東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「重症筋無力症は、動くと筋力が落ちる病気だと聞きました。運動してもいいのでしょうか」。これは、診断を受けた方やご家族から必ずと言っていいほど出る質問です。使えば疲れやすくなるという病気の性質上、運動をためらうのは当然のことだと思います。
結論から言うと、症状が軽度から中等度で安定している方については、運動や呼吸の練習に関する研究報告が近年まとまってきています。ただし、研究の数も規模も十分ではなく、重症の方についてはほとんどデータがありません。この記事では、分かっていることと分かっていないことを分けて整理します。
重症筋無力症(myasthenia gravis、MG)は、神経から筋肉へ「動け」という信号を伝える接続部分(神経筋接合部)が、自分の免疫のはたらきによって邪魔されてしまう病気です。特徴は、休んでいるときは比較的よく動くのに、使い続けると力が入らなくなること。まぶたが下がる、物が二重に見える、夕方になると疲れて話しづらくなる、階段がのぼりにくくなる、といった形で現れます。
この「使うと弱くなる」という性質があるために、運動そのものを避けたほうがよいのではないか、と考える方は少なくありません。ただ実際には、動かない時間が長くなることで筋肉量や体力が落ち、それがさらに動きにくさにつながるという別の問題も生じます。研究の関心は、この2つのバランスをどう取るかに向けられてきました。
病気の重さは、MGFA分類という段階で示されます。後で紹介する研究の対象は、その多くが軽度から中等度(クラスI〜III)の方です1。ここは記事を読み進めるうえで大切な前提になります。

軽度から中等度(MGFAクラスI〜III)の成人を対象に、有酸素運動・筋力トレーニング・呼吸筋トレーニングを検証した20研究(ランダム化比較試験7件、非ランダム化試験5件、観察研究8件/計1,366名、16〜75歳)をまとめた解析です。メタアナリシスに入ったのは10研究でした。症状の重さを表すQMGスコアは平均差−1.61(95%信頼区間−2.49〜−0.74、異質性I²=0%)、生活の質の指標MG-QOL15は平均差−5.63(−5.72〜−5.53、I²=0%)と、いずれも良い方向でした。一方、日常生活動作の指標MG-ADLは標準化平均差−0.40(−0.94〜0.14、I²=74%)、6分間歩行距離は0.38(−0.13〜0.88、I²=42%)で、統計的に有意な差は示されていません。1
数字の読み方を補足します。QMGスコアと生活の質の指標では研究間のばらつきがほとんどなく(I²=0%)、方向がそろっていました。一方で、日常生活動作や歩行距離といった「生活に近い指標」では、はっきりした差が出ていません。つまり、検査上の数値が動いても、それが生活の実感につながるかどうかは、この解析からは断定できないということです。
また、著者らはファンネルプロット(出版バイアスを調べる図)で偏りの兆候があったこと、いくつかの解析で研究間のばらつきが大きかったことを挙げ、結果は慎重に解釈すべきだと述べています1。
個別の研究としては、フランスで行われた在宅運動プログラムのランダム化比較試験3や、30分の歩行を介入とした試験4などが報告されています。ただし、いずれも参加人数が限られており、これらだけで結論を出せるものではありません。
重症筋無力症では、呼吸に関わる筋肉も弱くなることがあります。そこで、専用の器具を使って息を吸う力・吐く力を鍛える「呼吸筋トレーニング」が研究されてきました。
重症筋無力症の成人に対する呼吸筋トレーニングを調べたレビューです。含まれたのは7研究(ランダム化比較試験2件、準実験研究1件、症例対照研究1件、コホート研究3件/計223名、平均57.5歳)でした。呼吸筋の持久力を測定した5研究では、すべてで統計的に意味のある変化が示されました。一方、吸う力(最大吸気圧)が変化したのは6研究中2研究、吐く力(最大呼気圧)は3研究中2研究にとどまり、肺機能(FEV1・FVC)で変化が示されたのは2研究だけでした。結果は指標によってばらついています。2
このレビューで用いられていた練習の条件は、最大呼吸圧の15〜75%または最大換気量の50〜60%という強さで、週3〜10回、1回10〜30分、期間は4週間から12か月まで幅がありました。すべて、通常の内服治療を続けながら、監督のもとで行われています2。安全面については、3研究が有害な出来事のデータを報告しており、トレーニングが原因となる重い合併症は起きていませんでした2。
なお、呼吸筋トレーニングそのものの考え方や器具の使い方については、脳卒中後の呼吸筋トレーニングについて解説した記事でも基本を整理しています。対象となる病気は異なりますが、練習の枠組みは共通する部分があります。
・呼吸筋トレーニングのレビューに含まれたランダム化比較試験は2件のみで、質の評価(PEDro尺度)はいずれも10点中6点でした2。
・出版バイアスの兆候が指摘されており、良い結果が発表されやすかった可能性があります1。
・MG-ADLでI²=74%、最大吸気圧でI²=91%など、研究間のばらつきが大きい指標があります1。
・各研究の参加人数が少なく、追跡期間も短いものが中心です1,2。
・盲検化(誰がどちらの群かを伏せること)の手続きが不明確な研究が含まれています1。
・服用している薬の内容が研究間でそろっておらず、結果に影響した可能性があります2。
・最適な強度・頻度・期間は決まっていません。呼吸筋トレーニングだけでも、強さは最大圧の15〜75%、頻度は週3〜10回と大きな幅があります2。
・数か月から年単位で見たときにどうなるかという長期のデータが不足しています1,2。
・検査上の数値の変化が、日常生活の実感につながるかは確認されていません(MG-ADLと6分間歩行距離では有意差なし)1。
・胸腺摘出術の前後、症状が不安定な時期など、時期ごとの適切な進め方は十分に検証されていません。
・どのような特徴を持つ方に合いやすいのかも、まだ分かっていません。
研究全体としては一定の方向性が見えますが、対象者や介入内容が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。とくに重い症状の方は、この記事で紹介した研究の対象外である点にご注意ください。

