東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「つまずきやすくて、外を歩くのが不安です」「装具をすすめられましたが、本当に必要なのか分かりません」「運動をしすぎると、かえって筋力が落ちると聞いて怖くなりました」。シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)の方やご家族から、こうしたご相談をいただきます。
結論から正直にお伝えします。CMTのリハビリについて、「これをやればよい」と言える確立された方法は、現時点でありません。2016年のシステマティックレビューは「エビデンスにもとづく治療プロトコルは、現時点では確立できない」と結論しています1。一方で、53名を対象とした2020年の比較試験では、12週間の運動プログラムで歩行の指標に変化がみられ、心配されがちな「使いすぎによる筋力低下」は観察されませんでした2。
この記事では、数の少ない研究から何が言えて、何が言えないのかを、限界とあわせて整理します。
シャルコー・マリー・トゥース病(Charcot-Marie-Tooth disease、以下CMT)は、手足の末梢神経が少しずつ傷んでいく遺伝性の病気です。多くの型があり、進み方や症状の強さは人によって大きく異なります。研究で最も多く扱われているのは、脱髄型のCMT1Aという型です2。
リハビリの場面で扱われる困りごとは、おおむね次のように整理できます。

理学療法については、筋力の増加につながることを示す結果が一貫して報告されているとされ、日常生活動作にかかる時間の短縮もみられています。装具については結果が分かれており、プラスチック製の短下肢装具は姿勢の制御と歩行に良好な結果を示した一方、夜間装具による足首の背屈角度の変化は3〜4度にとどまり、可動域に差がみられなかったランダム化比較試験もありました。
研究の質はDowns & Blackのスコアで19〜23点(多くは22〜23点)と中〜高程度でしたが、評価項目が研究ごとに異なり、統合解析はできていません。
著者らの結論は、「エビデンスにもとづく治療プロトコルは、現時点では確立できない」というものです1。
より新しい2023年のレビューでも、ランダム化比較試験は6件(のべ214名)しか見つかっていません。参加者の平均年齢は38.5歳で、83%がCMT1Aの方でした。研究の質を示すPEDroスコアの平均は5.25点(範囲2〜9点)で、6件がバイアスのリスクが高いと判定されています。このレビューでは、子どものCMT1Aにおいて足関節背屈筋の筋力トレーニングが24か月後の筋力低下の進み方に関連したという中等度の質の結果が挙げられていますが、それ以外の項目の質は「非常に低い」から「低い」の範囲でした4。
CMTの領域で最も規模の大きい比較試験のひとつが、イタリアの多施設で行われた研究です。「運動をすると神経に負担がかかるのではないか」という不安に対して、実際のデータを示してくれる研究でもあります。
・トレッドミル併用群(27名):週2回・各60分を12週間。トレッドミル30分(最大有酸素負荷の40〜70%で漸増)、呼吸リハビリ25分、固有感覚・バランス訓練25分、休憩10分
・ストレッチ+固有感覚訓練群(26名):トレッドミルを除いた同じ内容
3か月(T1)と6か月(T2)に評価。48名がT1、42名がT2まで参加しました。
結果は次のとおりです。
・6分間歩行距離:T1で+17.7m(p=0.01)、T2で+21.4m(p=0.03)。ただし群間の差はなし(p=0.82)
・10m歩行時間:T1で−0.27秒(p=0.008)、T2で−0.19秒(p=0.18)。群間の差はなし(p=0.75)
・Berg Balance Scale:トレッドミル併用群はT2まで変化を保った一方、対照群は低下(交互作用 p=0.023)
・生活の質(SF-36):追跡期間中に有意な変化はなく、T2で身体活動の項目のみ低下(−8.1、p=0.021)
安全性については、両群とも有害事象の報告はなく、使いすぎによる筋力低下(overwork weakness)も観察されませんでした。
著者らは「ストレッチ+固有感覚訓練も、トレッドミル訓練も、客観的な利益があった」と結論しています。ただし、健常対照群がないこと、CMTの多様性、組み入れ条件が厳しく比較的軽症の方が集まったことを限界として挙げています2。
この研究で押さえておきたいのは、トレッドミルを足しても、足さなくても、歩行の指標の変化に差がなかったという点です。特別な機器がなければ意味がない、ということではありません。一方で、バランスの指標については6か月時点で群の傾向が分かれており、続け方によって差が出る可能性を示しています2。
なお、進行性の神経の病気で運動をどう考えるかという論点は、疾患をまたいで共通する部分があります。考え方の枠組みについては、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の運動療法について解説した記事もあわせてご覧ください。ただし病気の性質も進み方もまったく異なりますので、そのまま当てはめることはできません。
下垂足に対しては短下肢装具(AFO)がすすめられることが多く、実際に使っている方も多いと思います。研究ではどこまで示されているのでしょうか。
統合した結果は次のとおりです。いずれも標準化平均差で、すべて統計的な差はみられませんでした。
・歩行速度:−0.34(95%信頼区間 −2.28〜1.59、6件)
・ストライド長:0.57(−0.70〜1.84、2件)
・ケイデンス(歩調):−0.29(−0.93〜0.36、2件)
・ステップ長:0.59(−0.74〜1.92、4件)
・立脚期の足関節背屈:−0.04(−0.58〜0.51、3件)
重要な点として、この15件のなかにランダム化比較試験は1件も含まれていません。装具を装着した直後の効果を測った研究が中心で、慣らし期間もほとんど設けられていません。
著者らは「装具は歩行やバランスの複数の項目に良い影響を与えるものの、参加者数の少なさ、対象者・装具設計・測定方法のばらつきにより、統合すると統計的な差が示されなかった」と述べ、個々の必要性に応じた装具の調整(カスタマイズ)の重要性を強調しています3。
「統合すると差が出ない」という結果は、「装具が役に立たない」という意味ではありません。研究の数と規模が足りていない、測り方が揃っていない、という状態です3。実際に使ってみて歩きやすさが変わる方はいますので、装具の要否は、研究の平均値ではなく、担当の医師・義肢装具士とご自身の歩行を見ながら判断する事柄になります。

