脳卒中後のリズム聴覚刺激(RAS)とは?歩行速度・歩幅への効果と研究結果を解説

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田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
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脳卒中後のリズム聴覚刺激(RAS)とは?メトロノームや音楽に合わせた歩行練習について

「歩くテンポがつかみにくい」「左右の足の運びがそろわない」——脳卒中の後、歩くリズムに関する困りごとはよく聞かれます。こうした場面で研究されているのが「リズム聴覚刺激(RAS:Rhythmic Auditory Stimulation)」です。メトロノームの音や、一定のテンポの音楽に合わせて足を運ぶことで、歩くリズムを整えようとする方法です。この記事では、RASについて、研究で分かっていること、向いている人・注意したい人、進め方の目安を、患者さんとご家族に向けて整理します。

メトロノームや音楽のテンポに合わせて歩く練習の場面
メトロノームや音楽のテンポに合わせて歩く練習の場面(イメージ)
この記事の要点
・RASは、メトロノームや一定のテンポの音に足の運びを合わせ、歩くリズムを整えることをねらった方法です。
・複数の研究をまとめた解析では、歩く速さ・歩幅・歩くテンポ(ケイデンス)で良い傾向が報告されています1,2
・運動機能の指標(Fugl-Meyer)やバランスの指標でも良い傾向がみられますが、根拠の質は中〜低程度で、研究間のばらつきも大きいとされています1
・歩くこと以外への波及は限定的で、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
SECTION 01
リズム聴覚刺激(RAS)とは

リズム聴覚刺激(RAS)は、メトロノームの音や、一定のテンポを刻む音楽などの「規則正しい音」に合わせて足を運び、歩くリズムを整えようとする方法です。音楽を使ったリハビリ(神経学的音楽療法)のひとつに位置づけられます。人は規則的な音を聞くと、自然と体の動きを音に合わせやすくなる性質があり、これを歩行に応用したものです。

脳卒中の後は、左右の足の運びのタイミングや歩くテンポが乱れやすくなることがあります。RASでは、その方の歩くテンポに合わせて音のテンポを設定し、少しずつ調整しながら歩く練習を行います。最近は、メトロノームや音楽プレーヤーだけでなく、装着して使うウェアラブル機器を用いた方法も研究が進んでいます3

SECTION 02
研究で分かっていること

結論から正直にお伝えすると、RASは、歩く速さ・歩幅・歩くテンポといった「歩行のリズムに関わる部分」で良い傾向が報告されている方法です。ただし、根拠の質は中〜低程度で、研究ごとのばらつき(異質性)も大きいとされており、結果の解釈には注意が必要です。

研究から読み取れること
22件の試験をまとめ、うち18件で統合解析を行ったレビューでは、RASは比較対象と比べて、歩く速さ(標準化平均差0.99、95%信頼区間0.43〜1.55)、歩幅(同0.97、95%信頼区間0.74〜1.20)、歩くテンポ(平均差5.16歩/分、95%信頼区間4.17〜6.14)で良い傾向を示しました1。運動機能の指標Fugl-Meyer(平均差2.93)やバランスの指標Berg Balance Scale(平均差2.93)でも良い傾向がみられています。ただし著者は、根拠の質はGRADEで低〜中程度、歩行指標では研究間のばらつきが大きいこと、バランスを扱った研究はまだ少ないことを限界として挙げています1

別のレビュー(10件、356名)でも、歩く速さ・歩くテンポ・歩幅で大きめの効果量が、運動機能の指標では中等度の効果量が報告されています2。つまり複数のレビューで、歩行のリズムに関わる部分での良い傾向が一致してみられます。
本人の歩くテンポに合わせて音のテンポを設定する様子
本人の歩くテンポに合わせて音のテンポを設定する様子(イメージ)
SECTION 03
何が変わりやすく、何は変わりにくいか

研究で良い傾向が見えやすいのは、歩く速さ・歩幅・歩くテンポといった、歩行のリズムに直接関わる部分です1,2。音のテンポに足を合わせる練習の性質と合っています。運動機能やバランスの指標でも良い傾向がみられますが、効果の大きさは歩行リズムほどではなく、根拠の質も中〜低程度とされています1

一方で、研究間のばらつきが大きく、音の出し方(メトロノームか音楽か)、テンポの設定、練習量などによって結果に幅があります1,2。また、バランスを扱った研究はまだ少なく、すべての方に同じ結果が当てはまるとは限りません。歩くこと以外の生活動作への波及は、現時点でははっきりしていません。

SECTION 04
どんな人に向いているか・注意したい人

すでにある程度歩ける方で、歩くテンポや左右のリズムを整えたい方、歩く速さや歩幅をのばしたい方には、音に合わせる練習が取り組みやすいことがあります。特別な大型機器がなくてもメトロノームや音楽で始めやすい点も利点です。発症からの時期にかかわらず研究されています1,2

