糖尿病性末梢神経障害(足のしびれ)と運動・バランス訓練とは?ふらつき・転倒への研究と限界を正直に解説

· 神経難病情報
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
糖尿病性末梢神経障害(足のしびれ)と運動・バランス訓練とは?ふらつき・転倒への研究と限界を正直に解説
内容確認日:2026年7月29日
「足の裏がジンジンする」「靴下を履いているような感じで床の感覚が分かりにくい」「暗いところでふらつく」。糖尿病が長い方から、こうしたお話をよく伺います。糖尿病性末梢神経障害は、糖尿病でもっとも多い合併症とされ、足の感覚が鈍くなることでバランスや歩行にも影響します。運動やバランス訓練は役に立つのか。研究では、バランスの一部や転倒への不安に良い方向の差が報告されている一方、転倒そのものが減るかははっきりしていません。この記事では、作業療法士の立場から正直に整理します。
SECTION 01
糖尿病性末梢神経障害とは何か
糖尿病性末梢神経障害とは、高い血糖の状態が長く続くことで、手足の末梢の神経がうまく働かなくなった状態を指します。研究では「糖尿病でもっとも多い合併症」と説明されています1。多くの場合、足の先から左右対称に症状が出始め、しびれ、ジンジンする痛み、感覚の鈍さ、逆に触れると過敏に痛む、といった形で現れます。
リハビリの立場で特に重要なのは、足の裏の感覚が鈍くなる点です。人は歩くとき、足の裏からの情報で「床がどう傾いているか」「体重がどこに乗っているか」を絶えず感じ取り、無意識に姿勢を立て直しています。この情報が減ると、目に見える範囲の情報や、関節の位置の感覚に頼ることになります。そのため、暗い場所、じゅうたんの上、夜間のトイレなど、視覚が使いにくい場面で不安定になりやすいのです。
感覚が入りにくくなったときのリハビリの考え方は、原因となる病気が違っても共通する部分があります。関心のある方は、感覚障害と感覚再教育について解説した記事もあわせてご覧ください。
運動前に足の皮膚や靴ずれの有無を確認する様子
足の感覚が鈍い場合は、運動前後に皮膚の状態を目で確認することが大切です。
SECTION 02
研究で分かっていること
研究紹介|システマティックレビュー・メタアナリシス(2021年・8試験457名)
Limaらの研究1は、糖尿病性末梢神経障害のある成人を対象に、歩行・バランス・筋力の練習を組み合わせた運動プログラムと、運動を行わない場合を比べたランダム化比較試験8件(合計457名)をまとめたものです。結果は項目によって分かれました。転倒への不安の指標では、小さいながら良い方向の差(平均差 −2.42、95%信頼区間 −4.7〜−0.15、3試験185名)がみられました1。片足立ちの時間は、目を開けた状態で3.7秒(0.64〜6.76)、目を閉じた状態で1.07秒(0.34〜1.79)と、いずれも良い方向の差が示されています1。一方、バランスの総合的な評価尺度では差が示されず(0.56、−1.60〜0.48)、立ち上がって歩いて戻る時間の検査でも差はありませんでした(−0.63、−1.73〜0.47)1。そして転倒そのものの起こりやすさには、はっきりした差がみられていません(リスク比0.93、0.41〜2.09、1試験79名)1。これらの結果の確からしさは「低い」または「非常に低い」と評価されています1
より新しい個別の研究も見ておきます。Reyhanıogluらのランダム化比較試験2は、トルコで行われたもので、糖尿病性末梢神経障害のある方に、機器を使ったバランス練習を週2回・1回30分・8週間行う群(14名)と、糖尿病の自己管理教育のみを受ける群(13名)を比べました。バランスの指標(全体の安定性)は、練習した群で練習前後・群間ともに差がみられ(いずれもp<0.001)、転倒リスクの指標でも群間差が示されています(p=0.02)2。しびれや痛みの質問票では、練習した群で前後の差はありましたが(p=0.01)、群間の差にはなりませんでした(p=0.08)2
重要なのは、この研究で神経そのものの働きは変わらなかったという点です。神経の伝わる速さや振幅を測る検査では、どちらの群にも有意な変化はありませんでした2。著者らも「バランス、痛み、臨床所見は良い方向に変わったが、神経機能は変わらなかった」と結論づけています2
筋力面については、Seyedizadehらの小規模な試験3があります。2型糖尿病で末梢神経障害のある女性を対象に、筋力トレーニングと有酸素運動を組み合わせたプログラムを週3回・8週間行った群(10名)と、運動を行わない群(10名)を比べたものです。下肢の筋力の指標(30秒間の立ち座り回数)では群間差が示されました(p=0.01)3。ただし参加者が20名と少なく、対象が閉経後の女性に限られているため、結果の解釈には注意が必要です3
SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
エビデンスの質と限界
ここは正直にお伝えしたい部分です。まとめられた研究は8件・457名と少なく、いずれも1施設で行われた研究でした1。著者らは、1施設の研究は複数施設の研究に比べて効果が大きく出やすい傾向があると述べています1。参加者も担当者も、どちらの関わりを受けているか分からない状態にはできないため、すべての研究でその影響を避けられていません1

また、良い方向の差が示されたのは片足立ちという1種類の静的なバランス検査に限られており、他のバランス指標では差が示されていません1。長期の追跡を行った研究は1件(12か月)のみです1。さらに、運動に伴う有害事象を評価項目として報告した研究は1件もありませんでした1。研究全体では一定の傾向がありますが、対象者や運動内容が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
