東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「運動をすると筋肉がさらに壊れてしまうのではないか」「かといって動かないでいると、どんどん弱ってしまう気がする」。筋ジストロフィーをはじめとする筋疾患のある方とご家族から、この2つの不安を同時にうかがうことがよくあります。
結論から正直にお伝えします。2019年のコクランのレビューは、14件の試験・428名を検討したうえで、「筋力トレーニングと有酸素運動の効果については、依然として不確かなままである」と結論づけています1。同時に、試験の中で重い有害な出来事は報告されておらず、多くは筋肉痛や関節の訴えにとどまっていました1。つまり「明らかに役立つとは言えないが、明らかに危険だという結果も出ていない」というのが、現時点の正直な整理です。
この記事では、筋疾患に対する運動について、何がどこまで分かっているのかを数字とともに整理します。なお、筋疾患は種類によって経過も注意点も大きく異なります。実際に行う内容は、必ず主治医と担当のリハビリ専門職にご確認ください。
筋疾患(ミオパチー)は、筋肉そのものに問題が生じる病気の総称です。神経から筋肉への指令の伝わり方に問題がある病気(重症筋無力症など)や、神経細胞が失われる病気(筋萎縮性側索硬化症など)とは、しくみが異なります。
【筋力トレーニングのみ】(3件)
顔面肩甲上腕型(35名):肘を曲げる力の平均差 1.2 kgF(95%信頼区間 -0.2〜2.6)、足首を上げる力 0.4 kgF(-2.4〜3.2)。確実性は低く、ほとんど差がないと評価
筋強直性ジストロフィー1型(35名):手首を伸ばす力 8.0 N(0.7〜15.3)、握力 6.0 N(-6.7〜18.7)。確実性は非常に低い
【有酸素運動のみ】(5件)
顔面肩甲上腕型(38〜52名):最大酸素摂取量の平均差 1.1 L/分(0.4〜1.8)、確実性は低い。一方で膝を伸ばす力は 0.1 kg(-0.7〜0.9)とほとんど差がありません
デュシェンヌ型(23名):6分間の自転車こぎの回数(脚)14.0回(-89.0〜117.0)、確実性は非常に低い
【組み合わせ】(6件)
皮膚筋炎・多発性筋炎(21名):膝を伸ばす力 2.5 kg(1.8〜3.3)、疲れ果てるまでの時間 17.5分(8.0〜27.0)、確実性は非常に低い
ミトコンドリア筋症(18名):自転車をこいだ平均時間 23.7分(2.6〜44.8)、確実性は非常に低い
【安全性】最も多かったのは筋肉痛と関節の訴えでした。重い有害な出来事は報告されていません。顔面肩甲上腕型の1名が、運動にともなう筋肉痛と疲労のため中止しました1。
著者らの結論は慎重です。「筋力トレーニング単独ではほとんど差がないかもしれない」「有酸素運動単独では、顔面肩甲上腕型に限って体力の指標が上向く可能性がある」「組み合わせた場合、皮膚筋炎・多発性筋炎ではわずかな差があるかもしれない」といった表現で、いずれも確実性は低いか非常に低いとされています1。
統計的に差がみられたのは39件中7件にとどまりました。主なものは次のとおりです。
デュシェンヌ型の子ども:体幹を対象にした筋力練習を通常のケアに加えた場合、手先の機能(効果量 0.87)、座った姿勢の安定性(1.76)、手を伸ばしたときの安定性(2.29)
顔面肩甲上腕型の成人:振動を用いた方法で肩を横に上げる力(2.33)、電気刺激で痛みの強さ(1.58)
顔面肩甲上腕型・肢帯型・ベッカー型の成人:筋力練習で立ち上がりの動作(0.83)、自分で感じる体の調子(1.00)
筋強直性ジストロフィー1型の成人:複合プログラムで運動時のきつさの感じ方(3.83)、歩く速さ(0.92)
安全性については、39件中14件(35%以上)が有害な出来事を報告し、頻度は低いとされました。最も多かったのは痛み(33名、とくに腰と下肢)で、筋肉痛、こむら返り、疲労、転倒、皮膚の刺激などもありました。介入が原因で中止したのは2名でした。
著者らは「筋力練習を、単独または複合プログラムの一部として、筋ジストロフィーの中心的な方法として検討すべき」としつつ、根拠の質は低いと明記しています。ランダム化比較試験15件のうち12件がバイアスのリスクが高いと判定されました2。
この2つのレビューは、対象の広さも方法も違いますが、伝えているメッセージは似ています。「筋力練習には検討の価値があるが、根拠の質は低い」「安全性についての大きな懸念は示されていないが、痛みなどの訴えは一定数ある」という二点です1,2。
運動そのものの内容とは別に、「日常の活動量をどう保つか」という視点の研究もあります。こちらも、結果は控えめです。
取り組みの内容は、活動を支える働きかけ、運動プログラム、高強度インターバル運動、センサーを使った運動、認知行動療法などでした。
糖尿病性末梢神経障害での荷重運動:3か月時点で34分多い(95%信頼区間 -92.19〜160.19)、6か月で68分多い(-55.35〜191.35)、12か月で49分多い(-75.73〜173.73)。いずれも差があるとは言えません
すべての比較で確実性は低いか非常に低いと評価され、著者らは「身体活動を後押しする取り組みの有用性、生活の質や有害事象への影響について、依然として不確かである」と述べています。重い有害事象が増える根拠は示されませんでした3。