⚠ 注意したい人・気をつけたいこと
音のテンポを速くしすぎると、歩幅や安全より「音に追いつくこと」が優先され、転倒につながることがあります。バランスが不安定な方、まだ介助なしで歩くのが難しい方、立ちくらみや不整脈・心臓の持病がある方、強い疲労が出やすい方は、テンポ設定や見守りを必ず調整してください。難聴やリズムが取りにくい方では、音だけに頼らない工夫も必要です。テンポは無理のない範囲から始め、自己判断で上げすぎないことが大切です。開始前に主治医・担当の専門職に相談しましょう。
SECTION 05
回数・頻度・期間の目安

研究では設定がさまざまですが、多くは週数回の歩行練習にRASを組み合わせ、数週間続ける形です1。テンポは、その方が今そろえやすいテンポから始め、状態に合わせて少しずつ調整するのが一般的です。大切なのは「速いテンポで頑張ること」ではなく、安全に音に合わせて歩ける範囲で、歩幅やリズムを保ちながら行うことです。

これらはあくまで研究上の目安です。歩行の状態、疲れやすさ、リズムの取りやすさによって、無理なく続けられる量は人それぞれ異なります。テンポ・回数・難易度は、担当の専門職と一緒に調整していくことが大切です。

リズム聴覚刺激は、速さよりも安全に合わせられるテンポ設定が大切です。
リズム聴覚刺激は、速さよりも安全に合わせられるテンポ設定が大切です。
SECTION 06
Journey Rehabでの現場経験
当施設での経験
弊社で脳卒中後の歩行練習にリズム聴覚刺激を積極的に用いているかというと、現時点では第一選択として頻繁に使っている方法ではありません。ただ、歩行速度が伸びにくい方や、歩くリズムが整いにくい方に対して、選択肢のひとつになり得る方法だと感じています。パーキンソン病ではリズムを使った歩行練習を活用する場面がありますが、脳卒中後の歩行速度や長距離歩行に対しては、弊社ではトレッドミル練習などを優先して検討することが多いです。一方で、訪問リハビリでは自宅にトレッドミルを設置できないなど環境面の制約があります。そのような場合、メトロノームや音楽を使った練習は、自宅で取り入れやすい歩行練習の選択肢として検討しやすいと考えています。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
歩くテンポやリズム、外出に向けた歩行の進め方など、身体の状態を一緒に確認しながらリハビリの内容を考えます。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨ではありません。リハビリの内容は、主治医や担当専門職に相談しながら調整してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍

経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中

研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表

論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
FAQ
よくある質問
音楽に合わせて歩けば速く歩けるようになりますか?
保証はできませんが、複数の研究をまとめた解析では、歩く速さや歩幅、歩くテンポで良い傾向が報告されています。ただし根拠の質は中〜低程度で、研究間のばらつきも大きいため、変化の出方は人によって異なります。
どんな音を使えばよいですか?
研究ではメトロノームの音や一定のテンポの音楽が使われています。どちらが良いかははっきり決まっておらず、本人が合わせやすい音とテンポを選ぶことが大切です。設定は専門職と相談すると安心です。
テンポは速いほうがよいですか?
速くしすぎると、安全や歩幅より「音に追いつくこと」が優先され、転倒の心配があります。今そろえやすいテンポから始め、状態に合わせて少しずつ調整するのが基本です。
まだ介助が必要でもできますか?
研究の多くはある程度歩ける方を対象にしています。介助が必要な段階では、安全に行える形かどうかを専門職に相談し、見守りや支えのある環境で検討することが大切です。
家でも取り入れられますか?
メトロノームアプリや音楽を使えば自宅でも考え方を取り入れられます。ただし安全なテンポや距離は個別に異なるため、最初は担当の専門職と一緒に設定を決めると安心です。
どれくらい続ければよいですか?
研究では週数回を数週間続ける形が多くみられます。ただし研究上の目安であり、続けやすい量は人によって異なるため、無理のない範囲で進めてください。
REFERENCES
参考文献
1. Wang L, Peng JL, Xiang W, Huang YJ, Chen AL. Effects of rhythmic auditory stimulation on motor function and balance ability in stroke: A systematic review and meta-analysis of clinical randomized controlled studies. Front Neurosci. 2022;16:1043575. DOI:10.3389/fnins.2022.1043575. PMID:36466174. PMCID:PMC9714437.
2. Yoo GE, Kim SJ. Rhythmic Auditory Cueing in Motor Rehabilitation for Stroke Patients: Systematic Review and Meta-Analysis. J Music Ther. 2016;53(2):149-177. DOI:10.1093/jmt/thw003. PMID:27084833.
3. Scataglini S, Van Bocxlaer C, Jansen L, et al. Influence of wearable rhythmic auditory stimulation on Parkinson's disease, multiple sclerosis, and stroke: a systematic review and meta-analysis. Sci Rep. 2025. DOI:10.1038/s41598-025-05952-8. PMID:40595956. PMCID:PMC12219732.