まだ分かっていないこと
・バランスの検査値が良くなることが、実際の生活での転倒の減少につながるかは分かっていません1
・転倒の起こりやすさを調べた研究は1件・79名のみで、はっきりした差は示されていません1
・運動の最適な種類・強度・回数・期間は決まっていません1
・長期的にどうなるかは、12か月の研究が1件あるだけです1
・運動による安全面の情報(有害事象)が研究から得られていません1
・神経そのものの働きが運動で変わるかどうかは示されていません。8週間の練習では変化がありませんでした2
・しびれや痛みに対する効果は、群間の比較では明確になっていません2
・筋力の研究は参加者が20名と少なく、対象も限られています3
SECTION 04
何が期待でき、何は変わりにくいか
結論から言うと、運動で「しびれた神経が元に戻る」ことは期待できません。8週間のバランス練習を行った研究でも、神経の伝わり方を測る検査に変化はありませんでした2。ここは期待の方向を間違えないほうがよい部分です。
一方で、比較的はっきり良い方向の差が示されているのは、片足立ちのような姿勢を保つ力と、転倒への不安です1。これは、足の裏の感覚が減ったぶんを、股関節まわりの筋力や体幹の使い方、視覚の使い方で補えるようになった結果と考えると理解しやすいと思います。神経は変わらなくても、姿勢を立て直す仕組みのほうは練習の余地があるということです。
ただし、「転倒が減る」とまでは言えません。転倒には、家の環境、履物、視力、薬、血圧の変動など多くの要因が関わるためです。バランス練習だけで完結する話ではない、という前提で考える必要があります。転倒への対策全般については、高齢者のフレイルと運動療法について解説した記事や、住宅改修と環境調整について解説した記事もご参照ください。
手すりと専門職の見守りを利用した安全なバランス練習
バランス練習は、転倒しない環境と専門職の見守りのもとで段階的に行います。
SECTION 05
どんな人に向いているか
研究で対象となってきたのは、18歳以上で糖尿病と末梢神経障害の診断がある方です1。個別の研究では、年齢の中央値が61歳から64歳、糖尿病の罹病期間が10年から18年という参加者が対象になっています2。筋力の研究では、45歳から65歳の閉経後の女性が対象でした3
私の考えでは、次のような方は相談の対象になりやすいと思います。足の裏の感覚が鈍く、暗い場所や不整地でふらつく方、転ぶのが怖くて外出を控えるようになった方、椅子からの立ち上がりがつらくなってきた方です。特に、転倒への不安から活動量が減ると、筋力やバランスがさらに落ちる循環に入りやすいため、早めに相談していただく意味があると考えています。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと:
足の感覚が鈍い方は、靴ずれや小さな傷に気づきにくく、そこから足の潰瘍につながることがあります。運動の前後には必ず足の裏と指の間を目で見て確認し、赤み・水ぶくれ・傷があるときは運動を続けずに主治医に相談してください。裸足での練習や、合わない靴での歩行練習は避けてください。また、糖尿病の治療内容によっては運動中の低血糖に注意が必要です。目の合併症(網膜症)がある方は、強い負荷や息をこらえる運動を避けるべき場合があります。研究で行われたのも医療の枠組みのなかで、専門職の指導のもと実施されたプログラムです1、2。開始前に必ず主治医にご確認ください。
照明と手すりを整えた自宅で安全に移動する様子
夜間の照明、手すり、履物など、生活環境の調整も移動の安全を考える重要な要素です。
SECTION 06
回数・頻度・期間の目安
研究で用いられた設定はさまざまです。レビューでまとめられた研究では、週2回・60分、あるいは週3回・30分という形が多く、期間は4週から12週が中心で、12か月続けた研究が1件ありました1
バランス練習の研究では、週2回・1回30分(ウォーミングアップ4分と休憩を含む)を8週間、難易度を段階的に上げながら行っています2。筋力と有酸素運動を組み合わせた研究では、週3回・8週間で、筋力は8〜12回を2〜3セット、有酸素運動は3分の運動と30秒の休憩を繰り返す形で、強度を予備心拍数の50%から65%へ段階的に上げていました3
ただしこれらは研究の一例であり、最適な量ははっきり決まっていません1。足に傷がないかを毎回確認しながら、短い時間から始めて様子を見ることをおすすめします。
SECTION 07
専門職と一緒に確認したい実践上のポイント
専門職が確認する主な項目
まず、主治医による診察と、足の状態(傷・皮膚の色・爪・靴の当たり)の確認が済んでいるかを見ます。次に、どの場面でふらつくのかを具体的に伺います。暗い場所か、方向転換のときか、床の材質が変わるところかによって、練習の組み立てが変わるためです。そのうえで、目を開けた状態と閉じた状態でどれくらい姿勢を保てるか、立ち上がりや方向転換がどうかを確認します。研究でも、歩行・バランス・筋力の練習を組み合わせた形が用いられていました1。あわせて、履物の見直し、夜間の照明、床の段差や敷物といった環境面も一緒に確認します。ふらつきの背景に、血圧の変動や薬の影響が関わることもあるため、その点は主治医と共有します。
まとめると、糖尿病性末梢神経障害のある方への運動・バランス練習は、片足立ちの時間や転倒への不安、生活の質の一部の指標で良い方向の差が報告されています1。一方で、転倒そのものが減るかは示されておらず、根拠の確からしさも「低い」または「非常に低い」と評価されています1。神経の働きそのものが変わるという結果も出ていません2。それでも、姿勢を立て直す力や生活の環境は、工夫の余地がある領域です。ご自身の状況に合うかどうか迷うときは、まず担当の医師やリハビリ専門職にご相談ください。
