
この記事の結論
「手の指が握り込んだまま開きにくくなってきた」「足首がつっぱって歩きにくい」。脳卒中のあと、こうした手足のつっぱり(痙縮)に悩む方は少なくありません。一方で、「自分にも起こるの?」「いつ頃から出てくるの?」と不安に思われるご本人・ご家族も多くいらっしゃいます。
この記事では、痙縮の治療法ではなく、「どのくらいの人に、いつ頃、どんな人に起こりやすいのか」に焦点を当て、3本の研究をもとに分かっていることと限界を整理します。
目次
脳卒中後の痙縮とは?
脳卒中後の痙縮とは、脳の損傷により筋肉が不随意に緊張し、他動的に筋肉を速く伸ばしたときに抵抗が強くなることを特徴とする状態です2。英語ではpost-stroke spasticity(PSS)と呼ばれます1。
研究では、主に「修正アシュワース尺度(Modified Ashworth Scale:MAS)」という評価で、検査者が関節を動かしたときの抵抗の強さを、0・1・1+・2・3・4の段階で評価しています1,2。MASが3以上は「重い痙縮」として扱われることが多くあります1。
痙縮が強くなると、痛みや関節の動かしにくさ(拘縮)、着替え・手洗いなどの介助のしにくさにつながることがあります2,3。

どのくらいの人に起こる?
結論から言うと、脳卒中の方全体ではおよそ4人に1人、手足の麻痺がある方ではおよそ5人に2人に痙縮がみられたと報告されています1。
脳卒中後の痙縮の割合と、起こりやすさに関わる要因を調べた観察研究をまとめた研究です1。
脳卒中の方全体での痙縮の割合は25.3%、初回の脳卒中の方では26.7%でした1。手足の麻痺がある初回の脳卒中の方に限ると39.5%で、追跡の時期別では、1か月以内35.7%、1〜3か月34.6%、3〜6か月42.3%、6か月以降45.4%でした。時期ごとに異なる研究の集計を含むため、同じ人の悪化の経過を示す数字ではありません1。生活に支障がある、または重い痙縮の統合割合は9.4%、重い痙縮(MAS 3以上)を調べた研究群では10.3%でした。対象研究の異なる集計です1。
ドイツの2つの脳卒中病棟に入院した103人を、発症から中央値6日、6週、16週の時点で追跡した研究です2。最初の評価で以前からの痙縮があった9人を除いた94人を分析しています2。
発症から2週間以内には23/94人(24.5%)、中央値6週では23/86人(26.7%)、中央値16週では18/83人(21.7%)に筋肉の緊張の高まりがみられました。追跡中の死亡により、分母は変わっています2。痙縮は腕の関節に多くみられ、6週の時点で中等度以上の痙縮があった14人のうち8人(57%)に手足の痛みがありました2。
痙縮に対する治療の一つであるボツリヌス療法については、脳卒中後の痙縮とボツリヌス療法について解説した記事で紹介しています。
いつ頃から起こりやすい?
痙縮は、早い方では発症から1週間ほどで現れ始め、その後も少なくとも3〜6か月は新たに現れたり強くなったりすることがあると報告されています3。
どんな人に起こりやすい?
最もはっきりしていたのは、中等度から重度の麻痺がある方で痙縮が起こりやすいことでした1,3。
・出血性の脳卒中(脳出血など、オッズ比1.88。ただし病変部位などの影響もあり、独立した要因かは未確定)1
・手足の動きをコントロールしにくいこと3
・発症直後の日常生活動作の点数(バーセルインデックス)が低い
・体の片側全体に痙縮がある、または3つ以上の関節に痙縮がある2
・感覚の障害は、3〜6か月の時点のみで関係がみられ、全体ではっきりしませんでした1
オッズ比は発症確率そのものの倍率ではありません。これらは「起こりやすい傾向」であり、当てはまる方に必ず起こる、当てはまらない方には起こらない、という意味ではありません1,2。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないことは?
割合を調べた研究は、評価の方法(MASかどうか)、対象者(麻痺の有無・初回かどうか)、追跡の時期がさまざまで、研究間のばらつきが大きい結果でした(I²は75〜98%程度)1。34件の研究をまとめたレビューでも、腕に麻痺がある方の上肢の痙縮の割合は33〜78%と幅が広く、対象者の違いが大きいことが限界とされています3。
103人の追跡研究は、ドイツの一つの地域で、1人の評価者が行った比較的小規模な研究です2。また、メタ分析の研究数は抄録と本文で23件・22件と記載が異なります1。MASは関節の抵抗の強さを表す評価で、痙縮の原因そのものを測っているわけではないことも著者らは指摘しています2。
起こりやすい方は、どんなことに気をつける?
研究からは、麻痺が強い方では、発症早期から長い期間にわたって手足の状態を確認し続けることが大切だと考えられています1,3。
関節の動かしにくさへのストレッチについては、脳卒中後のストレッチと関節可動域訓練について解説した記事でも紹介しています。

作業療法士の視点
研究のまとめからは、脳卒中後の痙縮は珍しいものではなく、特に麻痺が中等度以上の方では起こりやすいことが分かっています1。一方で、割合には研究によって大きな幅があり、すべての方に同じ経過が当てはまるわけではありません1,3。
大切なのは、「起こるかもしれない」と不安になりすぎることではなく、早い時期から手足の状態の変化に気づき、必要なときに専門職へ相談できる体制をつくっておくことだと考えています。

まとめ
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。手足のつっぱりや痛みが急に強くなった場合は、主治医にご相談ください。治療や運動の内容を始める・変える前には、担当の医師・リハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点(2026年10月)のもので、今後の研究により変わる可能性があります。
よくある質問
Q. 脳卒中後の痙縮は、どのくらいの人に起こりますか?
A. 観察研究のまとめでは、脳卒中の方全体で約25%、手足の麻痺がある初回の脳卒中の方で約40%にみられました1。研究によって評価方法や対象が異なるため、割合には幅があります。
Q. 痙縮はいつ頃から出てきますか?
A. 早い方では、発症から1〜2週間ほどで筋肉の緊張の高まりがみられることがあります2,3。その後も少なくとも3〜6か月は、新たに現れたり強くなったりすることがあると報告されています3。
Q. どんな人に痙縮が起こりやすいですか?
A. 中等度から重度の麻痺がある方で最も起こりやすく、脳出血などの出血性の脳卒中でも起こりやすい傾向がありました1。年齢や性別とは、はっきりした関係がみられませんでした。
Q. 痙縮が強くなると、どんな困りごとがありますか?
A. 痙縮がある方では、手足の痛みが多く、日常生活動作の点数や生活の質が低い傾向が報告されています2。関節が動かしにくくなる拘縮や、着替えなどの介助のしにくさにつながることもあります3。
Q. 発症から半年以上たっても痙縮は出てきますか?
A. 研究のまとめでは、麻痺がある方の痙縮の割合は6か月以降でも45.4%と、半年以降にも痙縮がみられました。この集計は半年を過ぎて新たに発症する確率を示すものではありません1。ただし1年以上の長期の研究は少なく、詳しいことはまだ分かっていません。
Q. 家族はどんなことに気をつければよいですか?
A. 手の握り込みや足首のつっぱり、関節の動かしにくさ、着替えのときの痛みなどの変化に気づいたら、主治医やリハビリ専門職に伝えることが大切です2,3。早めに相談することで、対応を一緒に考えることができます。