
この記事の結論
「手足は動くようになってきたのに、夜眠れない」「便秘が続いてつらい」「なんとなく疲れやすく、不安な気持ちが続く」。脳卒中のあと、こうした周りからは見えにくい悩みを抱えている方は少なくありません。
この記事では、治療法の紹介ではなく、「手足の麻痺以外の症状が、どのくらいの人に起こり、時間とともにどう変わるのか」に焦点を当て、2本の大規模なメタ分析をもとに分かっていることと限界を整理します。
目次
脳卒中後の「見えにくい症状」とは?
脳卒中後の見えにくい症状とは、手足の麻痺や歩きにくさといった運動の症状以外に起こる、睡眠・排せつ・疲れ・気分・痛みなどの困りごとのことです1。研究では「非運動症状(nonmotor outcomes)」と呼ばれています1。
脳卒中の経過は、主に「修正ランキンスケール(modified Rankin Scale:mRS)」という、介助の必要度や歩く力を中心にした指標で評価されることが多く、こうした症状は見過ごされやすいと指摘されています1。
今回紹介する研究では、本人が質問票に答える形(患者報告型の尺度)で、不安・気分の落ち込み・疲れやすさ・睡眠の悩み・社会参加の減少・痛み・排尿の悩み・便秘・便失禁・性機能の悩みの10の領域を調べています1。

どのくらいの人に起こる?
結論から言うと、10の領域のうち6つの領域で、脳卒中後の方の約45〜60%に何らかの悩みがみられました1。
1999年〜2023年に発表された、脳梗塞または脳出血の方を対象にした観察研究279件をまとめた分析です1。参加者の年齢の中央値は65歳で、症状を評価した時期は発症後30日〜10年でした。症状ごとに対象となった研究は異なり、睡眠は50件、便秘は8件、疲労は48件などで、全員に10領域すべてを測ったわけではありません1。
割合が高かった順に、睡眠の悩み59.9%、性機能の悩み59.8%、便秘58.2%、社会参加の減少56.5%、排尿の悩み45.9%、疲れやすさ45.2%でした1。比較的低かったのは、痛み28.6%、不安26.9%、気分の落ち込み25.8%、便失禁7.0%でした1。
・性機能の悩み(59.8%)
・便秘(58.2%)
・社会参加の減少(56.5%)1
・疲れやすさ(45.2%)1
・不安(26.9%)
・気分の落ち込み(25.8%)1
疲れやすさへの向き合い方は、脳卒中後の疲労と活動調整について解説した記事で、便秘については脳卒中後の便秘・排便障害について解説した記事で詳しく紹介しています。
不安はいつ頃に多い?
紹介する2018年のレビューでは、発症後1年以内のさまざまな時期に不安が報告されています。ただし、時期別の集団は異なり、個人の不安がいつ減るかを示す結果ではありません2。
発症から1年以内に、評価尺度を使って不安を調べた37件の研究をまとめたレビューです。一過性脳虚血発作(TIA)を含む研究も対象で、HADS-Aという不安尺度に絞ったメタ分析は31研究でした2。研究の多くは急性期病院で行われていました2。
発症から1年以内に何らかの不安症状がみられた方は29.3%でした。これは各研究で評価した時点の割合をまとめた値で、1年間に新しく不安になる確率ではありません2。HADS-Aを用いた研究の時期別解析では、2週間〜3か月で24.1%、3〜12か月で23.8%でした。発症直後の割合は論文内で記載が一致せず、急性期と2週間〜3か月の差も統計学的には明確ではなかったため、「発症直後が必ず最も多い」とは言い切れません2。
著者らは、不安は生活の質に影響し、その後の気分の落ち込みを予測する要因にもなりうるため、定期的に確かめることを検討する価値があると述べています2。不安への運動やリハビリの研究は、脳卒中後の不安について解説した記事でまとめています。
時間がたつと減っていく?
279件の研究の分析では、10の領域のうち8つで、評価時期が異なる研究を比べても、割合がはっきり減る傾向はみられませんでした1。
・性機能の悩み1
ただし、この結果は「必ず続く」という意味ではありません。研究のほとんどは1回だけ評価したもので、同じ人を2回以上の時点で追った研究は279件中7件(2.5%)に限られていました1。そのため、一人ひとりの症状がどう変わるかまでは分かっていません1。
どんな人に起こりやすい?
分析では、女性、年齢が高いこと、病院を基盤にした研究であること、脳梗塞と脳出血の両方を含む研究であることが、複数の症状の多さと関係していました1。
・年齢が高い
・病院を基盤にした研究
・脳梗塞と脳出血の両方を含む研究(不安・疲れやすさ・社会参加の減少・便秘などで割合が高い傾向)1
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないことは?
279件の研究の分析では、10の領域を測るのに合計96種類もの質問票が使われていて、研究間のばらつき(I²)は52〜98%と大きい結果でした1。どの質問票を使ったかによって割合が変わることも示されています1。一方で、研究の約7割(70.6%)は偏り(バイアス)のリスクが低いと評価されていました1。
不安を調べた37件の研究の分析でも、ばらつきは非常に大きく(I²=97%)、50人未満の小規模研究を含み、多くの研究の質が中程度と評価されたことが限界です2。また、失語症(17件)や認知機能の低下(15件)がある方を除いた研究が多く、こうした方の状態は十分に反映されていない可能性があります2。
家族や本人は、どんなことに気をつける?
研究からは、見えにくい症状は手足の麻痺とは別に、発症から時間がたった集団でも多く報告されています1。だからこそ、自分から言い出しにくい悩みも含めて、定期的に確かめる機会をつくることが大切です1,2。