運営・利益相反について
本記事は株式会社Journey Rehabが作成し、自社のリハビリ相談・サービスへの案内を含みます。執筆と文献確認は作業療法士の田中 光が行っており、外部医師による監修記事ではありません。
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の治療・診断を推奨したり、医療行為に代わるものではありません。糖尿病性末梢神経障害のある方では、足の傷、低血糖、目や腎臓の合併症など、運動の前に確認が必要な点があります。症状の現れ方や必要な対応は個人によって大きく異なります。実施の前には、必ず担当の医師やリハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点のもので、今後の研究で評価が変わる可能性があります。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
歩行やバランス、生活のなかで不安な場面を一緒に確認しながら、進め方を考えます。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
Q & A
よくある質問
Q. 運動をすれば足のしびれはなくなりますか?
なくなるとは言えません。8週間のバランス練習を行った研究では、神経の伝わり方を測る検査に変化はありませんでした2。しびれや痛みの質問票では練習前後の差がみられましたが、群間の差にはなっていません2
Q. 転ばなくなりますか?
現時点でははっきり言えません。転倒の起こりやすさを調べた研究は1件・79名のみで、明確な差は示されていません1。バランスの検査値が良くなることと、実生活での転倒が減ることは分けて考える必要があります。
Q. 感覚が鈍いのに運動して大丈夫でしょうか?
足の傷に気づきにくいことが最大の注意点です。運動の前後に足の裏と指の間を目で確認し、合った靴を履いてください。傷や赤みがあるときは中止して主治医に相談してください。研究では有害事象を評価した報告がなく1、安全面は自己判断せず専門職と確認することをおすすめします。
Q. どんな運動をすればよいですか?
研究では、歩行・バランス・筋力の練習を組み合わせた形が用いられています1。片足立ちのような姿勢を保つ練習では良い方向の差が報告されていますが1、転倒の危険があるため、必ず支えのある場所で、可能であれば見守りのもとで行ってください。
Q. どのくらい続ければよいですか?
最適な期間は決まっていません。研究では4週から12週が中心で、12か月続けた研究が1件あるだけです1。長期的な効果については十分に分かっていないのが現状です。
Q. 血糖値は良くなりますか?
この記事で紹介したレビューでは、血糖のコントロールに関するデータは限られていました1。バランス練習の研究でも、練習後の血糖の指標は測定されていません2。血糖の管理については主治医の指示に従ってください。
Q. 特別な機械が必要ですか?
必ずしも必要ではありません。研究では機器を使った練習のほか、歩行・バランス・筋力の練習、振動を使った機器など、さまざまな方法が用いられています1。機器を使った研究の著者らも、費用や場所の制約を限界として挙げています2
Q. 転ぶのが怖くて外に出られません。どうすればよいですか?
転倒への不安は、研究のなかで良い方向の差が報告されている数少ない項目のひとつです1。ただし差は小さいものでした1。まずは屋内の安全な場所から範囲を広げていく形が現実的です。不安が強いときは、その気持ちも含めて専門職にお伝えください。
REFERENCES
参考文献
1. Lima RAO, Piemonte GA, Nogueira CR, Nunes-Nogueira VS. Efficacy of exercise on balance, fear of falling, and risk of falls in patients with diabetic peripheral neuropathy: a systematic review and meta-analysis. Arch Endocrinol Metab. 2021;65(2):198-211. PMID: 33905633.
2. Reyhanıoglu DA, Yıldırım G, Sengun IS, Kara B. Effects of Computer-based Balance Exercises on Balance, Pain, Clinical Presentation and Nerve Function in Patients With Diabetic Peripheral Neuropathy: A Randomized Controlled Study. J Musculoskelet Neuronal Interact. 2024;24(2):168-177. PMID: 38825999.
3. Seyedizadeh SH, Cheragh-Birjandi S, Hamedi Nia MR. The Effects of Combined Exercise Training (Resistance-Aerobic) on Serum Kinesin and Physical Function in Type 2 Diabetes Patients with Diabetic Peripheral Neuropathy (Randomized Controlled Trials). J Diabetes Res. 2020;2020:6978128. PMID: 32215272.