
この記事の結論
「もともと足腰が弱っていた母が脳卒中になった。リハビリでどこまで戻るのだろう」「入院前から疲れやすく、体重も減っていた」。脳卒中は高齢の方に多い病気のため、発症前からの体の弱りを心配されるご家族は少なくありません。
この記事では、運動方法の紹介ではなく、「発症前からのフレイル(虚弱)が、脳卒中後の経過とどう関係するのか」に焦点を当て、3本のメタ分析をもとに分かっていることと限界を整理します。
目次
フレイル(虚弱)とは?
フレイル(frailty:虚弱)とは、年齢とともに体のさまざまな機能が少しずつ低下し、病気やけがなどのストレスに弱くなった状態です2,3。
研究では、「臨床虚弱尺度(Clinical Frailty Scale:CFS)」や、複数の健康上の問題を数える「フレイル指標(frailty index)」、入院記録から計算する「病院フレイルリスクスコア(Hospital Frailty Risk Score)」など、さまざまな方法でフレイルが測られています1,2。
研究者らは、発症前のフレイルは、発症前の生活の自立度や持病の多さと関係はあるものの、同じものではないと指摘しています1。

どのくらいの人にみられる?
結論から言うと、脳卒中で入院した方の約4人に1人に、発症前からフレイルがみられたと報告されています1,2。
急性期の脳卒中で入院した方を対象に、発症前のフレイルの割合と、その後の経過との関係を調べた14件の研究をまとめた分析です1。日本の研究も含まれています1。
発症前からフレイルがあった方の割合は24.6%でした。割合を統合できたのは13研究・2万7,054人で、研究間のばらつきが非常に大きい結果です1。9研究・2万3,827人の解析では、フレイルの手前の段階(プレフレイル)まで含めると66.8%に何らかのフレイルの状態がみられました1。
25件の研究を含む別のレビューでも、割合を報告した20研究・9万118人の統合値は23%と、ほぼ同じ結果でした2。
フレイルの手前の段階で行う運動については、高齢者のフレイルと運動療法について解説した記事で紹介しています。
フレイルがあると、その後にどう関係する?
フレイルがあった方では、その後の死亡や生活の介助が必要な状態との関連が報告されています。入院期間についても関連を報告した研究がありますが、すべての研究で同じ結果ではありません1,2,3。
脳卒中の方を対象に、フレイルと死亡・機能の経過との関係を調べた25件の研究をまとめた分析です2。
他の影響を考慮しない解析では、死亡は17研究でオッズ比2.66、機能の経過不良は8研究でオッズ比2.04でした。オッズ比は確率の比そのものではありません2。年齢などを調整した推定値が得られた研究だけでは、死亡は11研究で1.22、機能の経過不良は6研究で1.21でした。解析に含む研究数も調整項目も異なるため、同じ人たちを調整すると必ずこの幅だけ下がる、という比較ではありません2。
発症前のフレイルと、脳卒中の起こりやすさ、発症後の経過との関係を調べた11件のコホート研究をまとめた分析です3。
発症リスクを扱った8研究では、フレイルがある方で脳卒中を起こすリスクが高い関連がみられました3。脳卒中後の死亡と機能を扱った解析はそれぞれ3研究で、死亡のハザード比は1.68、修正ランキンスケール(mRS)による経過不良の相対リスクは3.11でした。mRSの区切り方は研究で異なり、166万人全員の脳卒中後の回復を追った結果ではありません3。
・入院期間が長くなること(4件中3件)1
・生活の介助が必要な状態(6件中4件)1、機能の経過が悪いこと2,3
脳卒中後の筋肉量や筋力の低下については、脳卒中後のサルコペニアについて解説した記事でも詳しく紹介しています。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないことは?
3本のレビューには同じ元研究が含まれるため、研究数や人数を足し合わせることはできません。いずれも観察研究をまとめたもので、フレイルが経過を悪くする原因かどうかまでは分かりません1,2,3。25件の研究の分析では、多くが過去の記録を振り返る研究で、すべての影響を考慮しきれていないことや、死亡との関係で出版バイアス(よい結果・目立つ結果ほど発表されやすい偏り)がみられたことが限界とされています2。
フレイルの測り方が研究ごとに大きく異なることも、3本すべてで限界として挙げられています1,2,3。14件の研究の分析では、割合の推定は「質の低いエビデンス」と評価され、14件中7件に対象者の選び方やフレイルの評価方法による偏りのリスクがありました1。また、研究は先進国に偏っていました1。
フレイルがある方は、どんなことに気をつける?
研究からは、発症前のフレイルは脳卒中後の経過を考えるうえで大切な情報の一つだと考えられています1,2。ただし、それだけで回復の見通しが決まるわけではありません2。
食事とたんぱく質の取り方については、脳卒中後のリハビリテーション栄養について解説した記事で紹介しています。

作業療法士の視点
研究のまとめからは、脳卒中で入院する方の約4人に1人に発症前からフレイルがみられ、その後の死亡や介助が必要な状態と関係していることが分かっています1,2。一方で、年齢などの影響を調整した解析では関連は小さく報告され、フレイルがあれば回復しないという意味ではありません2。
大切なのは、発症前の体の状態も含めてその方の全体像を知ったうえで、体力や疲れやすさに合わせたリハビリや生活の工夫を、医療者と一緒に考えていくことだと考えています。

まとめ
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。急な体重の減少や食事量の低下、体力の急な変化がみられる場合は、主治医にご相談ください。治療や運動の内容を始める・変える前には、担当の医師・リハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点(2026年10月)のもので、今後の研究により変わる可能性があります。
よくある質問
Q. 脳卒中で入院する人のうち、フレイルの人はどのくらいいますか?
A. 14件の研究のまとめでは、脳卒中で入院した方の24.6%(約4人に1人)に発症前からフレイルがみられました1。手前の段階(プレフレイル)まで含めると、66.8%に何らかのフレイルの状態がみられています。
Q. フレイルがあると、脳卒中後の回復は難しいですか?
A. フレイルがある方では、その後の死亡や介助が必要な状態が多い傾向が報告されています1,2,3。ただし年齢などの影響を調整した解析では関連は小さく報告され、フレイルがあれば回復しないという意味ではありません2。
Q. フレイルはどうやって調べますか?
A. 研究では、臨床虚弱尺度(CFS)やフレイル指標など、さまざまな方法が使われています1,2。測り方が研究ごとに異なることが課題とされており、気になる方は主治医やリハビリ専門職に相談するとよいでしょう。
Q. フレイルがあると脳卒中になりやすいですか?
A. 11件のコホート研究のうち、発症リスクを調べた8研究では、フレイルがある方で脳卒中を起こすリスクが高い関連がみられました3。ただし観察研究のため、フレイルそのものが原因かどうかは分かっていません。
Q. 脳卒中の前のフレイルは、元に戻せますか?
A. 研究では、フレイルは元に戻ったり進行を遅らせたりできる可能性があるとされています3。ただし、発症前のフレイルに対応することで脳卒中後の経過が変わるかどうかは、紹介した観察研究では確かめられていません3。
Q. 家族はどんなことに気をつければよいですか?
A. 発症前の歩く速さや疲れやすさ、体重の変化などを整理して医療者に伝えることが、全体像を知る手がかりになります1。退院後も食事量や体力の変化を見守り、気になることは主治医に相談しましょう。