東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
非薬物的なケアは何をもたらすのか、研究と限界を正直に解説
「入院してから、急に様子がおかしくなった」「昼間はしっかりしているのに、夜になると別人のように混乱する」「点滴を抜こうとしたり、ここがどこか分からなくなったりする」——脳卒中で入院しているご家族について、こうした変化に戸惑う声をうかがうことがあります。これは「せん妄」と呼ばれる、脳卒中の急性期に比較的よくみられる状態です。
この記事では、せん妄の予防に役立つとされる非薬物的なケアについて、研究で何が分かっていて、何がまだ分かっていないのかを正直に整理します。結論を先に言うと、見当識訓練や認知刺激、睡眠環境の工夫といった非薬物的なケアを組み合わせることで、せん妄の発生率を下げられる可能性が中程度の確実性で示されています。一方で、脳卒中に限定した質の高い研究はまだ少なく、効果の大きさには研究間でばらつきがあります。
最終更新日:2026年8月20日
最新レビュー日:2026年8月20日
せん妄は多くの場合、入院中の急性期に起こる一時的な状態で、原因の評価と対応は医療機関の医療スタッフが行います。この記事は入院中のケアの工夫について研究を紹介するものであり、ご家族ができることは「面会時の関わり方」など限られた範囲にとどまります。急な意識状態の変化に気づいたときは、自己判断せずすぐに病棟スタッフへ伝えてください。
せん妄とは、脳の急な機能変化によって、注意力や意識の状態が短期間のうちに変動する状態です。日付や場所が分からなくなる、話のつじつまが合わなくなる、夜間に興奮したり幻覚のようなものを訴えたりする、といった症状が現れます。認知症とは異なり、多くは数日から数週間で改善する一時的な状態ですが、本人にとってもご家族にとってもつらく感じられるものです。
脳卒中そのものによる脳への直接的な影響に加えて、入院という環境の変化、痛みや感染症などの身体的なストレス、睡眠不足、普段使っているメガネや補聴器が使えない状況などが重なることで、せん妄が起こりやすくなると考えられています。
2つの研究を並べると、「見当識を保つ工夫、頭を使う関わり、睡眠環境の整備、作業療法などを組み合わせた非薬物的なケアは、せん妄の発生を減らす方向に働く可能性が高い」という一貫した傾向が見えてきます。せん妄の予防では、注意力そのものへの働きかけも重要とされており、脳卒中後の注意障害のリハビリについて解説した記事もあわせてご覧ください。
1のコクランレビューは、脳卒中に限定した集団ではなく「入院患者一般」を対象にしたものです。脳卒中の患者さんだけを対象にした、質の高い多成分せん妄予防のRCTはまだ多くありません。また、興味深いことに、このレビューの成分分析では「早期離床(体を動かすこと)」や「痛みの管理」は、むしろせん妄の発生を増やす方向の推定値が出ており、不確実性は大きいものの単純に「動けば予防になる」とは言えない結果でした1。早期離床自体は脳卒中リハビリで重要視される取り組みですが、せん妄予防という文脈では、まだ結論が出ていないということです。
両方の研究に共通する限界として、非薬物的なケアという介入の性質上、参加者やスタッフを「介入を受けているかどうか分からない状態」にすること(盲検化)が事実上できず、すべての一次研究がこの点でバイアスリスクが高いと評価されています12。2の研究は脳卒中サブグループの対象RCTが3件と少なく、GRADE評価も中程度〜低確実性にとどまります2。1のレビューも、認知症を有する患者さんのデータが少なく、この集団への一般化には注意が必要とされています1。
研究全体では一定の傾向がありますが、対象者の重症度、発症からの時期、実施されたケアの具体的な内容が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
・せん妄が起きた場合の持続期間(平均で約1日短縮という報告)1
・入院期間(平均で約1.3日短縮という報告)1
・早期離床や痛みの管理単独での予防効果(不確実性が大きい)1
・せん妄の重症度そのものへの効果(確実性が非常に低い)1
せん妄の医学的な評価・治療は医療スタッフが行いますが、研究で効果が示された「見当識訓練」や「なじみのある物」という要素には、ご家族が面会の中でできる工夫も含まれます。入院中の情報提供や関わり方全般については、脳卒中後の情報提供について解説した記事もご参照ください。
・使い慣れたメガネ・補聴器を持参する(病棟の方針を確認のうえ)
・家族の写真やカレンダーなど、なじみのある物を病室に置く
・落ち着いた声のトーンで、本人のペースに合わせて話す
・点滴やチューブを外そうとする
・話のつじつまが合わない状態が急に始まった
これらは自己判断せず、すぐに病棟スタッフへ伝えてください。
Journey Rehabは訪問型の自費リハビリのため、せん妄が生じやすい急性期そのものへの直接的な関わりはありませんが、退院後の訪問リハビリでは、入院中の様子や生活リズムの変化について、ご本人・ご家族からうかがいながら支援を組み立てています。
脳卒中の急性期に起こりやすい「せん妄」に対して、見当識訓練・認知刺激・睡眠衛生などを組み合わせた非薬物的なケアは、せん妄の発生率を下げる可能性が中程度の確実性で示されています。作業療法を中心にした介入でも、重症患者全体、とくに脳卒中患者のサブグループでせん妄が減る結果が報告されています。一方で、脳卒中に特化した質の高い研究はまだ少なく、早期離床や痛みの管理単独での効果ははっきりしていません。せん妄の医学的な対応は医療スタッフに任せつつ、ご家族としてできる関わりを知っておくことが安心につながります。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、診断・治療・医療行為を推奨するものではありません。せん妄の評価・治療は医療機関の医療スタッフが行うものであり、意識状態や言動に急な変化がみられた場合は、自己判断せずすぐに医療スタッフにご相談ください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
2. Hua S, Qiu K, Zeng S, Wang H, Liu T. Occupational therapy improves functional recovery and reduces delirium in critically ill adults with and without stroke: a systematic review and meta-analysis. Front Med (Lausanne). 2025;12:1733103. DOI:10.3389/fmed.2025.1733103. PMID:41800213. PMCID:PMC12961616.