作業療法士の視点
研究のまとめからは、脳卒中後の見えにくい症状は珍しいものではなく、睡眠・便秘・疲れやすさなどは半数前後の方にみられることが分かっています1。一方で、評価方法の違いが大きく、すべての方に同じ割合や経過が当てはまるわけではありません1,2。
大切なのは、手足の動きだけでなく、眠り・排せつ・気分・疲れといった生活全体の様子にも目を向け、困りごとを一人で抱え込まずに相談できる関係をつくっておくことだと考えています。

まとめ
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。眠れない状態や気分の落ち込み、便秘・排尿の困りごとが続く場合は、主治医にご相談ください。治療や運動の内容を始める・変える前には、担当の医師・リハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点(2026年10月)のもので、今後の研究により変わる可能性があります。
よくある質問
Q. 脳卒中のあと、麻痺以外にどんな症状が多いですか?
A. 研究のまとめでは、睡眠の悩み、便秘、性機能の悩み、社会参加の減少が、それぞれ約56〜60%と多くみられました1。疲れやすさや排尿の悩みも約45%でみられています。
Q. 脳卒中後に眠れなくなるのはよくあることですか?
A. 279件の研究のまとめでは、脳卒中後の方の約60%に何らかの睡眠の悩みがみられ、10の領域の中で最も高い推定値でした。ただし、ここでいう睡眠の悩みには不眠だけでなく、睡眠時無呼吸や睡眠中の呼吸の問題も含まれます1。続く場合は主治医に相談し、原因を一緒に確かめることが大切です。
Q. 脳卒中後の不安は、いつ頃に多いですか?
A. 37件の研究のレビューでは、不安は発症後1年以内のさまざまな時期にみられました2。HADS-Aを使った研究では3〜12か月で約24%でしたが、評価時期ごとに集団が異なるため、個人の経過を予測する数字ではありません。
Q. 見えにくい症状は、時間がたてば自然に減りますか?
A. 研究のまとめでは、痛みと性機能の悩みは時間とともに減る傾向がありましたが、ほかの8つの領域でははっきり減る傾向はみられませんでした1。ただし同じ人を長く追った研究は少なく、個人差は分かっていません。
Q. どんな人に見えにくい症状が多いですか?
A. 研究のまとめでは、女性や年齢が高い方で、睡眠や疲れやすさなど複数の症状が多い傾向がみられました1。ただしこれは研究単位で調べた傾向で、一人ひとりに当てはまるかどうかを予測するものではありません。
Q. 家族はどんなことに気をつければよいですか?
A. 眠り・便秘や排尿・疲れやすさ・外出の減り方・気分の変化などを、ときどき本人と一緒に確かめることが大切です1,2。気になる変化があれば、主治医やリハビリ専門職に伝えて相談しましょう。