パーキンソン病のバランス運動と転倒予防|効果・限界・安全な進め方

· パーキンソン病関連情報
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
パーキンソン病のバランス運動と転倒予防とは?運動でできること・まだ分からないことを正直に解説

「立っているとふらつく」「よく転ぶようになった」——パーキンソン病の方やご家族にとって、転倒は大きな心配ごとの一つです。バランス運動は、こうしたふらつきや転倒に対して、最もよく研究されているリハビリの一つです。この記事では、パーキンソン病のバランス運動と転倒予防について、研究で分かってきたことと、まだはっきりしないことを、患者さんとご家族に向けて正直に整理します。結論から言うと、運動にはバランスの指標を良くし、転ぶ回数を減らす可能性を示した研究がまとまってきていますが、「転ぶ人の数そのもの」を減らせるかははっきりせず、まずは専門職による評価が大切です。

パーキンソン病の方が手すりの近くで重心移動練習を行う様子
この記事の要点
・バランス運動とは、立ち姿勢での重心移動、片脚立ち、方向転換、体幹を使う運動などを通して、姿勢を保つ力に働きかける運動です2
・25の試験をまとめた分析では、運動によってバランスと歩行の指標に良い変化(効果量0.30〜0.42)がみられ、転ぶ回数(転倒率)も約半分に減ったと報告されました。ただし「転ぶ人の数」を減らす効果は示されませんでした1
・別の大規模な分析でも、神経の病気のある方で運動により転倒率が約51%減ったと報告され、運動によるけがはごくまれで、続けやすさも良好でした3
・体幹を使う運動でもバランスの指標に良い変化が報告されていますが、研究ごとのばらつきが大きい点に注意が必要です4
・効果には個人差があり、転倒には環境や体調も関わります。自己流で始める前に、まず主治医・リハビリ専門職に相談することをおすすめします1,3
SECTION 01
パーキンソン病のバランスの問題とは

パーキンソン病では、姿勢を保つ働き(姿勢反射)が弱くなり、押されたときに立ち直りにくくなったり、方向転換や立ち上がりでふらついたりしやすくなります。前かがみの姿勢、歩き出しや向きを変えるときのすくみ足なども重なり、転びやすくなります1。転倒はけがや自信の低下につながり、外出や活動をためらう原因にもなります。

バランス運動は、こうした姿勢を保つ力に働きかける運動の総称です。立った姿勢での重心移動、片脚立ち、つま先・かかと立ち、方向転換の練習、体幹を使う運動などが含まれます2,4。太極拳やヨガ、ダンスなど、バランスの要素を含むさまざまな運動も研究されています。運動でバランスに働きかける取り組みの一つとして、パーキンソン病のダンスについて解説した記事もご覧ください。

SECTION 02
研究で分かっていること

結論から正直にお伝えすると、「運動はバランスや歩行の指標を良くし、転ぶ回数を減らす可能性を示した研究がまとまってきている」一方で、「転ぶ人の数そのものを減らせるかははっきりしない」というのが現状です。代表的な研究をみていきます。

バランス・歩行・転倒への大きな分析
25の試験をまとめた分析(2016年)では、運動によってバランスと歩行の指標に良い変化がみられました(短期の効果量0.30、長期0.42)。転ぶ回数(転倒率)も、運動を行った群で少なく(短期で約0.49倍、長期で約0.41倍)、およそ半分程度に減ったと報告されています。一方で、「一度でも転んだ人の数」を減らす効果ははっきり示されませんでした。また、施設で行う指導つきの運動のほうが、良い変化が大きい傾向がありました1
運動の種類による比較
パーキンソン病の理学療法を幅広くまとめた分析(2020年)では、バランス・歩行の練習(28試験・1069人)で、バランスの指標(Berg Balance Scale:効果量SMD 0.57)、運動症状(0.34)、歩行速度(0.28)に良い変化が示されました2。この分析では、ノルディックウォーキングなど特定の運動でより大きな効果量も報告されていますが、試験数が少ないものもあり、解釈には注意が必要です2。運動の種類にはそれぞれ特徴があり、その方に合ったものを選ぶことが大切です。
転倒予防と安全性・体幹運動
神経の病気や加齢に伴う転倒への運動をまとめた大規模な分析(2023年)では、神経の病気のある方で運動により転倒率が約51%減った(およそ0.49倍)と報告されました。運動によるけがはごくまれ(参加者・年あたり0.005件)で、運動を続けられた割合も約78%と良好でした3。また、体幹(お腹や背中)を使う運動をまとめた分析(2023年)では、バランスの指標(Berg Balance Scale:効果量SMD 0.52)に良い変化が示されました。ただし、研究ごとのばらつきが大きく、すべての指標で一貫していたわけではありません4
専門職の見守りで安全にステップ練習を行う様子
SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
エビデンスの質と限界
これらの研究には限界があります。運動の研究では、参加者や担当者に「どの運動か」を伏せることが難しく、期待による影響が入りやすい点が指摘されています3。含まれる運動の種類(バランス運動、体幹運動、太極拳、ダンスなど)や、対象者の重症度、評価方法は研究ごとに幅があり、まとめて比べにくい面があります2,4。転ぶ回数が減ったと報告する一方で、「一度でも転んだ人の数」は減らせなかった分析もあり、結果は指標によって異なります1。良い結果を示した研究があっても、すべての方に同じ変化が当てはまるわけではありません。
まだ分かっていないこと
現在の研究では、どの種類のバランス運動が最も役立つのか、週に何回・どのくらいの期間続けるとよいのかは、十分に定まっていません2。多くの研究の追跡期間は12か月ほどまでで、それより長い期間の効果はよく分かっていません1。症状が進んだ方や、頭の働きの低下がある方、すでに何度も転んでいる方に、どこまで運動が役立つのかもはっきりしていません1。バランスの指標が良くなったことが、実生活での大きなけがの予防にどこまでつながるのかも、今後の課題です。
SECTION 04
何が期待でき、何ははっきりしないか

