
この記事の結論
「脳卒中のあと、気持ちが沈んだまま戻らない」「薬以外にできることはないの?」。脳卒中後の気分の落ち込みについて、このような疑問を持つ方もいると思います。
最近は、頭の外から磁気や弱い電流で脳を刺激するrTMSやtDCSを、脳卒中後のうつに使う研究が増えています。この記事では、2022〜2026年に発表された4本のまとめ研究をもとに、分かっていること、副作用、そしてまだ分かっていないことを整理します。
目次
脳卒中後うつへの脳刺激(rTMS・tDCS)とは?
脳卒中後うつへの脳刺激とは、頭の外側から磁気や弱い電流を当てて、気分の調整に関わる脳の働きに変化を与えることを目指す方法です1。手術や麻酔は必要なく、体の外から行うため「非侵襲的脳刺激(Non-invasive Brain Stimulation:NIBS)」と呼ばれます1。
どちらの方法も、主に左右の前頭前野が刺激の対象になっています1,2。脳卒中後の気分の落ち込みは3人に1人ほどにみられると報告されており1、薬が合わない方や飲む薬が多い方もいることから、薬以外の方法として研究が進められてきました1,2。
脳卒中後うつの全体像や、運動との関係については、脳卒中後の気分の落ち込みとうつについて解説した記事で紹介しています。

研究では何が分かっている?
結論から言うと、rTMSやtDCSを行ったグループでは、比較のグループより抑うつの点数が下がる結果が複数のまとめ研究で示されています1,2。一方で、研究の数や規模はまだ十分とはいえません1,2,3。
脳卒中後うつの成人を対象に、rTMSまたはtDCSを、偽の刺激や通常のケアなどと比べた17件の研究をまとめた研究です1。研究は中国・韓国・米国・ブラジル・ハンガリー・オーストラリアで行われ、1件あたりの人数は10〜113人、平均年齢は約48〜68歳でした1。
脳刺激を行ったグループでは抑うつの点数がより下がり、標準化平均差は−1.24(95%信頼区間−1.74〜−0.73)でした1。日常生活動作(6比較・212人、標準化平均差0.80)と生活の質(4件・284人、同0.83)でも良い結果がみられ、この分析に含まれた研究では、刺激に関連する重い副作用は報告されていませんでした。ただし、まれな有害事象が起こらないことを保証する結果ではありません1。また、研究間のばらつきを示すI²は88%と大きい値でした1。
rTMSの方法の違いに注目して、12件のランダム化比較試験をまとめた研究です2。9件の分析では、rTMSを行ったグループで抑うつの点数が下がり(標準化平均差−1.47)、5件の分析では日常生活動作の点数も高い結果でした(同0.78)2。
偽の刺激と比べた場合、両側刺激(−2.33)、高頻度rTMS(−1.62)、シータバースト刺激(−1.57)、低頻度rTMS(−0.80)のいずれも抑うつの点数が下がる結果でした2。ただし、最も順位が高かった両側刺激は2件の研究のみにもとづく結果で、著者らも慎重に解釈する必要があるとしています2。治療後の追跡は2件の研究にとどまります2。
脳卒中後の気分の落ち込みに対しては、認知行動療法などの心理療法の研究もあります。詳しくは脳卒中後の心理療法について解説した記事をご覧ください。
rTMSとtDCS、刺激の方法で違いはある?
現時点の研究では、rTMSとtDCSのどちらがよいか、どの刺激方法が最もよいかは、はっきり決められていません1,2。
rTMSは手や腕の麻痺に対しても研究されています。運動機能への研究については、脳卒中後のrTMSについて解説した記事で紹介しています。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないことは?
2026年のメタ分析では、偏りのリスクが「低い」研究は約47%、「いくつか懸念あり」が約18%、「高い」が約35%でした1。研究ごとに刺激の方法・期間・比較の条件・発症からの時期がさまざまで、結果のばらつきが大きいことが限界とされています1。
2022年9月までに公表されたrTMSのシステマティックレビューやメタ分析13本の質を調べた2023年の研究では、13本すべての方法論の質が「非常に低い」と評価され、42の結果のうち確実性が「高い」ものは0、「中程度」が8、「低い」が12、「非常に低い」が22でした3。この評価は2025・2026年のレビュー自体を評価したものではありません。12件のネットワークメタ分析でも、割り付けを隠す手順を記載した研究はありませんでした2。
どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要?
研究の対象は、脳卒中後うつと診断された成人の方でした1,2。脳刺激は医療機関で医師の判断のもとに行われる治療で、受けられる施設は限られます。
・薬の副作用や飲み合わせが心配で、薬以外の選択肢も主治医と話し合いたい方1
・頭皮が敏感な方(tDCSで、ピリピリ感やかゆみが出ることがあります)1
・「死にたい」気持ちが強いなど、気分の落ち込みが重い方(速やかに主治医や精神科・心療内科にご相談ください。今すぐ自分を傷つけるおそれがある場合は一人にならず、119などの緊急支援を利用してください)
脳刺激は、抗うつ薬などの治療をやめて置き換えるものとして研究されているわけではありません。研究の多くは、通常の治療やリハビリに追加する形で行われています1,2。今の治療を変える前には、必ず主治医にご相談ください。
どのくらいの頻度・期間で行われている?
研究で多かったのは、1回20分程度の刺激を週5日、約4週間続ける方法でした2。
このように、研究では治療期間中に複数回の刺激を受けています。通院で行う場合の負担や実施場所も含めて、主治医と相談しながら考えることが大切です。

