認知症の方への音楽療法とは?認知機能・気持ち・生活への研究と限界を正直に解説

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田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
認知症の方への音楽療法とは?認知機能・気持ち・生活への研究と限界を正直に解説
内容確認日:2026年7月23日
「昔好きだった歌を流すと表情がやわらぐ。音楽は認知症に良いと聞くけれど、本当に意味があるの?」——ご家族からよくいただく質問です。結論から正直にお伝えすると、音楽を使った関わり(音楽療法)は、認知機能や気持ちの面に良い方向の変化が報告されている一方で、効果は大きくはなく、研究の質にはばらつきがあります。この記事では、作業療法士の立場から、研究で分かっていることと、まだ分かっていないことを整理します。
SECTION 01
認知症の音楽療法とは何か
音楽療法は、歌う・楽器を鳴らす・体を動かすといった「音楽に参加する」関わり(能動的音楽療法)と、なじみのある曲を聴く関わり(受動的音楽療法)に大きく分けられます。認知症のある方に対しては、記憶や気持ちに働きかける非薬物的なアプローチのひとつとして、世界各国で研究されてきました。
ねらいは、認知機能そのものというより、「その方が自分らしく過ごせる時間」を支えることにあります。昔よく聴いた曲が、言葉になりにくい記憶や感情を引き出すことがあるためです。音楽以外の運動を通じた関わりについては、認知症の方への運動療法・リハビリについて解説した記事もあわせてご覧ください。
高齢女性と音楽療法の支援者が一緒に歌いながら太鼓を鳴らす様子
音楽療法には、歌う・楽器を鳴らすなど能動的な関わりも含まれます。
SECTION 02
研究で分かっていること
まず全体像です。認知症のある方を対象にした複数のランダム化比較試験をまとめた研究では、音楽を使った関わりが認知機能に小さな正の方向の変化を示す、と報告されています。ただし効果は小さく、研究間のばらつきも大きいのが実情です。
研究紹介|システマティックレビュー・メタアナリシス(2020年・8RCT・816名)
Moreno-Moralesらのメタアナリシス1では、認知症のある816名を対象に、音楽を使った関わりが認知機能に小さな正の効果(標準化平均差 SMD=−0.23、95%信頼区間 −0.44〜−0.02。数値がマイナス方向=音楽群で良好)を示しました。一方、生活の質は短期(SMD=−0.36、−0.62〜0.10)・長期ともにはっきりした差はみられず、抑うつへの効果も一定しませんでした。研究間のばらつきは大きく(認知機能で I²=72%)、著者らは標準化された介入プロトコルの必要性を指摘しています。
アルツハイマー型認知症に絞って8件のランダム化比較試験(689名)を検討した別のシステマティックレビュー2でも、音楽を使った関わりの後に認知機能に良い方向の変化がみられたと報告されています。特に、ただ聴くだけでなく、歌う・楽器を鳴らすなど本人が参加する能動的な関わりの方が、より大きな変化が示される傾向にありました。含まれた研究のうち6件は質が高いと評価されています。
なお、認知面への働きかけという点では、昔の記憶や生活場面と結びつけた関わりが役立つことがあり、脳卒中後の記憶障害リハビリについて解説した記事の考え方も共通する部分があります。
SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
エビデンスの質と限界
音楽療法の研究は、参加者の人数が少ない試験が多く、参加者や実施者を盲検化しにくいという難しさがあります1,2。使う音楽、関わりの内容(聴くのか、歌うのか)、評価の方法が研究ごとに大きく異なるため、結果を単純にまとめにくく、ばらつきが大きくなります。効果量も小さめで、認知機能を大きく戻すような結果ではありません。研究全体では一定の傾向がありますが、対象者や介入内容が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
まだ分かっていないこと
・認知症の種類や重症度によって、どの方に最も合うのかは十分に確立していません1
・最適な関わりの内容(能動的か受動的か)、1回の時間、頻度、続ける期間ははっきり決まっていません1,2
・生活の質や抑うつへの効果は研究によって結果が分かれており、一定していません1
・変化がどれくらい長く続くのか、長期的な影響については、まだ十分に分かっていません。
高齢者の小グループが手拍子や打楽器を使って音楽活動に参加する様子
参加方法は、本人の体調・好み・負担に合わせて選びます。
SECTION 04
何が期待でき、何は変わりにくいか
正直に整理します。期待しやすいのは、関わりの「その場面」での落ち着きや表情のやわらぎ、参加のしやすさ、そして認知機能の一部に小さな正の方向の変化です1,2。なじみの曲を通じて、言葉になりにくい思い出やご本人らしさが表れることは、ご家族にとっても大きな意味を持つことがあります。
一方で、変わりにくい・はっきりしないのは、生活の質全体や抑うつへの一貫した効果、そして認知症の進行そのものです1。音楽療法は病気の進行を止めるものではなく、その方が心地よく過ごせる時間を支える関わりとして研究されている点は、誤解のないようお伝えしています。
SECTION 05
どんな人に向いているか