2. 参加者の人数が1件あたり14〜52名程度と非常に少ない解析が多く、信頼区間が広くなっています1
3. 6件の試験で最大39%の脱落が報告されています1
4. 筋ジストロフィーに絞ったレビューでは、ランダム化比較試験15件中12件がバイアスのリスクが高いと判定されました2
5. 同じレビューでは、39件のうち多くがランダム化されていない前後比較で、正式なGRADE評価も行われていません2
6. 病気の種類も介入内容も研究ごとに大きく異なり、まとめて解釈することが困難です1,2
7. 身体活動を後押しする取り組みのレビューでは、13件中10件が結果報告の不完全さから高いまたは不明のバイアスリスクと判定されています3
8. 標準的な評価項目(コアアウトカムセット)が定まっておらず、検証されていない指標を用いた研究もありました2
数字が大きく見える報告もありますが、参加者が20名前後の研究では、たまたま大きな差が出ることがあります。効果量が2を超えるような値は、期待をふくらませるより「人数が少ないから幅が大きい」と受け止めるほうが安全です2。
2. どのくらいの強度・回数・期間が適切かが定まっていません。研究の期間は8〜52週と幅があります1
3. 長期的にどうなるかがほとんど分かっていません。病気の自然な経過に関するデータ自体が十分に整理されていないと指摘されています2
4. 歩行が難しい方についての根拠が乏しく、身体活動のレビューでは13件中9件が歩ける方のみを対象としていました3
5. 呼吸の管理やストレッチについては、筋ジストロフィーのレビューの対象から外されています2
6. 生活の質がどう変わるかが十分に確かめられていません3
7. 子どもと成人で違いがあるかが分かっていません。身体活動のレビューには子ども・思春期の方を対象にした研究が含まれていませんでした3
8. どこまでなら安全かの境界が、研究では示されていません。有害事象の報告そのものが不十分です1,3
・自己流で負荷を上げないでください。研究でも、最適な強度は分かっていません1
・運動の後に、いつもと違う強い筋肉痛が長く続く、尿の色が濃くなる、体のだるさが強いといった変化があれば、運動を中止して速やかに医療機関にご相談ください
・研究では、最も多い訴えが痛み(とくに腰と下肢)で、筋肉痛、こむら返り、疲労、転倒なども報告されています2
・重い有害な出来事は報告されていませんが、有害事象の報告そのものが不十分であることも指摘されています1,3
コクランレビューでは、筋力トレーニングも有酸素運動も結果は不確かなままとされています1。重い有害事象は報告されていませんが、有害事象の報告自体が十分でない研究もあり、「安全が証明された」とは言えません1。
筋力の数値だけでなく、現在の生活動作、運動後の回復、翌日まで残る疲労や筋肉痛を確認し、主治医・担当療法士と負荷を調整する考え方を重視します。
2. 筋力トレーニング単独では、ほとんど差がないと評価されました(確実性は低い)1
3. 有酸素運動は、顔面肩甲上腕型で体力の指標が上向く可能性が示されました(1.1 L/分、95%信頼区間 0.4〜1.8、確実性は低い)1
4. 筋ジストロフィーに絞ったレビューでは、統計的な差がみられたのは39件中7件でした2
5. その著者らは、筋力練習を中心的な方法として検討すべきとしつつ、根拠の質は低いと明記しています2
6. 身体活動を後押しする取り組みについても、確実性は低いか非常に低いとされました3
7. 重い有害な出来事は報告されていませんが、痛みや筋肉痛の訴えは一定数あります1,2
8. 実施の可否と内容は、必ず主治医と担当のリハビリ専門職にご確認ください
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
2. Leone E, Pandyan A, Rogers A, Kulshrestha R, Hill J, Philp F. Effectiveness of conservative non-pharmacological interventions in people with muscular dystrophies: a systematic review and meta-analysis. Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry. 2024;95(6):507-520. PMID: 38124127. PMCID: PMC11041561.
3. Jones K, Hawke F, Newman J, Miller JA, Burns J, Jakovljevic DG, et al. Interventions for promoting physical activity in people with neuromuscular disease. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2021;5(5):CD013544. PMID: 34027632. PMCID: PMC8142076.
