。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
歩き方やリズムの練習について、身体の状態を一緒に確認しながら進め方を考えます。
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
Q & A
よくある質問
Q. メトロノームと音楽、どちらが良いですか?
研究では両方が使われており、どちらが優れているかははっきり決まっていません1。拍が聞き取りやすければ、続けやすい方を選ぶことが多いです。好みのリズムの音楽を使う方もいます。
Q. すくみ足にも役立ちますか?
歩き出しや方向転換のきっかけづくりに使われることはありますが、すくみ足が強い方への効果は個人差が大きく、十分に確立していません。合う・合わないを実際に確認することが大切です。
Q. 自宅で一人でやっても大丈夫ですか?
転倒のリスクがある場合は、まず安全な環境と方法を専門職と確認してから行うことをおすすめします。手すりのある廊下など、支えのある場所で始めると安心です。
Q. どのくらいのテンポで歩けばいいですか?
自分の普段の歩調を基準に設定することが多いですが、最適なテンポは研究でも定まっていません1。速すぎると逆に歩きが乱れることもあるため、個別に調整します。
Q. お薬のリハビリは必要なくなりますか?
いいえ。リズム聴覚刺激は薬物治療に置き換わるものではなく、あくまで併用して検討される補助的な方法です。お薬のことは必ず主治医にご相談ください。
Q. 効果はどのくらい続きますか?
練習をやめた後にどれくらい持続するかは、まだよく分かっていません。研究では、続けている間は歩行の指標が保たれやすい傾向が示唆されています4。
REFERENCES
参考文献
1. Ghai S, Ghai I, Schmitz G, Effenberg AO. Effect of rhythmic auditory cueing on parkinsonian gait: A systematic review and meta-analysis. Sci Rep. 2018;8(1):506. PMID: 29323122.
2. Burrai F, Apuzzo L, Zanotti R. Effectiveness of Rhythmic Auditory Stimulation on Gait in Parkinson Disease: A Systematic Review and Meta-analysis. Holist Nurs Pract. 2021;35(4):212-220. PMID: 34121062.
3. Thaut MH, McIntosh GC, Rice RR, et al. Rhythmic auditory stimulation in gait training for Parkinson's disease patients. Mov Disord. 1996;11(2):193-200. PMID: 8684391.
4. Thaut MH, Rice RR, Braun Janzen T, Hurt-Thaut CP, McIntosh GC. Rhythmic auditory stimulation for reduction of falls in Parkinson's disease: a randomized controlled study. Clin Rehabil. 2019;33(1):34-43. PMID: 30033755.
2. Burrai F, Apuzzo L, Zanotti R. Effectiveness of Rhythmic Auditory Stimulation on Gait in Parkinson Disease: A Systematic Review and Meta-analysis. Holist Nurs Pract. 2021;35(4):212-220. PMID: 34121062.
3. Thaut MH, McIntosh GC, Rice RR, et al. Rhythmic auditory stimulation in gait training for Parkinson's disease patients. Mov Disord. 1996;11(2):193-200. PMID: 8684391.
4. Thaut MH, Rice RR, Braun Janzen T, Hurt-Thaut CP, McIntosh GC. Rhythmic auditory stimulation for reduction of falls in Parkinson's disease: a randomized controlled study. Clin Rehabil. 2019;33(1):34-43. PMID: 30033755.
