
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
ALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断されたあと、「運動していいのか、それとも動かしすぎは良くないのか」「筋トレをすると悪くなると聞いたが本当か」は、よくある疑問です。情報によって言うことが違い、迷ってしまう方も多いテーマです。この記事では、ALSのある方への運動・リハビリについて、研究で分かってきたこと、そして正直にまだ分かっていないことを、当事者の方とご家族に向けて整理します。

・一方で、「運動が状態を悪くする」という結果も出ていません。同レビューでは重い有害事象の報告がなく、614回の練習のうち軽い症状が5回(0.8%)のみでした1。
・呼吸の筋肉を鍛える練習(呼吸筋トレーニング)では、息を吐く力・吸う力に良い方向の変化が報告されています(呼気筋力で標準化平均差19.53、95%信頼区間2.58〜36.48)2。ただし肺活量には差がみられませんでした2。
・証拠の確からしさは、筋力・生活機能で「非常に低い」、疲労で「低い」と評価されています1。数字をそのまま一人ひとりに当てはめることはできません。
・呼吸筋トレーニングは、やめると変化が失われる傾向が指摘されており、続け方が課題です2。
・進行する病気であり、目標は「今の生活のしやすさと安全を保つ」ことに置くのが現実的です。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、体を動かす指令を伝える運動神経が少しずつ働かなくなり、手足の力、話す・飲み込む働き、そして呼吸に関わる筋肉の力が低下していく病気です。手足から症状が始まる方(四肢発症)と、話しにくさ・飲み込みにくさから始まる方(球麻痺発症)があり、進み方や順番は人によって異なります。
ここでいう運動療法・リハビリとは、手足の筋力を保つための運動、関節が固まらないようにする運動、体力を保つ有酸素運動、そして呼吸に関わる筋肉を鍛える練習(呼吸筋トレーニング)などを指します。加えて、福祉用具や環境の調整、コミュニケーション手段の準備といった、生活を組み立て直す支援も広い意味でのリハビリに含まれます。狙いは、病気の進行そのものを止めることではなく、「今できている動作と暮らしのしやすさを、できるだけ保つ」ことにあります。
結論から正直にお伝えすると、「運動をすれば筋力が保てる」という証拠はまだ得られていません。ただし同時に、「運動が状態を悪くする」という証拠も出ていません。呼吸の筋肉については、やや前向きな結果が報告されています。順にみていきます。
ここで大切なのは、安全性についての結果です。有害事象を調べた5件の研究では、重い有害事象の報告はありませんでした。1件の研究で614回の練習中に5回(0.8%)、筋肉痛・線維束攣縮(ぴくつき)の増加・夜間のこむら返りといった軽い症状が記録された程度です1。「運動をすると悪くなる」という広く聞かれる心配については、現在の研究からは支持されていない、と言えます。
呼吸の筋肉を鍛える練習については、2025年のレビュー(5件のランダム化比較試験・合計170名)で、息を吐く力(呼気筋力)に良い方向の変化が報告されています(標準化平均差19.53、95%信頼区間2.58〜36.48)。息を吸う力(吸気筋力)でも同様の結果でした(標準化平均差13.96、95%信頼区間3.35〜24.56)。一方で、肺活量(努力性肺活量)にははっきりした差がみられませんでした(標準化平均差0.90、95%信頼区間−0.30〜2.09)2。含まれた試験の方法の質は比較的高く評価されており、重い有害事象の報告もありませんでした2。
これらより前の2020年のレビューでも、運動が生活機能の指標にわずかに良い方向で働く可能性が示されていましたが、研究数が少ないことが同様に指摘されています3。
呼吸筋トレーニングのレビューも、5件・合計170名と小規模で、練習のやり方(負荷の設定や回数)が研究ごとに異なり、追跡期間も短いという限界があります2。ALSは進み方が人によって大きく異なる病気であり、平均した数字をそのまま目の前の一人に当てはめることはできません1,2。
長い目で見たときにどうなるのかも、十分には検証されていません。2025年のレビューでは、中期・長期の追跡データが必要であると明記されています1。呼吸筋トレーニングについては、練習をやめると得られた変化が失われる傾向が指摘されており、どう続けていくかが課題として残ります2。1件の研究では吸気筋トレーニングが経過に関わる可能性が示唆されていますが、これは限られた報告であり、確かなこととはいえません2。