研究をふまえると、バランス運動は「続けることで、バランスや歩行の指標に良い変化を示し、転ぶ回数を減らす可能性のある取り組み」と考えるのが現実的です1,2,3。運動によるけがはごくまれで、続けやすさも良好とされており、比較的安全に取り入れやすい点も利点です3。ふらつきへの不安が和らぐことで、活動の幅が保たれることも期待されます。特に、専門職の指導のもとで行う運動で、良い変化が大きい傾向が報告されています1

一方で、「バランス運動だけで転ばなくなる」ことは、現時点の研究でははっきり示されていません。転ぶ回数が減っても、「一度でも転ぶ人」を確実に減らせるとは限らないという結果もあります1。反応には個人差があり、変化を感じにくい方もいます。転倒には、運動だけでなく、お薬の効き方、住まいの環境、視力、血圧なども関わります。バランス運動は単独の決め手ではなく、これらの見直しと組み合わせる「一部」として位置づけるのが現実的です。

SECTION 05
どんな運動・どんな人に向いているか

研究では、立ち姿勢での重心移動、片脚立ちや方向転換の練習、体幹を使う運動、太極拳やダンスなど、さまざまなバランス運動が扱われています2,4。共通しているのは、少し「ぐらつく」場面をあえて安全な形でつくり、立ち直る練習をする点です。ふらつきやすい方、方向転換で不安定になる方、転倒が心配な方などに向いています。一方で、姿勢反射が大きく弱っている方やすでに何度も転んでいる方では、支えのある環境や手すりを使い、より慎重に進める必要があります。運動の効果を確認するときの指標についてはパーキンソン病のリハビリで使う評価指標について解説した記事もご覧ください。

⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと
バランス運動は、ふらつきをあえて扱う運動のため、転倒の危険と隣り合わせです。ひとりで無理に難しい運動を行うと、転んで大きなけがにつながることがあります。必ず、手すりや壁など支えのある環境で、できれば見守りのもとで行ってください。お薬が切れている時間帯は動きにくく転びやすいため、運動する時間帯にも注意が必要です。急に増えたふらつきや、立ちくらみ、これまでと違う転び方があるときは、運動を続けず医療機関に相談してください。転倒予防には、運動だけでなく、住まいの段差や照明、履物、お薬の見直しも大切です。自己流で始める前に、まず主治医・リハビリ専門職に、自分の状態に合う運動と安全な環境を相談することをおすすめします。ここで紹介した内容は一般的な情報であり、成果をすべての方に保証するものではありません。
自宅の玄関で転倒につながる敷物や履物を確認する様子
SECTION 06
進め方・頻度の目安

研究で用いられた方法には幅がありますが、週に2〜3回、1回あたり30〜60分ほどのバランス運動を、数週間から数か月続ける形が多く報告されています1,2。少し「ぐらつく」場面を安全につくり、立ち直る練習を繰り返すのが基本です。最初は手すりや壁を支えにして、片脚立ちや重心移動などをやさしい形から始め、慣れに合わせて支えを減らしたり難しさを上げたりしていきます。指導つきの運動で良い変化が大きい傾向があるため、可能であれば専門職に運動内容を確認すると安心です1

これはあくまで研究の目安であり、実際の運動の種類や難しさ、頻度は一人ひとりの症状や転倒のリスクに合わせて調整します。ふらついて転倒しそうなときは、支えを増やすか、やさしい運動に戻します。安全に続けられることが何より大切です。

