
この記事の結論
「入院して数日たったころ、急に話がかみ合わなくなった」「夜になると落ち着かず、点滴を抜こうとした」。脳卒中の直後に、ご家族がこうした変化に驚かれることがあります。せん妄の可能性はありますが、急な言葉や意識の変化を自己判断でせん妄と決めつけないことが大切です。入院中はすぐにスタッフへ知らせてください。自宅で突然話せない、片側の顔や手足が動かしにくい、意識がおかしい等が起きた場合は、脳卒中の再発なども考え、119番で救急要請してください。3
この記事では、せん妄の予防ケアではなく、「どのくらいの人に起こり、どんな人に起こりやすく、その後の生活とどう関係するのか」に焦点を当て、2本のメタ分析をもとに分かっていることと限界を整理します。
目次
脳卒中後のせん妄とは?
脳卒中後のせん妄とは、脳卒中の直後に、意識や注意、考える力が急に乱れ、その程度が1日の中でも強くなったり弱くなったりする状態です1,2。英語ではpost-stroke delirium(PSD)と呼ばれます1。
もの忘れが少しずつ進む認知症とは違い、せん妄は短い期間で急に起こり、変動しやすいのが特徴です1,2。
これまでの研究のまとめでは、急性期の脳卒中の方の約25%(約4人に1人)にせん妄がみられると報告されています1,2。

せん妄があると、その後にどう関係する?
結論から言うと、せん妄があった方では、なかった方と比べて、その後の死亡や介助が必要な状態になる割合が高いことが報告されています1。
急性期の脳卒中の方を対象に、せん妄とその後の経過との関係を調べた39件の研究(前向き観察研究35件、症例対照研究4件)をまとめた分析です1。せん妄があった方は3,295人、なかった方は9,643人でした1。多くの研究は論文の評価尺度では質が高いとされましたが、観察研究であり、因果関係を確定できるという意味ではありません1。
年齢・持病・脳卒中の重さを調整した主解析は、死亡と機能の経過それぞれ4研究に限られます。この解析では、せん妄があった方は、平均約1年半の追跡で死亡のオッズ比が3.47、平均約2年弱の追跡で神経機能の経過が悪い(修正ランキンスケールで介助が必要な状態など)オッズ比が3.62でした。オッズ比は死亡や介助が必要になる確率の比そのものではなく、個人の見通しを示す値でもありません1。
・神経機能の経過が悪いこと(オッズ比3.62)1
・施設への入所(オッズ比4.14、11件の研究)
・認知機能の低下(5研究、オッズ比5.68)や認知症(オッズ比4.74、4件の研究)
・退院後の生活動作などの指標の低下(論文では「生活の質」と分類されていますが、主にBI・FIM・IADLによる評価です)1
脳卒中後のもの忘れや段取りの難しさについては、脳卒中後の認知機能の低下について解説した記事で詳しく紹介しています。
どんな人に起こりやすい?
脳の損傷の場所や種類によって、せん妄の起こりやすさに違いがあることが報告されています2。
2010年〜2021年に発表された、急性期の脳卒中の方で、脳の損傷部位や脳卒中の種類をせん妄の有無別に報告した研究をまとめた分析です2。
大脳(テント上)の損傷では小脳・脳幹(テント下)と比べて約2.0倍、脳の前方の血管の領域では後方と比べて約1.4倍、脳の表面に近い皮質の損傷では奥の皮質下と比べて約1.5倍、せん妄が起こりやすい結果でした2。
・脳の表面に近い皮質の損傷(1.54)
・脳の前方の血管の領域の損傷(1.41)
・脳出血などの出血性の脳卒中(脳梗塞と比べて1.74)
・以前から脳の萎縮があること(1.66。ただし、この数値は2研究によるもので、どちらも質の高い研究に限定した解析の基準を満たしていません)2
これらは「起こりやすい傾向」であり、当てはまる方に必ず起こる、当てはまらない方には起こらない、という意味ではありません2。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないことは?
39件の研究の分析は、すべて観察研究をまとめたものです1。そのため、せん妄そのものが悪い経過の原因なのか、もともと重い状態の方にせん妄が起こりやすいだけなのかは区別できません1。また、多くの研究は年齢や脳卒中の重さなどの影響を十分に考慮しておらず、影響を考慮した解析に使える研究は一部に限られていました1。
脳卒中の方に最も適したせん妄の見分け方(評価方法)が決まっておらず、意識の状態や認知機能の低下によって、せん妄と判断されなかったり、逆にせん妄と判断されたりする可能性も指摘されています1。損傷部位の分析でも、研究ごとに損傷の記載方法が大まかで異なり、探索的な解析で複数の比較に対する補正を行っておらず、年齢や認知機能などと部位を同時に評価できていないため、結果の解釈には注意が必要です2。
家族はどんなことに気をつける?
せん妄に早く気づくためには、普段の様子をよく知るご家族の「いつもと違う」という気づきが大切です1,2。
入院中にご家族ができるケアについては、脳卒中後のせん妄と入院中のケアについて解説した記事で紹介しています。退院から在宅生活への移り方は、脳卒中後の退院支援と在宅移行について解説した記事もご参照ください。

