パーキンソン病の二重課題トレーニングとは?歩行・バランスへの効果と注意点

· パーキンソン病関連情報
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
パーキンソン病の二重課題トレーニングとは?歩行・バランスへの研究と限界を正直に解説

「話しながら歩くとふらつく」「考え事をすると足が止まる」——パーキンソン病の方やご家族から、こうしたお悩みをよくいただきます。二重課題トレーニング(歩く・立つなどの動作と、計算や会話などの頭を使う課題を同時に行う練習)は、この「ながら動作」の苦手さに働きかける方法として研究されています。この記事では、パーキンソン病の二重課題トレーニングについて、研究で分かってきたことと、まだはっきりしないことを、患者さんとご家族に向けて正直に整理します。結論から言うと、通常のリハビリに「加える」形で、ながら歩きの速さやバランスの指標に良い変化を示した研究がまとまってきていますが、安全面の配慮が欠かせず、まずは専門職による評価が大切です。

パーキンソン病の方が専門職の見守りで二重課題歩行を行う様子
この記事の要点
・二重課題とは、歩く・立つなどの動作と、会話・計算などの頭を使う課題を同時に行うことです。パーキンソン病では、この「ながら動作」で歩きが乱れやすくなります1
・11の試験(597人)をまとめた分析では、二重課題を含む運動と認知の練習で、ながら歩きの速さ(平均+0.12m/秒)や歩幅(平均+約10cm)に良い変化が示され、この点の確からしさは「高い」と評価されました1
・別の複数の分析でも、二重課題トレーニングで歩く速さ、バランス、運動症状の指標に良い変化が報告されています2,3
・特に、頭の働きが比較的保たれている方で良い変化が出やすい一方、すくみ足には明確な効果が示されていません1,4
・「ながら動作」の練習は転倒の危険を伴うことがあり、自己流ではなく、まず主治医・リハビリ専門職に相談し、安全な環境で行うことが大切です1
SECTION 01
二重課題トレーニングとは

二重課題(デュアルタスク)とは、2つのことを同時に行うことです。たとえば「歩きながら会話する」「立ちながら計算する」「歩きながらコップを運ぶ」などが当てはまります。私たちは日常生活の中で、無意識にこうした「ながら動作」をしています1

パーキンソン病では、歩くという動作に多くの注意を使う必要があるため、そこに考え事や会話が加わると、歩く速さや歩幅が急に落ちたり、足が止まったりしやすくなります。これを「二重課題コスト(ながら動作による目減り)」と呼びます1。二重課題トレーニングは、動作と頭を使う課題をあえて組み合わせて練習し、この「ながら動作」の苦手さに働きかける方法です1。歩行そのものの練習と組み合わせて行われることも多く、歩行練習全般の考え方はパーキンソン病のトレッドミル歩行練習について解説した記事でも紹介しています。

SECTION 02
研究で分かっていること

結論から正直にお伝えすると、「二重課題トレーニングは、ながら歩きの速さやバランスの指標に良い変化を示した研究がまとまってきている」一方で、「すくみ足への効果ははっきりせず、安全面の配慮が欠かせない」というのが現状です。代表的な研究をみていきます。