研究では、軽度から重度まで幅広い認知症の方が対象になってきました。音楽に親しみがある方、なじみの曲がはっきりしている方は取り入れやすい傾向があります。特に、ご本人が好きだった曲を選ぶことが大切で、実施者側が一方的に選んだ音楽では変化がみられなかった、という報告もあります2
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと:
音楽が、かえって悲しい記憶や興奮を引き出してしまう方もいます。その方の反応をよく見ながら、合わない場合は無理に続けないことが大切です。ご本人の様子で気になる変化があるときは、担当の医師やリハビリ専門職にご相談ください。
SECTION 06
回数・頻度・期間の目安
研究では、週に1〜数回、数十分の関わりを、数週間から数か月続ける形が多く用いられてきました。ただし、最適な頻度や期間ははっきり決まっていません1,2。ある研究のまとめでは、比較的短い期間(20週未満)でより大きな変化がみられたとの報告もありますが、これも今後の検証が必要です1。目安として捉え、ご本人の負担にならない範囲で、生活のリズムに合う形を専門職と一緒に考えることをおすすめします。
自宅で高齢女性が家族と一緒に親しみのある音楽を聴く様子
家庭では、本人になじみのある音楽を選び、表情や疲れを見ながら短時間から試します。
SECTION 07
専門職と確認したい実践上のポイント
専門職が確認する主な項目
曲への反応だけでなく、表情、発語、参加のしやすさ、疲労、不安や不快感を確認します。本人が望まない曲や、つらい記憶を呼び起こす曲は避け、反応が乏しい場合も無理に続けません。ご家族から過去の好みを聞きつつ、最終的にはその日の本人の反応を優先します。
まとめると、音楽療法は、認知機能や関わりの場面に良い方向の変化が報告されている非薬物的なアプローチですが、効果は小さめで、研究の質にはばらつきがあります。生活の質や抑うつへの一貫した効果は、まだはっきりしていません。合う・合わないの個人差も大きいため、「その方の好きな音楽を、その方の反応を見ながら取り入れる」姿勢が大切だと考えています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の治療・診断を推奨したり、医療行為に代わるものではありません。症状や関わり方には個人差があります。実施の前には、必ず担当の医師やリハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点のもので、今後の研究で評価が変わる可能性があります。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
ご本人らしい生活や過ごし方について、状態を一緒に確認しながら関わり方を考えます。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
Q & A
よくある質問
Q. ただ音楽を流すだけでも意味はありますか?
聴くだけの関わりでも落ち着きにつながることはありますが、研究では、歌う・楽器を鳴らすなど本人が参加する能動的な関わりの方が、より大きな変化を示す傾向がありました2。できる範囲で一緒に参加する形が取り入れやすいです。
Q. どんな曲を選べばいいですか?
ご本人が若い頃に好きだった曲や、思い出のある曲がよく使われます。実施者が一方的に選ぶより、ご本人の好みに合わせることが大切だと報告されています2
Q. 物忘れそのものは良くなりますか?
研究では認知機能に小さな正の変化が報告されていますが、効果は大きくなく、進行を止めるものではありません1。過度な期待はせず、心地よい時間を支える関わりとして捉えることをおすすめします。
Q. 家族が家でやっても大丈夫ですか?
なじみの曲を一緒に聴く・口ずさむことは、ご家庭でも取り入れやすい関わりです。ご本人の反応を見ながら、無理のない範囲で行ってください。気になる変化があれば専門職にご相談ください。
Q. 気持ちが落ち込んでいるときにも良いですか?
抑うつへの効果は研究によって結果が分かれており、一定していません1。音楽が悲しい記憶を引き出すこともあるため、様子を見ながら選曲することが大切です。
Q. どのくらい続ければいいですか?
最適な期間ははっきり決まっていません1,2。生活のリズムに合う形で、ご本人の負担にならない範囲で続けることをおすすめします。
REFERENCES
参考文献
1. Moreno-Morales C, Calero R, Moreno-Morales P, Pintado C. Music Therapy in the Treatment of Dementia: A Systematic Review and Meta-Analysis. Front Med (Lausanne). 2020;7:160. PMID: 32509790.
2. Bleibel M, El Cheikh A, Sadier NS, Abou-Abbas L. The effect of music therapy on cognitive functions in patients with Alzheimer's disease: a systematic review of randomized controlled trials. Alzheimers Res Ther. 2023;15(1):65. PMID: 36973733.