研究に参加していた方の条件から考えると、次のような状況の方が検討の対象になります。
2. 内服治療を続けながら、医師の了解のもとで進められる方2
3. 監督のある環境で、少しずつ量を確かめながら進められる方1,2
4. 体力の低下や息切れなど、生活のなかで具体的な困りごとがある方
まぶたの下がり方が強くなる、物が二重に見える、飲み込みにくい、息が苦しいといった変化が出た場合は、その場で運動を中止し、速やかに主治医へご連絡ください。運動を始める前に、必ず主治医の判断を仰ぐことが前提です。
「これが最適」と言える量は決まっていません。ここでは研究で実際に用いられた内容を紹介します。ご自身に当てはめる際は、必ず主治医・リハビリ専門職と相談してください。
量の例:週3回・1回30分を8週間、または1日30分の歩行を3か月
結果の解釈:症状の重さの指標や生活の質で良い方向の変化が示された一方、6分間歩行距離では有意差がありませんでした1
量:週3〜10回、1回10〜30分、期間は4週間〜12か月
条件:内服治療を継続しながら、すべて監督下で実施
結果の解釈:持久力の指標では一貫した変化が示された一方、吸う力・吐く力・肺機能では結果がばらついています2
結果の解釈:単独の試験であり、この結果だけで一般化することはできません
なお、神経の病気で「どこまで動かすか」を考える難しさは、他の疾患でも共通するテーマです。進行性の病気における運動量の考え方については、ALSの運動療法・リハビリについて解説した記事もあわせてご覧ください。

正直にお伝えすると、重症筋無力症は、脳卒中と比べてリハビリの研究がはるかに少ない領域です。「この方法がよい」と言い切れる段階ではありませんし、重い症状の方についてはデータがほとんどありません。
実施時に大切なのは「その日の体調に合わせて量を変えること」です。この病気は日内変動が大きく、朝は動けても夕方には力が入りにくくなることがあります。決めたメニューを毎回同じ量でこなす発想は合いません。医師と情報を共有しながら、その日の状態を見て組み立てる必要があります。
2. 一方、日常生活動作の指標と6分間歩行距離では、有意な差は示されていません1
3. 呼吸筋トレーニングは、持久力の指標で一貫した変化がありましたが、吸う力・肺機能では結果がばらついています2
4. 重い症状の方についてのデータはほとんどなく、最適な強度・頻度も決まっていません1,2
5. 症状の変化が出た場合はその場で中止し、開始前・継続中とも必ず主治医と相談してください
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
2. Bi ZT, Xiao JH, Wei JX, Huang L, Li YD, Zhang YM. Effects of respiratory muscle training on respiratory function and functional outcomes in patients with myasthenia gravis: a systematic review. Frontiers in Neurology. 2025;16:1667400. PMID: 41079342.
3. Birnbaum S, Porcher R, Portero P, Clair B, Demeret S, Eymard B. Home-based exercise in autoimmune myasthenia gravis: A randomized controlled trial. Neuromuscul Disord. 2021;31(8):726-735. PMID: 34304969.
4. Misra UK, Kalita J, Singh VK, Kapoor A, Tripathi A, Mishra P. Rest or 30-Min Walk as Exercise Intervention (RESTOREX) in Myasthenia Gravis: A Randomized Controlled Trial. European Neurology. 2021;84(3):168-174. PMID: 33839731.
5. Chang CL, Fang TP, Tsai HM, Chen HC, Liu SF, Lin HL. Inspiratory muscle training and aerobic exercise for respiratory muscle strength in myasthenia gravis post-hospitalization- a randomized controlled trial. BMC Pulmonary Medicine. 2025;25(1):266. PMID: 40426137.