ながら歩きへの効果をまとめた分析
運動と認知を組み合わせた練習について、11の試験(597人、主に軽度〜中等度の方)をまとめた分析(2023年)では、練習後に「ながら歩き」の速さが平均で毎秒0.12m速くなり、歩幅も平均で約10cm広がりました。ながら動作による歩きの目減り(二重課題コスト)も平均で約8.8%小さくなりました。これらの歩行に関する結果は、根拠の確からしさが「高い」と評価されています1。一方で、頭を使う課題そのものの成績や、複雑な移動の速さについては、確からしさは「低い」とされました1
歩行・バランス・運動症状への効果
11の試験(322人)をまとめた別の分析(2020年)でも、二重課題トレーニングによって、歩く速さ、歩数のペース、運動症状(効果量SMD 0.56)、バランス(SMD 0.44)の指標に良い変化が示されました。ただし歩幅については明確な変化はみられませんでした2。さらに、7つの試験(406人)をまとめた分析(2023年)では、歩く速さ(SMD 0.62)、Timed Up and Go(平均2.38秒短縮)、動的バランスの指標(Mini-BESTest)に良い変化が報告されています3
他の運動と比べたときの位置づけ
パーキンソン病の歩行に対するさまざまな運動を比較した大規模なレビュー(2022年)では、二重課題を組み合わせた運動が、歩行の指標で上位に位置づけられました。一方、このレビューでは、すくみ足に対しては、検討されたどの方法でも明確な効果が示されなかったと報告されています4。二重課題トレーニングは歩行やバランスに役立つ可能性がある一方、すくみ足は別の課題として考える必要があります。
トレーを持ちながら歩く生活動作を用いた二重課題練習
SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
エビデンスの質と限界
これらの研究には限界もあります。多くの研究が軽度〜中等度の方を対象にしており、参加者や担当者に「どの練習か」を伏せることが難しいため、期待による影響が入りやすい点が指摘されています1。使われた練習の種類(バランスに二重課題を加える、機器を使う、ゲーム型など)は研究ごとに幅があり、まとめて比べにくい面があります1。歩行の指標には確からしさの高い結果がある一方、頭を使う課題そのものの成績への影響は、まだよく分かっていません1。良い結果を示した研究があっても、すべての方に同じ変化が当てはまるわけではありません。
まだ分かっていないこと
現在の研究では、どのような二重課題の組み合わせが最も役立つのか、週に何回・どのくらいの期間続けるとよいのかは、十分に定まっていません1,3。頭の働きが低下している方や、症状が進んだ方、転倒が多い方にどこまで向いているのかもはっきりしていません1。歩行やバランスの指標が良くなったことが、実生活での転倒の少なさにどこまでつながるのかも、今後の課題です。また、すくみ足に対しては明確な効果が示されておらず、別の対応が必要とされています4
SECTION 04
何が期待でき、何ははっきりしないか

研究をふまえると、二重課題トレーニングは「通常のリハビリに組み合わせることで、ながら歩きの速さやバランスの指標に良い変化を示しうる選択肢」と考えるのが現実的です1,2,3。日常生活は「ながら動作」の連続なので、その練習を安全な形で行うことには意味があります。特に、頭の働きが比較的保たれていて、ながら歩きが遅くなりやすい方で、良い変化が出やすいと報告されています1

一方で、「二重課題トレーニングだけで転ばなくなる」「すくみ足がなくなる」ことは、現時点の研究でははっきり示されていません1,4。反応には個人差があり、変化を感じにくい方もいます。また、ながら動作は転倒の危険と隣り合わせでもあります。二重課題トレーニングは単独の決め手ではなく、歩行やバランスの練習、筋力づくり、環境の工夫などと組み合わせる「一部」として、安全に配慮しながら位置づけるのが現実的です。

SECTION 05
どんな人に向いているか

研究の対象を見ると、主に軽度〜中等度で、頭の働きが比較的保たれている方が想定されています1。話しながら歩くと不安定になる方、ながら動作で足が止まりやすい方などに向いている練習といえます。一方で、転倒が多い方や頭の働きの低下がある方では、難しい二重課題がかえって危険になることがあり、課題の内容や難しさを慎重に選ぶ必要があります。運動の効果を確認するときの指標についてはパーキンソン病のリハビリで使う評価指標について解説した記事もご覧ください。

⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと
二重課題トレーニングには、注意すべき点があります。歩きながら別のことを行う練習は、注意がそれて転びやすくなる危険があります。難しい課題を急に行うと、足が止まったりバランスを崩したりすることがあります。特に、転倒が多い方や頭の働きの低下がある方では、無理に難しいながら動作を行うと危険です。日常生活では、危険な場面(階段、段差、人混みなど)では「ながら動作」を避け、一つずつ行うほうが安全なこともあります。二重課題トレーニングは、支えのある安全な環境で、専門職の見守りのもと、やさしい課題から少しずつ始めることが大切です。自己流で難しいながら動作を練習しないでください。運動を始める前に、まず主治医・リハビリ専門職に、自分の状態に合う課題や進め方を相談することをおすすめします。ここで紹介した内容は一般的な情報であり、成果をすべての方に保証するものではありません。
手すりの近くで安全に二重課題の難易度を調整する様子
SECTION 06
進め方・頻度の目安

研究で用いられた方法には幅がありますが、1回30〜80分ほど、週に2〜4回、4〜12週間続ける形などが報告されています1。多くの研究で、二重課題トレーニングはバランスや歩行の練習に「頭を使う課題」を組み合わせる形で行われていました1。たとえば、立った姿勢や歩きながら、しりとり・簡単な計算・物を運ぶ・かごに玉を入れるといった課題を加えます。最初は座って行う、支えを使う、やさしい課題から始めるなど、安全を最優先にして少しずつ難しさを上げていくのが一般的です。