SECTION 07
Journey Rehabでの現場経験
現場で感じること
訪問リハビリの現場では、転倒予防はバランス運動だけで完結しないと感じます。立位での重心移動や方向転換を練習すると動きに自信がつく方がいる一方、実際の転倒場所を確認すると、めくれた敷物、暗い廊下、急いでトイレへ向かう動線、合わない履物など、生活環境が大きく関係していることがあります。そのため、手すりや安定した家具の近くで小さな重心移動から始めると同時に、よく歩く経路を一緒に確認します。何度も転倒している方、立ちくらみがある方、お薬が切れる時間帯に急に動きにくくなる方では、運動の難しさを上げるより、主治医への相談や環境調整を優先する場合もあります。「難しい運動ができたか」ではなく、日常生活で転びそうな場面が減ったか、安心して動ける範囲が広がったかを確認することが大切です。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
ふらつきやバランス、転倒の心配について一緒に確認しながら、生活に合った運動と環境の工夫を考えます。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨を目的とするものではありません。パーキンソン病の症状や体の状態は一人ひとり異なり、適した運動も変わります。バランス運動は転倒の危険を伴うことがあるため、実施を検討する際は、まず主治医・リハビリ専門職に相談してください。急に増えたふらつきや、立ちくらみ・強い転倒を伴う場合は、運動を続けず速やかに医療機関に相談してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍

経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中

研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表

論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
FAQ
よくある質問
バランス運動をすれば転ばなくなりますか?
運動でバランスの指標が良くなり、転ぶ回数が減ったという研究はあります。ただし「転ぶ人の数」を確実に減らせるとは限らず、個人差もあります。転倒には環境やお薬なども関わるため、運動と合わせて総合的に対策することが大切です。
どんなバランス運動がよいですか?
立ち姿勢での重心移動、片脚立ち、方向転換、体幹を使う運動などが研究されています。太極拳やダンスなどバランスの要素を含む運動もあります。どれが合うかは人によって異なるため、専門職に相談して選ぶとよいでしょう。
家で自分だけでやっても大丈夫ですか?
バランス運動はふらつきを扱うため、転倒の危険があります。必ず手すりや壁など支えのある環境で、できれば見守りのもとで行ってください。研究でも、指導つきの運動で良い変化が大きい傾向があります。まずは専門職に安全な進め方を確認しましょう。
どのくらいの頻度で行えばよいですか?
研究では週2〜3回、1回30〜60分ほどを数週間〜数か月続けた報告があります。ただしこれは目安で、適切な内容や難しさは症状や転倒のリスクによって異なります。無理のない範囲で、専門職と相談しながら進めてください。
運動以外に転倒予防でできることはありますか?
住まいの段差の解消、照明の工夫、滑りにくい履物、手すりの設置などが役立ちます。お薬の効き方や血圧、視力も転倒に関わります。運動と合わせて、生活環境や体調の面からも見直すことをおすすめします。
症状が進んでいてもバランス運動は意味がありますか?
多くの研究は軽度〜中等度の方が中心で、症状が進んだ方への効果ははっきりしていません。ただし、安全に配慮した運動には、姿勢や動きを保つ意味が期待できます。状態に合う内容を専門職に確認してもらうことが大切です。
REFERENCES
参考文献
1. Shen X, Wong-Yu ISK, Mak MKY. Effects of Exercise on Falls, Balance, and Gait Ability in Parkinson's Disease: A Meta-analysis. Neurorehabilitation and Neural Repair. 2016. DOI:10.1177/1545968315613447. PMID:26493731. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26493731/
2. Radder DLM, Silva de Lima AL, Domingos J, et al. Physiotherapy in Parkinson's Disease: A Meta-Analysis of Present Treatment Modalities. Neurorehabilitation and Neural Repair. 2020. DOI:10.1177/1545968320952799. PMID:32917125. PMCID:PMC7564288. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32917125/
3. Feng F, Xu H, Sun Y, et al. Exercise for prevention of falls and fall-related injuries in neurodegenerative diseases and aging-related risk conditions: a meta-analysis. Frontiers in Endocrinology. 2023. DOI:10.3389/fendo.2023.1187325. PMID:37534209. PMCID:PMC10393124. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37534209/
4. López-Liria R, Vega-Tirado S, Valverde-Martínez MÁ, et al. Efficacy of Specific Trunk Exercises in the Balance Dysfunction of Patients with Parkinson's Disease: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sensors (Basel). 2023. DOI:10.3390/s23041817. PMID:36850413. PMCID:PMC9959840. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36850413/