研究をていねいに読むと、比較的示されているのは呼吸に関わる筋肉の力です。息を吐く力・吸う力のどちらにも良い方向の変化が報告されており、方法の質も比較的高く評価されています2。息を吐く力は、痰を出す力やせき込む力と関わるため、生活のうえでの意味は小さくありません。呼吸筋を鍛える練習の考え方そのものは、呼吸筋トレーニングについて解説した記事とも共通する部分があります。
一方で、変わりにくい・はっきりしないのが手足の筋力です1。生活機能の指標や疲労についても、統計的にはっきりした差は出ていません1。ここは期待を大きくしすぎない部分だと考えています。ただし「差がない」ことは「やる意味がない」ことと同じではありません。重い有害事象がないこと、関節が固まるのを避けること、動ける範囲を確認しながら生活を組み立て直すことには、数字に表れにくい意味があります。筋肉量や筋力の低下そのものへの向き合い方は、筋肉量・筋力低下とリハビリの考え方について解説した記事も参考になります。
研究で対象になったのは、多くが自分で歩ける段階の方や、日常生活の多くを自分で行える段階の方でした1,2。この段階で、無理のない範囲の運動や呼吸の練習を続けるという使い方が想定されます。進行が進んだ段階では、関節が固まるのを避ける運動、姿勢の調整、福祉用具や環境の工夫、コミュニケーション手段の準備といった内容が中心になり、必要な支援の中身が変わっていきます。
呼吸の働きが低下している場合、運動によって息苦しさが強まることがあります。呼吸機能の状態や、非侵襲的な呼吸の補助を使っているかどうかによって、行ってよい範囲は変わります。飲み込みにくさがある方は、運動中の水分の取り方にも配慮が必要です。転倒への備えも欠かせません。手すりや壁のそば、見守りのある環境で行ってください。
ALSは進み方が人によって大きく異なります。「自分にどの運動がどのくらい向いているか」「どこまで一人で行ってよいか」は、必ず主治医や担当のリハビリ専門職に相談して決めてください。
正直にお伝えすると、「これだけ行えばよい」という決まった量は、研究からはまだ示されていません1。含まれた試験でも、運動の種類・強さ・回数・期間は大きく異なっていました。呼吸筋トレーニングについても、負荷の設定や回数が研究ごとにばらばらであることが限界として挙げられています2。
そのため現実的なのは、量を数字で決めるより、「翌日に疲れが残らない範囲」を目安にすることです。専門職の評価をもとに、まず軽い強度から始め、その日の体調と翌日の様子を確認しながら調整していきます。関節が固まるのを避ける運動は、力が落ちてきた段階でも続けやすく、ご家族に手伝っていただく形にもできます。呼吸の練習を取り入れる場合は、機器の設定と中止の目安を専門職と決めておくことが前提です。定期的に状態を確認し、その時々の段階に合わせて内容を組み替えていく——このやり方がもっとも現実的だと考えています。

修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
2. Benzo-Iglesias MJ, Rocamora-Pérez P, Valverde-Martínez MLÁ, García-Luengo AV, Benzo-Iglesias PM, López-Liria R. Efficacy of respiratory muscle training in improving pulmonary function and survival in patients with amyotrophic lateral sclerosis: a systematic review and meta-analysis. Ther Adv Respir Dis. 2025;19:17534666251346095. DOI:10.1177/17534666251346095. PMID:40488544. PMCID:PMC12149620.
3. Meng L, Li X, Li C, Tsang RCC, Chen Y, Ge Y, et al. Effects of Exercise in Patients With Amyotrophic Lateral Sclerosis: A Systematic Review and Meta-Analysis. Am J Phys Med Rehabil. 2020;99(9):801-810. DOI:10.1097/PHM.0000000000001419. PMID:32452880.