この領域の研究の少なさを示す例として、コクランのレビューを挙げておきます。
結果として、有用性が示された治療はありませんでした。8名を対象としたニューロトロフィン3の試験でわずかな可能性が示唆されたのみで、著者らは大規模な試験での再現が必要としています。すべての試験が検出力不足でした。
やや古いレビューですが、この領域が長く「研究の数そのものが足りない」状態にあることを示す資料です5。
2. 2023年のレビューでは、6件がバイアスのリスクが高いと判定され、PEDroスコアの平均は5.25点でした4
3. 装具の解析に含まれた15件には、ランダム化比較試験が1件も含まれていません3
4. 装具の研究の多くは装着直後の効果を測ったもので、慣らし期間がほとんど設けられていません3
5. 研究の対象はCMT1Aに偏っています(2023年のレビューでは83%)。他の型に当てはまるかは分かりません4
6. 2020年の比較試験は、組み入れ条件が厳しく比較的軽症の方が集まっており、健常対照群もありません2
7. 評価項目が研究ごとに異なり、統合解析ができない状態が続いています1
2. どの型のどの段階の方に、どの運動が合うかが分かっていません。研究の対象はCMT1Aに偏っています4
3. 適切な量・強度・頻度が定まっていません。2020年の試験で用いられたのは週2回・60分・12週間という条件のひとつにすぎません2
4. 長期的にどうなるかが分かっていません。多くの研究の追跡は6か月程度までです2
5. 装具の種類ごとの違いが分かっていません。素材も設計も研究ごとにばらばらで、比較できる状態にありません3
6. 大人での筋力トレーニングの位置づけがはっきりしていません。子どもの足関節背屈筋については中等度の質の結果が挙げられていますが、それ以外の質は低いままです4
7. 手の機能に対するリハビリの研究は、下肢に比べてさらに乏しい状態です1
・運動の翌日以降まで続く強い筋肉痛や、明らかな脱力感が出た場合は量を減らし、担当者にご相談ください。研究では使いすぎによる筋力低下は観察されていませんが2、比較的軽症の方を対象とした条件下での結果です
・足の裏の感覚が鈍い方は、水ぶくれ・タコ・傷に気づきにくいことがあります。運動の前後に足の状態を目で確認する習慣をつけてください
・装具が合っていないと、皮膚のトラブルや転倒につながります。当たって痛い箇所があれば、我慢せず義肢装具士へご相談ください
・転倒しやすい状態のときは、手すりや壁のある場所で行い、一人で行わない選択も検討してください
・足関節の背屈制限が強い方は、無理な自己流のストレッチでかえって痛みを生じることがあります。方法は専門職に確認してください
末梢神経の病気で「運動をどこまでしてよいか」を悩む状況は、他の疾患でも共通します。急性期からの回復過程における考え方は、ギラン・バレー症候群のリハビリについて解説した記事で整理しています。CMTは進行が緩やかな遺伝性の病気で経過が異なりますので、あくまで考え方の参考としてご覧ください。
2. 2023年のレビューでも、ランダム化比較試験は6件・のべ214名にとどまります4
3. 53名を対象とした12週間の運動プログラムでは、6分間歩行距離が+17.7m(3か月)、+21.4m(6か月)と変化しました2
4. トレッドミルを加えても加えなくても、歩行の指標に群間差はみられませんでした2
5. 使いすぎによる筋力低下は、その試験では観察されていません2
6. 短下肢装具の統合解析では、歩行速度・ステップ長などで統計的な差は示されませんでした3
7. ただしそれは「役に立たない」ではなく、研究の数・規模・測り方が揃っていないことによるものです3
8. 研究の対象はCMT1Aに偏っており、他の型への当てはめには注意が必要です4
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
2. Mori L, Signori A, Prada V, Pareyson D, Piscosquito G, Padua L, et al. Treadmill training in patients affected by Charcot-Marie-Tooth neuropathy: results of a multicenter, prospective, randomized, single-blind, controlled study. European Journal of Neurology. 2020;27(2):280-287. PMID: 31444929. PMCID: PMC6973058. DOI: 10.1111/ene.14074
3. Kim A, Frecklington M, Philps A, Stewart S. The effect of ankle-foot orthoses on gait characteristics in people with Charcot-Marie-Tooth disease: A systematic review and meta-analysis. Journal of Foot and Ankle Research. 2024;17(3):e70003. PMID: 39276325. PMCID: PMC11401480. DOI: 10.1002/jfa2.70003
4. Conde RM, Senem I, Dos Santos M, Osório FL, Marques Júnior W. Effectiveness of exercise therapy for individuals diagnosed with Charcot-Marie-Tooth disease: A systematic review of randomized clinical trials. Journal of the Peripheral Nervous System. 2023. PMID: 37060329. DOI: 10.1111/jns.12548
5. Young P, De Jonghe P, Stögbauer F, Butterfass-Bahloul T. Treatment for Charcot-Marie-Tooth disease. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2008;(1):CD006052. PMID: 18254090. PMCID: PMC6718225. DOI: 10.1002/14651858.CD006052.pub2