これはあくまで研究の目安であり、実際の課題の種類や難しさ、頻度は一人ひとりの症状や頭の働き、転倒のリスクに合わせて調整します。動作が乱れて転倒しそうなときは、課題をやさしくするか、いったん一つの動作に戻します。安全に行えることが何より大切です。

SECTION 07
Journey Rehabでの現場経験
現場で感じること
これまでのリハビリ現場では、会話をしながら歩くと急に歩幅が小さくなる方や、物を持つと足が止まりやすくなる方を経験します。そのような場合、いきなり難しい「ながら歩き」を行うのではなく、まず歩行と頭を使う課題を別々に確認し、座位、立位、短い直線歩行の順に組み合わせます。うまくできる課題から始めると、ご本人も苦手になる場面を理解しやすくなります。一方で、計算や会話に集中して足元への注意が外れたり、すくみ足が強くなったりする場合は、すぐ一つの動作へ戻します。二重課題練習の目的は、何でも同時にできるようにすることだけではありません。「危ない場面では立ち止まる」「歩くことを優先する」など、安全な注意の配分を身につけることも大切な成果だと考えています。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
歩き方やバランス、ながら動作の状態を一緒に確認しながら、生活に合った運動の進め方を考えます。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨を目的とするものではありません。パーキンソン病の症状や体の状態は一人ひとり異なり、適した運動も変わります。二重課題の練習は転倒の危険を伴うことがあるため、実施を検討する際は、まず主治医・リハビリ専門職に相談してください。急に強くなった歩きにくさや、転倒・めまいを伴う場合は、運動を続けず速やかに医療機関に相談してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍

経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中

研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表

論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
FAQ
よくある質問
二重課題トレーニングとは具体的に何をしますか?
歩く・立つなどの動作と、会話・計算・物を運ぶといった頭を使う課題を、同時に行う練習です。研究では、バランスや歩行の練習に頭を使う課題を組み合わせる形で行われています。安全のため、やさしい課題から少しずつ始めます。
家で自分だけでやっても大丈夫ですか?
ながら動作は転倒の危険を伴うため、自己流で難しい課題を行うのはおすすめしません。まずは専門職に課題の内容や進め方を確認し、支えのある安全な環境で行ってください。日常生活では、危険な場面ではながら動作を避けることも大切です。
すくみ足にも役立ちますか?
現時点の研究では、すくみ足に対しては、二重課題を含めさまざまな運動で明確な効果が示されていません。すくみ足は別の課題として、外的な手がかりの活用など専門職と相談した対応が必要です。
どのくらいの期間続ければよいですか?
研究では週2〜4回、4〜12週間続けた報告があります。ただしこれは目安で、適切な頻度や課題の難しさは症状や頭の働き、転倒のリスクによって異なります。無理のない範囲で、専門職と相談しながら進めてください。
頭の働きが落ちていても効果はありますか?
研究では、頭の働きが比較的保たれている方で良い変化が出やすいと報告されています。頭の働きの低下がある方では、難しい課題がかえって危険になることもあるため、課題の内容を慎重に選ぶ必要があります。専門職に状態を確認してもらうとよいでしょう。
これだけ続ければ転倒は防げますか?
二重課題トレーニングだけで転倒がなくなると保証することはできません。良い変化は報告されていますが、個人差があり、転倒にはさまざまな要因が関わります。歩行やバランスの練習、環境の工夫と組み合わせ、専門職と相談しながら安全に進めることが大切です。
REFERENCES
参考文献
1. Johansson H, Folkerts AK, Hammarström I, et al. Effects of motor-cognitive training on dual-task performance in people with Parkinson's disease: a systematic review and meta-analysis. Journal of Neurology. 2023. DOI:10.1007/s00415-023-11610-8. PMID:36820916. PMCID:PMC10188503. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36820916/
2. Li Z, Wang T, Liu H, et al. Dual-task training on gait, motor symptoms, and balance in patients with Parkinson's disease: a systematic review and meta-analysis. Clinical Rehabilitation. 2020. DOI:10.1177/0269215520941142. PMID:32660265. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32660265/
3. Du YH, Ma J, Hu JY, et al. Effects of dual-task training on gait and motor ability in patients with Parkinson's disease: A systematic review and meta-analysis. Clinical Rehabilitation. 2023. DOI:10.1177/02692155221146085. PMID:36537108. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36537108/
4. Hvingelby VS, Glud AN, Sørensen JCH, et al. Interventions to improve gait in Parkinson's disease: a systematic review of randomized controlled trials and network meta-analysis. Journal of Neurology. 2022. DOI:10.1007/s00415-022-11091-1. PMID:35378605. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35378605/