作業療法士の視点
研究のまとめからは、脳卒中直後のせん妄は珍しいものではなく、その後の生活や認知機能の経過と関係していることが分かっています1。一方で、せん妄が原因で経過が悪くなるのかどうかは、まだはっきりしていません1。
大切なのは、せん妄があったことを必要以上に心配しすぎることではなく、入院中から退院後まで、変化に気づいたときに相談できる体制をつくっておくことだと考えています。

まとめ
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。急に意識がぼんやりする、話がかみ合わないなどの変化がみられた場合は、入院中はすぐに医療スタッフへ知らせてください。自宅で突然の言葉の障害、片側の麻痺や意識の異常があるときは119番で救急要請してください。3治療や運動の内容を始める・変える前には、担当の医師・リハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点(2026年10月)のもので、今後の研究により変わる可能性があります。
よくある質問
Q. 脳卒中後のせん妄は、どのくらいの人に起こりますか?
A. これまでの研究のまとめでは、急性期の脳卒中の方の約25%(約4人に1人)にせん妄がみられると報告されています1,2。評価の方法や対象によって割合には幅があります。
Q. せん妄と認知症は何が違いますか?
A. せん妄は、意識や注意が急に乱れ、1日の中でも強くなったり弱くなったりする状態です1,2。少しずつ進む認知症とは違い、短い期間で急に起こるのが特徴です。判断は医師が行うため、気になる変化は主治医に伝えましょう。
Q. せん妄があると、その後の回復に影響しますか?
A. 39件の研究のまとめでは、せん妄があった方は、影響を考慮しても平均追跡期間が約1年半〜2年の解析で、死亡や介助が必要な状態と関係していました1。ただし観察研究のため、せん妄そのものが原因かどうかは分かっていません。
Q. せん妄があると、認知症になりやすいですか?
A. 十分な調整をしていない解析では、せん妄があった方で、その後の認知機能の低下や認知症が多い傾向がみられました1。ただし年齢などの影響を考慮した研究は少なく、はっきりしたことはまだ分かっていません。
Q. どんな人にせん妄が起こりやすいですか?
A. 研究のまとめでは、大脳や脳の表面に近い部分の損傷、脳出血などの出血性の脳卒中、以前からの脳の萎縮がある方で起こりやすい傾向がありました2。損傷の左右による統計学的にはっきりした差は確認されませんでした。
Q. 家族はどんなことに気をつければよいですか?
A. 急に話がかみ合わない、ぼんやりする、夜に落ち着かないなどの「いつもと違う」変化に気づいたら、すぐに看護師や主治医に伝えることが大切です1,2。退院後も生活の様子の変化を見守りましょう。
参考文献
3. 国立循環器病研究センター:脳卒中(症状と救急受診) 公式資料