
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「歩く速さが落ちてきた」「歩幅が小さくなり、すり足になってきた」——パーキンソン病では、こうした歩行の変化がご本人やご家族の大きな心配ごとになります。そんな中でよく質問されるのが、「ルームランナー(トレッドミル)を使った歩行練習は役に立つのか」という点です。この記事では、パーキンソン病のトレッドミル歩行練習について、研究で分かっていること、期待できる面とまだ不確かな面を、患者さんとご家族に向けて正直に整理します。結論を先にお伝えすると、歩く速さや歩幅といった一部の指標には良い変化が示されていますが、その大きさは小さめで、すべての歩行の指標や全員に当てはまるわけではありません。

・18件の試験(633名)をまとめたコクラン・レビューでは、歩く速さと歩幅に良い変化が示されました(中等度〜低い確実性)1。
・別の大規模なまとめでも、歩く速さの指標に中等度の良い変化が示された一方、運動症状の重さやバランスの指標でははっきりした差が出ませんでした2。
・105名を対象にした試験では、トレッドミルと個別理学療法のどちらでも歩行が良くなり、両者の差ははっきりしませんでした3。
・効果が長く続くか、どのくらいの量が最適かは、まだ十分に分かっていません1,2,3。
トレッドミル歩行練習とは、いわゆるルームランナーのベルトの上を歩く練習のことです。ベルトが一定の速さで動くため、自然と歩き続けやすく、リズムをつくりながら繰り返し歩く練習ができます。パーキンソン病では、歩幅が小さくなる、歩く速さが落ちる、足が地面から離れにくくなる、といった変化が起こりやすく、トレッドミルはこうした歩行の要素を集中的に練習する手段の一つとして研究されてきました1。
トレッドミルには、手すりで体を支えられる、速さを一定に保てる、限られた場所で歩数を稼げる、といった特徴があります。ただし、トレッドミルは床の上を歩く練習の「代わり」ではなく、あくまで練習方法の一つです。実際の生活では床の上や屋外を歩くため、両方を組み合わせて考えることが一般的です。リハビリ全体をどう組み立てるかについては、パーキンソン病のリハビリで行う運動について解説した記事もあわせて読むと、全体像がつかみやすくなります。
結論から正直にお伝えすると、トレッドミル歩行練習は「歩く速さ」や「歩幅」といった一部の指標に良い変化が期待できます。ただし、その変化は小さめで、歩ける距離や歩数(ケイデンス)など変わりにくい指標もあり、効果の確実性も高くはありません。以下に、質の高い研究をまとめた解析を紹介します。
より多くの運動の種類を比べた別の大規模なまとめ(191試験・約8,000名)でも、トレッドミル歩行練習は歩行の指標(標準化平均差0.52、95%信頼区間0.34〜0.69、中等度の質)に良い変化を示しました。一方、運動症状の重さ(UPDRS-III)やバランスの指標でははっきりした差は示されませんでした2。
さらに、105名のパーキンソン病の方を「トレッドミル中心」と「個別の理学療法中心」に分けて2週間比べた試験では、どちらのグループでも歩行(二重課題での歩行速度を含む)が良くなりましたが、2つの方法のあいだにはっきりした差は認められませんでした3。つまり、トレッドミルは有力な選択肢の一つですが、「トレッドミルでなければならない」というより、「その人に合った歩行練習を続けること」が大切だと考えられます。

研究の結果から整理すると、トレッドミル歩行練習で比較的変わりやすいのは、歩く速さや歩幅といった「歩き方の質」に関わる指標です1,2。反対に、歩ける距離や1分あたりの歩数、運動症状そのものの重さ、バランスの指標などは、この練習だけでは変わりにくい部分だと考えられます1,2。パーキンソン病そのものの進行を止めるものではない点も、正直にお伝えしておきたいところです。
大切なのは、トレッドミルを「これ一つで歩行の悩みが解決する方法」ととらえないことです。研究では、トレッドミルと個別の理学療法で歩行の変化に大きな差がなかったことも示されており3、「その人の状態に合った歩行練習を、無理なく続けること」が現実的な軸になります。バランスや転倒への不安が強い方は、歩行練習と並行してバランス面の確認も欠かせません。リハビリの成果をどう測るかについては、パーキンソン病のリハビリで用いる評価指標について解説した記事も参考になります。
研究で対象になったのは、多くが軽度から中等度のパーキンソン病の方です2,3。「歩く速さや歩幅が落ちてきたのが気になる」「一定のリズムで歩く練習をしたい」という方には、選択肢の一つになり得ます。一方で、トレッドミルは動くベルトの上を歩くため、転倒のリスクへの配慮が欠かせません。とくにバランスが不安定な方、すくみ足が強い方、立ちくらみが起きやすい方では、慎重な判断と見守りが必要です。
研究では、練習の頻度・時間・期間はさまざまで、「これが正解」という決まった形はありません1。多くの研究では、週に数回、1回あたり20〜40分程度を数週間続ける形が用いられていますが、対象者の状態によって大きく異なります。ある試験では、25分の練習を短期間集中して行う形が取られていました3。ここから言えるのは、「最初から長く速く歩く」より、「その人の状態に合わせて、無理のない速さと時間から始め、安全を確認しながら少しずつ調整する」という進め方が現実的だということです。
パーキンソン病のリハビリでは、頻度や継続の仕方そのものも大切なテーマです。どのくらいの頻度で続けるとよいかについては、パーキンソン病のリハビリ頻度・運動時間について解説した記事もあわせて確認しておくと、生活の中に組み込みやすくなります。自宅にトレッドミルがない場合でも、床の上での歩行練習やリズムを意識した歩き方など、代わりになる方法があります。何をどこまで自分で行い、どこから専門職に相談するかの線引きは、担当の専門職と決めておくと安心です。

修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
2. Radder DLM, Silva de Lima AL, Domingos J, Keus SHJ, van Nimwegen M, Bloem BR, de Vries NM. Physiotherapy in Parkinson's Disease: A Meta-Analysis of Present Treatment Modalities. Neurorehabil Neural Repair. 2020;34(10):871-880. DOI:10.1177/1545968320952799. PMID:32917125. PMCID:PMC7564288.
3. Gaßner H, Trutt E, Seifferth S, Friedrich J, Zucker D, Salhani Z, Adler W, Winkler J, Jost WH. Treadmill training and physiotherapy similarly improve dual task gait performance: a randomized-controlled trial in Parkinson's disease. J Neural Transm (Vienna). 2022;129(9):1189-1200. DOI:10.1007/s00702-022-02514-4. PMID:35697942. PMCID:PMC9463305.