作業療法士の視点
17件の研究のまとめからは、rTMSやtDCSで脳卒中後の抑うつの点数が下がる可能性が示されました1。一方で、研究の質や結果の確実性はまだ低く3、効果がどれくらい続くか、どの方法がよいかも分かっていません1,2。
気分の落ち込みは、リハビリへの意欲や生活の過ごし方にも影響します。脳刺激を検討する場合も、主治医と相談しながら、今の治療や日々の活動と組み合わせて考えていくことが大切だと考えています。

まとめ
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。気分の落ち込みが続く場合や、「死にたい」と感じる場合は、早めに主治医や精神科・心療内科にご相談ください。脳刺激を受けられるかどうか、また今の治療を変えるかどうかは、必ず担当の医師にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点(2026年10月)のもので、今後の研究により変わる可能性があります。
よくある質問
Q. 脳卒中後のうつにrTMSは役立ちますか?
A. 複数のまとめ研究で、rTMSを行ったグループは比較群より抑うつの点数が下がる結果が示されています1,2。ただし研究の質や確実性は低く、効果がどのくらい続くかも分かっていません3。
Q. rTMSとtDCSはどちらがよいですか?
A. 2026年のメタ分析では、別々の研究群を比べた差は明確ではなく、直接比較で同等と証明されたわけではありません1。tDCSの研究は4件と少ないため、どちらがよいかはまだ決められません。
Q. 脳刺激に副作用はありますか?
A. 紹介した研究では重い副作用は報告されず、軽い頭痛や頭皮の不快感・かゆみがみられました。ただし、有害事象の報告は不十分で、まれなリスクを否定できません1,2。けいれんの既往などで受けられない場合もあるため、医師の判断が必要です。
Q. どのくらいの期間、通う必要がありますか?
A. 研究では、1回約20分の刺激を週5日、約4週間続ける方法が多く用いられていました2。医療機関によって方法は異なるため、通院の負担も含めて主治医にご相談ください。
Q. 抗うつ薬をやめて脳刺激に切り替えてもよいですか?
A. 自己判断で抗うつ薬をやめて脳刺激に切り替えることはおすすめできず、必ず主治医への相談が必要です。研究の多くは通常の治療に脳刺激を加える形で行われており1,2、薬との比較や切り替えを判断する根拠は十分ではありません。
Q. 家族が気をつけることはありますか?
A. 気分の落ち込みが続く、眠れない、何もしたくないといった様子に気づいたら、主治医に伝えることが大切です。脳卒中後の気分の落ち込みは3人に1人ほどにみられると報告されています1。